悪夢だ…
近日中が一ヵ月になるとは作者も予想しておりませんでした……すみません。
そして一応書かせていただきます。本話は「依頼完了…なのに…」の続きです。読んでいて、あれ? と思うかもしれませんが大丈夫です、合ってます。
それでは続読お願いします。
しまった、油断していた、まさか向こうから来るなんて思ってなかった……。無駄な後悔をしながら滑るように木の根を降りていく。
「どこ、リーン!」
大声で呼びかけるも返事が返ってこない。リンの声がしていた辺りを細かく探してみると、木の根の重なっている場所に虚があった。一つ舌打ちをすると、躊躇なく飛び込んだ。虚の中はかなりの急角度で下に延びていて、横に続いているかと思った私はかくんとバランスを崩した。
「うわ、ちょ……」
二、三回ごろんごろんと転がったが、踵を地面に合わせると何とか安定して滑り降りた。それから数秒後、光が見えたため、思いっきり踵を食い込ませてブレーキを掛ける。出口ギリギリで止めることに成功したので、ひょいっと覗いた。そんな私の目に入ったのは、白い壁。ひたすらに真っ白な壁だった。しかしその白は木の色ではなく、地面の色でもない。作為的な白だった。
その白を背景に、視界の右上にスルスルと上に上がっていくものが見えた。それは首から下を白いもので覆われたリンだった。その姿は一瞬生首を連想させられ、冷汗が背中を伝った。
「リン! 大丈夫、今助けるから!」
「……もう、遅いよ」
リンの声がした瞬間、上がっていく白の塊から丸いものが零れ落ちた。
「……え……?」
落下してきたその丸いものは私の目の前まで来た。そして私は見てしまった。リンの……生首を。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
叫び声をあげて体を起こす。すると周りに広がっているのはあの木の空間ではなく、貸してもらっている一軒家の部屋だった。
「はぁ……はぁ……はぁ……ゆ、夢……?」
荒い息を何とか落ち着かせる。とは言うものの、全くと言っていいほど息が整わない。
「な、何てひどい夢……」
数分かけてやっと息を整えたところで、リンと一緒に寝ていることを思い出し、横を見る。リンは布団を首まで被っていた。私は嫌な予感がして、その布団を捲ってみた。
「……そんなわけないよね」
「……すぅ……すぅ」
規則的な寝息を立てながら寝ているリンの首から下はしっかりとあって、もちろん首と胴体は繋がっていた。もし離れていたら本当に発狂するところだった。
木のコップに入れておいた水を飲むと、自分の体がじっとりと嫌な熱を持っていて、汗をかいているのが分かった。流石にこのまま寝るのは気持ち悪いし、また悪夢見そう。
「浴びてこよう」
呟き、リンを起こさないように部屋を出ると、水浴び用に溜めておいた水ではなく、洗濯などに使われるための綺麗な川に服を脱いで入る。まぁ、皆寝てるだろうから来ないでしょう。
流れる水は想像よりも冷たかったが、その冷たさが身体にある嫌な熱を冷ましてくれているように感じた。ここはゼノフォビアとの国境近くの村、流れる川には水の精霊がいて、癒してくれているのかも、と思った。
流されないように縁に掴まりながらふと夕食を思い出す。リンは食欲がないと断っていたので、流石に主役がいないのもなんだ、と思い、自分も食欲があまりないまま席に着いたけれども、正直、味がよく分からなかった。多分、その理由は簡単だ。初めて味を感じなくなったのはある言葉を聞いてからだったから。
『ありがとうございます』
その言葉を聞いた瞬間に木の空間がフラッシュバックした。吊るされていた白骨、もしくは腐った遺体。よくあの場で吐かなかったものだと思う。でも、その二つはまだいい。問題は綺麗な遺体だ。もしかしたら私が助けることが出来たのかもしれない。そう考えると感謝の意は受け取ることが出来ない。カイの村で楽しい宴会が出来たのは私に責任のある死がなかったからだ。
多分こんなことを言えば村長さんは、そんなことはない、倒してくださってありがとう、と言うのだろう。でも思ってしまったからには拭うことが出来ない。
心の奥底でちらつく嫌な火は、この川につかっていてもしばらく燃え続けることになりそうだった。いい加減にしないと風邪をひくと思った私は、川から上がり、着替えて部屋へと戻る。普通に布団に入って寝るはずだったが、私はリンの横に入り、リンの体を抱きしめながら目を閉じた。
「お、お姉ちゃん、起きてってば。お姉ちゃん……!」
「うぅ……もう後一時間……」
「長すぎるよ! っていうかどうして私と一緒に寝てるの?」
一緒に寝ているというフレーズで目を覚ます。見ると、私の顔の前に赤くなっているリンの顔があった。それを見た私が何をするかはご想像の通りで。
