魔王軍最強のドラゴンととある約束
暇潰し程度にどうぞ
突然だが俺は異世界転生をした。
と言っても別にトラックに跳ねられたり、鉄骨が体を突き刺したり、神のミスとかで死んだ訳じゃない。
単に病死である。
HIV、正式名称Human Immunodeficiency Virus(ヒト免疫不全ウイルス)に10歳の頃感染し、それから様々な病気を発症して闘病生活が始まった。
そんな闘病生活だったから友達なんていなく、もっぱらネット小説を読んで過ごしていた。
まぁ、そんな生活を10年間続けてた訳ではあるが死ぬ時には意外にあっさりと死んだ。
呆気ないと思った。10代という人生の中でも重要な時期を病気で過ごし、死ぬ時はあっさりと死ぬ。
ホント俺の人生とはいったいなんだったのだろうか。
死ぬ間際俺は最期にこう願った。
来世では丈夫な体で生まれて、友達を作ってみたいと。
そして俺の願いは叶えられ俺は生まれ変わった。
ドラゴンとして。
***************
「人々を苦しめる魔王軍四天王の一人にして、邪悪な竜族の王よ!貴様を打ち倒し俺は世界を護る!!!」
「いや別に俺からなにかしたこたはないんだが」
光り輝く聖剣を此方に向けながら叫んでくる勇者。周りにいる勇者の仲間らしき者達も怒りの目を此方に向けてくる。
「ふざけたことを抜かすな!貴様のせいで幾つの国や町、村が無くなったと思ってる!それを無かったことにするつもりか!」
「いや、俺は事前に俺達には手を出すなって何度も忠告したのにそれを無視して何もしてない俺達の仲間を狩ったのはお前達だろう。」
「竜に魔物、魔族なんて生きてるだけで害悪だ!それを討伐するのは至極当然で正しい行いだ!」
正義は我にあり!とでもいうような表情で此方を見る勇者達。
その様子を見て、呆れたようにため息を吐く。
「はぁ、話しが通じないならもういい。さっさとかかって来い、ちゃっちゃと済ませて城に帰る」
「舐めるな!俺達は人類最強の勇者パーティだ!こっちこそお前なんぞさっさと倒してやる!行くぞ、皆!」
「「「おう!!!」」」
そう言って此方に飛びかかる勇者達。
はぁ、面倒くさい。
10分後
「…………お疲れ」
「あれ、魔王?どうした、こんなところに?」
気絶した勇者達を人間領に送り返し、戦いの跡を綺麗に治しているといつの間にか魔王が隣に座っていた。
腰まで伸びた美しい銀髪に、宝石のように輝く紅い瞳。人形のように無表情で整った顔。まさに美少女と呼ぶに相応しい少女も言えるだろう。
これが人間や他の魔族国家からは「白夜の魔王」と呼ばれ恐れられている存在だと言うのだから驚きだ。
「………勇者が来たってセシリアから聞いて」
「あの、ロリババア。余計なこと言いやがって」
魔王の言葉にいつも城で高笑いしてる金髪ロリ吸血鬼ーーセシリアを想像し悪態をつく。
「…………大丈夫?ケガしてない?」
心配そうに此方を見つめてくる魔王の頭を指の先で撫でる。
「大丈夫だって、いつものことだろ?勇者なんて毎回50年ぐらいしたらやってくるけど、俺が一度でも負けたことがあったか?」
俺の問いに魔王は少し悩んだような顔をするが「…ない」と答える。
「だろ?なら安心してろって。俺は大丈夫だ」
そう言って残りの修復作業に戻ろうとするといつも間にかレティシアが顔まで寄ってきて抱きついてくる。
「ま、魔王?」
「…………けど、心配しない理由にはならない」
ギュッと力を込めて抱きついてそう言ってくる。
その愛らしい姿に体格が違いすぎるドラゴンの体で抱きしめたくなる衝動を感じる。
「(チクショウ!なんでここが城じゃないんだ!?城だったら竜人モードになれるのに!!)」
この大きすぎるドラゴンの体とここが城じゃないことにため息を吐き、他の場所よりは安定している頭に魔王を乗せる。
頭に乗せられた魔王様は何かを思い出したようにポンっと手を叩く。
「…………あ、それとセシリアが早く帰ってこいって」
「え、なんで?」
「…………わからない」
「ふーん、まぁ帰ってから聞けばいいか。よし、魔王、さっそくですまんが今から帰ろうと思うけどなんか用事とかあるか?」
「…………作業はもういいの?」
「大部分は終わってるし、このぐらいはいいだろ。」
「……………なら、大丈夫」
「了解、なら帰るか。俺達の城に」
「…………うん」
翼を広げ空に舞い上がる。
城を目指し空を駆けながら、思う。
