敵の正体は…
新年度が始まりました。新しい年度というのは何かを始めるにはもってこい、だと言われています。作者は作品中に、何をしようか迷ってます……
では、続読お願いします!
飛ぶこと約数時間。
「ここが深遠の森……アマゾンのジャングルみたいだね……」
空中浮遊する私の目の前にあるのは鬱蒼と生い茂り、内外の人の行き来を拒むような密林そのものだった。ここ、熱帯じゃないんだけどな……。気候、日本レベルだよ、温帯気候だよ? そりゃ白神山地とかすごいけどさ?
「あまぞん……って何?」
「いや、何でもないよー。これだったら迷うよ。光もほぼ差してないよね、地上。ここを準備なしで抜けよ
うってバカじゃないの?」
「それをやろうとしてるお姉ちゃんがよく言うよね」
……えっと、労災ってどこに申請すれば降りるんだっけ? 言葉の労災を申請したいのですが……
確かあの子の村はフォーセさんに聞く限り、深遠の森入口からちょっと深く入った所だったはず。
「…………」
見渡す限り、森。林冠の位置が高くて窪地なんて全く見えやしない。近づかないと村の位置、分からないかもしれない……っていうか何でこんな分かり辛い所に村作るの……もしかしてA級の理由の一部って着く前に力尽きる可能性があるから? 洒落にならないよ、その理由。
「とりあえず探すの優先するから昼ご飯、これで勘弁してね?」
そう言いながらピアルを取り出す。リンは朝食が肉で少し重かったらしく、丁度良かった、と言ってシャクッと噛り付いていた。私は朝叩き起こされたせいで寝起きが悪くて食べる気がしなかったから少し物足りないけどワイバーンの生肉を食べようという気にはならない。カイの乾物も主食にはならないしね……ワイバーン、干し肉にでもしてみようかな。
それから約数時間……
「……だからどこなんだよ!」
口調が乱暴なのは許してください。だって見つからないんですもん……秘境の温泉探しに来てるわけじゃないんだよ!? ましてや移動手段徒歩じゃないんだよ!? 空から探してるのに数時間たっても見つからないってどんなステルス村なの!? 光学迷彩でも使ってるの!?
しかも魔物ほとんど出てこないから八つ当たりも出来ないし! あー、イライラする! あ、いいこと考えた……
「いっそのこと森全部焼き払っちゃおうか……そうすれば一発で村なんて見つかるよね?」
「お、お姉ちゃん落ち着いて……気持ちは分かるけどやっていいことと悪いことの絶対悪いことだよ」
リンの言葉に多少自我を取り戻す私。でも少なくともキレていいと思うよ、私。一つ深呼吸をすると、どうやって探したものかを落ち着いて考え始める。考え始めたところで、今までの努力を全て無に帰してしまう考えが思い浮かんだ。っていうか何でこんな簡単なこと真っ先に思いつかなかったんだろう、どんだけバカなの、私……
「お、お姉ちゃんどうしたの? すごく落ち込んでる感じだけど」
「大丈夫、気にしなくていいよ。ちょっと自分のバカさ加減に腹が立っただけだから……」
そう、そうだよ。何でまともに自分の目で見つけようなんて考えたんだろう。
「『クアリー』」
私の視覚がどんどん広がっていく。さて、村はどこにあるのかな……
「……『フレイムブ……』」
「ちょ!? お、お姉ちゃん落ち着いて! 今回も気持ちは分かるけど犯罪だよ!」
飛んでいるすぐ近くに村があったら誰でもイライラが最高潮になるでしょ? 一発ぐらい魔法撃ちこんでもいいよね? ね?
リンの必死の制止で何とか踏みとどまった私は若干イライラを残しながらも村に向かうためにちゃんと方向を頭に入れたうえで森の中に降り立った。
「うん、想像通りの光景だね」
木が乱立していて、その木々には蔦植物が絡みついてる。そんな光景が四方八方に見える。こんなん……迷うに決まってるよ。よっぽどひどい扱いを受けたんだろうね、妖精達って。まぁ、現実世界でも珍しい生き物程乱獲されて数を減らし、人里から分布を離すって言うけどね。
「さて、まっすぐ村に向かうよ。リン、絶対手を離さないでね」
「うん」
リンと手をつなぐと、記憶した村の方向へと歩いていく。そのまま魔物とも人とも、それこそ妖精とも遭遇せずに歩くこと約十分ほど。木で出来た防壁らしきものにぶつかった。
「これが村だね。入口はどこだろう」
特に理由もなく壁伝いに右に歩いてみると、ほどなく、壁が切れて扉が現れた。あの……西部劇に出てくる街の入り口に両開きの扉を付けたような感じ? 周りは砂漠じゃなくて森なんだけども。
「さてと……すみません! セドナ王国ギルドから依頼を受けた冒険者ですが、どなたかいませんか!」
防壁の上には人影が見えないため、大声で呼びかけてみる。すると間もなく、扉が内側に開いていった。中に入っていくと、一番手前にいた老人が歩み出てきた。
「ヒトウ村へよくおいでくださった……。儂が村長のマシェと言う」
「私は冒険者のマナです。こちらは妹のリン。二人で今回の依頼、遂行したいと思います」
周りから、あんな女の子二人で? とか、出来っこない、絶対無理だ…… とか色々聞こえてきますねぇ。ま、カイの村でも似たような反応は受けたし、心配はごもっともですけども。
「あの……失礼ですが案内役はいませんでしたか? 村の男三人と女の子一名がセドナへ向かったはずなんですが」
後ろから不安そうな顔と声色で女性が話しかけてきた。それを聞いて状況を理解した私とリンは眉を顰める。
「あの……」
