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チートってのも悪くないね。  作者: 葉月 コウ
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ごめんなさい…

 まず前置きですが、本文で一部、女性の方で嫌悪感を持たれる可能性がありますのでお気を付けください。また、後書きにてこの話をその部分を排除しまとめたものを載せます。

 リン達を見送った私は改めてオークション会場へとつながるドアに向かった。横を過ぎようとした時に誘拐犯が少し動こうとしたので、さらに加重。いくら誘拐犯とはいえ人間なので死なない程度にしておいてあげる。社会ルールに感謝しておいてね。廊下に出てみると奥の方のドアが一つ開いていて、そこから光が少し漏れていた。


「なるほど、あそこが会場か」


人気のない静かな廊下が、カツン、カツンという足音を響かせる。この音が誘拐犯グループにとっては破滅への足音になるのかと思うと何となく感じるところがあるね。


 ドアに近づくに連れて声が聞こえてくる。


「……次の商品は労働力でございます。今回は若い商品ばかりを取り扱っております故、長くご使用いただけるかと思います」


「……」


商品、ご使用、か。自分でも知らないうちに笑っていたらしい、口元が歪んでいるのに気づいた。最低なものに出会うと人って、怒りや呆れを通り越して笑うんだね。じゃあ、行きますか。


「ご機嫌如何でしょうか、クズ、いえ、貴族の皆さん?」


あ、うっかり本音が出た。そんな言葉は聞こえていないかのように男性貴族たちは私の体をねっとりとした目で見てくる。思わず背筋が寒くなった。正真正銘の嫌悪感というのはこのことを言うのか。出来れば一生感じたくはない感覚だけれども。っていうか誘拐犯、手錠や首輪をしていない時点でおかしいと気づけ?


「ではでは、この上玉、五万クラムから始めます!」


ほう、私は五万は絶対なのか。一般的な相場が分からないけど、上玉って言ってるから比較的高いんだろう。


「七万!」


「十万!」


おおう、一気に上げてきたね。っていうか今十万って言った人の顔、下卑た目は相当気持ち悪いんだけど。


 なんだかんだで最終的に私には四十万の値が付き、落札したのは、十万をコールした貴族だった。その顔には厭らしい笑みが浮かんでいる。おそらく今日の夜のことを想像しているんだろう。……この世界でも人殺したら重罪なんだよね。仕方ない、そのまま売られるわけにもいかないので終わらせていただきましょう、死なない程度に。


「じゃあ、お嬢ちゃん、行こうか」


「あなた一人でどうぞ? 『インテシオ』」


「は……がっ……ぐへ」


身体強化呪文付与の一撃は脂肪のついた男の腹にクリーンヒット。ゴムボールのように飛んでいって壁に激突した。少し加減を間違えたかと思ったけどピクピクと痙攣を起こしているので問題なし。私はそんなに安くないし、第一、金で買われるつもりは一切ない。


「おい、お前何をしている!」


司会をやっていた男が詰め寄ってくる。見てのとおり、殴りましたが何か?


「『グラビディ』そこで潰れててください」


男はその場で倒れ、床に押し付けられた。あの状況だと後頭部をかなり強く打って痛いかな……自業自得だけど。


「き、貴様、魔法使いか! や、やってしまえ!」


いちいち確認するように言わなくてもいいよ。大体騒ぎすぎて客達動揺してるじゃん……ってうわ!


 呆れていたら目の前に炎の矢が飛んできた。というか掠って熱い! 掠った頬を擦りながら矢の来た方向を見ると、金属製の首輪をつけた一人の女の子が空弓を引いていた。


「『フレイムアロー』」


最大限まで引き絞った時、女の子が呪文を唱える。すると、空弓だったはずの矢を番える部分に炎の矢が生まれた。なるほど、そういう呪文なのか。感心していると再び矢が放たれた。それを今度は余裕をもって躱す。弓は直線にしか飛ばないから楽だよね。


「『アイスケージ』」


少し寒いだろうけどそこでじっとしててね。君には危害を加えたくないから。さてと……


 「お集まりくださいました貴族の皆様。これから皆様をご案内する場所は一つです。それは、牢獄だとお考え下さい?」


笑みと共にそう言い切る。すると貴族達は慌てて逃げようと扉の方へ向かい、誘拐犯達は私を取り押さえようとこっちへ向かってくる。貴族を地面に這い蹲らせるっていうのはプライドを砕くのに最適ではあるんだけど、あんなに装飾華美にされると地面に倒れた拍子にネックレスの装飾が首に刺さって大動脈を、とか言われたら悪党貴族だと言っても寝覚めは悪い。


「凍傷ぐらいは許してくれるでしょう。『アイスプリザーブ』」


私の足元から極寒の冷気が漂い始める。最初に異変に気付いたのは私に襲い掛かろうとしていた誘拐犯の一人だった。


「あ、あれ? 足が動かねぇ……」


「そこでじっとしてれば命だけは助けてあげるよ。まあ、動こうとしても動けないだろうけど」


無表情で言い放つと逃げる貴族たちの方へと足を踏み出す。それに合わせて冷気も、貴族たちの方を中心に広がっていく。


「う、うわぁ!」


「た、助けてくれ!」


「あ、足がぁ!」


声だけ聞くと大ごとだが、事情を知っていればどうでもいい地獄絵図がそこにあった。それにしても……


「五月蠅い、黙れ。どんなに叫んでも無視してた奴等にその言葉を言う資格はない」


どうやら魔法というものは魔法使いの魔法力だけじゃなくて精神にも影響されるらしい。一気に室内気温が低下したのが分かる。まずいね、凍死させたら意味がない……。でも……止められそうにも、な


