宴だね・・・
二週間以上間隔があいてしまい、本当にすみません! どうにか改善しなければ……
続読よろしくお願いします
「村長、もう彼女たちが出てから六時間です。もしかしたらもう既に……」
私を含め、数十人の村人が海岸に出ていた。そして私を除く全員が肩を落としていた。いや、もしかしたら自分で気づいていないだけで、私も落としているのかもしれない。侍女の一人が告げにくそうに、しかし、村民の全員が思っているだろう事を告げてきた。
「あんな嬢ちゃん達まで……くそっ!」
男の一人が落ちていた小石を蹴りつける。蹴られた小石は音も立てずに砂にのみ込まれた。そんな中、私は静かに水平線を見つめていた。
私は二十四人の冒険者に出会い、その中で幸運にも逃げ帰ってこれた三人以外の二十一人を死に追いやってきた。その死んでいった冒険者の全員の顔を覚えている。そしてまた新たな冒険者の顔を見る度に心が痛んだ。せめてもの償いとして、前日には前祝いを開き、もてなした。
でも、今回のマナさんは違った。確かに最初こそ、あぁ、こんな若くてきれいな娘さんまで、と思った。しかし、前祝いが終わって、夜の浜辺で彼女と話した時、今までの冒険者の人達とは何かが違う様な感じがした。屈強な男達が、素晴らしい魔法を使う者達が束になっても勝てず、逆に殺されてきた、あの化け物を倒してくれるのではないかと思った。しかし……
「私が間違っていたのか。やはり、あの時に止めてやるべきだった。すまない、マナさん、リンさん、そしてウェバ。せめて貴方達の魂が女神様の元で安らかに眠れるよう祈ります」
私の言葉を聞き、集っていた全員が海に向かって祈りを捧げた。そして私はうつむいたまま、村長として伝える。
「ヴィレ、セドナへの旅の準備をしておくように。明日の朝にセドナに向けて発ち、ギルドに依頼撤回の通達に行く。腕に覚えのあるものはヴィレについて行け。そして残った者は全員荷物を纏めておくように。ヴィレ達が帰ってくると共に、この村を……捨てる」
「「「……はい」」」
重々しい返事を聞きながら村へと戻る道を歩き始めた。
しかし、途中でその足を止めざるを得なかった。何故なら突如、私の目の前に様々な獣魔物の死体やら、魚やら貝やらが降ってきたからだ。私を含め、村人全員が呆気にとられている間にそれは大きな山を作った。そして最後に、声が降ってきた。
「コーストさん、今日の宴の肴。これだけあれば十分ですよね?」
まさかと思ってその声がする方、すなわち上空を見上げる。そこには何十人もの冒険者と村の人の仇を討ち、私達を救ってくれた人が、その顔に微笑をたたえながら浮かんでいた。
「マナ、さん、ですよ、ね……?」
彼女は私の問いかけに、もちろん。それとも他人か幽霊にでも見えますか?と笑いながら答えた。その答えに私の目には涙が溜まってきた。そしてその涙に追い打ちをかけるように今度は横から声がした。
「あんな化け物と戦った後でまだ、食材を取りに行く元気があるなんてね。やっぱりお姉ちゃんはお姉ちゃんだよ」
溜息混じりの声。
「ひどいなー、皆のために頑張ったのに」
「いや、全くリンの言うとおりだと思うがな」
十数年に渡って聞き続けた声。
「リンさん、ウェバ……」
私はもう、溢れてくる涙を止められず、出す声もかすれていた。恐らく、ここにいる村人全員が泣いているだろう。やはり私は間違っていなかった。彼女ならやってくれると。
「いい場面で悪いのですが……いいですか?」
リンさんがおずおずと手を上げながら言ってきた。どうしたのだろうかと首を傾げながら、先を促した。するとリンさんはウェバを指さしながらマナさんの方を向いて、さっきよりも呆れた声で言った。
「お姉ちゃん、こっちから見上げるとね、下着見えてるよ」
……全員が石化魔法か、時を止める魔法にかかったかの様だった。そして、バカ孫は上を見上げていた。リンさんの言葉を聞き、ウェバと目があったマナさんはたたえていた微笑を消し、無表情になると、一言。
「天誅。『グラビディ』」
バカ孫は砂浜へと沈み、固まっていた私を含めた村の皆は感動の念など消え失せて笑い声を上げた。そんな中、黙ったまま、マナさんが降りてきて私の前に立った。
「これで依頼は完了しました」
「村人を代表して感謝いたします。冒険者マナ殿」
静かに任務完了を伝えるマナさんの頬は微かに紅かった。それを見て再び私は笑みを浮かべると後ろを向き、笑っていたり、泣いていたりする、カイの、村の全員に言った。
