森林浴ってすごい…
ゴールデンウィーク、どう過ごしてますか? ゆるゆるゆったり過ごしております、作者です。
今回も続読よろしくお願いします
「お姉ちゃん、起きて、綺麗だよ」
森の中だからだろうか、セドナよりもひんやりとした空気で半分目が覚めているところに、リンの声がかかる。目を開くとリンは開けた窓から外を見ていた。
「何が見えるの?」
ゆっくりと体を起こし、腕を使って上半身だけ伸びをしながら聞く。
「見てのお楽しみってことで。セドナでは見られない景色だよ」
正直、眠気と景色の天秤は眠気が勝っていたのだが、リンがお楽しみ、と言うのならば見ないわけにいくまい。少し重たい身体(決して体重が重いわけではない)を二本足で支えると、窓際まで行き、リンの横から景色を見る。
「……これは……確かに綺麗だね。この眠気よりも価値がある」
流石は深遠の森。完璧には日が差す場所はわずかである。けども、いくら木々が密集してると言えど日の差す隙間はある。その隙間から幾本もの光が地上に降り注いでいた。
「その感想はちょっと……」
リンには苦笑されてしまった。仕方ないじゃん、割と眠かったんだからさ?
「森林の光のシャワー、まさかリアルで見られるとはね」
ここがリアルかどうかは別として。まぁ、リアルなんだろうけど。
景色もさることながら、落ち着いて深呼吸すると森林独特のきれいな空気が肺を満たしていく。マイナスイオン効果って地味にすごいものだね。森林浴、案外バカに出来ない。
マイナスイオン効果か、私には珍しく朝からシャッキリ起き、身支度を整えることが出来た。私の様子を見てリンが、ここを拠点にしたらいいんじゃない? と呟いていたけど、家に帰るのに迷う可能性のあるのって絶対嫌だよ。確かに生活には困りそうもないけどさ?
サッサッと朝の私からはあり得ない音を地面からさせながら村長さんの家へ向かう。朝食後、いよいよ化物パート2と戦いに行くことになる。因みに私の中で化物とカテゴライズされてるのはカイの村の化物とこれだけ。最初のイノシシは放置の方向、雑魚には興味なし。
「おはようございます」
家のドアを開けるといい匂い攻撃、通常なら効果はいまひとつなのだが、覚醒しているため、効果がばつぐんである。朝食楽しみ、って思ったのっていつ以来だったかな?
「おはようございます、マナさん、リンさん。丁度朝食が出来上がりました。こちらへどうぞ」
村長さんのお孫さんと思われる人に言われるがまま席に着く。リンも並んで席に着くと、朝食が運ばれてきた。メニューは主食が芋っぽいものをすりつぶした後、固めて焼いた五平餅っぽいもの。主菜は山菜っぽいもの数種類を炒めたもの。ベジタリアンの皆さん、理想郷がここにありますよー。
五平餅っぽいのは味が一定で食べづらかったけど、山菜炒めの軽いえぐみを中和してくれて食べやすくしてくれていたのでプラマイゼロってことで。でもやっぱり現代っ子としては肉が欲しい、というかファストフードが懐かしい、骨付きから揚げとか、ハンバーガーとか……店名はご想像にお任せします。
「ご馳走様でした」
食事を終える。何というか……朝にしては別な意味で体が重い。朝食を通常量で完食となると結構な満腹感が……あぁ、二度寝したい。と思いつつもこんだけ脳内ダラダラしてても緊急の依頼であるので二度寝の欲求を何とか押し込め席を立つ。
「さて……これからいよいよ討伐に行くけど、今回リンはどうする? いつの間にか消えてるって感じだと私
でも反応出来ないままってこともあり得なくはないけど」
不安要素を挙げてみるが、リンは、それがどうしたの? とばかりに首を傾げて見せた。はい、一緒に来るのね。なら常時クアリーで行きますか。
「行かれるのですかな?」
「はい、依頼を完遂して帰ってきます」
村長の言葉に強い口調で返す。成功以外は私にとってあり得ないからね。
「ならばこれを持って行ってください。我々の用意できるのはマナさんにとっては気休めにもならないとは思いますが……」
そう言って渡されたのは小太刀。刃をなぞってみると、微かに魔法を込められているのが分かる。聞いてみ
ると、小太刀には魔を払う聖属性の魔法が織り込まれているようで、魔の性質を持つものならば通常よりもたやすく斬れるというものらしい。ラプター辺りの最前線ではこういう武器が量産されてるのかな。
