敵討ち・・・
いよいよ読者の皆さんお待ちかねのバトルパートです。実は私自身も楽しみでした。描写が至らぬところが多いとは思いますが、今回もよろしくお願いします!
化け物討伐の当日、私は強い潮の香りと太陽の光で目を覚ました。
……あれ? 太陽の光? 私が寝てた部屋のベッドって陽は差し込まないはずだったんだけど……。しかもベッドがすごく硬くなっていて、変に揺れる。どういうこと? と頭の中でクエスチョンマークが乱舞していると、私の視界にリンがアップで入ってきた。
「あ、おはよう、お姉ちゃん。早く起きて、もうすぐだよ」
もうすぐって何が? と思いながら体を起こすと心地よい風が顔を撫でていく。周りを見渡すときれいな青い海が……海が!?
「何で私ここで寝てるの? ちゃんとベッドで寝てたよね? それにいつの間にか服着替えてるし。第一にここどこ? もちろん海ってことは分かるんだけど」
「お、落ち着いてよお姉ちゃん。そんなに一度に質問されても答えられないよ」
矢継ぎ早にリンに質問を投げかける。リンは落ち着かせる様に肩を軽くたたきながら言った。
「あ、ごめん……」
リンに言われて少し冷静になる。しかし、冷静になったところでこの状況を至る理由が思いつかない。
リンの説明によると、昨日の夜(正確にはコーストさんと飲んだので今日の未明だけど)に寝た私は、寝た時間が遅い上に、いつもの低血圧により、全く起床時間に起きなかったそうで。リンが多少ゆすってくれたがほとんど起きる気配が無かったので、コーストさんの家で働いている女性とリンの二人がかりで寝ている私を着替えさせたらしい。
驚いたことに、その後私は一度、目を覚ましたらしい。寝起きでいつも通りふらふらしていたけれど、普通に朝食を食べて、コーストさんの言う通りにウェバが舵を取る小舟に乗り込んだ。そして見送ってくれた皆に手を振り、出港したけれど、その十分後ぐらいに突然、リンの膝に頭を乗せて眠ってしまったらしい。
「そして今に至ると……」
全然記憶にないんだけど。確かにね、元の世界で学校で校歌を歌ってる途中に考え事してたらいつの間にか、とちることなく歌い終わっていた、なんていう事はあったよ。でもね?
「寝ながら食事って器用すぎるでしょ、自分……」
私の飼っている猫(被る用)はもはやそんなことまでできるようになっていたのか。すごいね、自分のことながら。
……って、しまった。リンの性格からして膝枕なんて滅多にさせてもらえないと思うのに。もうちょっと味わえばよかった……。
「本当に緊張感ないな、これから化け物と戦いに行くっていうのによ……」
しょーもない後悔を割と真面目にしていると、舵を取っているウェバから呆れた声がかかる。
「一応真面目にやるつもりだよ。何せ、相手はB級以上の冒険者を二十人以上喰ったっていう化け物らしいからね」
その何気ない爆弾発言にウェバは驚いていたが、リンはほとんど顔色を変えなかった。多少ぴくっとしたぐらいだ。ウェバは一つ溜息をつくと私に問いかけてくる。
「……じいちゃんが話したってのは聞いてたけどな、少し驚いた。それを聞いてて昨日すんなり寝れて、その上、今までその子の膝の上で寝息を立ててたっていうのか? あんた、怖くないのか?」
「怖いよ。リンにやりすぎだよ、って怒られることがね」
質問に私は素知らぬ顔で海を眺めながら当然の様に答える。事実、その化け物が何人、何十人の冒険者を喰ったと聞かされたところで、私は別に怖いとは思わない。確かに腹は立つだろうけど。
いざとなったら『コラプスイラプション』でも『フュレンツアウラ』でも連発して倒してしまえばいい。まあ、唯一怖いのはリンを、一応ウェバも、守れなかった時ぐらい。それからイーヴァさんからの説教。ああ、憂鬱……。
「全く……にしてもお前は怖くないのか? 姉がそんな化け物と戦うのに加えて、お前自身もそのすぐ近く、つまりはいつ襲われてもおかしくない場所へ行くんだぞ?」
私の答えと様子に再び溜息をついたウェバは今度はリンに問いかけた。それに対するリンの回答はというと……
「もちろん怖いですよ。お姉ちゃんがやりすぎてカイの村の皆さんに迷惑をかけるんじゃないかってことが」
だった。私とリンは互いに顔を見合わせて笑う。やっぱり姉妹、考えてることと思ってることは殆ど一緒だね。まあ、若干私が信用されていないことは置いておくとして。
ウェバはリンの回答に唖然とした後、無言で舵を取ることに集中した。もう何を言っても無意味だと思ったのだろう。さて、軽口で返したとはいえあれだけ心配してくれたんだ。しっかりと親の仇を取ってあげましょうかね。