ーーーとりあえず帰ったらひたすら魔王を抱きしめたいな、と。
***************
「さて、なにか弁明はあるかロリババア」
「ロリババアと言うんではないわ、トカゲ小僧」
お互いに胸ぐらを摑み合いガンをくれる。
数百キロ離れた城に30分程で帰った俺達を待っていたのは、俺と同じ四天王一人、ロリ吸血鬼のことセシリアだった。
それを見て、すぐさま竜人モードになった俺は
「もし魔王になんかあったらどうするつもりだったんだ、アホ吸血鬼!?」
「お主と魔王様が二人がかり負けるような存在などこの世におるわけがなかろうが、常識で考えてから言ったらどうじゃ鳥頭!」
「そりゃそうだが、魔王の肌に傷がついたら大問題だろうが!!」
「過保護過ぎるじゃろうが、バカドラゴン!!」
と、セシリアと言い争いを始めた。
おのれ、このロリババア許すまじ。絶対泣かせてごめん竜王様私が間違ってました、って言わせてやる。
と、執念の炎を燃やしながら言い争っていた俺達に凛とした声が掛けられる。
「仲が良いのは結構だが、いい加減それぐらいにしてもらおうか。急いで話し合わないといけない事案が幾つもあるんでな」
声の方に視線を向けると、そこには俺やセシリアと同じ四天王の一人にしてエルフの女王でもあるアナスタシアと
「そうやね、おもろいけどええ加減そこまでにしといてもらおか」
同じく四天王の一人、鬼族のハクがいた。
思わぬ二人の登場に思わず驚く。
このロリ吸血鬼はともかくアナスタシアやハクは一年のほとんどを自分達の治める領地で過ごしている。
だから城に四天王全員が集まるのは年に2〜3回程で、それ以外で個人はともかく全員が集まるということはほとんどない。
その2人がいつもの集まる時期とは違うのにいるということはなにか大きなこと起きたということ、もしくはこれから起きそうだということだ。
「なにかあったのか?」
「ウチは方からは特になにも。ただアナスタシアはんに集まって欲しいと頼まれてぇな」
「そうだ、ハクを来てもらったのも、セシリアに頼んでお前を連れ戻したのも私だ。理由は今から話すが、とりあえず移動するぞ。ここじゃいくらなんでも不用心過ぎる。魔王様もすみませんが此方に移動願います」
そう言って会議室のある方に歩き出すアナスタシア。相変わらずキビキビとしていて真面目だなぁ。
アナスタシアに続いてハクもセシリアも会議室に移動し始める。
「俺達も行くか」
「…………うん」
「そういや、魔王はアナスタシアの用事知ってるのか?」
首を横に振る魔王。
知らないのか。
「うへぇ、一体どんな用事なのやら」
魔王にすら先に言わず、同時に伝えるってかなり面倒くさそうな事案じゃねぇか。
一度小さくため息を吐くと、せめてもの癒しと思い魔王の手を握り会議室へ向かう。
その時の魔王の顔が赤かったのには誰も気付かなかった。
「私が挙げる事案は全部三つある。ちょっと悪い事案と、かなり悪い事案、最悪の事案の三つだが、どれから聞きたい?」
「「「「全部聞きたくない(のじゃ)(なぁ)」」」」
「よし、では最初はちょっと悪い事案から行くとするか」
「無視かよ」
「ブーブー!」
「喧しい、私だって本当ならこんな物無視したいのを我慢してるんだ、お前達も我慢しろ」
うへぇ。
アナスタシアの言葉に顔を歪める。
本当に面倒くさそうである。コイツが悪いと言った時はだいたいロクでもないことばかりなのだ。
「まず、ちょっと悪い事案だが、つい先程勇者が召喚された」
「勇者?」
「それって俺がついさっき倒したやつか?」
「いいや、それとは別口だ。今回の勇者は異世界から召喚したらしい」
「うへ、異世界からかよ、面倒くせえ」
異世界転生した俺が言うことじゃないかもしれないが、異世界から召喚された勇者というのはたいていとても強くて面倒くさい。昔召喚された時があって戦ったがその時は危うく死ぬ寸前まで追い込まれた。
「狙いは何処の魔族国家なのじゃ?」
「当然ここだ」
「あらあらまあまあ、またウチらかいの?」
「マジかよ、毎回毎回俺等のとこじゃなくてちょっとは他の魔族国家にでも行けよ」
「それはそうだが、今そんなこと言っても仕方ないだろう」
はぁ、と全員ため息をつく。
魔族にも人間と同じように全部で5つ国家がある。それぞれの国のトップも魔王を名乗っているが人間や世間一般的に【魔王】と表されるのはウチの魔王だけなのである。
それだけ突出して俺等の国家が強く、有名な存在なのだ。