「ありがとうございます。これはリンが持ってて」
受け取った小太刀をリンに渡す。私は既に小太刀を持ってるし、もしリンに襲撃があった場合、一回ぐらいはそれが使えるだろう。使わせる気もないのだが。
「分かった、では村長さん、お借りします」
「はい。こんなことしか出来んのじゃが……お願いじゃ」
「吉報をお待ちください」
それだけ言うと家を出て、ヒトウの村の皆に激励の言葉を聞きながら村を出た。
「それにしても、捜索範囲が広すぎるよね」
全く以てリンの言う通りであった。今まで現れていなかったセドナへの経路だって襲撃を受けたんだから、最終的、すなわち現在の化物の行動範囲はヒトウの村を囲む、深遠の森全体ということになる。ここまで広くなってくるとクアリーも大雑把にしか使えず、化物の得意とするだろう奇襲の餌食になってしまう。
「仕方ない、歩きで探そう。食料もあることだしね」
「ゆっくり慎重に行動してれば奇襲対策にもなるもんね。そうしよう」
同意を得られたところで『クアリー』を使い、自分たちの周りに索敵範囲を広げる。これで何か反応すれば一発で気付く。そこまでレベルは上げてないけど、A級の化物なら掛かれば一発で気づくでしょう。今のところ該当はナシ。ちょこちょこと蠢いているのも小動物か虫かのどちらかだ。
「では捜索開始!」
「おー!」
気合を入れて深遠の森へと進軍を始める。迷うのは分かってるからパン屑でも落としていこうかと思ったけど、間違いなく童話の主人公兄妹と同じことになるからやめようと決めた。むやみに動物にエサをやってはいけません。元の世界の神社でハトに餌をやってたらお母さんに怒られました。可愛かったのに……
そんなどうでもいい思考をしつつ歩くこと一時間強。歩くのが二重の意味で苦痛になってきたのと、確実に迷子になっているという二つの理由でうんざりしてきました。目的の見えない行動って一番疲れるんだよね……
「リンー、何か気づいたこととかない?」
「いや、特には何も。さっきから同じところを回ってるんじゃないかってぐらい変わらない風景ばっかりだ
よ。回ってないのは確かだけど」
ですよねー……はぁ、依頼とはいえ嫌になってきたなぁ。異世界に来てダメ人間度がストップ高な気がするよ。索敵にも何も引っかからないしなぁ……って、ん?
よく索敵に意識を向けてみると奥の方に微かに、だが大きい反応があった。
「みぃつけた。リン、行こう」
「あ、見つけたんだね。分かったよ」
目標が見つかっただけで、体の軽さが全く違う。さて、それでも体に残る苛立ち、発散させていただきますか。向こうからすれば理不尽なことを思いつつ、反応のある方向へと迷わないよう、一直線に走った。
「……これはこれは」
思わず呟いてしまったのにはわけがある。それはもう、でかい。その一言に尽きる。
「大きいね……」
リンもまたその言葉しか出てこない。目的地に着いた私達の目の前にあるのは樹齢何千年か分からないほどに成長した大木だった。未だ、青々と茂っているのはすごい生命力だと思う、屋久島の縄文杉って何年だったかな。
大きな反応はこの大木にあるんだけど……色んなゲームで木が動いてるのは見るけど流石にこのサイズが動いてたら色々別な依頼になる気がする……
「となると……何かいるってことだよね」
寄生してるのか、隠れているのか。はたまた同化しているのか。予想すれば尽きないけれどもリンには何かあったらすぐ声を出すように言って、登山ならぬ登木へと挑んだ。相当大きい幹を支える根に引っかからないように、そして第一に相手の罠にかからないように慎重に登っていく。根の間から棘とかが出てきて串刺しとか絶対嫌だ。その後に百舌に食われるでしょ、いるか分からないけど。
それにしてもこの根の絡み具合、場所によってはいいベッドがあるんじゃないかと思い始めてきたんだけど……化物討伐したら個人的にもう一回来ようかなぁ……
「お姉ちゃん、ここじゃ…きゃぁ!……」
「リン!?」
慌てて振り返った時、リンの姿はなかった……
こんなアクティブ?な異世界ファンタジーを書いていますが、作者本人は完全なるインドアです。天秤が異常に自宅に偏るんですよね……
次話もよろしくお願いします