「詳しい話は場所を変えて話させてもらえませんか? 対象の話も聞きたいですし」
リンの声をかき消して提案する。私を見上げてきたリンに小さく首を振る。いつかは説明しなきゃいけないことだけど今、私達の口からする話じゃない。
村長は私の行動で分かったらしく、頷くと自分の家へと案内してくれた。応接間と思われる部屋の椅子に着くと共に村長から話を始めてきた。
「手狭な場所で申し訳ないの。そしていきなり本題で申し訳ないのじゃが……彼らはもう、おらんのじゃな」
「はい、先程の女性の言葉を聞く限り、男女四名がセドナに向かったんですよね? 私達は会ったのは、女の子一人だけです。なので……すみません」
リンと揃って頭を下げようとすると、村長さんはそれを止めてきた。
「頭を下げんでください。彼らが命を落としたのは運が悪かっただけ、決してマナさん達が責任を感じることではない」
そうは言われても受けて十数日ほど放置してしまったのは事実、正直、責任を感じるなって方が無理な話だ。だから……今回は本気でやる、相手が何であっても命乞いの暇さえ与えない。
「分かりました、それでは相手の特徴は何か分かっていませんか? どんなに細かい事でも構わないのですが」
質問すると村長さんは、深く考え込んでしまった。どうしたんだろう、と思っていると、申し訳なさげな顔を浮かべて顔をあげた。
「それが……何も分かっておらんのじゃ」
詳しく聞いてみると、私がこの世界に来る大分前に村人が村を出たきり帰ってこない、と言うことがあったそうで。不審に思った村人達は数人で捜索隊を結成し、森の中に探しに出たが……誰一人として帰ってこなかったらしい。
確実に何かいるとのことで、行ってこれたらと一か八かでギルドに依頼に向かうとその依頼に行った人は帰還に成功。それにより、しばらくはその方向で採集を行うことで平和だったが、しばらく前に再び帰ってこない人が出てきた。
不安になった村はギルドに緊急依頼の届けを出しに村人を送り出した……
「以上が儂らヒトウの行動じゃ。その何かは村人を返してくれることはせん。じゃから儂らは何も分からんのじゃ」
神隠しだね……考えたくはないけど普通に考えて、その消えた村人が生きている可能性は限りなく低い。嫌な話、死体でも返ってきてくれれば、その状態から相手がどういう攻撃を基本としてるのかが分かるんだけど。でもどんな化物だって一人ぐらいは逃げ帰ってきてもおかしくないんだけど……何か逃げられない状況にあったのかな……
「分かりました。情報がないのは残念ですが、逆に万全の、臨機応変に動くために想定と準備が出来ると思います。討伐は明日の昼前に村を出て捜索しようと思います」
「儂らも手伝えたらよいのじゃが……A級のマナさんに付いて行っても足手まといにしかならんかもしれんからの……」
「足手まといだなんてそんな……ただ、私の魔法で巻き込んでしまう可能性がありますので」
苦笑しながらそう言う。事実、カイの時に広範囲攻撃をしたら小舟を転覆させそうになる、って感じの状況があったからね。しなかったけども。
もう少し話した後、情報収集の会談は終わった。因みに行方不明者は十人強、カイの村よりも少ない……ってことは多分A級の理由の一端にこの村へ到達できるか、っていうのも入っていたに違いない。難儀なところだね。
案内された一軒家、森の中らしく、キャンプ場にある感じのログハウスだった、に入り、適当に村の設備等を説明してもらった。風呂がなくて水浴びとはまた古風な……生活がエルフっぽい。それはさておき。案内してくれた女性が部屋を出ていくと同時に、リンに声をかける。
「さて。それじゃあ、作戦会議とでもいきましょうか。リン、森を住処とするモンスターで今回の敵となりうる可能性があるのは何だと思う?」
私が出会った森の魔物と言えば、イノシシ、狼、熊がメイン。想像だと蛇、それも大蛇とかがあり得そうだね。
「うーん……お姉ちゃんが遭遇した魔物を抜くと、エイプとか、ディールとかかな。でもどれも普通の冒険者、DやCぐらいで倒せる魔物ばっかりだよ?」
となると、突然変異による凶暴化とか巨大化が一番あり得るのかな。蛇の巨大化、人間なんて一瞬で飲み込まれる感じだね、っていうかそんなパニック映画があったような……蛇は嫌いじゃないけど出来れば遭遇はしたくない。毒は怖いし。え、ゲームでは状態異常付与の攻撃を使いまくってましたが何か?
「じゃあ、群れってことは考えられないかな? いくら弱くても、数が多ければ、苦戦するし、囲まれたら逃げることも困難だし」
確かに、現実世界でも猿はほとんど人を襲ったりはしないけれど、基本群れで行動してるイメージがある。そんな猿が鋭い爪と凶暴性を持つことになったら……確かに恐ろしい。リンの言う通り、群れで包囲して襲い掛かった、という可能性もある。
とは言うものの……私はこの時には、いや、もしかしたらセドナにいる時には既に、対象の姿形、攻撃方法は概ね理解していたように思う。敵の正体を自覚したくなくてその名前を挙げなかっただけなように感じる。
心の奥底で、そうじゃなければいい、きっとそうじゃない、と言い聞かせながら、作戦会議や夕食、水浴びを終えると布団にくるまって寝た。
錯乱してましたね、マナ……誰でも一度はあると思います、何かを必死に探していたら何でもない、すぐ近くにあった、という体験が。あのどうしようもない苛立ちは何とも言えないですよね……
次話もよろしくお願いします!




