そういうことね・・・
前回やばそうな雰囲気で終わりましたがどうなるのでしょうか?
それでは今回も続読よろしくお願いします。
一瞬、それが何だかは分からなかったけど、視界の端に白いものが見えたので、その黒い穴がタコの足先の口だという事が分かった。そして分かったと同時に悪寒が走り、背中には冷や汗が伝った。
「ん!間に合えっ……!」
翼を思いっきり羽ばたかせたが、動いていたならばまだしも停止していたから、すぐには動けなかった。しかし、運は良かった。瞬時に羽ばたいたのが化け物とは逆方向、つまりは羽ばたいた時の風が化け物の口の中に当たり、反発力となって私の体を押してくれたのだ。
しかし、これで躱しきれました、というほど現実と同じく、こっちの世界は甘くないらしい。私が喰われなかった分、背中から生えていた翼を両翼、噛みちぎられてしまった。
「…………!」
当然、翼を失った私は落下していく。すっごい怖い……。飛行魔法である『ハルシオン』は一つ、決定的な弱点がある。それは、呪文を解くには足が何かについていないといけないこと、そして、一度呪文を解かないと、再び翼を得ることは出来ないという事だ。
つまりは今みたいに、翼を失ったからすぐ復活、なんて芸当は出来ない。翼を得るには、海面に着水して表面張力で安定する一瞬か、タコの体に落ちるしかない。全く、自分で作っておいてなんだけど融通きかない呪文だよ。
そんな困ることはお構いなしに次から次へと襲い掛かってくるタコの足。そういえば君達、今まで騙し討ちのためにわざと回復してこなかったね? 足を『フレイムブラスト』や『アイスジャベリン』とかで破壊していくけど、すぐに復活して襲ってくる。正しくイタチごっこだった。
けれどもこの状況は私にとってはいい状況なのは確か。それは海面がどんどん近づいてくると言う事。海面に着水できれば『ハルシオン』を解除出来……ん?
「あれ?」
何か水面が変な風に波立ってる……? とっさに『クアリー』に意識を向けると水面下で大口を開けて待っているタコの足のシルエットが見えた……こっわ!
「喰われるわけには……いかないんだよねっと! 『フレイムブラスト』!」
海面に向かって今まで以上に魔力を込めて放つ。狙いは海中に潜む足……ではなくて。私が放った魔法が水面に触れると同時に、ドンッ!
「ん!」
小規模の爆発が起こった。それによっておこった爆風が私の体を落下予定場所からあらぬ方向へと吹き飛ばす。高温の炎と水が触れた時に起こる化学反応、水蒸気爆発。生で見てみたかったんだよね~。
「よーいーしょっと!」
身体を捻って足元からきれいに着水。もちろん一瞬の表面張力を使っての呪文解除も忘れない。そのまま足からドボン。水しぶきはほとんど上がらなかったから十点中八点ぐらいもらえないかな。
海水を吸って重くなったセーラー服のせいで若干溺れそうになりながら海面から頭を出して『ハルシオン』を唱えて空へと舞い戻る。
「うわ、浮力無くなるとどっと重くなる。ウェバさえいなければ脱ぐのにな」
女子力最底辺の私といえど男子の前での下着姿は流石に恥ずかしいのです。まあ、特にそこまでマイナス面は無いし、多少の機動力減を考えて動けばいいか。問題はそこではなくて……
「単純に回復力がバカ高いだけなのか、それともどこかに核があってそれを潰せば終わり、っていうアニメ的な魔物なのか、どっちなのかってことだけど……」
因みに見分けるのは簡単で、『クアリー』の索敵レベルを上げればいいんだけど、そこで再び問題が発生する。そのレベルまで上げてしまうとかなり集中することになって、他のことが疎かになってしまう。襲ってくる足を躱しながら飛ぶ、という地味に集中しなければいけないのと同時進行は出来ない。いくらチート能力者といえど処理能力は人間と変わらない。まさしく宝の持ち腐れ。
「いっそ氷漬けにしてやればいいのかな? あ、意外とこれ名案かも。」
思い立ったが吉日、そして吉時。
「『ディフェンシブ』、そして『アイスプリザーブ』」
一応自分の周りに泡を張ってから、リン達に引っかからない様に気をつけながら、タコの周りの海域ごと凍らせる。カッキーン……っていう効果音が聞こえてきそうな感じだ。きれいな海だから含まれてる塩分さえなければ美味しいかき氷にでも出来そうだけど。ま、そんなことは置いといて。次に何をやってくるか分からないからさっさと核を見つけようか。
『クアリー』にかける魔力を増やして、氷漬けにしたタコに焦点を当てる。すると……
「あれ? 核が無い……じゃあ、このまま砕いて炎魔法で蒸発させればいいのかな……ん? でも何か矛盾しているような気が……」
何かを思いつきかけた時、後ろでパシャ……という音が聞こえた。何だろうと思って振り返ってみると、現在進行形で溶かされつつある泡と、その奥に赤黒い穴が見えた。デジャヴ感半端ない……
