目印は大事…
お久しぶりです、イベントってどうしてこうも続くのでしょうか、不思議です。
お待たせしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
では、続読よろしくお願いします!
ワイバーンの肉を解体するみたいに『アウラ』でリンを縛っている糸を乱雑に切るわけにもいかないので、買ったばかりの短剣で切りにかかる。いくら耐久力のために切れ味を落としたとはいえ、フォーセさん一押しの鍛冶師、十分な切れ味があり、力を入れると切れていった。
「はい、これで大丈夫だよ、リン」
「…………」
所謂お姫様抱っこで支えて話しかけるも、リンの目はどこか空中を見ているようで、声が聞こえていないようだった。
「リン?」
「あ、ご、ごめん、お姉ちゃん。ありがとう」
もう一度呼びかけてみると、我に返ったように返事が来た。どうしたんだろうと思って聞いてみたけど、何でもないよ、の一点張りだった。ほんと、どうしたんだろ? それはさておき。
「ごめんね、すぐに助けられなくて……大丈夫だった?」
「縛られてるだけだったし、毒みたいなのも感じないから大丈夫だと思うよ」
よかった。よし、リンの無事が確認できたところでちゃんと確認しよう、あれだけ白骨遺体が吊り下げられてるってことはそんなに時間が経っていないんだったら、あの女の子と一緒に来た人達は助かるかもしれない。
「リン、生きてる人がいないかどうか探すけど、見てて気分のいいものじゃないから目を瞑っててい……」
「ううん、一緒に探す。お姉ちゃんばっかりに負担掛けられないから」
そう言って吊られているものを見始めるリン。あぁ、いい子だ……。それじゃ、探すとしますか。
「これも白骨化してるし、あっちのは……うん」
白骨化してるのはまだいいんだけど、中途半端に時間が経っているのを見るのは正直、気分のいいものじゃ
ないどころか、見てて気持ち悪くなってきてしまう、リンも何度か嘔吐いていた。
「リン、続きは私が……」
「うう……ううん、お姉ちゃんに付いて行くって決めたんだから」
その覚悟を邪魔するのも何だったので、そのまま生存者探しに付き合ってもらうことにした。入口に向かって右の端から探して、逆側の端まで来たけど、今のところ生存者はいない。遅かったのかな……
「お姉ちゃん! あそこに見える女の人、顔色よくない?」
その言葉で跳ねるように顔をあげて、リンの指さす方向に吊られている人を見てみると確かに、他の死人よりも血色がよく、まだ生きている様に見える。急いで近づき揺らしてみる。
「大丈夫ですか、生きてますか!」
数回揺すったところで眉間にしわを寄せるのが見えた。よかった、この人は生きてる! 半分以上放置していた身体強化に魔力を送って持ち直す。そして糸を力任せに切り落とすと、右腕にリン、左腕に女性を抱えて、入ってきた出口に繋がっている穴まで飛ぶ。そしてその地面に降ろすとリンに声をかける。
「リン、回復お願い! でも無理はしないでね」
「分かったよ、『女神の加護を受けし精霊たちよ。癒しの力を持ちて傷を治したまえ』」
回復呪文によって、温かい光が女性を包み込む。すると、徐々に女性の顔色がよくなっていった。
「ん……あれ……」
リンが回復魔法をかけること十数秒、目を覚ました。やっぱり回復魔法ってすごいわ。
「大丈夫ですか、分かりますか?」
「えっと……貴女方は……」
意思疎通もしっかり取れてる。リンの回復魔法は解毒も出来るって言ってたからそっちの心配もいらない。ってことは、この人はもう大丈夫!
