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チートってのも悪くないね。  作者: 葉月 コウ
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武器を見ようか…

 大変遅れましたが、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。そして続読もよろしくお願いします!

  魔王城円卓の間―――


 薄暗い部屋の中央には円卓があり、等間隔で四席が置かれていて、そのうちの三席が埋まっていた。席に着いているものの姿は薄暗いため見えない。


「カイ沖に潜ませていた私の子が討たれたようですわ」


女の声が部屋に響く。その声には自分の仲間が討伐されたからだろう、怒りが混じっているように聞こえる。その声に右隣の影が訊く。


「ほう、セドナを落とすために潜ませていたものだろう? 強者を送るように言ったはずだが?」


「私の子の中で海中戦ではかなりの強さを誇る子だったのだけど……それこそ人間のAランクも殺せるような子なのに」


訝しむ声に被せるように、女の影の反対側に位置する影が面白いことを聞いたとばかりに弾んだ声を上げる。


「そいつが討たれたってことは何か? 前魔王を討ったような勇者共が召喚されたってことか! そいつぁ楽しみだな……最近は骨のねえ奴ばっかりだったからよ」


弾んだ声を諫めるように二つの影に挟まれた影が声をかける。


「恐らく海から引っ張り出されたのであろう。そのものが強いのは海中での話なのだろう?」


「確かに陸戦での長期戦に持ち込まれると弱い子だったけど……」


「なんだ、つまんねえの」


「それで、私は別の子を送ればいいのかしら?」


女性の肯定に聞くからに興味を失う男の声。その声に少しムッとしたようだったが平静を装った声で女の声は間の影に訊く。


「いや、もういい。もし、海戦に強い者が現れたのなら陸から攻めるまで」


「そんな人間、私が殺してやるわ……」


攻める、という言葉に呼応するように女の声に怒気が分かるほどに込められた。それを聞きながら男はようやく空席について話題を持ち出した。


「そーいや、あいつはどうした?」


「いつものことだ、放っておけ。それでは、持ち場に戻れ」


その話題をもう一人の男が切って捨てると、全員が部屋から出ていき、円卓の間には静寂が降りた……




  同時刻、セドナ王国・ゼノフォビア国境、深遠の森入口―――


男が一人、一本の太い枝の上に座っていた。その男のもとに一羽の鴉が飛んでいき、男の横に、一本足、で舞い降りた。


「お疲れ。お前の目を通して見せてもらったが……あいつは随分と面白そうだ」


そう言うと男は笑った。


「早いうちに手合わせ願いたいものだ。あんなに面白そうなやつ、あいつらには勿体ないってもんだろう。そう思わないか?」


問われた鴉は肯定するように翼を広げて見せた。それと同時に深遠の森から一人の少女が飛び出してきた。

その少女は満身創痍で今にも倒れてしまいそうだった。しかし、男は少女を見た後、助けようとはせずに、セドナ王国の方を見やった。


「さて、あいつはどこまで来るんだろうな。最低でも魔大陸には来てもらいたいものだ」


男はそう言って再び笑った。




 「イーヴァさん、そっちお願い。『チェインランス』」


光る槍に貫かれ、断末魔を上げる狼、体長約二メートル。


「分かりました、ハッ!」


いやー、イーヴァさんの二刀レイピアって本当に早いね。ああいう早さ重視の敵に会って接近戦になったら私に勝ち目はあるんだろうか。チートなのに不安になってくる……素早さを上げるような魔法あったっけ?


「お疲れ様です、イーヴァさん、お姉ちゃん」


考えていると、後ろで待機していたリンが水筒を差し出してくれた。お礼を言って受け取ってしばし休憩。青い空、白い雲、赤く染まった狼……この状況を平和だと感じるのは順応性の賜物かな。


「マナさん、後何体ですか?」


因みに最初の依頼の時はカードが無かったから自分で数えてたけど、自動的にカードが数えてくれるんだね。至れり尽くせり、ビバ、ギルドカード。本当のところ、誤魔化すような奴のためにそうなったんだろうけどね。


「えっと……あ、終わりかな。うん、完遂したにも関わらず、あんまり達成感ないね」


カードを見ながら愚痴を兼ねた感想をこぼす。それを聞いたリンは、当たり前だよ、と笑った。


「あんなA級の魔物を狩った後じゃ、C級の依頼でお姉ちゃんが満足出来るわけないよ」


そりゃそうか。チート性能も考え物だね……そういえば森の方で一件、Aランクの依頼受けてたんだっけ。あれも早めに行きたいけど……さらに物足りなくなったらどうしよう。


「でもな……何か一筋縄じゃいかないような依頼を受けたいよ。完遂したら、やったー、終わった! って喜

べるような」


「マナさんをそうさせるような討伐依頼は多分、ラプターにしかないと思いますよ。第一、セドナのギルドでA級の依頼がある、っていうこと自体珍しいんですから」


うう、チート性能面倒くさい……神様も適当チートぐらいにしてくれれば多少は楽しめるだろうに。


 悶々を神様に向かって理不尽な悩みをぶつけていると、私とリンから少し離れたところでイーヴァさんがレイピアを振っているのが見えた。今日は天気がいいため、遠目でレイピアを見ると、キラリと刃が光を反射して結構綺麗だった。


