とある休日!
今回の題名には「……」ではなく、「!」が付いております。理由は内容にて……
それでは続読よろしくお願いします!
「……ん」
眠い目を少しだけこすりながら体を起こして一つ伸びをします。それから、そろそろとベッドから抜け出ると、カーテンと窓を開けて思い切り深呼吸。すー……はー……
「よし、今日もいい天気!」
おはようございます、リンドことリンです。いつもの朝ならこれから顔を洗って着替えをしたらお姉ちゃんを起こすのですが……
「リンー、偶には別行動してみようか。明日はイーヴァさん非番みたいで、リンのことよろしく言ってあるから、外に出る時は一緒に出てね、一応一網打尽にしたとはいえ、関係者が復讐しに来ることだってありえるからね」
「分かったけど……イーヴァさんに申し訳ないよ」
「大丈夫、私の相手をしてるよりはよっぽど気が楽だよ、多分ね。それにこの話はイーヴァさんが提案してきたから気にしないで楽しんでくるといいんじゃないかな? それじゃあ、おやすみ……」
「あ、おやすみ、お姉ちゃん」
と、いうことがあったので今日はお姉ちゃんと別行動です。なので起こさずゆっくりしてもらおうかと思っています。起こさなかったら何時ぐらいに起きるんだろう……時間のある日に確かめるのもいいかもしれません。小さな楽しみが増えました。それにしてもお姉ちゃん、迷惑かけてると思ってるんなら少しは自重してあげればいいのに……
でも何となく自重してるお姉ちゃんはお姉ちゃんらしくないと思うのも事実なんだよね、悩ましいことに。顔を洗って着替えをしながらそんなことを思う。
着替えまで済ませたところで思わぬ問題が発生しました。何をしようかが全く思いつかないのです。孤児院での生活は何というかこう……将来のために本を読んだりしてたけど、楽しんできてってお姉ちゃんに言われてしまった以上、本をそういう目的で読んじゃいけない気がする。遊ぶためだけに孤児院に行くのも何か申し訳ないし……
考えていると部屋のドアがノックされたので開けてみると、いつもの鎧姿や騎士団の服ではなく、私服を着ているイーヴァさんが立っていた。
「おはようございます、リンさん。マナさんは起きてますか?」
「おはようございます、イーヴァさん。お姉ちゃんはまだ寝てます。あの、今日は……」
「はい、リンさんと二人きりですね。何だか新鮮で私も楽しみです」
楽し気な雰囲気と言葉にホッとしたけれども、一番重要な問題が片付いていないのです。
「私も楽しみなのですが……何をしようか思いつかなくて」
困った声で言うとイーヴァさんは苦笑した。
「気分で散歩するのも悪くないと思いますよ。これをしよう、と考えずに散歩しながら思いついたことをやればいいんです。とりあえずは朝食を食べることから始めましょうか」
イーヴァさんの一言で今日の最初の予定は朝食を食べることとなりました。因みに食事中、お姉ちゃんが
起きてくることはありませんでした。いつまで寝てるんだろう……
「それでリンさん、何か思いつきました?」
朝食を終えて、散歩中に再びの質問。本当にどうしようかな、教会にいた時は図書館だし、お姉ちゃんといる時はいつも引っ張ってもらってたから、自分じゃ思いつかないよ……。図書館なんて普通の人にとってはつまらないだろうし……
「イーヴァさんはしたいこと、ないんですか?」
「今日はリンさんの好きなことを知りたいのと、一緒にしたいと思っているのです。なのでリンさんが決め
てください」
そうやんわりと提案を拒否されました。私の好きなことって言われてもいきなり言われたんじゃ思いつかないよ……
悶々としているとイーヴァさんはクスッと笑った。
「そんな悩まなくていいんですよ。教会にいた時にしていて楽しかったとか、暇つぶしにしていたことだとかを提案してくれればいいんですよ」
暇つぶしと教会でしていたことは一致しますが……
「そうなると図書館で読書をしていたことぐらいですよ? ひたすら読んでいただけですので複数人で行っても楽しくないですし」
「図書館で読書ですか。私は騎士ですのでモンスターを倒すための知識以外は疎いんです。教えてもらえますか?」
「でも……分かりました、それでは図書館に行きましょう!」
ようやく今日の目的地が決まりました。イーヴァさんに満足してもらえるかは分かりませんが、楽しく行きます!
……え、お姉ちゃん? 私とイーヴァさんが出るまでには起きてきませんでした……ので、心の中で言っておきました。行ってきます。
という訳でそんなに経っていない気がするのに、懐かしい感じがする図書館へ来ました。入ると受付があるのでそこに頭を下げます。規則ではないので皆、素通りなんですがお世話になっているのでいつもしてます。それに受付の人も笑って手を振ってくれるので和むのです。
「イーヴァさん、どこから見ましょうか?」
「リンさんにお任せします。私は多少の軍知識とごく一部の国政ぐらいしか分かりませんので」
……絶対謙遜してると思うのですが。王国騎士団団長は、もちろん武術が重要視されるけど強ければなれる、という訳でもないはず。それはイーヴァさんの仕事部屋の机の紙の量を見れば分かります。
でもそうなると一般知識以上は持ってるはず……
「では薬学の棚に行きましょう。騎士団で薬が切れたら大変ですから薬草を覚えておくと便利じゃないかと思いますので」
「そうですね。運べる物資にも限りがありますから自作出来る薬があれば効率化が出来ます」
と、いう訳で薬草・薬学棚に向かいます。この図書館はかなり広い上に、必要スペース以外は本棚で埋め尽くされているのでかなりの蔵書があります。それは一部の閲覧禁止区域外なら誰でも読めるので、調べ物にはもってこいです。
「此処一帯が薬学の棚です。イーヴァさんの欲しい本はこの棚にあると思います」
指さした棚に並んでいるのは、薬草学の本の中でも採集やすぐに薬にする方法が書かれた本。この棚に目を通すのは久しぶりな気がする。回復魔法が使えないなら、と思って真っ先に目を付けたのがここだったからかな?