「力のあるものはこの食材を全部村へと運べ。料理の出来るものは先に村へ戻って支度を始めてくれ。……今日は、宴だ!」
「「「はい!!!」」」
今度は軽い、元気のよい返事だった。
盛大な宴を行った次の日の朝、私はというと……
「お姉ちゃん、お姉ちゃんってば! 朝というかもう昼だよ!」
「ごめん…… 頼むから叫ばないで、揺らさないで…… 頭に響くから……」
二日酔いで寝込んでおります。頭グワングワン言ってるし、胸焼け酷いしで冗談抜きにキツイ。お父さんごめんなさい、飲み会明けを揺り起こして……もう二度としません。っていうかリン、君もまた香りで酔ってたよね? 何でそんなに回復速いの?回復魔法使える者の特権なの、それ。
「もうちょっと待って…… 今、軽い毒状態みたいなものだから。休んでればすぐ治るけど、水持ってきてくれる?」
毒状態と言われて少しパニックを起こしていたけど、こちらの世界にも酔う、という感覚があったそうで。話を聞いたリンは、全くもう、といった雰囲気で水を貰いに行ってくれた。いい子で助かります。
「にしてもここまで二日酔いがキツイものだとは」
一人ベッドの上で頭痛に悩まされながらつぶやく。まあ、初めてなったってのもあるんだろうけど、これから夜会や会談とかで飲まなきゃいけないだろうから、お酒にも慣れなきゃいけないね。
リンから、目が覚めるような冷たい水を貰って、比較的気分がスッキリしたので、リンに手伝ってもらいながらリビングの役割を果たしている部屋へ行き、朝食、正確には昼食の席へとついた。
「おはようございます、マナさん。というにはかなり遅い時間ですが」
「おはようございます……すみません、昨日のお酒がまだ……」
コーストさんに挨拶を返したのと同時に食事が運ばれてきた。ありがたいことにメニューはご飯に魚のだし汁をかけた、いわゆるお茶漬けだった。至れり尽くせりだね、こんなところまで。あんまり異世界って感じがしなくなってきたよ……
温かいだし汁に何となく元の世界を思い出しながらゆっくりと食べ終わり、一息ついていると頭痛も治まってきた。もう必要以上に飲むことはやめよう。確かにその時は気持ちいいだろうけど、それに見合わないレベルで反動が返ってくる。
「ウェバ、先に行って用意しておいてくれ。マナさん、リンさん。少しよろしいですか?」
心の中で固く誓ったとき、コーストさんから声をかけられた。顔を見てみると、いつもの柔らかい笑みで
はなく、村長の顔になっていた。それを見て私も気を引き締めて了承する。
連れてこられたのは応接間だった。
「まずはあの化け物を退治していただきありがとうございました。村民を代表して感謝します」
村長は言葉とともに深く頭を下げた。それに一拍おいてウェバも頭を下げる。
「顔を上げてください。私は冒険者として当然のことをしたまでですから。それに退治しないとこちらも生活出来ませんので」
そう言って笑った。その言葉に二人とも頭を上げて笑ってくれた。
「それで、お話というのは何でしょうか?」
「この依頼は現在A級に変わっており、今のカイの村の貯蓄ではとても報酬は払いきれません。ですが何年かかったとしても必ずお支払いいたしますので、その許可をいただきたいのです」
なるほど。まあ、確かに村を捨てるところまで行っていれば貯蓄を作っている暇はないだろうし、捨てる
なら捨てるでその準備もあることだろう。実は金額を見ずに、面白そうなのと、リンが海に行きたいっていう希望の下で受けた依頼だから、報酬がいくらかは知らんのだけど。
「すみません、報酬ってどれぐらいなんですか?」
「え、じゅ、十億クラムですが……」
……十億もいらんわ。っていうかそんなお金あってもリンと二人で旅するのに邪魔なだけでしょ、銀行あったらいいけどその手続きも面倒だし。
どうしようかな~。……ん? 十億円の価値があるから面倒なんだよね?じゃあ価値をいじってしまえばいいってことだよね? じゃあ、話は早いよ。
「あ、そのことなんですけども。私達がセドナ王国を出る前日のことなんですけどね。よくは知らないんですけど、セドナ王国領にある鉱山で、魔物に効果がある鉱石が見つかったらしくですね、クラムの価値が高騰してまして。それもおおよそ十倍に」
「そんな鉱石が!?」
ウェバが大きな声を出した。おうおう、すごい驚き様。まあ、ウソもウソ、大嘘だからね~。それに比べて村長さんはどこか平然としてるね。まあ、いいけど。
「そしてその上、ギルドの方針が変わって、その時の金額分なので、私達が報酬を頂いて王国に持って帰ったとしても十分の一の一億にしかならないんですよ。そこで提案なのですが……」
