ギルド。異世界だなぁ・・・
前話に書いた通り、少し長めになっております。楽しんで続読いただければ何よりです。
シャー・・・
「うっ、まぶし・・・」
すやすや寝ているといきなり光が目に入った。
あれー?私の部屋って鍵かかってたしカーテン閉まってたはずなんだけど。ばあちゃん、編み物得意なのは分かってたけど、とうとうピッキングまで出来るようになったのか。
そんなアホなことを寝惚けた頭で考えていると
「もう昼ですよ。そろそろ起きてください、マナさん。」
クスクスと笑いながらの声を掛けられた。一瞬驚いたけど、マナさん、と呼ばれた時点で、ああ、そういえば異世界に来てたんだっけ。と思い出した。どうやら夢オチ、ということはないらしい。夢オチだったらだったで少し物足りなかったと思うけど。
もぞもぞとベッドの中でうごめきながら
「うーん・・・あともう五分ー・・・」
と往生際悪く粘ってみた。が・・・
「ダメです、早く起きてください。今日は買い物に行く予定でしょう?」
と毛布を引っ張り取られた。私のお母さんか、ばあちゃんか・・・
流石に起きて、クローゼットにかけておいたセーラー服に袖を通す。こっちに連れてこられた時の服装は現実世界で事故に遭った時のセーラー服だったので、そのまま寝るわけにもいかず、下着姿で寝ていた。結構気持ちいいんだね、下着で寝るって。
着替えを終え、眠い目をこすりながら顔を洗いに洗面所に向かった。それをイーヴァさんは再びクスクスと笑った。眠いんだよー、しかも恐ろしく低血圧なんだよー。
「とりあえず、何か食べたいなー。イーヴァさん、おすすめって何?」
私とイーヴァさんは露店を回っていた。朝ごはんも食べずに寝ていたため、お腹ペコペコになり、お腹が鳴った私を見かねてイーヴァさんが連れて来てくれたのだ。
イーヴァさんはキョロキョロと見回し、目当てのものを見つけたように走っていき数十秒後、カレーパンの様なものを持ってきてくれた。まじまじと眺めていると、横から説明してくれた。
「鳥肉を煮込んだ物を生地で包み、揚げたものです。なかなか美味しいですよ。」
そう説明が終わるか終わらないかぐらいのタイミングでかぶりつく。とろっとしたシチューの様なものが口の中に広がる。やわらかい味が心地よい。
これおいしーと思いながらまぐまぐと食べているとイーヴァさんが思い出したかのように
「そういえばマナさんってお金持ってるんですか?異世界から来たっていってましたけど。」
「あ・・・」
このパン代どうしよう・・・
「持ってないんですね。じゃあ、買い物はまた今度にして、ギルドに行って仕事を探しましょう。」
ギルドって・・・どこまでラノベなんだーーー。
と心の中で叫んだ後、頷いてギルドに向かう。
しばらく歩くと、騎士団本部と同じぐらいの大きさの建物が見つかった。そこがギルドのようでイーヴァさんはそのまま入っていく。すると、カウンターの中にいた、如何にも修羅場をくぐって来ていますといわんばかりにゴツイ見た目の男の人がイーヴァさんに話しかけてきた。
「おお、イーヴァじゃねえか。久しぶりだな、どうしたんだ騎士団長。ん?そのむすめっこは誰だ?」
むすめっこ、って呼ばれたのは初めてだなー。
「フォーセさん、お久しぶりです。今日は彼女と仕事を探しに。近場で何かいい仕事はありませんか?」
「そーだな・・・ああ、討伐系が一つあったな。受けてくかい?確か報酬は八万クラムだったはずだ。」
「じゃあお願いします。名義はマナで。」
「その子の名義だな。分かった。・・・ほらよ、依頼書だ。後の手続きはやっといてやるよ。数は自分たちで数えてくれ。」
「ありがとうございます。ではカードはまた今度取りに来ますので。」
結局ギルドの中ではしゃべることなかったなーと思いながら仕事に向かう・・・わけにもいかない!
「ちょ、ちょっと待って。仕事って何受けたの?討伐系って言ってなかった?」
「ああ、大丈夫ですよ。マナさんが倒したあのイノシシを十体倒すっていう仕事ですから。私一人でもこなせますからマナさんはもっと簡単だと思いますよ。でもだからといっていきなり禁忌魔法とか放たないで下さいよ?流石に二回揉み消すのはいくら私でも難しいと思いますから。」
後半は聞かれてはまずい事なので小声で話してくれた。大丈夫、大丈夫。あんなの余程じゃなきゃ放たないから。まあ、他のが禁忌魔法だったらどうしようもないけど・・・。
他にも色々な仕事があるという説明を聞きながら歩いた。今回みたいな討伐系、収集系、ある程度まで手慣れた人物ならば何かを制作して回す、という仕事もあるという。
しばらくして、国から出る時再び関所の番人さんに挨拶。ていうか前回もこの人だったんだけど何交代制なんだろう。異世界にもブラック企業とかあるのかな?
