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三代橋零さん誕生日おめでとう

作者: 白久間

「三代橋さんこんばんは~!」

酒場が盛り上がり始めた午後7時半。賑やかな店内に元気な声で入ってきたのはいつも遊びに来てくれるセ

イラだ。テテテとカウンターまで近付いてくる姿は微笑ましい。

「いらっしゃい、いつもありがとうね。」

よいしょとカウンター席独特の椅子に登る彼女に、今日もジュースで良いと聞くと元気な声ではいと返事をしてくれる。セイラはくるりと店内を見渡して、「今日は皆さんお揃いですね」とふふっと笑う。確かに今日も特別賑やかだ。珍しくはじめてのお客さんというのがいなくて、誰も彼も何度か足を運んでくれてる人達ばかり。シュヴァルツェス、ヴァイス、グラウと最近土地開発が進んだらしいクーラルハイト。よくよく考えるとこんな所よりももっと近い場所に同じような酒場はあるはずなのに、ここに足を運んでくれるなんてありがたい話だ。いつも1人で飲んでる大人しいお客さんも大テーブルを囲んで皆で飲んでいるし女子トークで盛り上がっているテーブルもあれば、子供連れのお兄さん達もいる。今更ここで教育上どうこういうのも野暮ってもんだろう。大人も子供もこの店では大歓迎だから問題ない。はいどうぞ、と飲み物を渡すとありがとうございますとセイラが受け取る。この光景も既に私の日常だ。

「あ、マーチルーダさんはもういないんですね。」

自分の左隣、カウンターの真正面の席を見つめながら言われる。そこはいつものマーチの特等席だ。今日もマーチは店を開ける前から居座って一人で悪趣味なビデオを見ながら始めていた。そういえば開店時間だからとそれを没収しようとすると「ちぇ~、まぁ今日くらいは良っか。」といつもと違ってやけに素直な返事、でも少し出来上がったのか頬が赤く色づけながらニヤついた顔は人をおちょくっているいつものマーチだった。いつもならそのままカウンターの決まった席に居座るけれど、今日は妙に笑いながら店を出ていったのを覚えている。

「あー、変な酔い方でもしたのか今日は出てっちゃったんだよね。アイツになんか用だった?」

「あ、ああっと!いえ!そういうわけじゃ」

慌てた様子でグラスを置くセイラにこちらもつられて焦る。するとセイラちゃん、と入り口の方から声が飛んできた。見るとトルとアサヒが大きめの包みを奪い合うように持ち手を片方ずつ持って入ってきた。何をやっているんだアイツらは。考えているとセイラが椅子から降りて二人の方に小走りで近付いていた。なにやらああだこうだと揉めているのか、でも喧嘩して言い争っている風では無さそう。めげずにいつもいつもアサヒは頑張るなぁと思う。あの包みはセイラ宛なのか、だとしたら二人で持ってるのも変か。なんだか今日は変なやつも多いな。


ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・


店の壁際に立てている古時計が8時を知らせる鐘を鳴らした。その音を聞いて、あるいはその時計を見つめて皆の動きが止まってあんなに騒がしかった店内が静かになる。いつも時計の音なんか聞こえないで騒いでいるのに。ゴーン・・・。八回目の鐘の音が鳴り終わると、バチン、目の前が真っ暗になった。停電だ。まずい、グラスやお皿があんなにあるテーブルを皆囲んでいるんだ。子供もいるし、下手をしたら怪我をさせてしまう。

「皆さん、落ち着いてください!今すぐブレーカーを見ますのでそこから動かないでください!」

言ってるのに誰が動いているのかわからないけれど物音がする。こういうときに勝手に動く奴の方が周りを巻き込んでいくんだ。

「だから動くな! はっ」

しまった、つい必死になって大声を上げてしまった。ブレーカーを見て戻ってきたら謝らないと、カウンターの足元にしまっている懐中電灯を取り出してカウンター内を照らす。


「・・・は?」


そこにいたのは本来店内にすらいないはずの、マーチ?

抜き足差し足な泥棒姿勢のまま顔だけこちらを見て、非常に気まずそうに笑ったまま動かない。なんでアンタがここに、と言いながら懐中電灯で客席を照らすとアサヒが気まずそうにさっきトルと持っていた包みから何かを大テーブルに取り出そうとしている。順々にゆっくり、ぐるりと店内を照らすと大テーブルから食器を小テーブルに渡す人、それを受け取る人、大テーブルに何かを並べようとする人と可愛らしい包みを抱えた子供達、皆マーチと同じように驚いたような気まずいような顔をしていた。

「ごめんみょっさん!とりあえず私ブレーカー戻してくる!」

「あ、ちょっとお前!!」

呆然と立っていた私の手からマーチは懐中電灯を奪う、暫くしたら明かりは戻って全体をよく見ることができた。マーチがブレーカーを戻しに行く間に進めたのかさっき見たときより皆の席も物の配置も整っていた。あの時アサヒが何かやっていた場所には大きめのケーキが置いてあった。店の置くから顔を出すマーチと目が合う。説明を求めようと詰め寄るとまぁまぁと背中を押されてカウンターからテーブル席の方につれてこられる。ケーキの前に来ると、その上にのったチョコレートのプレートが目に入った。

【みょっさん誕生日おめでとう】

「・・・。」

「三代橋さんごめんなさい、あの、ただ喜んでもらいたくて・・・!」

「まぁ私が言ったんだよね、こうパッと停電させてバーンと祝えたら、みょっさん驚くだろうなーって・・・って、え、あれ!?みょっさん!?」

マーチに言われて自分が泣いている事に気付いた。何をしたかと思えば私の誕生日パーティだったのかと思ったらもう言葉も出なくて、でももうちょっと良い祝い方あっただろ、なんなんだよとも思えて。でも自分のために集まって計画してくれてたと思ったらやっぱり嬉しかった。あぁ、マーチもセイラも皆、泣いてる私を見て焦ってる。なんかそれもおかしく思えてきて泣きながら笑ってしまった。

「皆ありがと、でもお前は次はもうちょっと考えて計画しろよ。」

あと怒鳴ってごめんな、とマーチの頭を小突いて抱えながらひとしきり笑ったあと外に出て店の看板をひっくり返した。今日はもう店じまい。皆が持ち寄った飲み物で乾杯して持って来てくれたケーキを切り分けてたくさん祝ってもらおう。誰かの誕生日にはお返しもしなきゃな。そう思いながら、私は皆のいる店内に戻った。

ちもさん宅の三代橋さんの誕生日のお祝いとして書きました。

キャラの口調、店の構図、呼び方等々はご本人様のみ受け付けています。

これからも親子ともどもよろしくお願いしてくださると嬉しいです。

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