ただいま・・・
まずは、今年の夏も猛暑となっておりますので、熱中症などにならないよう、水分と塩分をよく摂ったうえで、直射日光下での長時間の作業などにはお気を付けください。
それでは続読よろしくお願いします
「何はともあれ、とりあえずは。ただいま、セドナ王国」
「だね」
たった数日しか空けてないんだけど何故かとても懐かしく感じる。この世界に来て初めて訪れた国だからかな。それともあのタコがそれだけ印象的だったのだろうか……前者であってほしいな。さて、入ったとはいえ、もう日が暮れてるから宿とろうかな。報酬は家にしちゃったからお金ないんだよね。
「リン、安い宿屋ない? 食事はあってもなくてもいいんだけど」
リンは少し考えた後、いいことを思いついたとばかりに笑顔で、
「いっそ教会に泊まらせてもらえば? 名前バラしても黙認してくれると思うし、バラさなくても多分、泊まらせてもらえると思うよ」
と、提案してくれた。なるほど、その手があったか。素性は……ベルさんには申し訳ないけど隠させてもらおう。信用してないわけじゃなくて、イーヴァさんが、私達が戻ってくることを予想して、人を送ってる可能性もあるし。それに子供たちがうっかり呼んでしまう可能性も捨てきれないしね。
「じゃあその案でいこう、理由は薬草が予想以上に高くて、宿代がなくなってしまいそうだったので、でいいかな」
「よくもまぁ、そんなに嘘が出てくるよね。入国の時もそうだったけど」
「褒めても何も出ないよ~」
ジトーッと白い目で見られた。分かってるよ、褒められてないってことぐらい。しかもその目って元の世界で、いやっていう程向けられてきたからね……ってあれ? もしかして私って人間として結構ダメなタイプ?
まぁいいや。
目的地が決まったところで若干お腹が空いてきたので、路地裏に入ってからギルドカードの中からピアルを二つ取り出し、リンに一つ渡す。リンは嬉しそうに受け取ると、シャクッといい音を立ててかじる。美味しそうに食べるね、と思いながら自分の口にも運ぶ。
「「ご馳走様でした」」
小腹を満たしたところで教会へ向かう。皆リンのことを気にしてるかな。たかが数日だけど、小さい子にとっては数日って結構長く感じるものなんだよね。
「えーっと、どっちだっけ?」
私の呟きに手を取って案内してくれるリン。ああ、なごむし、可愛い。潜入している時点でなごむ、という感性は無いものだということは放置の方向で。
路地裏から出て、リンの案内の下で教会へと向かう。日が暮れてから町に出たのは初めてだけど、流石は王国。かなり活気がある。ちょこちょこある酒場で、力仕事してそうな筋肉質のおじさんがビールらしき飲
み物を飲んでいた。イーヴァさんに謝ったらついでに一緒に飲みに行こう、リンにはノンアルコールカクテル辺りで。一回ボジョレーの一級品とか飲んでみたいなぁ……チーズと一緒に。
ワインだけではなく、リキュール、ブランデーなどの酒の名前を思い出しては、その酒に合う料理を考えたり、リンと話しながら歩くこと約二十分。ようやく教会へと着くことが出来た。実は途中から『インテシオ』を使ってズルしてたけど。向こうの世界に戻ったらランニングとか筋トレをしようと思う。多分、というか絶対三日坊主で終わるけど。
「リン? じゃあさっきの設定で。私はタイム、リンはマリーね」
「はーい」
しっかりとしたお返事で大変よろしい。と、いう訳で。
コンコン……コンコン……
ノックしてから数十秒後、パタパタと人の近づいてくる軽い足音がした。
「はい、どちら様でしょうか?」
というベルさんの声と共にドアが開いた。元気そうでなによりかな。
「旅の者ですが、お金をなくしてしまって泊まるところがないのですが、どうか一晩泊めていただけませんか?」
「路銀をなくしたとあればさぞ、お困りでしょう。私は教会、及び孤児院でシスターをしております、ベルと申します。どうぞ中でお休みください。すぐにお二人の食事を用意しますので突き当りの食堂にてお待ちください」
「忝いです。私たちに出来ることがあれば何でも仰ってください。私は薬学に多少の覚えがありますし、タイムは力仕事や、孤児院でしたら子供の相手も得意ですよ」
……やり取りを聞きながら思ったんだけどさ、リンも大概だと思うのよ、その虚言スキル。何気に私が子供の扱いが上手いって設定加えられてるんだけど、それ私自身初耳なんだけど。私自身、子供相手よりも大人の相手をして手玉にとる方が好きなんだけどな。
「いえいえ、お客さんにそんなことはさせられませんよ。気にせずゆっくりしていってください」
「そんな、それではこちらの気が収まりません。どんなことでも構いませんので仰ってください」
ベルさんは少し考えた後に、
