撤退の前にちょっとね・・・
マナの面倒くさがりな部分がすっかり影を潜めてしまっている、と思われている読者の方もいると思いますので追加説明しますと、マナは自分が好きなこと、やりたいことに関してはいっさい労力は惜しみません。
という追加設定をしたところで続読お願いします。
朝、現在時刻五時半。よし時間に問題なし。それでは!
「一時撤退を決行する!」
と叫んだ。もちろん朝なので迷惑はかけない様に小声で。しかしリンはそれで起きたようで眠い目をこすりながらあくびをする。少しパジャマがはだけていて、きれいな鎖骨が覗いている。・・・誘っているのだろうか?確か義理の妹にしたはずだから襲っても戸籍上は問題ないよね?いや、でも・・・
「どしたの、お姉ちゃん。なんか何かと戦っている感じがするんだけど。」
うん、現在君のために私の理性が欲望との激しいを繰り広げているんですよ。だからもう少し待っててね。やっと理性が有利になってきているところだから。
リンには顔を洗って着替えるように言ったので顔を洗いに洗面所へ姿が消える。そこで私の中の戦いも理性の勝利で終わる。良かった、近親相姦にならなくて。
というか姉妹になって三日目にもう間違いが起きる姉妹ってどうなのかな、倫理的に。考えるまでもなくアウトだね。近親相姦、ダメ、ゼッタイ。そう、麻薬の標語に当てはめて心に刻む。
リンは顔を洗って戻って来て着替えをしながら私に訊いてきた。
「それで?撤退ってどういうこと・・・ってああ、イーヴァさんからか。」
正解。というわけで、リンが着替え終わるのを待ってイーヴァさんに書置きを残してギルドへ向かって行動を開始した。
「う・・・あさ、ですか。」
朝日が目に入って目が覚めた。そこで私は違和感に気づいた。
「あれ?何で私、下着で寝ているんでしたっけ。」
そう言って昨日の出来事を思い返す。確か昨日は朝から誘拐犯グループの情報を聞きつつ、突入部隊の編成を組んでいたんですよね。そして昼前にマナさんとリンさんが来て・・・あ!
「確かお風呂で二人にくすぐられて、っ!」
今更ながらに赤面する。洗顔してみたがなかなか顔のほてりが止まらない。すぐに着替えてマナさんとリンさんの部屋に向かう。今回ばかりははっきり言ってやらないと気が済まない。
五分ほどかけてほてりをおさめると二人の部屋のドアをノックをする。
「マナさん、リンさん!起きてください、今日という今日は・・・って聞いてますか!開けますよ!」
と言って返事が無いので勝手に開けさせてもらう。すると中には誰もいなかった。
「あれ?」
キョロキョロと見回してみるが誰もいない、というよりは気配がない。
「どこに行ったんでしょうか、二人とも・・・ん、これは?」
机の上にあった紙を拾い上げてそこに書いてあった文章を読む。
(イーヴァさんへ
昨日はすみませんでした。あまりにも反応がかわいかったので、つい、やりすぎました。ってこれ書いたらまた怒るかな。怒るよね。ほんとーにごめんなさい。これでも反省しているので許してください。でもやっぱり怖いので謝る勇気が出るまでしばらく寮を空けます。むやみに禁忌魔法を使ったりはしませんし、そのうち戻りますので安心して待っててください。
マナ・リンより)
二、三回程読み返した後、思わずその紙を握りつぶして叫んでしまった。
「あなたの安心してくださいは誰よりも安心できないんですよーーーーーーー!」
こうなっては仕方がない。急いで騎士団詰所の執務室に飛び込み全ての部隊に回線をつなぐ。
「騎士団団長のイーヴァです。大至急、マナさんを探してください。つい最近騎士団にきた黒髪の女性です。服装は珍しいものを着ているのでわかりやすいと思います。今は十二歳程の女の子と共に行動しています。見つけた方はすぐに私の執務室まで連絡してください。よろしくお願いします。」
そう連絡を回して椅子にもたれかかり溜息をつく。溜息をついたのはこんなことをしても無意味だと分かっているからだった。
「分かっていますよ。貴女ほどの方がこんなことでは見つからないし、見つかったとしても捕まえられないことぐらい。本当にどこにいったんですか、マナさん・・・はぁ。」
こめかみをおさえながらもう一度溜息をついた。もう勝手にしてくださいとばかりにマナさんとリンさんを組み込む前の突入部隊編成の紙をゴミ箱へ放り投げた。
イーヴァさんが起きて騎士団全体に連絡を回す三十分ほど前。私とリンはギルドに着いていた。っていうかギルドって年中無休なのね。朝だから人は少ないけど開いてるし。
「おはようございまーす。フォーセさんいます?」
と声を掛けながら入っていった。そこらへんに酔っぱらって寝ている人たちがいるが気にしない。酔っ払いに人権は存在しない!
