不法入国・・・じゃないよ・・・
まずは諸事情により、一か月近く投稿期間が空いてしまったことをお詫びします。
それでは続読よろしくお願いします。
化物を討伐してカイの村を出てから二日後……
「さて、ここまで帰ってきたけど……どうしたものかな」
現在、私とリンはセドナ王国の城壁の外にいた。あんな感じに飛び出してきてしまったが故に、普通に門から入ったらイーヴァさんに連絡が行き、捕まって説教部屋送りになってしまう。それは出来れば避けたい。
「イーヴァさん怒ってるよね…。何だかんだで約束も破っちゃったし」
「あー、あったねー、約束」
誘拐グループ捕獲兼、魔王討伐にリンを連れていくための訓練をするという約束。でも一応あの内容はちゃんと満たしているんだよね。私はクエストを一個クリアしたし(A級、それも私一人でだけど)、リンは回復魔法を使っていたし(完全に私のせいだが)。……あ、いい考えを思いついた。
「仕方ない、こっそり入り込もうか」
「え、どうやって? そして何より不法入国は犯罪だよ」
「大丈夫だよ、一応」
「一応って何……」
要するに私たちが帰ってきて、国に入ったってことがバレなきゃいいんだよね? それならば方法がなくはない。ただイーヴァさんが疑心暗鬼ならぬ疑人暗鬼になりそうなんだよね……。まあ、二度と使わないって謝って誓うしかないかな。
「じゃあ、呪文かけるよー。『メタファリング』!」
私が呪文を唱えると、光が私とリンを包み込む。よくあるアニメ的なレベルではないけど、少し眩しいので目を瞑る。数秒後、目を開けて自分とリンの姿を確認し、その姿を見て頷いた。
「よし、成功成功」
今のリンの格好は動きやすい冒険者装備から肩当やガントレットを外した状態。いわゆるレイピアみたいな軽い、スピード重視の武器を持つ冒険者が着るような装備を着ている、ように見える。因みに金髪に碧眼、ツインテールにしたらツンデレお嬢様の完成だね。
そして私は首から下をマントで覆っている旅人風の出で立ちで、黒髪のショート。
「え……、貴女はどなたですか?」
私の姿を見たリンは慌てた声を出す。それもそうだ、光が眩しくて目を閉じて、開いたら私が消えていて、知らない女の人が立ってたんだから。慌てたままにさせておくのも可愛いのだけど、そろそろ日も暮れるから誤解を解いてあげよう。
「リン、私だよ。お姉ちゃんだよ~」
「え、お姉ちゃん? どういうこと?」
光を屈折させて他人から見ると違う姿に見える様にできる魔法、『メタファリング』。確か光の屈折を「メタファー」って言うからそこから取った気がする。私の説明に納得したリンだけれども、なぜこんな魔法を使ったかピンと来ていない様子。根がいい人だと思いつかないかもね、まあ思いついた私はどうなんだという事はスルーするけども。
「じゃ、近くの村から材料を買いに来た薬師の娘とそのお付ってことで。確かリンって薬学も出来たよ
ね?」
「ああ、作り上げるつもりなんだね。不法入国するよりはまだいいけどね。うん、怪しまれない程度には薬学の知識も持ってるよ」
……。聞いておいてなんだけど回復魔法使えるのに薬学も調べてたんだ。ポンポン使うわけにいかなかったからかな。旅が終わったらイーヴァさんに推薦しておこう、ぜひリンを大臣、ゆくゆくは女王にどうですかって。絶対この国安心だって、リンが女王になったら。そこらへんの貴族の大臣やその子供よりよっぽど博学だよ、多分。でもまあ。
「君は望まないんだろうけどね」
とても小さな声で呟く。
「お姉ちゃん、何か言った?」
小首を傾げながら聞いてきた。その様子を見て、リンの頭を撫でながら思った。望まないだけじゃなくて、やっぱり君には政治家は向いてないね。あまりにも無垢で、それでいて、純粋すぎる。
「なんにもー。じゃ、潜入開始と行きましょうか」
「おー! ……って潜入って言ってる時点でアウトだと思うんだけど」
気のせいだよ。
「すみません、入国したいのですが」
そう声をかける出てきてくれたのは、やっぱりあの門番さんだった。この人本当に休んでいるのかな? 絶対労働基準法の一日八時間、週四十時間に違反してると思うんだけど。まあ、そんな法律、この世界には無いだろうからいいのかな。本人も至って元気そうだし。
「入国希望ですね。名前と目的、期限を教えてください」
あ、まずい。目的と関係性は考えておいたけど自分の名前考えておくの忘れてたよ。どうしようかな……薬草買いに来たからハーブの名前でいいよね。通らばリーチ! 麻雀じゃないけど。
「私の名前はタイム、彼女の名前はマリーです。入国目的は近隣の村の診療所で使用する薬草の買い付けと観光。期間は三日ほどを予定しております」
「分かりました。証明書を発行いたしますので少しお待ちください」
身分証明書いらんのかい。よく考えてみれば確かに証明書なんて私もギルドカードぐらいしか持ってないし、リンもまだ発行してもらってないから持ってない。なら一般の人はなおさら持ってるわけはないか。
「あ、申し訳ありませんがマントの中を見せていただけませんか?」
「どうぞ。自分は彼女の護衛ですので物騒なものを持ち歩いてはおりますが」
そう言ってからマントを広げる。中は軽い金属が織り込まれている服の上下を着ていて、腰には刃渡り六十センチ程の長剣を差している。因みに長剣は木の棒を差しているだけである。
「ありがとうございました。それとお二人とも左手の甲を出してください」
「……どうぞ?」
何をされるかはわからなかったが、言われるままに差し出す。すると門番さんは横に用意してあったカードを私の手の甲にかざした。すると、リンの回復魔法とは違う、鮮やかな黄色い光が灯り、それが消えた後にカードを外すと手の甲にはセドナ王国の国章が浮かんでいた。魔法っぽいな、これ。それに何となくだけど『クアリー』に似た雰囲気がある。
私が物珍しそうに眺めていると門番さんがリンにカードをかざしながら説明してくれた。
「それは位置特定の魔法がかけられているものなのです。こちらが設定し立ち入り禁止区域に入るとこの部屋と騎士団の詰所に連絡がいきますのでお気を付け下さい。その時以外は基本何もないですのでご安心を」
説明が終わるとともに渡してくれたのは立ち入り禁止区域を示した地図。リンがいるからいらないけど、一人の時は大変助かります。
地図を貰うと同時に、裏に入っていった人が戻ってきて私達にカードを一枚ずつ渡してくれた。見た目はギルドカードと同じ大きさだけど書いてある内容が、名前、目的、期限が入っているだけというとても簡素なものだった。
「それが証明書です。基本的に肌身離さず持っていてください。一定時間、一定距離以上離してしまいますと、こちらも同じく連絡が来ます。そこさえ気を付けていただければ大丈夫です。それではごゆっくりどうぞ」
「「ありがとうございました」」
二人揃って礼を言うと王都内へ入る。しばらく歩いた後、言ってはいけないけれど思わず口に出してしまう。
「楽勝だったね」
「はぁ……」
妹に溜息つかれた! 地味にへこむよ!
はい、(不法)入国出来ました。よい子は絶対真似しないでね、という文章が付くレベルです。イーヴァさんは完全に苦労性ですが、リンもかなりの苦労性ですね…というよりは、マナに関わる人間は全員苦労性になる気がします。
それでは次話もよろしくお願いします