「では、明日の昼間に時間がありましたら子供達と遊んでやっていただけませんか?」
「喜んで。ありがとうございます、シスターベル」
「……!」
リンの感謝の言葉にベルさんが少し驚いたような顔をしたが、すぐに元の柔らかな微笑みを浮かべた。私はどうしたんだろう、と思ったが、ベルさんが、どうぞ、と中へ招き入れてくれたので、思考を放棄することにした。
食堂のドアに近づくにつれて、夕食のいい匂いと、子供たちの元気な声が聞こえてきた。うん、皆も元気そうでなによりだよ。今度ちゃんと報酬をもらったら何か買っていってあげよう。そんなことを考えていると、ベルさんが食堂のドアを開けて中に入って行ったので、それについていく。私とリン、向こうからすればマリーとタイムが入ると同時にざわめきが起こる。そりゃ、「え、誰?」ってなるよね。
ベルさんは皆の前に立つと、マリーとタイムという旅人さんがしばらく泊まるので、皆さん迷惑をかけないように、と言った。それに対して子供たちは、はーい、と揃って返事をする。いやいや、迷惑かけてるのはこっちですから……
「初めまして、マリーです。いきなりで驚いたとは思いますが、よろしくお願いします。こちらはタイムで、私と共に旅をしているのです」
「よろしく」
挨拶を促され、私も前に出て従者らしく、端的に挨拶をして頭を下げる。っていうかいつの間にか設定が路銀をなくした人から旅人になってる。まあ、旅人でも路銀をなくすことがあるだろうから構わないか。少なくとも門番さんに言った目的とは異なるけど。
挨拶を終えたところで私とリンの食事も来たので、空いている席に座らせてもらって食事を始めた。食事
は美味しかったけれど、食べ始めてからベルさんが気づいて注意するまで、ずっと旅の話をせがまれていた。リンはタコ討伐の道中をスケールダウン、つまりは、移動手段が普通に徒歩、敵は五メートルぐらいに縮小、などして話していた。
それでも子供達には大興奮の内容だったらしく、男の子の中には、魔物を倒した私のことを、師匠、と呼ぶ子もいた。少し危なっかしく感じたので、釘を刺しておく。相手の力を見極められないうちは戦おうと思わないように、と。
食事後は旅の話ではなく、大きな教会を生かしてのかくれんぼに誘われた。リンは旅人とはいえ子供であるマリーなので参加、私は明日以降の生活費のために仕事がないか、ベルさんに確認しに行くという口実で不参加。
みんな残念そうにしていたけど、『クアリー』を日ごろ使っているせいか、何かの気配に対して敏感になってしまっているので、子供とかくれんぼなんてすると、『クアリー』を使ってなくても、全員の大まかな位置まで分かっちゃうんだよね。流石に申し訳なくて参加できない。
私はベルさんを探して教会の中を少しばかり彷徨った後、奥まっていて、少し薄暗い廊下で目的の部屋を見つけた。まだ遅くはないけれど、泊めていただいた身であるのと、単純に夜であるため、控えめにノックする。すると、中から、どうぞ、という声がした。せめて名前ぐらい聞こうよ……
「失礼します」
ドアを開けると部屋の中は真っ暗だった。
「ああ、その声はタイムさんでしたか。どうしまし……」
気配からして椅子に座っていたベルさんが、振り向きながら質問した声は、途中で途切れた。その瞬間、この部屋の状況を思い出して、失敗したと思った。この部屋があるのは奥まった薄暗い廊下であり、光が届きにくい。その上、理由はわからないけれど、今現在、部屋の中は真っ暗だ。でもその部屋の中にいたベルさんの目は暗闇に慣れてしまっている訳で、確実に私の姿が見えているだろう。
そして『メタファリング』という魔法の説明。この魔法は使用者に当たる光を屈折させて、他人の目に移す魔法。つまりは。
「ま、マナ、さん?」
暗い所だと屈折させる光が少なくて、本来の私の姿が見え隠れしてしまうという弱点がある。しかも本来の私を知っている人なら、なおさら見破る確率が上がる。うかつだったなぁ……仕方ない、ベルさん相手ならいいや。
「『グリーム』」
指先に光が灯る。すると私の姿がベルさんには、
「あれ、タイムさん? 魔法使え……いや、それよりも今、誰かいませんでしたか?」
タイムに戻る。でも見破られてしまった以上、おとなしく正体を明かしましょう。負けたらちゃんと負けを認めて退く、戦闘でもこれ、重要です。
『グリーム』を解除し、改めて、把握しておいた部屋の明かりのスイッチを入れる。そして今度は『メタファリング』を解除する。
「ただいま帰りました、ベルさん」
どうして季節から入ったかというと、作者本人が暑さに苦しんでいるからでして…本当にクーラーなどが欠かせません。少なくとも扇風機は絶対ですね…
前書きにも書きましたが、本当に身体にはお気を付けください。それでは次話もよろしくお願いします




