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部員集めはツラいよ

 

 

 休み時間。教室の移動が無ければ、ただ席に座って時間が過ぎるのを待てばいい。

 リア充を尻目に彼は時の流れに身を任せる。

 友達が出来ないのではない。作らないのだ、あえてね。

 話しかけられないのではない。話さないのだ、あえてね。

 マッシュルーム・カットで小太り。眉は太く目がやけに鋭い。全体的なフォルムが危険を醸し出し、知らず知らずのうちに人を遠ざける要因となっている。

 ある意味高校生離れした男・鬼頭神威は、自由の意味を履き違えた周りの生徒たちに怒りを通り越して呆れ果てていた。

(……こいつら、腑抜けてやがる。たかが十分の休み時間にだらけやがって……)

 次の授業まで十分しか無い、という現実。その貴重な時間を無駄な体力の消費で終わらせるなど愚の骨頂だ。勉強できる時間は限られているのだ。

(……くくくっ、良いだろう。後で気づくはず。圧倒的点差で俺が頂点に立った時、自分の愚かさに気づくのだ……)

 鬼頭はくくくっ、と笑うとチャイムが鳴るのを静かに待ち続けた――。

 

 放課後。

 新設されたばかりとはいえ、部活動は本格的にスタートしている。

 まだ決められない者、決める気もない者、部員が集まらず同好会も作れないで身動きできない者など、まだまだ多くの生徒が帰宅部の状態であった。

 綺羅星学園では、今時珍しく幽霊部員でも良いから何らかの部に所属する事が義務付けられている。

 そのため、部員の少ないところは放課後になると校門前で勧誘していた。無論、部員の少ない創作愛好会もその例に漏れずビラ配りをして部員の勧誘に勤しんでいる。

「――創作愛好会でーす、良かったら一度遊びに来てね~」

 過ぎゆく生徒たちにビラを次々と配る女子生徒。いつも三つ編み眼鏡腐女子こと上條ひかるだった。

 見た目と言動がアウトな二人は論外として、男の娘の菊門に頼むのも気が引ける。かといって今いる四人では部が存続できないので、最低ラインである部員五人を早く達成し無ければならず、ひかるは執筆の時間を削って勧誘を続けるのだった。

 複数のクラブで迷っているクラスメイトに、本命が決まるまでの間だけ幽霊部員になってもらっていたので、内心ひかるはかなり焦っていた。

 部に支給される活動資金で自分専用のノートパソコンを買ってしまい、部が消滅するとその代金を返さなければなくなりフトコロがかなり痛くなる。しかもみんなに活動資金を自分だけで使った事がバレると何かと面倒そうなので、ひかるとしては一刻も早く部員を見つけ出し安心したかったのだ。

 完全な自業自得なのだが、考えるより動け精神で部員になってくれそうな生徒に片っ端からビラを配り、少しでも興味がありそうな雰囲気の生徒には声もかける。

「――鬼頭くんがいるの?」

「私、枚田くん苦手なの……」

「鬼頭くんって、ちょっと危なそうだから遠慮するわ」

 返事はことごとくノー。しかもド直球な理由にぐうの音も出ない。

 中二病をこじらせ過ぎて他の生徒たちとマトモなコミュニケーションが取れていない上に、周りから敬遠される様な言動を繰り返す二人は、ある意味学園内で有名な存在だったので、ひかるも強引に引き込む事ができずにいた。

(あの二人、後でバナナの刑に処すしかないわね)

 勧誘できなかったら二人の目の前でバナナを食べる……先日の出来事がトラウマになっている二人にとって、この行為はただの拷問でしかない。

 それくらいの罰を与えないと気がすまない。ひかるは己の過ちを棚に上げ、勧誘の失敗を二人の責任にしようと決めた。

「――あら? 上條さんじゃない。どうしたの、こんなところで?」

 黒い思惑に不気味な笑みを浮かべるひかるに一人の女子生徒が声をかけてきた。

 振り向けば長身の女子生徒が不思議そうにひかるを見ている。

 クラスメイトの子だ。ひかるは彼女の名前を思い出そうと頭をフル回転させる。まだ全員の名前を覚えていないひかるは懸命に記憶を掘り下げる。

 そんなひかるの様子に少女はクスッと笑う。

「――私、桜並木小春よ。上條さん、クラブ勧誘しているの?」

 小春は大量のビラを小脇に抱えるひかるを見て、少し興味深げな視線で話しかける。

「よかったら見せて。私、まだクラブ決めてないのよ」

 そう言うと小春はひかるからビラを受け取り、クラブの説明内容に目を通す。

 もしかしてイケる?

 ひかるは進んでビラを見る小春に淡い期待を寄せる。

(オタ系には見えないけど、幽霊部員でもいいから誘ってみようかしら)

 一瞬、鬼頭・枚田のダブルアウト・コンビが頭をよぎり、躊躇しそうになるも己の使い込みを隠蔽するためには背に腹は返られず、意を決して小春を誘う事にした。

「あ、あのさぁ、もし良かったら、一度遊びに来ない? 創作愛好会って言っても特に決まった作品を作るとかじゃないの。基本的に個々の自由に活動できるから、他の部活に比べたら敷居は相当低いよ~」

 ひかるは出来るだけ簡潔に話し、気軽さをアピールする。

 合同クラブ的な側面が強い創作愛好会は、確かに他のクラブに比べると敷居はかなり低いと言える。極端な話、部室に行かないで自宅で活動しても何の問題もなかったりする。

 その点だけ見れば、創作愛好会ほど幽霊部員に適したクラブは無いと言えよう。

 小春はひかるの説明に納得した様に頷く。

「……ふーん、そうなんだぁ。でも今日は用事があるから、また今度でいいかしら?」

 ビラを折りたたんでカバンの中にしまいながら申し訳なさそうに言う。

「自由な感じが気楽そうでいいわね。私、別にやりたい事あるわけじゃないから……こんなのでも良かったら一度遊びに連れて行ってくれる?」

 意外な答えにひかるは咄嗟に言葉が出ず何度も頷いては喜びに身体を打ち振るわせる。

(やったー、やったー、これで部活解散無しよ~)

 使い込みの隠蔽の成功を確信し、罪悪感から解放されたかの様に喜びを爆発させる。しかも同じ女子。やはり同性がいるといないとでは雰囲気も楽しさも違う。

 ひかるは少し興奮気味に小春の手を掴み強引に握手する。

「ありがとう、ありがとう。小春ちゃん、今度ヒマな時でいいから一度遊びに来てね。創作愛好会はいつでも大歓迎で待っているから」

「……え、ええ。じゃあ、私はここで失礼するわね。勧誘頑張ってね」

 笑顔で握手を交わすと小春は手を振り校門を出る。その姿が見えなくなるまでひかるはいつまでも手を振って見送るのだった。

 

 

 




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