お願いされました・・・
ようやく次話です、本当にすみません! それでは今回もよろしくお願いします!
「・・・ん。」
疲れに身を任せて、トイレに行くのを忘れて寝たせいで、朝になる前に目が覚めてしまった。何時ぐらいだろう、と思いながらリンを起こさない様にベッドから抜け出る。部屋を出た後なるべく音を立てない様にトイレに行った。
「このまま戻るのもなんだし、ちょっと夜の海見てこようかな。」
小声で呟くと再び音を立てない様に、玄関のドアを開けて外へ出た。陽が落ちているので少し涼しい風が気持ちいい。
それにしても落ち着いてコーストさんの家や、村の主要地を見てみたけど、このカイの村には時計と言うものが一つもない。Aランクの依頼を出しているんだから、少し高価程度の魔力時計を金欠で入れられないという事はないと思う。という事は時計を特に必要としていないってこと。おそらく潮の満ち引きや太陽の高さなどである程度の時間を読み取っているんだろう。
「正に自然と共存している村なんだね。」
その技術はすごいと思う。でもそのせいで現在私は何時なのかが分からないのだが。
ふらふらと歩いていると、広場に出た。リンを寝かせるために早めに宴会から抜けたため、村の人にも消せるように魔力供給を断って普通の炎にしておいたキャンプファイアーはしっかりと消されていた。火の用心、まことに結構です。ま、こんな広場の中心じゃ燃え移るようなものも一切ないから心配いらないか。っと、あれは・・・
「ん、ラッキー。」
そう呟きながら拾い上げたのはお酒の入ってる開封されていないビン。花見で一杯ならぬ、夜海で一杯と洒落込もうか。夜海で一杯、あったら何点なのだろうか。花札、いまいち役と点数分かんなかったんだよねー。
発泡酒じゃないことを祈りながらビンを振りながら村を出て海へ向かう。サクサクというような砂浜独特の音をさせながら歩いていくと目の前には、暗い夜空を彩る満天の星々と、逆にその光すらのみ込んでしまうように思える程に深い暗さを湛えた海が広がっていた。
「おー、これはまた昼に見るのとはまた違った趣があるねー。」
キャンプファイアーの組み木を作った時に余った木材の中から座るのにちょうど良さそうな木材をカードの中から引っ張り出して座り、続いてコップを出して、そのコップに先程拾った酒瓶の封を開けて酒を注ぐ。
「こく・・・よかった、あの酒ほど強くはないね。それに甘くて美味しい。」
拾った酒がストレートで飲めることを確認すると、今度は昼に女の子のお店で買ったスルメを一杯出してゲソの部分を千切って、残りをカードに戻した。私、スルメの一番美味しいところってゲソだと思うんだよね。
スルメを噛みながら飲もうかと思ったけど、果実酒らしいお酒にスルメはあまり合わなかったので、スルメをしまって、代わりにピアルを出す。
ピアルを食べながらふと今日一日を振り返る。確かに村の皆は優しくて親切だったと思う。でもどこか、私とリンを申し訳なさそうな目、可哀想な目で見てくる人が少なからずいたんだよね。前者は冒険者の方の手を煩わせてしまってすみません、ってことが考えつくんだけど、可哀想な目で見られる理由がどうしても思いつかない。
同時に不思議だと思うのは、昼にコーストさんと話した時、前に来た冒険者の人達の事を聞いた時に明らかに表情と場の空気が変わった。別に冒険者が身の丈以上の依頼を受けて達成できずに逃げ帰る、なんて事はおかしい事ではないと思う。まあ、冒険者の人からすればプライドが傷つけられたと感じるだろうけど、依頼者の方が気に病むことではない。
「何か・・・あったんだろうけど・・・」
それが何かわかんないんだけれども。多分、相当なことを私達に対して黙っている。あり得るとすれば・・・
そこまで思考が落ちた時、背後に人の気配がした。振り返るのと同時にその人から声をかけられた。
「マナさん、どうされたんですか、こんな夜中にこんな場所で。」
「・・・コーストさんでしたか。いえ、不意に目が覚めた上に冴えてしまったものですから海岸を少しぶ
らついてから戻ろうかな、と。コーストさんはどうしてここに?」
「水を飲もうかと部屋を出たら玄関が開いていたものですから。少し散歩してみるのも悪くないと思いましてね。そうしたらマナさんを見つけたのでこうして話しかけた次第です。」
苦笑しながら説明してくれた。そういえばすぐに戻るだろうと思って玄関開けっ放しにしておいたんだっけ。この村に泥棒をしようなんていう人はいないと思うけれど、申し訳なかったのでカードの中からコップを出してコーストさんに勧めた。コーストさんも宴会中にあまり飲んでいなかったためか、呑みに付き合ってくれるらしく、受け取ってくれた。自分のと合わせて二つにお酒を注いで、二人して一口飲んで一息つく。
切り出すなら・・・ここ、かな?