「一言、薬学と言ってもかなりの本があるんですね。リンさんはこれを全て暗記してるんですか?」
「いえ、流石に暗記までは……。でも大事な薬草や薬草から薬を作る手順や方法なら何とか覚えてます」
それを聞いたイーヴァさんは、すごいですね……、と呟くと丁度目の前にあった本を取り出して読み始めた。表紙を見てみると、その本は薬草学の入門書で、基本的な傷薬や熱さましなどに使われる薬草やその分布、製薬手順が書かれているものだった。
イーヴァさんの謙遜がどれぐらいだか分からないけど、いきなり難度の高い本じゃないから丁度いいのかな、と思い、私も近くにあった薬草学の専門書を取り出すと、内容に懐かしさを覚えながら読み始めた。
因みにそのままイーヴァさんに揺らされるまで昼食の時間の存在を忘れて気づけば二時過ぎでした。教会で生活していた時も、気づけば閉館時間でベルさんに怒られた記憶が……
図書館から出て、適当に入ったお店の煮込み料理がとにかく美味しくて驚いた、という予想外の予定をこなしつつ、再び図書館へ戻りました。一回、お店に忘れ物をした、と言ってイーヴァさんが戻ったことを除いては、行ってから帰ってくるまで、無駄な時間のない、流れる水のような感じでした。
図書館に戻ってきた私達は、イーヴァさんがどうやら入門書を読んで、薬草学に興味が出てきたらしいとのことで、再び薬草学の棚に帰ることとなりました。
それからは特に会話もなく、ひたすらにそれぞれの選んだ本を読み進めるばかり。会話スペースではない上に、近くに他に利用者がいなかったので、二人のページを捲る音と、時々イーヴァさんの質問とそれに答える私の声だけが響くという、振り返ってみると、小説の一頁になりそうな時間が流れていきました。
再び数時間後、イーヴァさんにまたもや揺らされて気が付くと、遠目から見る窓からは紫がかった赤い色が差し込んでいました。確認すると現在六時過ぎ。……またやってしまいました。閉館時間ではないけどイーヴァさんが揺らしてくれなければ絶対に閉館時間になってて、図書館の人が揺らしてくれる、ということになっていたと思います。
イーヴァさんにお礼を言うと、読んでいた本を慌てて棚に返す。もちろん慌てていても本を傷つけないように気を付けながら、です。元あった棚に読んだ本をすべて返し終わると、受付の人にもう一回頭を下げる。受付の人は手振りではなくて頭を下げ返してくれました。ありがとうございました。
「いや、勉強になりました。あれだけの薬が自作できるとは。教えてくれて感謝ですよ、リンさん」
「いえ、私が見つけたわけではないですし……お礼を言ってもらえるようなことは何も」
帰り道でいきなりの感謝の言葉に首を振る私。すごいのは発見した昔の人であって私ではない。
「見つけたのはリンさんでなくても、教えてくれたことで十分です。私の隊では簡単な薬の使用量をかなり減らせる気がしてきましたよ」
そう言って笑ってくれる。よかった、満足、楽しんでくれたようでした。どうしても教会の他の子はこういう事には付き合ってくれるような友達はいなかったから新鮮な気がします。
覚えたばかりの薬草の話をしながら寮へと戻る。この話が合う人もいなかったので、こちらも新鮮でした。寮に着いて、お姉ちゃん帰ってきてるかな、と思い、部屋のドアを開けると……こんもりと山になってました、布団が。
同日正午過ぎ
「ゼノ、依頼完了までまだ数あるし、遠くまで行ってみるか?」
ゼノと呼ばれた狩人らしき装備をした男は頷く。
「まだ昼過ぎぐらいだろうしそうするか」
二人は依頼に書かれたモンスターを探して、少しセドナから離れた場所を捜索していた。出てくるモンスターを慣れた手つきで狩っていくゼノの目に、遠くに影が映った。
「クイ、少し離れたところに何かいる。警戒してくれ」
「了解」
短い会話を交わすと少しずつ、その影との距離を縮めていった。そしてその距離が近づくにつれ、あることに気づく。
「何だ、人じゃないか。心配して損したぜ」
クイは人だと分かると警戒を緩めた。ゼノも見たところ人型モンスターでもなさそうだと、武器を下げた時だった。その人影が横に倒れこんだのだ。
「「!」」
驚いて二人が駆け寄っていく。一応周りのモンスターを考慮して剣を構えながら走っていくと、そこには全身が傷だらけの少女が倒れていた。
「おい、大丈夫か!」
「……ん……ぁ」
ゼノの声に少女はわずかに反応した。まだ生きてると分かったゼノは自分の剣をクイに持たせて少女を背に負ぶった。
「この傷じゃ、手持ちの薬じゃ間に合わない……セドナまで行くからもう少し頑張ってくれ!」
そう声をかけるとゼノは全速力で駆け出した。その少し前方にクイが走り、露払いをしていた。
しばらく走り、セドナの城門までもう数分といった所で、背負われていた少女が声を発した。
「うぅ……」
「大丈夫か? 本当にあと少しだから気を確かに持っていてくれ」
「……い、いと……ぁ」
呟くと少女は気を失ってしまった。それに気づいた二人はさらに速度を上げてセドナへと向かっていった。
という訳で、今回はリン視点の話でした。書いてて思ったのがリンって定年退職したら何をしたらいいか分からなくなるタイプだな、ってことでした。趣味って大事です。
それでは、次話もよろしくお願いします!




