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疑惑?

 

 

「――違うって! 被ってねぇよ! マジで違うって!」

 必死の形相で否定するキノコ頭がトレードマークの姿があった。

「被ってねぇし、カムリじゃなくてカムイだし! 名前で遊ぶなって! おこだぞっ!マジおこだかんなっ!」

 どうやら、名前をもじられからかわれていた様だ。

 慌てふためく姿が疑惑をより大きくしていく。否定すればするほど立場はどんどん苦しくなっていった。

「鬼頭くん、何も僕は責めるつもりで言ったわけじゃないんだよ。被っててもいいじゃないか。胸を張って出そうじゃないか」

 ムキムキボディーを誇示しながら好男は必死な鬼頭を慰める。

 初めは大きさの話題だった。それが、いつの間にか頭を出しているかどうかの話になり、頑なに口をつぐむ鬼頭にある疑惑が浮上し部室は異様な雰囲気に包まれる事となる。

 男の尊厳に関わる重要な問題……鬼頭は己の名誉を守るため必死の抵抗を見せていた。

「違うぞ、違うからなっ! 俺は無実だっ、冤罪だっ! 被ってるとか、勝手に決めつけるなっ!」

 足掻けば足掻くほど深まる疑惑。

 大人しく答えれば、ここまで問題は大きくなる事もなかったはずだ。

「――鬼頭、落ち着くでござる。日本人の大半は被っているから、別に恥ずかしがる事なんか無いでござるよ」

 断固として供述を拒否する鬼頭をなだめようと金太はフォローを入れる。

「それに、まだこれから成長するから、希望を捨ててはダメでござる」

「決めつけるなゴラァ!」

 何を言っても聞く耳を持たない。

 これは聖戦だ、と言わんばかりに徹底的に抗い続ける。

「てめぇら剥けてるからって調子に乗るなよ!」

 頭に血が上った鬼頭は、涙目で叫ぶとカバンを取って部室から出て行った。完全な敵前逃亡。はっきり言ってバレバレである。

「……鬼頭くん、泣いてたね」

 菊門は少し申し訳なさそうに呟く。

 男子なら一度はするであろう身体の話題。笑い話で済むはずだったのに、何故か出頭している者ばかりで、言うに言えない状況になってしまった事に皆気まずい空気を感じていた。

「偶然とはいえ、鬼頭くんには酷な現実だからな」

 同じ男子の身。好男は鬼頭の苦しみが何となく理解できた。

 茶化すつもりは毛頭ない。ただ確かめたかっただけで悪意はなかった。

 それでも鬼頭を傷つけてしまった事に同情を禁じ得ない。

「明日、きちんと謝ろう。僕たちも、どこかで彼を下に見てしまったのかもしれない。自分の成長を喜ぶあまり、彼の気持ちを考えてやれなかったんだから」

 好男の言葉に菊門と金太の二人は無言で頷く。

 せっかく連休のイベントに向けて気持ちをひとつにしようと思っていたのに、ここで絆に亀裂を生じさせるわけにはいかなかった。

 三人は手に手を取り合って、鬼頭への謝罪を誓った。

「――何してんの?」

 三人が一致団結していると、ひかるが遅れて部室に入ってきた。

「鬼頭くん、何か叫びながら走って行ったけど……何かあったの?」

 すれ違い様に走り去る鬼頭の姿に事件の匂いを感じる。

 ひかるの言葉に三人は沈黙する。鬼頭の名誉のために理由は絶対に言う事は出来ない。

 男の尊厳に関わるのだ。

「……ひかる殿、それは聞かないでほしいでござる。これは、男の問題であり女のひかる殿には口が裂けても言う事は出来ないのでござる」

 いつになく真剣な表情で金太はひかるに言い聞かせた。菊門と好男もその言葉に頷き、事の深刻さを伝える。

 重い雰囲気が部室を包み込む。さすがにこの状況ではひかるも詮索しようとは思わなかった。

「うん、わかった。じゃあ、鬼頭くんの事はみんなに任せるわ」

 ひかるは真剣な表情で向き合う三人に気圧されつつ、自分の席に向かうとカバンからノートパソコンを取り出した。

(みんな、どうしちゃったのかしら?)

 これほど真剣になっている鬼頭の問題が気になる。しかし、余計な事を聞いて場を乱すのも悪いと思い、湧き上がる好奇心を抑えると執筆活動を始めた。

 三人は小声で何やら話し込む。忍者に男の娘とマッチョが真剣な表情で語り合う姿……その光景は見ていて不気味だった。

 何か起きそうな予感がする。ひかるは三人を横目にそう思わずにはいられなかった。

 

 

 




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