私の声に反応したのはギルドのカウンターにいた厳ついおじさん、フォーセさんだった。
「よう、嬢ちゃん。今回は団長さんと一緒じゃないのかい?」
「ええ、今日はこの子と一緒に仕事したいなぁと思いまして。」
そこまで言った時フォーセさんが
「ああ、そうだったぜ。忘れるところだった。ちょっと待ってな。」
と言って奥に入っていった。どうしたんだろうか。リンと二人で顔を見合わせて首を傾げているとフォーセさんが一枚の赤いカードを持って奥から戻ってきた。
「ほらよ。嬢ちゃんのギルドカードだ。団長の口添えで初めから{Aランク}だからって無理すんなよな。」
「ギルドカードって何?」
その発言にフォーセさんだけでなくリンにも、えっ、何言ってるのこの人って言わんばかりの視線を向けられる。知らないものは知らんのですよ。説明お願いしまーす。
「ギルドカードを知らんとは。本当に{A}を渡してよかったのか、イーヴァ。まあ、いい。作っちまったもんは仕方ねえからな。」
と呆れつつも説明してくれた。その間リンには依頼書を見てもらっていた。
「ギルドってのはいろんなところからの依頼を供給することで成り立っている所だ。その集められる依頼の種類も難易度も様々でな。依頼によってはこっちが殺されかねないやつもある。そのためにギルドでは冒険者のランク付けをやってんだ。
「ランクは全部で表向きには{A}から{E}までの五つでそれぞれギルドカードの色が違うんだ。{A}から赤、青、緑、黄、白。{A}であればここにある全ての依頼が受けられる。
「でもってギルドカードには魔法がかかっていてな。何か持っていきたいものにかざすとギルドカード内に収納することが出来る。収集系の依頼を受けた時に使うといい。収納したものは腐ったりしないから食べ物を入れるにはちょうどいいな、ってどうした?」
思いっきりそこに食いついたのでフォーセさんが一歩下がる。ごめん、でもいいこと聞いたので活用させてもらおう。では続きを。
「続きってのは無いんだけどな、さしあたって今のがギルドカードの説明だな。再発行はしてやれるが失くすなよ。なんか質問はあるか?」
訊きたいことは一つあった。
「表向きってどういう事?」
そう、さっきランク付けの際にフォーセさんは表向きって言った。ならば裏向きにも何かあるはずだ。
「ああ、実は{A}の上に{S}があるんだ。ただし他の奴には言うなよ。上がろうとしてAランクの依頼を受けるバカがいそうだからな。」
なるほどそれはいるだろうな。現にここにいるし。
「{S}に上がるにはどうしたらいいの?」
ギロッと睨まれる。その目にはお前もか、という無言の声が含まれていたが、そんなことを気にする私ではない。ニコッと笑い返すと溜息を吐かれた。
「Aランクの依頼の中でも特殊なものがいくつかある。それを三回から五回ほど受ければいい。」
なるほど、説明ありがとうございます。というわけで。
「リン、なんか面白そうなAランクの依頼無い?」
「やっぱりか!」
とフォーセさんが叫んだが聞く耳を持たないし持つ気もない私。リンはリンで選んでくれてるしね。全くいい妹でお姉ちゃんは満足です。
私も掲示板の方に足を運ぶ。そろそろギルドに入ってくる人が来たので目についた討伐系Aランク依頼を最初だから自分が選んだ一つとリンの選んでくれた一つの合計二つを持ってカウンターへ行く。そこには厳ついだけでなく仏頂面をしたフォーセさんがいた。
「じゃあ、はい。お願いしまーす。」
そう言って私はカウンターの上に依頼書を置いた。一つは海にいるという化け物の討伐。一つは森にいるという化け物の討伐。予想ではクラーケンと巨大サルか何かなんじゃないかな。
「本当にいいのか?下手すりゃ死ぬぞ、その子含めて、間違いなくな。」
本当のことなんだろう、静かに言ってきた。でもそんなの私に関係ない。いざとなれば存在ごと消滅させればいいだけの話だしね。リンには傷一つ負わせるつもりはない。
「だいじょーぶです。私を信じてください。」
「信じられないんだがどうしたらいい?」
それをきっぱり言われてしまったらどうしようもない。何とも言えずに黙っていると、
「仕方ねえな。イーヴァの顔に免じて承認してやるからカード出しな。」
ため息交じりに片手を出してくれた。きっと諦められたんだろう。少し悲しくなりながらも、もらったばかりのカードを渡した。
するとフォーセさんは依頼書に押されていたギルドのマークと思われる朱印の上にカードをかざした。すると、カードの左側の黒いバックの欄に二つの赤い星が灯ったのが分かった。後で聞いて分かったのだが討伐系が赤、収集系が青、製作系が緑に点灯するらしい。
赤の星が二つ点灯した状態で私に返してくれた。
「んじゃ、行っていいぞ。ああ、そうだ言い忘れた。カードの中に野宿に必要な物はいれておいたからな。使いたいときはカードを出しながら、出したいものを思い浮かべれば出てくるようになってる。うまく利用しろよ。」
へー、便利な物も入れてくれるんだな。さて、そろそろイーヴァさんも起きるだろうし、この国から出ますか。
「リン、海と森、どっちがいい?」
そう訊いてみると少し迷った後、
「海がいい。海見てみたい!」
非常に元気のいい返事が返ってきた。なるほど、それが理由でクラーケン討伐を選んだのね。B以下を選ばなかったのは私を信じてくれていたのだろう。
「じゃ、まずは海に行こうか。じゃーね、フォーセさん。行ってくるよー。」
手を振りながらギルドを出ようとする。するとカウンターからボソッと彼なりのエールを送ってくれた。
「死ぬなよ。あんたが死んだら俺がイーヴァに合わせる顔が無いからな。」
りょーかい、朗報を期待していてください。と心の中で返事をして手を振って今度こそギルドを出た。
やっと姉妹が冒険らしい冒険に出ます。こういうストーリー展開でいいんでしょうか。ここまで来ると若干不安になってくるんですよね、読者の皆さんに楽しんでもらえる方向に持っていけてるのかどうかっていうのが。
とりあえずこんな展開で頑張っていきますので次話以降もよろしくお願いします。そして感想も心よりお待ちしております。