そこで私は言葉をいったん切って、一呼吸おいてから言った。
「カイの村に家を建ててもらえないかな、と」
「家、ですか?」
はい、家です。
「詳しく要望を出していいのならば、私とリン、他に二、三人ほどが住めて、小宴などが開ける広間があるとなおいいですね。でもかといって、あまりうるさくない場所が……」
「ちょ、ちょっと待ってください。」
そこまで言ったところで村長さんが口を挟んできた。私はどうしたのだろうと、不思議がるように首を傾げる仕草をした。
「住んでいる私達がいうのもなんですが、カイは王国から離れた村です。村で一番お金があるこの家でも時計を入れていないのですよ?そのような村に家を建てるというのですか、貴女ほどの冒険者の方が」
「だからこそですよ。私はうるさいのは嫌いですし、喧しいのも好きじゃありません。ですが、騒がしいのは嫌いじゃないんです。こう言っては何ですが、王都は確かに活気に溢れていて、過ごすには構わないんですが、住むのには少しうるさすぎるんです」
私は言いながら席を立って横にあった窓を開けて、外を見る。そこには私のように二日酔いを我慢しながら、網の整備をする男性。広場では昨日の宴にいたにもかかわらず、元気いっぱいに走り回る子供達。失礼ながら窓を覗けば、洗い物をしている女性がいた。
皆、私たちがここに来た時とは比べものにならないほどにいい顔をしていた。私は魔王を倒した後、しばらくこの世界にいられるのであればこんな感じの場所に住んでみたい。まあ、完全に私のわがままなのだけど。
「いかがでしょうか? 一億で足りないのであればまた来た時に残りをお支払いしますが?」
私の問いかけに村長さんは考え込むようにした後、頷くと。
「わかりました。マナさんの家、村人総出で作らせていただきます」
はい、契約成立。因みに一億では多すぎるとのことなので、家財などの諸経費に当てるとのこと、そしてそれでも余るとのことなので、村の真ん中の広場に時計といった具合に、村のために使うような契約を交わした。
それからしばらく村の中を歩かせてもらった。いろんなところで私たちに声をかけてくれて、リンは笑って答えていた。それが私にとってはとても嬉しかった。村を一回りし、最後にコーストさんとウェバに挨拶をしてカイの村を出るころには、私のギルドカードの中は海産物でいっぱいになっていましたとさ。めでたしめでたし。
「うーん、コーストさんのあの感じ…… やっぱりバレてたね~」
帰りの空の旅で、リンを抱えながら呟く。その呟きが聞こえたリンは、にっこりと笑いながら、
「さすがに無理があるよ、あの嘘は」
と返した。
「え? クラムが高騰したって話、嘘だったのか?」
俺は驚いて聞き返した。その聞き返しにじいちゃんは当然だろう、とばかりに頷いた。
「魔物用の鉱石が見つかったとなれば、貿易で栄えているグリストル公国が動かないわけがない。そして、グリストルが貿易を行うなら間違いなく、船で鉱石を運ぼうとする。それならその船が、このカイからも見えるはずだろう?」
ああ、なるほど。確かにじいちゃんの言うとおりだ……。
「じゃあ何でマナ達はあんなことを?」
それを聞いた瞬間、じいちゃんは体中の空気を出し切ったんじゃないかと思うほどに長い溜息をした。
「まだ分からんのか、お前は…… マナさんが言っていただろう、クラムの価値が高騰したから十億が一億になってしまったと。それはすなわち、私達が払う報酬が十分の一になったということ。これで分からんとは言わせないぞ?」
「まさか……」
「そう、私達にかかる負担を軽くしてくれたのだ。その上、その報酬を、このカイが森の近くにあるということも考えて、負担の少ない家に変えてくれたのだ。まあ、実際はギルドが方針を変えたというのも嘘だろうな」
じいちゃんは最後にそう付け加えた。
「…………」
そこまで考えてあんな嘘を。しかも自分にとっては全く利点がないのに。あれで俺よりも年下なのか。
「じいちゃん、俺、もっと頑張るわ」
俺の顔を見たじいちゃんは笑って俺の頭を小突くと、村で木に関わってる人間を全員連れてくるように言った。
はい、経済分野には本当に弱い作者です。とりあえずマナは、カイの村の皆さんの負担を減らしたかった、という解釈をしていただければOKですので、深くは突っ込まないでいただけると嬉しいです。
次話は一週間……二週間以内には投稿しますのでよろしくお願いします!