なんてことを考えながら森の中に入っていく。すると、
「グルルルルル・・・」
しばらく歩いていると一体目のイノシシが出現した。さあて、どの魔法を使おうかなーと選んでいると、
スッとイーヴァさんが出てきてレイピアを抜いた。
「最初の一体は私が狩りましょうか。」
そう言うと彼女は左足に力を込め、跳ねた。素早いスピードで右手のレイピアを突き出した。そのレイピアはイノシシの右目に刺さった。すさまじい声を上げてイーヴァさんを振り払おうとした。しかし、騎士団長様はそんな事では振り払われてくれなかった。
それどころかその反動を利用して突き刺したレイピアを抜き、今度は両方を交互に突き刺す。最初は暴れていたイノシシも次第に傷が増えていくにつれて静かになっていき、最終的に息絶えた。
おおー、お見事。パチパチと拍手をしながら話しかける。
「さっすがイーヴァさん。やーるねー。」
「ありがとうございます。というかその右手は何ですか?」
そう、私は今、現在進行形で右手を彼女の方に向けている。
「いやーちょっとねー。『チェインランス』」
そう唱えた瞬間私の右手の平から光輝く鎖のついた槍が飛び出した。その標的は・・・
「ガアアアアーーー」
その断末魔を上げたのはイーヴァさんの後ろにいた、彼女が倒したイノシシとは別のイノシシだった。
「えっと、これでいい?一応禁忌っぽくない魔法を使ったんだけど。」
イーヴァさんは唖然としている。そりゃそうだよなあと右手の鎖を引っ張る。するとずるずると槍の先に刺さったイノシシが私の方に来る。私が狙っていたのは、イーヴァさんの後ろの茂みに隠れていたイノシシだ。
「・・・通常一撃で倒れるほどの魔物ではないはずなんですが・・・流石ですね。」
呆れたように言うイーヴァさん。何でだろう、褒められているはずなのに褒められている気がしない。
ま、ちゃっちゃと狩って町に帰ろーかー。
その後、三時間程を掛けてこの依頼を完了させ、町に戻った。
因みに余談だが、通常この依頼は一日二日かけて行われるものであったのに、私達はイノシシを探すのに手間取ったとはいえ、かかったのはわずか三時間。その上、戦闘と捜索時間は十分・二時間五十分という割合だった。
この普通じゃない完了速度にフォーセさんに詰め寄られ質問攻めにされたのは言うまでもない。これにはイーヴァさんも苦笑いだった。
「いやー、初任給をこの年で貰う事になるとは思わなかったよ。そういえばこの世界の金銭感覚ってどういうものなの?」
「じゃあ、今日はその授業ですね。それじゃあ寮に戻りましょうか。」
しまった、自分から授業を入れてしまった。いつかは覚えなきゃいけないことだからいっか。そう自分を納得させると戦闘を終えた時よりも重い足取りで寮へと戻った。勉強はいつでもどこでも嫌いよ~。
「じゃあ、晩御飯の時間ですしこれぐらいにしましょうか。」
というイーヴァ先生の言葉をもって授業終了。はい、もうお腹いっぱいでーす。二日連続は流石にきついよー。取りあえず分かったのは
「円とほとんどレートは変わんないってところかな。」
ということは今日の稼ぎは山分けで四万。そこそこの買い物が出来そうかな。まずはパジャマ用の服と下着の代えが欲しいなー、とか考えながら晩御飯のトレーを貰う。お、今日のメインはハンバーグだ。でも、何の肉なんだろう・・・じーっとみているとイーヴァさんが今日狩ったイノシシの肉ですよと教えてくれた。
えー、あれ食べるの?と引きながらも一口食べてみたら、めちゃくちゃ美味かった。完食後に思ったことは一つ。
「肉取っとけばよかったな・・・」
必要だったのはパジャマでも、下着の代えでもなく、持ち運びできる冷蔵庫だったらしい。それが何よりに心に残った異世界二日目だった。これでも一応女子高生ですよー。
因みに後にギルドカードなるものがあって冒険者にとっての食糧の保存が出来ると知るのだが、その時の私は知る由も無かった。
成績は中の上ですが女子力は下の上ぐらいのマナでした。基本的に面倒なのが嫌いなので、メイクとは無縁です。どっちかというと変装に興味を持ってると思いますね。
これからは本当に連載間隔が空きます。でもちゃんと再開するので待っていていただけると嬉しいです。