武器選び…
最近前書きに書くことがなくなってきていますがこれだけは毎回書いていきます。今回も続読よろしくお願いします!
少し遅めの昼食を挟んだ後、私達はギルド帰りの足で武器屋さんを探していた。
「あ、ここみたいですよ、マナさん」
「え? あ、本当だ……ひっそりしすぎでしょ……」
フォーセさんから教えてもらった武器屋兼鍛冶屋は、ギルドのある大通りを城門へ少し歩き、そこから一本路地を入ったところにあった。外見は普通の住宅と何も変わらない、何も知らされずに通ったら、ここに鍛冶屋があるなんて気づかなかっただろう、現に気づかなかったし。
なにせ、武器、鍛冶屋だと示すのは申し訳程度についている小さな看板のみだからだ。つまりは知る人ぞ知る、って感じ。
「営業中なのかすらも分からないね……」
全く以てリンの言う通り。もう少し客に対して配慮してほしいよね。
「どうします、マナさん。フォーセさんが休憩か休日の日に改めて案内をしてもらいますか?」
「いや、ここまで来たんだから行ってみよう。流石に命までは取られないでしょ」
「鍛冶屋一軒入るためにここまで心構えするってどうなんだろうね」
冷静に言わなくていいよ、リン。多分全員が思ってることだから。
恐る恐るドアを押し開けていくと、キィ……というホラー映画の扉を開けるような音を立てながら開いていった。一応は店なので断りを入れることなく、入っていく。何となく不思議な雰囲気がしたから壁には血塗られた武器がびっしりと……なんてことはなく、至って普通の武器が並んでいた。
確かにおどろおどろしい雰囲気ではなかったしね。それにしても武器の種類が多い。短剣からハルバードのような大型武器まで幅広くかけられている。
非力で、魔法使いである私にハルバードなど、アリ一匹に角砂糖を運べ、と言ってるようなものなので、大人しく短剣が並べられている棚を見る。大小だけでなく、刺すか切るかの用途の違いにも武器が分けられていて、一女子高生には全く分からない。
どれがいいものかと悩んでいると、奥の方から再びキィ……と言う音がした。今度こそ自分がさせた音ではないのでビクッとしてそちらへ振り向く。そこにいたのは薄暗くてよく見えないが、手にはあっさりと人を殺せるであろうハンマーが握られていて、微かに見える口元はこちらを見ると大きく歪んだ。
落ち着いて考えれば鍛冶屋も兼ねているのだから店主がハンマーを持っていてもおかしくはないのだが、店の雰囲気にのまれていた私は一瞬身動きが取れなくなった。
その一瞬を見逃さなかったのか否か、その人物は私の視界から消え失せた。
「き、きゃあ!」
そしてゴトン、という鈍い音と同時にリンが悲鳴を上げた。しまった、早すぎる! 慌てて魔法を構築しながら振り返るとそこには……リンを抱きしめ、頬ずりをしている金髪ショートの女性がいた……誰か状況説明を頂けませんか?
イーヴァさんと二人がかりで変態をリンから引き離し、落ち着いたところで自己紹介をしてもらった。
「さっきは失礼したね。私はヴィラント、見ての通り鍛冶屋をやってる者だよ」
言われてみると、この女性は鍛冶師の様な作業服を身に着けていた。そして横には先程まで手に持っていたハンマーが置かれている、勿論血など付いていない。
「それで? 君達はお客さんなのかな? 誰からここを教えてもらったの?」
あ、こっちの自己紹介を忘れてた。
「私はマナ、こちらは妹のリン。そして、セドナ王国の騎士団長のイーヴァさんです」
私の紹介にリンとイーヴァさんがそれぞれ頭を下げる。因みにリンは私の影に隠れているが。いきなり抱きしめられて頬ずりされれば誰だって警戒心を持つだろうね。そのリンの様子を見てか、ヴィラントさんは再度謝ってきた。
「いやはや本当にごめんね。私、可愛いものが好きで可愛いものを見ると我を見失って抱きしめちゃうのさ」
抱きしめるじゃ済んでいなかった気もするが……なるほど、フォーセさんが、気を付けろ、と言っていた理由はこれか……
「それで? さっきも聞いたけど誰の紹介かな? 紹介無しでここに来る人はほぼいないからさ」
そりゃそうだろう。
「ギルド長のフォーセさんです。彼女、マナさんが護身用の短剣を探していて、相談したらここがいいと」
「あー、フォーセの紹介ならいい人だね。護身用って言ってたけど本職は魔法使いかい?」
「そうです。基本的に遠距離から攻撃なんですけど、一応持っておこうと思って」
私の返答になるほどなるほど、と呟くと、少し考えた後に奥から一本の短剣を持ってきてくれた。
「魔法使いなら切り倒すんじゃなくて言っていたように自衛用だから、これがいいんじゃないかな」
差し出した短剣は見たところ普通の短剣だった。装飾がなく、暗殺者が持っていそうな感じ。でも何でこれなんだろう? その思考が伝わったのか、刃の腹部分を撫でるように言われた。言われた通りにすると、普通の短剣との違いが分かった。
「これ……でこぼこしてる?」
「正解。打ってる時にわざと刃が歪むように打ったんだよ、微かにだけどね。そのせいで切れ味は落ちてる
けど、その代わりに受けた衝撃が分散されるから強い一撃を受けても壊れにくいし、多少は緩衝材になるんじゃないかな?」
