私だけじゃないよ・・・
正月ということなので二話連続投稿に興じてみたいと思います。といってもかなり間隔が空いてしまったので連続投稿と言えるのかは分かりませんが・・・前話に引き続き暖かくして続読お願いします。
私に義妹が出来て、その義妹と一緒にベッドに入って二人してぐっすりと眠った次の日の昼。
「そ、そんなこと許可出来るわけないでしょう!彼女がいくら治癒魔法の使い手だからっていきなり戦場に引き出すなんて!」
イーヴァさんに怒鳴られていた。なぜこんな状況になっているかというと、それは一時間前に遡る。
「そういえばリンの使える治癒魔法ってどんなレベルのケガまで治せるの?」
十時ごろの王宮女子寮の食堂で遅い朝食を取っていた。というか正確にはギリギリに滑り込んで朝食を貰って食べているので、食器は自分で洗わなくてはいけないけれど。
私の質問にリンは少し思案した後、答えてくれた。
「一応ある程度の外傷は一通り治せるよ。ただ、治そうとするケガが深ければ深い程に私の体力と精神力が減っていくけどね。あと毒とか麻痺とかも軽減したり治したりも出来るかな。」
回復役。そういえばどんな冒険物にも一人は絶対いる役職だよね。まあ一応私も使えるけどこの世界に詳しい人がいるとなおいいし。ていうか・・・
こんなかわいい妹放っておいて魔王倒しに行くとか論外!と、いうわけで。
「ねえ、リン。一緒に魔王倒しにいかない?手始めにあの腹立つ誘拐犯グループから始めようよ。」
自分で言っておいてなんだけど、勇者の立ち位置にいる人物のセリフではない。
「確かにあの人たちは悪い人たちだけど殺しちゃだめだよ。」
「だいじょーぶ。殺したりはしないから。」
たぶん。
私がそう言うとリンは「本当かな・・・」とジト目で私を見てきた。妹にまで疑われる姉って・・・我が身のことながら悲しくなってくるなー。少しの間考えたリンは頷いて了承の意を示してきた。
「分かった、魔王退治にもついていくよ。よろしく、お姉ちゃん。・・・治癒するのが相手にならなきゃいいんだけど。」
「なにか言った?リン。」
ボソッと何か聞こえたので訊き返したが
「いーや、何もー。」
とはぐらかされてしまった。ま、いっか。
その後二人揃ってまぐまぐと朝食を平らげて、料理係の人に言われた通り食器を洗い、片付けた。目的地まで歩きながら、どう攻略すべきか考えていた。リンを旅、及び誘拐犯討伐に連れて行くにはあの人に許可を貰わなければならない。あのイーヴァさんに。
まあ、許してくれないんだろうなーと思いながら目的地の騎士団本部にあるイーヴァさんの執務室のドアをノックする。どうぞという声がしたのでリンと共に入る。イーヴァさんには私の顔を見ると溜息を吐いて、
「リンさん、こんにちは。そしてマナさん、教会に行っているはずなのでは?それとも昨日の今日で今回はどんな面倒事ですか?」
と開口一番に訊いてきた。確かに面倒事だし、今まで面倒しか掛けてないけどさ。人の顔見ていきなり溜息ってないと思うんですが・・・仕方がないので開き直る。
「いやはやお見通しだね。実はねリンの事なんだけど。」
「リンさんがどうかしましたか?貴女より余程いい子だと思いますが。」
「・・・」
否定できない。・・・じゃなくて!
「リンの事を誘拐犯討伐と、ゆくゆくは魔王討伐の旅に連れて行きたいんだけどいいかな?」
と言った瞬間、冒頭に戻る。
怒鳴られた後、びくびくしながらも
「いや、だって回復役って必要じゃん、魔王討伐の旅って。しかもリンも行きたいって言ってるし。」
怒鳴った後、イーヴァさんはこめかみを抑えながら
「あのですね、彼女は今まで教会で過ごしてきた一般の子なんですよ。私やラインの様に幼少のころから戦闘技能について学んでいるわけではないのです。」
それは初耳なんですが。
「そのような子を誘拐犯討伐はおろか、魔王討伐の旅などに同行させるわけにはいきません。」
イーヴァさんは強い口調で言ってきた。というわけなので
イーヴァさん対私、第二試合開始!
確かに正論、取りつく島もないけどね。でもたった一つ私だからこその切り返し技があるんだよね。まあ、無駄なのは分かっているんだけど。
「でもさ、いきなり現れた異世界の女の子に魔王倒せってのも変な話だよねー。」
取りあえずこう反論してみた。すると、予想していたのか、すぐに、
「いきなり現れてイノシシ相手に『コラプスイラプション』を唱えるような人に言われたくないのですが。」
と返された。こちらも確かに言い返せない。けれどもこちらにはまだ最大のカードが残っている。
さあ、今こそそのカードを切る時だ!
そう思った瞬間に誰かにイーヴァさんの袖が引っ張られていた。イーヴァさんがそちらを見るといつの間にかリンが引っ張っていた。
「どうしたの?」
と優しく訊く。その瞬間、私はかかったなと心の中でほくそ笑んだ。リンは訊かれると目を潤ませてイーヴァさんの事を見上げると
「どうしても、ダメですか。いつもお姉ちゃんと一緒にいたいんです。」
といった。すると、イーヴァさんの体がびくっと震えた。クリティカルヒット、流石の彼女と言えど精神的なヒットポイントはゼロだろう。ドサッと体を椅子に預けると天井を仰いで溜息を吐く。やはり効果は抜群だったようで頬が紅潮していた。右手でリンの頭を撫でながら私の方を見ると
「貴女の入れ知恵ですね、マナさん。」
「当然。可愛いは正義!それにここまでしなけりゃ許してくれないでしょう?」
そう、イーヴァさんの一番の敗因は相手を私だけだと思い込んだことである。彼女は再びしばらく思案して、もう一度リンを、いや、リンの目を見る。その目を見てリンの意志が利用されたものでなくリン自身の強い意志であることが分かったのか、
「貴女には、いえ、貴女達には負けました。分かりました、許可しましょう。ですが二つ条件があります。二人にはここしばらく私と共にギルドの討伐系の依頼を十件近く受けて戦闘の経験を積んでもらいます。そして、一日数時間程、魔法を安定して使えるように精神統一をして下さい。」
イーヴァさんはそこでいったん言葉を切ってから、
「これが最低限の条件です。あと出来ればリンさんは私達騎士団の練習に立ち会っていただいて傷を治す練習をしてもらえるとなおいいですね。私たちも助かりますし、回復魔法も上達しますから。さていかがですか、お二人さん?」
と言ってくれた。答えはもちろん決まっている。私とリンはイーヴァさんに向かって鋭角のお辞儀をしながら叫んだ。
「「ありがとうございます!」」
私たちの元気な返事にイーヴァさんは、やれやれ、と首を振った。
第二試合はマナ、リン姉妹の勝利で終わりました。イーヴァさんはこの物語の苦労人としての立ち位置が確立しつつありますね。がんばれ、イーヴァさん!これからも振り回されると思うけど・・・
再び間隔が空いてしまいますが、ゆったり待っていてくださると嬉しいです。