「とりあえずこの件は、まだ召喚されたばかりだから経過を見て判断しようと思ってるが異論はないか?」
「「「「異議なし」」」」
「はぁ、これがちょっと悪い事案だというのだからたまらんのぅ」
「(まったくだ)」
心の中でセシリアに同意する。正直これだけでも暫くはお腹いっぱいなのに、もっと悪い知らせが二つもあるのだ。
やってらんない。
「次の事案だが、我等を除く4つの魔族国家が協力して我等の国を侵略しようとしているということがわかった」
「はぁ!?マジで!?」
「マジだ」
真顔で答えるアナスタシア。
いやいやいやいや
「なんでじゃ?」
「単純に嫉妬だろうな、我等の国は人間、魔族全て国の中でもっとも大きい。さらに他の魔王と違い、本物の魔王として人間から恐れられてるっていうのもあるだろう」
「また、随分としょうもないなぁ」
「確かに、でもまぁ魔族なんてだいたい本能で動くから仕方ないちゃ仕方ないのかもしれないが」
「具体的にはいつ侵略して来そうなのじゃ?」
「約一ヶ月後といった具合か」
「短いな」
かなり短い、正直今から人員や装備を整えてもギリギリになるだろう。
「これに関しては交渉して時間を稼ぎながら兵を集め、準備を進めていこうと思うが異論は?」
「「「「特になし」」」」
「では、セシリアとハクの両名にこの軍を率いて貰いたいが大丈夫か?」
「ウチは問題あらへんよぉ」
「儂も問題ないが」
「それって普通俺じゃないのか?言っちゃなんだが俺の方が向いていると思うが?」
嫌味にならないように気を付けながら疑問を問いかける。何時もならこういう案件はだいたい俺に回ってくる。
自分で言うのもなんだが俺はこの魔族国家でもっとも強い、それこそ今隣に座っている魔王よりもだ。
そんな俺を使わないのは正直違和感を感じる。
そんな俺の感情を読み取っているのかアナスタシアは此方を向く。
「そうだな、本来ならお前に任せるつもりだったんだが、お前には次に話す方を任せたい」
次って、最悪の事案って言ってたやつか。
「魔族国家連合よりマズいのってなんだよ、んなのそうそうねぇとおもーーー」
「邪神が復活する」
その言葉を聞いた瞬間アナスタシアを除いた全員が一斉に席を立つ。
そして全員が問い詰めるようにアナスタシアを見る。
アナスタシアも含めてこの場にいる全員が大なり小なり緊張の色が浮かんでいる。
「アナスタシアはん、それはほんまかいな?」
「ここで嘘なんて落ちじゃったらキレるぞ」
「……………」
「私だって信じたくないさ、だが事実だ」
全員の強烈な視線を浴びているアナスタシアはそれと同じくらい真剣な顔で俺等を見る。
「最初は勘違いかと思ったが、捜査班が調べたところ長い年月が過ぎて封印が弱まっているらしい。具体的な時間はまだわからないが最低でも一年後には解けるらしい」
「…………」
「はっきり言って我等の状況は最悪だ、邪神が復活しようという時に他の魔族国家は我々を攻めようとしているし、人間共は我々を言葉を信用しないだろう」
「…………」
「つまり、我々は人間達からの勇者を警戒し、他の魔族国家と戦いながら邪神をどうにかしなくちゃならない、ということだ」
「…………」
「ホントバカげた話しだ」
吐き捨てるようにアナスタシアは言う。
「対抗策は?」
「え?」
「だから対抗策なんだって聞いてんだ、お前が言ったんだろ俺には最悪の方を任せるって。だから聞くぞ、俺はどうすればいい?」
「…………はっきり言って私は邪神というのを知らない、ここにいる全員そうだと思う、だけど全員感じてる筈だ。邪神という者の恐怖を」
全員首を縦に振る。
そう、俺達は邪神会ったことも見たこともない。だけど怖い。邪神というのを知らないのに邪神の恐ろしさを俺達の体は知っているのだ。
まるで、どれだけ長い年月が経ってもその恐ろしさを忘れないよう、細胞に刻まれているかのように。
「だけど私はお前の方が強いと思ってる!」
「!!」
「邪神がどれだけ恐ろしくてもお前の方が強いと思っている!」
そんなアナスタシアの根拠のない言葉にハク、セシリアから笑いが出る。
「ふふふ、確かになぁ。あんさんより強い存在なんてちょっと考えられへんなぁ」
「ククク、確かに。あれだけ散々儂と争っているのじゃ、邪神ごときに負けてもらっても困るのぅ」
アナスタシアに続きハク、セシリアがそう告げるくる。
本気で言ってるのか?