「やっぱりもう後二時間」
さっきよりも強く抱きしめながら目を閉じる。眠いのも確かだけど、今はリンを抱きしめていたいというのが本音である。あったかい。
「お姉ちゃん!? さっきより伸びてるし、さっきよりも強くなってる気がするよ。もう、お姉ちゃん!」
結果的にリンが私を起こすことが出来たのはそれから三十分後のことだった。
寝間着からいつものセーラー服、ではなく、暇を見つけて買って置いたこの世界の服に着替える。昨日は時間遅かったから洗濯せずに寝ちゃったんだよね。洗い場行って洗っておかないと。
「んー! ……あれ?」
開いている窓の前に行き、冷たい空気を感じながら伸びをする。そして目を開けると、そこにはまだ明けきっていない早朝の景色が広がっていた。おかしいな、いつもならギリギリまで寝かせておいてくれるんだ
けど……
「リンー、今日ちょっと起こしてくれるの早くない?」
どうしたのかな、と思って聞くと、お姉ちゃんが辛そうだったから、と答えた。
「もしかしたら祝われたくないんじゃないかなって思って」
……私はどこまで演技が下手になっていたんだろうか。ひどい言い方をするけど、たかが十代前半の少女に見抜かれるようなやり方はしていなかったはずなんだけどな。
「リンには敵わないなぁ……」
「出る?」
こんなことでも、冒険者ならいつか慣れなきゃいけないのは分かってるけど、今はまだその時じゃなくてもいいよね。
「荷物、まとめてある?」
「まとめる以前に服以外は全部カードの中だよ」
苦笑して言ってくる。確かにそうだった。
これでよしっと。手紙を書き終えると机の上にそのままにしておく。時間が来れば誰かが来て見つけてくれるだろう。手紙の内容は大きく分けて三つ。
一つ目、急用を思い出したので挨拶できずに帰ります、すみません、ということ。
二つ目、依頼は完了しましたが、報酬の話し合いまでいられなかったので報酬は無しにしてほしい、ということ。
三つ目に、飛びぬけて大きい木の洞に遺体があるので、弔ってあげてほしい、ということ。
最後の遺体を降ろすのは私がやった方がいいのだろうけど、自分たちの手でやった方がいいんじゃないかと思ったのと、単純に再びあの場所に行くのが辛い。
「お姉ちゃん、早くしないと早起きの人は外に出てきちゃうよ?」
「あ、もうそんな時間? 分かった、それじゃ、行こうか」
なお、脱出自体は人目を避けて、人通りの少ない方向の村を囲む壁を飛び越えられたので簡単だった。そう、脱出自体は……問題は別にあった。
「セドナはどっちだー!」
ヒトウ村を出てから十数分後。村を出てからしばらくは軽快に飛んでいたものの、その内に問題に気づき、徐々にスピードを落とし、終にその場で止まった。
「……うん、途中からこうなるんじゃないかなって分かってた」
リンがやっぱりか、と言う風な感じで見てくる。どうせお姉ちゃんは学習能力0の人間ですよ。チート魔法持ってても中身一緒だよ……
そんな悲しみに暮れながらも少なくともどうにかどこかの村、及び街にはつかなくてはならない。じゃないと、幸い森なので食料が尽きることは無いだろうけど、単純に辛いものがある。ちゃんと地図買っておけばよかった……
とは言っても完全に森の中であるために殆ど役には立たなかったと思われるけどね……まぁ、それは置いといて、と。
逃げ出してしまったために村に戻る、という選択肢はない。そうなるとセドナに帰るという選択肢しかないのはそうなんだけど、一向に目印みたいなものが見つからない。灯台みたいなの作っておいてよ、この地方の人……あ、人自体いないんだった、ここらへん。ヒトウみたいな村はないかな。
「リンー、ヒトウの他に深遠の森の中に村とかないの?」
「深遠の森の中にある村で、知られてるのなんて妖精の国、ゼノフォビアぐらいだよ。ヒトウ村があるのも
初めて知ったんだから……」
となると今日中に帰るのは望み薄かな……まぁ、近いうちにどこかの村を見つけるか、セドナに帰り着ければいいか。幸い食料には事欠かなそうだしね……
そう思いながらしれっと、視界の端を通った鳥型の魔物を『チェインランス』で打ち抜き、回収する。その魔物は鋭い爪で、どこから取ってきたのか分からない大きなカボチャを掴んでいた。鳥ってカボチャ食べるっけ? そう思った日の夕食は鶏肉とカボチャのスープでした。大変美味しかったです、まる。
ハロウィン投稿ということで、どうでもいいレベルのハロウィン要素でカボチャを入れました。本当はちゃんとしたハロウィン的な何かをやりたかったのですが、気づいたのがあまりにも遅かったので出来ませんでした……クリスマスは出来るかな……そうなると、季節関係もしっかりさせなきゃ……(右往左往)
こんなですが次話もよろしくお願いします!