それからしばらくしてウェバが船を泊めた。
「着いたぞ、この辺りが奴が出てきた海域だ」
一旦言葉を切り、顔を俯かせた。そのまま絞り出すような声が聞こえた。
「改めて頼む、親父の仇である奴を……倒してくれ……!」
その言葉を紡ぐ口の横に一筋の光るものが流れた。私は黙ってウェバの肩を叩くと、『ハルシオン』を唱え、空へと羽ばたき、同時に『クアリー』で感覚範囲を広げる。そのまま魔力を込めて範囲を広げる事直径約五キロ。沖の方から何かがこちらに向かって来るのが分かった。シルエットの大きさからして、全長約五〇メートル。あんなのに突っ込まれでもしたらウェバとリンの乗っている小舟なんて一発で転覆だ。
「悪いけど前口上みたいなのはナシでよろしく! 『トルネード』!」
化け物のすぐ前に魔法を展開し発動させる。すると凄まじい勢いで海水が空へと回転しながら昇っていく。化け物は直前でその竜巻に気づき、躱そうとするが間に合わず、足の一本が竜巻に巻き込まれて引き千切られた。これで足の残りは七本。
唸り声と共に海中から姿を現したのはタコの体で足の先には、サメの様な鋭い牙が何十本と生えている口を持つ化け物だった。ビジュアル的には某サメ映画に引けを取らない。あの独特のBGMが流れてきそうな雰囲気だ。ジャージャン、ジャージャン……
「さしずめ名前はオクトシャーク、とでも呼ぶべきかな。まあ、倒してしまえば名前なんて関係ないか。さあ、始めようかな」
独り言を言っていると、足を千切られ怒り心頭と言わんばかりの化け物が足の一本をこちらに向けてきた。
「『ディフェンシブ』」
牙は『ディフェンシブ』の泡を噛むことになり、私はノーダメージ。化け物は頭が足りない様子で、守られているにも関わらず、再度私に噛みつこうと襲い掛かってきたので、その口に向かって『フレイムブラスト』を強めに打ちこむ。足が盛大に爆散し、残り六本。
自分を守る泡の中で集中し、両手に光球を生み出しそれを天へと昇らせる。化け物はそれを見て、本能的に危険だと察知したのか素早く逃げようとする。
「逃がさないよ、『コーサスルクス』」
上空から光輝くビームが何本も降り注ぐ。これで倒せたかと思ったが、流石は強者ぞろいの冒険者を二十人以上も喰った化け物。
「うーん、本体と三本残っちゃったかー。全体丸ごとのみ込めたんじゃないかと思ったんだけどな」
これで残り三本。
そこまで攻撃したところで私は一つの疑問を思い当たった。確かにこの化け物は体のサイズも大きいし、足も複数の同時攻撃もしてくる上に、それぞれの威力も相当なものだ。でも、だからといって。
「そんな二十人も喰われるような強さではないと思うんだけどな……」
B以上の人達を送り込んだって聞いたんだけど、相手が弱かったとはいえ、前回のイーヴァさんの戦いぶりとあの余裕。本気を出せば相当なものだと思う。そんな強さのAもいて、集団の中には遠隔攻撃である魔法使いもいたはず。
「……相手が得意な海で戦ってたからかな……?」
いまいち納得のいかない考えに思い当たり、呟いた時、一本の足がこっちに向かってスミを吐いてきた。あんな獰猛な足をしていてもやっぱりタコなんだね。と思っていたら、展開していた『ディフェンシブ』の泡がスミのかかった所から浸食されて消えていった。
「うわ! これ目隠しじゃなくて、溶解液なの!?」
思わず叫びながら『ディフェンシブ』を解除してスミがかかっているのとは逆方向から抜け出る。あの溶解液がある以上、『ディフェンシブ』は使えないね。まあ、残っているのは本体に足三本。躱し切って攻撃できるだろう。
「よーし、じゃあ、これ以上めんどくさいことになる前に倒してしまおうか」
私の言葉が理解できたのかどうかは知らないけど、心外だとばかりに残った三本を時間差で攻撃させてきた。私はその三本を躱したところでトドメを刺そうと思い、翼を羽ばたかせる。一本目を上昇して、二本目を後ろに下がって躱し、最後の三本目を今度は下降して躱した。
「これで終わり。『トルネー・・・』
―――お姉ちゃん!―――
「リン?」
呪文を唱えていたところに実際にか、それとも心の中にか、は分からないけど、リンの私を呼ぶ声がした。どうしたんだろうかと思ってリンの乗っている小舟のある方向、つまりは振り返ってみると、
そこには赤黒い穴があった・・・
というわけでいきなりマナが危なくなってますね。最初の方でこれ以上危険な目に遭わせないって言ってたはずなんですが……ってマナ、こっちに『フレイムブラスト』打ち込もうとしないで!
とにもかくにも次話もよろしくお願いします!




