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師走の青い鳥

作者: 瀬川潮

 ゴミを出しに行くと、指定の場所に新しい看板が立っていた。

 文面は、「青い鳥がゴミをあさるので、指定曜日前日には絶対にゴミは出さないこと」。

 は、と首をひねった。

 カラスの間違いじゃないの、と。

「おはよう」

 この立ち止まった瞬間、町内会長の老人に声を掛けられた。関わりたくないからいつもそそくさと出して逃げていたのに。

「あんたは若いけど決まり事をよう守ってくれるね」

 はぁ、まぁ、といい加減に答えておく。

「最近は青い鳥が来てエサをあさるんで、本当に守ってくれて助かる」

「それ、カラスじゃないんですか?」

 思わず聞いてしまった。

「日ごろ中にこもって働いてる人は知らないですよね」

 新たに町内会の婦人がゴミ捨てにやって来て自然に会話に加わる。

「そうそう。最初は青い鳥が来てくれてカラスが寄ってこなくなって『幸せの青い鳥だ』ってどの地区も喜んでたけど、結局やることはカラスと一緒なのよねぇ」

 新たな婦人がやってきて、はふぅと溜息。

「青い鳥ってどんな種なんです? まさか本当に幸せの青い鳥でもないでしょうに」

「あんたもよっぽど世の中のことを知らないねぇ。結構いろんなところでニュースになってるよ」

 聞くと、またも新たにやってきた人物に言われた。今度はおじいさんだ。

「どんな種か、と言われれば返答に困るね」

 さらに新たな人物。「おお、野鳥の会の……」と町内会長が言うので、そういう年配男性なんだろう。

「冬だからオオルリやコルリの渡りの季節でなし、水辺もないのにカワセミがいるはずもなし」

 野鳥の会の会員によると、現存種ではないということか。

「捕まえないんです?」

「野鳥を捕獲しては駄目だよ。……でも、あれは実体がないらしい。何せ、幸せの青い鳥だから」

「どういうことです?」

 納得できないのでさらに聞いてみた。

「他に説明のしようがないから。12月にだけ現れて、誰にも知られずに消えるんだ」

「何で12月だけ?」

「さあ? 年貢の取り立てみたいだっていう話だね。もしかしたら昔からいたのかも」

 自嘲気味に野鳥の会の人は笑う。

「年貢? じゃあ、人は幸せを生産する、幸せ農家だということですか? 人自身が幸せ農場で、自分は育てた幸せを享受することなく取り上げられるだけの!」

 むっとして聞く。自分自身が働いて働いて、働きまくっても幸せを実感できるほど豊かになれない実感がいらだちにつながった。

「幸せが里帰りするだけだろう? 幸せにも長期休暇ぐらい与えてやろうじゃないか」

 言われて、少し憤りがやわらいだ。そういう考え方もあるか。

 が、新たな不安も感じた。

「帰ってきますかね?」

「環境破壊で帰ってこない鳥は多い。環境を整えてやることだね。……自分の」

 出来るだろうか、とも思ったが深く考えないことにした。

 代わりに別の思いが湧く。

 たまには里帰りすれば自分の親も喜ぶかもしれない、と。

 年の瀬は、近い。



   おしまい

 ふらっと、瀬川です。


 他サイトの同タイトル企画に比較的最近発表した作品です。

 年末ネタということで。

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