 戻ってきてから理由を聞くと、レイピアに付いた血を落とすためです、と教えてくれた。


「しっかりと血を取っておかないと、錆び付いて切れ味が悪くなるので」


そう言ってイーヴァさんは一旦、納めたレイピアを抜いて刀身を見せてくれた。刀剣には全くの素人だけど、全体が美しい銀色で、汚くなっている場所はなかった。


「とても綺麗ですけど、つい最近磨いたんですか?」


私と一緒に覗き込んでいたリンの質問にイーヴァさんは答えながら、思い出したかのような顔をした。


「いえ、ここ最近は。そういえばリンさんに聞きたかったんです。武器の性能を固定し続ける技術って知ってますか?」


「武器の性能を固定……それはつまり、鍛冶師の腕に関わらず、整備後の性能を変化させない、ってことですか?」


「それもあるんですけど……第一に、整備しなくても切れ味が落ちない、っていう技術、もしくは魔法です」


あったらすごいな、そんな技術や魔法。技術だったら取得して元の世界戻って刃物屋やったら大儲け出来そう。でもそんな上手い話、というか技術があったら普通に一般化してると思うけど……鍛冶師一人が独占してたとしても話ぐらいは広まってもいいはずなのにね、ということは……


「私が見た書物や聞いた話の中ではそのような技術や魔法はなかったと思います。ただ、新しく生み出された技術や魔法なら分かりませんが、国王陛下から頂いたのはどれぐらい前ですか?」


「五年前だったと思います。もしくはもう少し前かもしれません」


それなら魔法が付加されたとしても最短でそれ以前……リンの読書量と記憶量なら引っかかるものがあってもいいはず。


「すみません、覚えがないです……」


「あ、いや。思い出したのでつい、という感じですので気にしないでください」


それにしても武器、武器かぁ……魔法使い志望、いや、魔法しか使えないから杖になるんだろうけど、多少は近接自衛用に短剣でも持っておくべきかな。さっきの話だと、武器に魔法を付加できるみたいだから、相手を切ると傷口が凍る、とか電気が走る、とか色々出来そう。いっそ、加速魔法で短剣投擲とかも楽しそう。よし、今度武器を見に行こう。



 「いや、イーヴァがお前と一緒にやるから討伐系くれって言ってきた時疑わなかったが……本当に一件目でA級依頼を完遂してくるとはな。結局驚かされたぜ」


「まぁ、何とか。あそこまで面倒な魔物だとは思っていませんでしたけどね」


ギルドの受付でフォーセさんと話しながらA級依頼の報告と、報酬の受け取りについての手続きをしていた。普通ならカードでの報告、受領すればいいだけなんだけど、報酬を家に変えてとか言ったから、それについての文書を作らなきゃいけないらしい。まぁ、ギルドの儲けにも関係あることだからキッチリしないといけないんだろう、だからフォーセさんが適当でいいよ、面倒くさいから、と言っているのは気のせいに違いない。


 「よし、それで十分だ。面倒なことさせて悪かったな」


気のせいじゃなかった……


「いえ、ギルドのことを考えずに報酬を変えたのはこっちなのでこれぐらいは」


「そうだったな。で、帰ってきてすぐに依頼を受けた魔法使い様に言う事じゃないけど少しは体、休めろ

よ。A級依頼を受注してるからって急用の依頼じゃないからな」


 武器でも見てみようかな、と思っていることを伝えると、フォーセさん行きつけの武器屋を教えてくれた。ぶっちゃけフォーセさんの行きつけって腕は確かなんだろうけど、鍛冶師がすごい厳つそうで怖いんだけど……大丈夫なのかな? リン、泣いたりしない?


「あぁ、厳つくないし、怖くはない……が、多少気を付けておけ。特殊だから」


 何その不穏なアドバイス! 何も告げられないより不安感が増したよ! でも自分の身を守るために武器が必要なのは事実。気は進まないけど行ってみようか……



 というわけで、魔王側も動きはじめました。それに対抗するようにマナも武器を持とうかと考えています。

 さて、フォーセさんの紹介する特殊な鍛冶師とはどのような人なのか。それは次話で明かされますので次話もよろしくお願いします!

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