「ちょっと待って! どっから湧いて出たの!?」
叫びながら『ディフェンシブ』を解除し、口から逃げる。よかった、今回は喰われずに済んだ。こんな状況で魔王なんか倒せるのかな、私。未来を心配しつつ落ち着いて目の前のタコを見る。すると先程凍らせたのと寸分違わないタコがそこにいた。……分裂まで出来るのか。Aランクとはいえ最初の依頼にしてはハイクオリティ過ぎませんかね、オイ。
あんな奴がポンポン分裂されてたまるか……。そう思って氷漬けにした方のタコを見て、
「あぁ、なるほど。そういうことね」
全てを理解した。そこにあったのは氷漬けになったタコではなくて、太陽の光を反射して輝くタコの形をした、海水で出来た氷の彫刻、だった。因みに透き通っていてとてもきれいでした。
まあ、つまりはというと。動く本体がいて、そいつはある一定量の水を実体化させて化け物を形作り人を襲っていた、と。そして今の状況は、凍らせられている途中にまだ凍っていない深海から魔法範囲外に逃げだしたってカラクリかな。
ついでに今更気づいたけど、さっきの気になった矛盾点っていうのは、単純に回復力が高いだけなら、最初に『トルネード』で破壊した足がオートで復活するはず……という事だった。もっと早く気付けばもう一回冷や汗かくこともなかったのに。まあ、実害なかったからいいけどね。
「さて、どうしてやるべきか……」
魔法を使おうとしても逃げられるし、逃げられない様な広範囲魔法を使おうとしたりなんかしたら間違いなくリン達に被害が及ぶし。襲ってくる足をくるくると飛び回って回避しながら考える。
「んー。何かいい方法はないものか……っと危ない。『フレイムブラスト』」
一本一本の攻撃しか来ないかと思ったら八本の同時攻撃、それも七本で私の逃げ場をなくしてからの攻撃だったので、流石に魔法で足一本を破壊しそこから抜け出る。いや、少し危なかったね。……ん?
「あ、そっか。これ使えばいいのか!」
今のタコの攻撃で攻略方法思いついた。何でこんな簡単な方法を思いつかなかったんだろう。躱される可能性は無くはないけど、ここら辺の生態系を丸ごと破壊する魔法使うよりはこっちを試してみた方がいいね。作戦名は【逃げるなら 閉じ込めてしまえ ホトトギス(字余り)】作戦!
というわけで。
「『ウインドケージ』さぁ、捕まれ」
巨大なタコ全体をさらに巨大な風で出来た檻の中へと閉じ込める。もちろん檻の格子は粗いものではなくて、普通サイズのタコすらも逃がさないとても細かいもの。その上、格子に触れたら、その触れた部分が風に巻き込まれて引き千切られる、という地味に怖い檻。もがけばもがくほど絡まる網ってよくあるけど、こっちはもがけばもがくほど体の部位が欠損していく檻。恐怖は比べ物にならないだろう。
「さあて、ホシはいるかな?」
念のため、再び『ディフェンシブ』を唱えた後、『クアリー』のレベルを上げる。すると大きなタコのシルエットの中に小さなタコが右往左往しているのが見えた。タコ、ゲットだぜ!
さっきの『アイスプリザーブ』だと一方から順に凍っていく魔法だから凍っていない逆方向から逃げ出したんだろう。でも『ウインドケージ』みたいな一瞬で展開される魔法では躱し切れなかったらしい。残念ながらその檻に逃げ場はないよ。さらに拘束させてもらうしね。片方の口角を上げて口元を歪めると、その嫌な笑みのままたった一言。
「『アイスプリザーブ』」
極寒の冷気が風の檻を包み込み、みるみるうちに檻ごと凍らせていく。中にいるタコはどうにか逃げ出せないものかと凍っていない、下へ下へと逃げるが、そこにあるのは近づくものを無慈悲に八つ裂きにする風の格子のみ。
そして数秒後……檻は凍てつく氷の彫刻へと化した。
「ま、チート使いとしては手こずったかな……」
そう言いながらウェバとリンのいる舟の方に向けて手を振る。すると二人が立ち上がって喜びながらハイタッチをしていた。因みに拍子に揺れて、海に落ちそうになっていた。良い子の皆さんは小舟の上でいきなり立ち上がってはいけません。
私はその後、『アウラ』を使ってうまくタコのいる所だけを回収し、リン達の待つ小舟に戻って岸へと進路をとった。
じゃ、帰ろっか。皆待ってるだろうし。ねえリン、今日は酔いつぶれてもいいよね? 絶対、ダメだって言われるだろうけど。あ、そういえば・・・
「あ、ごめんウェバ。進路変更で行先は―――」
行先とその理由を告げられたウェバは苦笑いをしながら了承し、進路を変えた。
まあ、もちろん喰われません。っていうかマナが喰われたら物語終わっちゃうので。はたしてマナの進路変更先とはどこなのでしょうか?それでは次話もよろしくお願いします。