ガツン! ガラガラガラ……


「え?」


冷気が倉庫の床全体に広がって徐々に上がっていき、私以外の人間全員を膝辺りまで凍らせた時、一つ、大きな音がした後、正面扉が開き始めた。溶接したはずなのに……誰が、どうやって。


「『ディフェンシブ』さて。援軍なら容赦しないよ」


『ディフェンシブ』の中で、開いていく扉に向かって両手を重ね合わせて、入ってくる人物を待つ。


 「王国騎士団です! 大人しくしてください!」


入ってきた人物は、鎧姿にレイピアを腰に差した女性、っていうか、見覚えありまくりなんですが……


「イーヴァさん!?」


思わず『アイスプリザーブ』の効果を切らしてしまった。私の声に反応したのか否か、丁度私とイーヴァさんの目線がバッチリ合ってしまった。


「全員取り押さえておいてください。一人も逃がさないように」


「「「はい」」」


イーヴァさんが私から目を離さずに指示を出すと、彼女の後ろに控えていた騎士達は一気に誘拐犯と客である貴族達を確保しに入ってきた。


指示を出し終えたイーヴァさんは一歩一歩、ゆっくりと確かに歩みを進めてきた。や、ヤバい……殺される……。本能的に危険を察知して逃げようとするも足が動いてくれない。もちろん私には移動阻害呪文はかかっていないけれど、『アイスプリザーブ』を掛けられてる気分だ……。


そうこう考えているうちにいつの間にかイーヴァさんが目の前に立っていた。


「お久しぶりです、マナさん。元気そうで何よりです」


「……ご無沙汰しております」


……普通の挨拶なのに尋常じゃないほどの冷汗が伝うんですが。


「ここは私がやっておきますからリンさんと一緒に私の執務室で待っていてください」


い、いえす、まむ……コクコクと頷くと騎士の皆さんの邪魔をしないように端っこを通って倉庫を出て、騎士団詰所へと向かった。



 先に執務室についていたリンによると、どうやらイーヴァさん達は、どこからか今日、オークションが開かれるという情報を得て、向かっていたらしい。その途中で逆に逃げてきたリン達に出会い、保護してくれたようだ。何から何まで助かります。


まぁ、そのせいでこうなってるわけですが。


「お姉ちゃん、魔法使って逃げちゃだめだよ?」


う……わ、分かってるよ。ベルさんとも約束したし、流石に今回は逃げるつもりはないよ。でも、でも……


「怖いものは怖いんだよ……」


それはわかるけど今回は完全に私達が悪いんだからね? とリンが言う。


「いや、イーヴァさんがあんなに可愛い反応をするのがわr」


「お姉ちゃん?」


「はい、すみませんでした」


コントのような会話を続けているとキィ、という音と共に後ろのドアが開いた。振り返ると、疲れたせいなのか、俯いたままのイーヴァさんが入ってきた。仕事増やしてすみません。


 イーヴァさんが回って、私とリンの前に立った瞬間、私とリンは体が直角になるぐらい体を折って謝った。


「「勝手な行動をしてすみませんでした!」」


「…………顔を上げてください」


静かな声の言う通り、顔を上げた、その瞬間だった。


 パシン!


綺麗な音がして私の視界の中にイーヴァさんの姿はなくなった。混乱していた私だったが、頬に痛みと熱があることに気づいて初めて、頬を張られたことに気が付いた。


「イーヴァさん……?」


顔を元の方向に戻し、再び視界内に入ったイーヴァさんは震えていた。


「………………ですか」


「え?」


「一体どれだけ心配したと思っているのですか!」


言葉が耳に届くと同時にセーラー服の胸倉を掴まれた。それによって目の前にイーヴァさんの顔が来るわけだが、彼女の目には涙が浮かんでいた。


「し、心配って私は……」


「ええ、確かにマナさんの魔法は強いです。でも、強さがそのまま安心にはならないのですよ! 貴女はこ

の世界について何も知らない! それは貴女にとって致命的な弱さなんです!」


「あ、あの……」


「それにフォーセさんから聞きました! Aランクの依頼を受けたそうですね、それも危険な部類なもの

を! 一瞬の油断が死を招くこともあるのですよ、それを貴女は自覚しているのですか! 貴女だけではな

い、リンさんまで危険に晒すことをしたのですよ!」


今までのやり取り、一方的に言われているだけで分かる。本当に心から心配してくれてたんだね。


「ごめんなさい」


「本当に悪いと思うのなら……二度と勝手にいなくなるのはやめてください」


「……はい」


こうして私の返事を以て、私とリンの討伐旅行は幕を閉じた。



 今回の話はマナが誘拐犯を討伐している時にイーヴァさん達、騎士団が来て誘拐事件は解決。そして、マナとイーヴァさんも仲直りする、というものでした。

 かなりざっくりしたまとめですが、これで次話に続くかと思われます。それでは次話もよろしくお願いします

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