本当に俺の方が邪神より強いと、そう言ってるのか?
三人を見詰める、三人共此方を真剣に見ていた。
本気だ、本気でこいつ等は俺の方が邪神より強いと思ってるのだ。
その期待の籠った視線から逃れるように魔王に聞く。
「魔王は、魔王はどう思ってる?俺が本当に邪神に勝てると思うか?」
隣の魔王を見つめる。
魔王も感情を匂わせない瞳で俺を見つめている。
「…………よくわからない」
「っ!?」
魔王の言葉に心に痛みが走る。
アナスタシア、ハク、セシリアは俺なら勝てると言ってくれた。だけど魔王はーーーーー
「でも、負けないと思う」
パッと顔を上げる。
「…………邪神なんて言うのはよくわからない」
「…………とっても強い存在なんだと思う」
「…………誰も勝てないくらい」
「…………でも」
「リアムは負けない」
「…………そう約束したから」
魔王が俺の名を呼ぶ。
そして魔王の言葉に昔を思い出す。
まだ、俺が竜王なんて呼ばれておらず、ずっとずっと弱かった頃俺は森で出会った幼い少女とある約束。
そんな磨耗しそうな程に古い古い約束。
「…………そうだな、そうだったな」
「…………リアム?」
「魔王」
魔王をそっと抱き寄せ抱き締める。
「そうだな、俺はあの日誓ったもんな。誰にも負けない最強の存在になるって」
「…………思い出したの?」
「あぁ、情けないことに今の今まで忘れちまってたよ、ごめんな魔王」
「…………ううん、大丈夫」
魔王は強く俺を抱き締める。
「魔王…………いや、レティシア」
レティシアが顔を上げて此方を見る。
この名を呼ぶのはいつぶりだろう。
「俺は邪神に勝って見せるよ、だからその時は」
息を吸い込む。
「お前も約束を果たしてくれ!」
レティシアは大きく目を見開き、潤んだ目で此方を見る。
「うん、待ってる。約束を果たしてくれるのを待ってる」
「なんや、よぅわからへんけど覚悟が決まったようですな」
「あぁ、いつもより引き締まった顔をしている」
「ふん、これで勝てんようじゃったら許さんからな」
後ろから三人の話し声が聞こえる。
覚悟は決まった、なら後はやるだけだ。
「レティシア」
「うん」
レティシアは全員の目が集まりやすい位置に立つ。
「これより、我等【アトランティス】は闘いに入る!
全員、己の全てを使って
我等の敵をなぎ倒せ!!!!!!」
「「「「了解!!!」」」」
『なぁ、レティシア』
『なに?リアム?』
『俺がいつか誰にも負けない最強の存在になってみせる』
『うん』
『だから、約束して欲しい』
『なにを?』
『俺が最強の存在になった時は』
『うん』
『お、俺と結婚してください』
リアム:今作の主人公、前世はなにもしたいことが出来ず死に、今世ではドラゴンとして生きる。元々は強くなかったが本人すら忘れていた古いとある約束を果たすために強くなった。強くなるため、強者と戦い続けた結果、とある奴との戦いで頭を打ち約束を忘れてしまう。約束を思い出した後はひたすら邪神を倒し、レティシアと結婚することを望んでいる。
レティシア:ヒロイン、魔族の中でも弱小一族として生まれた。昔は表情がコロコロ変わる子供だったが、家族や友達を他の部族に殺されてから表情が変わらなくなった。(リアムが気付かなかった理由の一つ)その後はしばらく一人で彷徨い続け、リアムとの約束を果たすために生きる。暫くして竜王と呼ばれ始めたリアムと再会したが、リアムは覚えておらず軽く絶望したが、それでもいつか思い出してくれると信じ待ち続けた。リアムが記憶を思い出した後はリアムが邪神を倒して帰ってきてくれることを望んでいる。