新入部員
創作愛好会の部室。
ソファーに並んで座る鬼頭と金太は、その異様な光景に戸惑いの表情を浮かべていた。
向かいのソファーに座る菊門と大柄な男……二人は手を繋ぎ微笑み合っており、端から見ても唯ならぬ関係である事を窺わせていた。
その少し離れた場所でお茶を入れていたひかるは、腐女子モードでニヤニヤしながらテーブルにお茶を並べていく。
熱いお茶からは湯気が立ち上り、まるで熱々の二人の情熱を彷彿させる。ニヤニヤの止まらないひかるは、そんな妄想に耽りながらテーブルにお菓子入りのバスケットを置いて四人の横にパイプイスを持ってきて座った。
「――彼、町代好男さん。入部希望者なの」
菊門は大柄の男―町代好男―の逞しい上腕二頭筋に手を添えながら、待ちに待った新入部員を紹介する。
「はじめまして。ボク、町代好男。趣味はトレーニングと筋肉鑑賞。キミたちもなかなか良い身体しているね」
見た目とは裏腹に好男はハキハキした口調で爽やかな笑顔で挨拶する。
「香のクラブが楽しそうなので、ボクも一緒に活動したいと思ったんだ。鬼頭くん、枚田くん……一緒に青春しようね」
はちきれんばかりの笑顔で手を差し出す好男。
「……は、はぁ」
「……よ、よろしく、でござる」
鬼頭と金太の二人は、恐る恐る差し出された手を握り、背筋を走る悪寒に身を震わせつつも引きつった笑顔を返す。
「私は上條ひかる。よろしくね」
怯える鬼頭と金太を横目にひかるは満面の笑みで両手を差し出す。しかし、好男はひかるを一瞥するとその手を制する。
「すまない。ボクは女性との触れ合いは苦手なんだ。握手は出来ない」
「――えっ?」
先ほどまでの笑顔はどこへやら。まるで汚物を見る様な蔑んだ目でひかるを一瞥し、感情の欠片も見せない無の表情で握手を拒否する。
そのあまりの態度の豹変ぶりに、ひかるは好男のガチさを知り慌てて手を引き頭を下げた。
「好男くん、ごめんね。今後気をつけるわ」
想像以上の本物っぷりにひかるは素直に謝る。冷たくされても気分は悪くなかった。むしろ恰好のネタになると内心ガッツポーズ状態だった。
これでクラブの解散は無くなり、クラブの活動資金の使い込みも隠蔽できる。ひかるにとって良い事尽くめである。
「……で、マッチョ……じゃない、町代くんは菊ちゃんのクラスメイトだっけ?」
鬼頭は二人のラブラブぶりに悪い予感しか感じなかったが、つい怖いモノ見たさに聞いてしまう。
「違うよ。いや、同じクラスだけど、ボクたちは恋人だよ」
好男はドストライクな答えを返し菊門の肩を抱き寄せる。
「いやん、照れちゃう」
菊門は頬を染め好男に抱かれるままに身を任せる。
予想通りの答えに鬼頭と金太は身の毛のよだつ思いに駆られた。
部員が増えて喜ばしいはずなのに、素直に喜べない鬼頭と金太。お互いに顔を見合わせ、何故か肩をガックシ落とすのであった。
ラブラブな雰囲気を周囲に振りまきながら、菊門と好男の二人はデートに行くと帰って行った。
付き合いはじめなのだろう、片時も手を放さず身体を寄り添いイチャイチャしまくるその姿は、違った意味で精神衛生上よろしくなかったので帰ってもらって良かったと鬼頭と金太はつくづく思うのだった。
そんな二人とは対象的にひかるは自分の席に戻るとカバンからノートパソコンを取り出し、菊門と好男のやり取りや仕草などを書き込み、時折ニヤリと不気味な笑みを浮かべながら悦に入っている。
彼女にとって彼らは最高のネタなのだ。男の娘とマッチョのカップル……ベタと言えばベタなのだが、目の前で起こるリアルは衝撃という他表現できる言葉がない。
ひかるにとって、初めて見る同性カップルの姿は、それほどのモノだったのだ。
部室に響くキーボードを叩く音。
黒い情熱を一心不乱に打ち込む腐女子の姿は、まるで毒薬を調合する邪悪な魔女の様に二人の目に映る。
(……嫌な予感がしてきた。帰るが勝ちだな)
鬼頭は金太に合図すると、創作に夢中になっているひかるから逃げる様に部室から出て行った。