「コーストさん、私に何か話していないこと、いや、隠していることがありますよね?」
こんないい人ばかりの村では表情を取り繕う必要なんてないだろうから、海を見ながら聞いた私の横目でも分かるほど彼の表情が変わったのが分かった。やっぱりか・・・でも問題の本質はそこではない。問題なのはその内容。
「話して、もらえませんか?」
訊かれたコーストさんは何か重大なことを決めかねているような顔で俯いた。それを見て私は、後は待つだけかな、と思い、一口飲んだ。
「マナさん、一つお願いがあります。」
コーストさんが口を開いたのは、二つ目のピアルを取り出そうかどうしようか迷っていた時だった。
「何でしょう?」
「今回の依頼、断らせていただきたいのです。」
これはさすがの私も予想外だった。微かにとはいえ、今度はこちらが表情を変えさせられてしまった。にしても断らせてほしいとは・・・。
「何故です?Aランク、それに昼間に聞いた限りではカイの村の人々は相当な危険にさらされている事が分かります。それなのに。」
「実はこの依頼、私達が出した時はBランクだったんです。そしてとある事情があってギルドの方がAランクへと変更したのです。」
BからAに格上げ、そんなこともあるのか。しかもフォーセさんの口ぶりからするとこの依頼、Aランクでも特別なもの、言わばAプラスとでもいうべき依頼になっている。
「昼に話した通り、この依頼を遂行することが出来ずに帰っていった冒険者の方は三人いました、いえ、帰ることが出来た人数が三人、と言い直した方が正確ですね。」
ああ、なるほどね。今の言葉のニュアンスの違いで分かった。私はただ一言、何人ですか?と訊いた。その答えとして帰ってきたのは二十一と言う数字。生存者の七倍、それは格上げされるし、フォーセさんも止めるわけだ。多分、イーヴァさんからの紹介でなければ最後まで了承してくれなかっただろう・・・了承してくれたとはいっても諦めが入っていたけど。
「でも、私達が帰ってしまったらその化け物はどうするんです?」
私の当然の質問に村長さんは言った。
「依頼を取り下げ、村を捨てます。これ以上我々のために冒険者の皆さんを亡くすわけにいかないのです。我々も村の場所と漁の場所を変えれば被害は少なくなるでしょう。」
「でもゼロにはならない。」
食い気味で私が口をはさむ。寮の海域を変える、そんな簡単な事をしてこなかったはずがない。それに、その化け物が村の人達を追って出没地域を変更することだってあり得る。むしろそっちの方が自然だ。
「それ以降の死者は無関係な冒険者の方々を殺してしまった私達の罪なのでしょう。その罪はしっかりと受け入れなければなりません。」
村長さんの目は海の彼方、水平線を見つめていた。その目に揺らぎは一切なく、意志を変える事のないとても強いものだった。・・・これでは私が何を言っても変わらないな。
「そうですか。そこまで決意が固いのならば止めはしませんし、第一カイの村人でない私に言う資格はあ
りません。」
でもね、私も一度やると決めて、それが面白そうなことならばなおさら、やめる気はさらさらないんだよね。
「でも、私の事を止める事はしないで下さいね?」
村長さんに向かってニヤッとした笑みを向ける。言葉の意味が分からなかったのか頭の上ではクエスチョンマークが浮かんでいる。私は村長さんから一旦視線を外し、セドナ王国があると思われる方向を見ながら言う。
「恐らく、後数週間でセドナ王国の王国騎士団がカイの村を訪ねてくると思います。私にもしものことがあれば、その騎士団の団長さんにリンを預けてください。ま、死ぬ気も殺されてやる気も全くないですけどね。」
三秒ほどでクエスチョンマークが消えた村長さんが、食って掛かってこようとしたが、それを片手をあげて制しつつ、続ける。
「この村を見た限り、カイの村は海と共に生きている村で、決して海を食い物にしている村ではないです。ならば今回の被害は罪による罰則ではなく、ただの降って湧いた理不尽な暴力の他ありません。そんな理不尽は取り除かれなければならない。」
理不尽に手足が付いたような私が言うのも何なんだけどさ。さしずめ、同族嫌悪とでもいうべきかな?
「それに村の人々にとって村を捨てるという行為は、大げさかもしれませんが私には死ぬのと同義だと思っています。死を黙って待つのは罪人だけで充分なんですよ。さて、明日は化け物退治、寝るとしましょうか。」
コップの中に残っていたお酒を一気にあおると、『リキッド』で作り出した水で軽くすすぎ、酒瓶と一緒にカードの中にしまう。立ち上がると軽くあくびが出たので村の方へと歩く。
「どうか、私達に向けられた理不尽な暴力、取り除いてください。お願いします。」
後ろから聞こえたその願いに私は振り返って笑いかけながら答えた。
「お願いされました。」
とね。
というわけでマナとコーストさんの会談でした。いよいよバトルか、と思った方はすみません、バトルは次の話です。あっさり片付けるのか、翻弄されるのか。それともあっさり負けて話が終わってしまうのか!?
それでは次話もよろしくお願いします。