この人……腕利きの鍛冶屋さんだ、変態だけど。リンが未だに私の後ろにいるもんね。
「ところでヴィラントさん。どうして貴女はこのような武器を? 武器は攻撃をするもののはず、切れ味を落としてまで打ったのは何故ですか?」
ヴィラントさんはイーヴァさんの質問にニヤッと笑うと、店の奥に消えた。しばらくして戻ってきた手には、それぞれ鞘に納められた剣が十数本の剣があった。それを鞘から抜いてはイーヴァさんに見せながら人の名前を言っていく。それが何を意味するか分からず、困惑していると、逆に質問していた。
「今見た剣達はどうだったかい?」
「全てよい剣だったように思いますが……」
「そう。全部切れ味がいい、冒険者には重宝される剣ばかりだ。全部大手と呼ばれる武器屋の作品なんだけ
どね。でもね、見せた通り、こういう剣を打てる鍛冶師は私を含めて沢山いるからね。だから私は敢えて外した剣を打つんだよ。それが欲しいって言う人がいるかもしれないからね、その子の様に」
……どうしてだろう。さっきまで変態だった人がすごく人間として出来てるように聞こえる。リンもさっきまでとは打って変わって身を乗り出しているし、イーヴァさんも尊敬の眼差しで見ている。普通にすごいわ、この人。性格じゃなくて人間性が。
よし、この人の武器なら安心できる。
「すみません、これ、いくらでしょうか?」
「んー……いくらがいいと思う?」
聞き返されたよ、やっぱり何なんだろう、この人。よく分からないので、近くにあった短剣が二十万だったので、そのまま流用してみた。
「二十万クラムぐらい……?」
「じゃあ、二十万クラムにするよ」
いいのか、それで……適正価格がいまいち分かってない素人の値段付けだよ、しかもただの流用……とはいうものの、鍛冶師兼店主が納得してしまっているわけだし……いいのかな?
「では、取り置きって可能ですか?」
「ああ、手持ち無かったの? じゃあいいよ、持って行って。代金は後でフォーセに請求しておくからそっ
ちに払っておいてー」
……この人、私以上の自由人だ……例えと言うか評価が合ってるか分からないけど。とりあえずはフォーセさんごめんなさい。ちゃんと払いますので、とギルドの方へ向かって謝っておく。
「じゃあ、商談成立だね。鞘はこれでいいかな、君の服装は見たことないから一般的なのを選んじゃったけど……いいかな?」
見繕ってくれたのはベルトを鞘の一体型。ベルトなら特に違和感もないし、丁度いいかな。
「では、それをお願いします」
これはおまけしておくよー、と言ってくれたので、変態ではなく、とてもいい人だ、と思った。
「その代わりにリンちゃん、抱きしめてもいい?」
……前言撤回。やっぱり変態だった。もちろん却下。
メンテをこのヴィラント武具店で行う、という条件でフォーセさんにお金を貸してもらった……無断で。まぁ、ヴィラントさんと仲がいいみたいだし大丈夫のはず。私に連れられて、イーヴァさんもレイピアのメンテを今までの所からヴィラントさんに変えるようで。騎士団全員が同じところで腕もいいらしいんだけど、イーヴァさんとはあんまり合わないらしい。博愛主義者っぽいイーヴァさんにしては珍しい。
「さて、武器も作ってもらったし……ってそういえば杖は?」
あまり必要としてはいないんだけど格好としては持っておきたい。何より、異世界、魔法使いっぽいから。
「杖はセドナで買うよりも、ゼノフォビアで揃えた方がいいかと思います。ゼノフォビアは魔法が大陸のどこよりも馴染みが深いですから」
了解ですー。ゼノフォビアかぁ……確か妖精の住む国、だったよね。ということはあのよくある、肩乗り妖精とか見られるの!? 興奮のままにイーヴァさんに詰め寄ると、イーヴァさんは少し引いた状態で頷いた。あぁ、流石は異世界……
「そろそろ日も落ちてきましたし、戻りましょうか。短剣についてフォーセさんに説明した後で」
「「はーい」」
イーヴァさんの言葉に姉妹揃って返事をする。その内イーヴァさんをお母さんって呼びそうになるんじゃないかと不安なマナです。
ギルドで短剣を買ったことと、その代金がフォーセさんに一時的に借りることになったことを伝えると、あいつはいつものことだから気にするな、と言ってくれた。因みに無利子無担保でいいらしい。
「そんな感じでいいんですか?」
「どうせお前ならすぐに稼げるだろ。今、受注してるA級依頼でそれの何十倍だかの報酬も出るんだし」
それもそうだ。じゃあ、遠慮なく貸してもらおう、出来る限り早めに返します。
フォーセさんとも話がついたのでギルドを後にして寮へ戻った。お風呂に入った後、食堂に行くと、夕食は野菜炒めにご飯というシンプルなもの。それでもお代わりするほどなのだから作ってくれている料理人さんの腕はすごい。
お腹いっぱいで横になったら、体に悪いよってリンに言われたけど、これが気持ちいいんだよね……。
えっと……結構ここまで緩くやってきましたが、他の作品を見てたら皆展開が早くて驚いている作者です。少し展開早くした方がいいんでしょうか……悩みながら頑張っていきますので、次話もよろしくお願いします!