「助けに来た冒険者です。もう大丈夫ですから安心してくださいね」
「……ぼう、けんしゃさ、ん……助かったの……」
女性はそう呟くと、安心して緊張の糸が切れたのと精神的に疲れがたまっていたのか、気を失ってしまった。ちゃんと呼吸していることにホッとすると、リンに歩けるかどうかを聞いた。問題なく歩けるとのことだったので、女性を抱えると、化物の巣を後にした。蜘蛛もあそこに放っておけばいずれ、この大木の養分になるだろう。冷気を閉じ込めたままだからいつになるかは分からないけど。
それはそれとして。
「……これは……一体どういうことだろうね?」
私は現在進行形で困惑していた。出られなかったわけではないし、また振り返ったらリンがいなかった、というわけでもない。むしろいたのだ、いや、あったって言う方が正しいのかな。
「お姉ちゃん、いつの間に倒してたの?」
「いや、お姉ちゃんは魔法使いであるけど、流石に分身しようとは考えてなかったよ」
私達の目の前には八匹の子蜘蛛(子蜘蛛と言っても、化物に比べて)が無残な姿で転がっていた。近づいて見てみると、どうやら剣のような刃物によって斬られたのだと思われる。
それにしてもゾッとする。ここにいてこのサイズだとあの穴を通って大木の空間に入ることは容易い。多分あそこに吊られていた人たちはこいつらが運んできたのだろう。私はあの大蜘蛛に集中していたから、多分気づかないうちにリンは喰われていた可能性がある。
「強くなろう、せめてリンを守れるぐらいには」
声に出し、心に誓って、村への帰路を歩くこととなった。
歩こうとは思ったものの、人一人背負って森の中を歩くのは若干怖い。今までなら何とも思わなかったんだろうけど、死角からの襲撃はリンが消えたことをフラッシュバックさせるために、死角からの攻撃が殆ど無い、空からへと帰宅コースを変えることにした。
「『ハルシオン』」
先程のように両脇に二人を抱えると、翼を羽ばたかせて舞い上がる。さっきは無我夢中だったから気づかなかったけど、やっぱり二人抱えると翼への負担が大きくなるね。何人まで抱えられるのかな?
そんなことを考えていると、少し不安げにリンが私に声をかける。
「お姉ちゃん、村の方向、覚えてる?」
私の脳内に電流が走る。
「お、覚えてません……リンは覚えてる?」
リンは私の返答に顔を少し青ざめて回答とした。さて、どうしたものか。時間は昼を結構過ぎたところ、完全に迷い込んだらどこかに着く前に夜になってしまう。私とリンはともかく、この女の人はリンのおかげで体力は回復してるけど精神が衰弱してる。
「やっぱりパン屑撒きながら来ればよかった……いや、何かに食われて分からなくなるのが落ちか……」
「パン屑?」
そういう物語があったんだよ、と答えてから考え始める。何だかんだ言ってここまで来るのに結構な時間をかけたから索敵で方向を拾おうにも大分難しい。何か方向を特定できるものはないかな……光でも、影でも何でもいいんだけど……もう少しサバイバル知識を学んでおくんだった。元の世界では絶対に使わないけど。
とりあえず、そのまま幹のところに移動して待機。遭難時、山であれば下山を目標とするのではなく、頂上に向かうべきで、森の中だった場合は、その場を動かないことが重要、らしい。待機すること数時間。日が傾いてきて、白かった日差しも、いつしか赤くなっている。そろそろリンも女の人も辛くなってるはず……
女の人の顔色を確認している時、ふと、リンの声が聞こえた。
「……山火事?」
視界の中央、かなり遠くの森から、灰色の煙が立ち上っていくのが見えた。何か火の不始末か、魔物の仕業
かと思っていたけど、いつまでたってもその煙が拡大することはなく、ひたすら一筋、ゆらゆらと天へと昇っていくのみであった。そこでやっと気づく。
「いや、あれは山火事じゃなくて……リン、行ってみよう!」
返答も聞かずに抱えて飛び立つと煙が立っているところまで一直線で飛んでいく。私の予想、正確には希望の方が正しいのかもしれないけど、が合っているならばあそこに村があるはず!
「親は倒したか……ならあいつらに気づかなかったのについては目を瞑ることにしようか。丁度、俺も遊び相手が欲しかったところだしな」
遊び相手にもならなかったが、と付け加えながら、肩に一本足の鴉を乗せた男が、マナ達がいた大木の反対側から姿を現した。横に突き立っている剣は、白銀の刀身を微かに紫に汚していた。
「感じるに魔力は比較にならないようだが……戦闘に対しては全くの素人、といったところだな。早く面白くなってもらいたいものだ」
飛び去って行くマナの姿を興味深そうに眺めた後、鴉にマナを追う様に向かわせた。そして剣を手に取り、一振りして汚れを落とすと、自分は森の奥へと姿を消した。
9月中に後2話……書くことは決まっているものの、パソコンに向かって書く時間が取れないんですよね……
でも出来る限り、書ける限りは尽くします!
ので、次話もよろしくお願いします。




