開き直り
悔しさに怒りが湧き上がる。悲しさに涙が零れ落ちる。やるせなくて、切ない夜。
キノコ頭が悲壮感を漂わせる。
狙ってなどいない。ただ好きなだけだ。人と好みが違うだけ。
鬼頭は自分だけが成長し切れていない事実を突きつけられ、絶望の淵に立っていたが高校生なのだから仕方ないと考えを改める事にした。
真性じゃない。それが彼に希望を与えていたのだ。
――自宅に戻った鬼頭はネットで調べまくった。そして、仮性なら自然に大人に変われる事を知り、前向きに生きようと決めたのだ。
最悪の場合は手術すればいい。
そう思えば多少成長が遅れている現実もポジティブに捉える事ができる。
能天気なのか、メンタルが強いのか。気持ちを切り替えるとベッドに潜り込み静かに眠りにつくのだった。
翌朝。
気分晴れやかに一年一組の教室に入ろうとする鬼頭に金太が声をかけてきた。
「鬼頭、おはようでござる。昨日はすまない事を反省したでござる」
開口一番、昨日の謝罪を口にする。
その言葉に鬼頭は笑顔で受け入れる。
「あ、もう気にしてないよ。いや、気にしてもどうしようもないから開き直る事にしたぜ。でも、俺はマーズだからな。そこは間違えないでくれよ?」
昨日とは全く異なる態度。あまりの変わりように金太は戸惑いを覚える。
「……お、おう」
思わず語尾にござるを付け忘れる。
男の尊厳に関わる重要な問題だったはずなのに、まるで別人の様な変貌に金太は驚きを隠せなかった。
鬼頭の変貌に菊門と好男も金太と同じく動揺した。
あまりのショックにおかしくなったのか?
思わず疑いたくなるくらいの変わりっぷりに大量の疑問符が浮かぶ。
「――で、結局のところ仲直りしたんだ。いったい何があったの?」
詳しい話がわからないひかるは、深刻な問題っぽく真剣に話し合っていた三人の姿を思い浮かべると疑問を口にせずにはいられなかった。
「一日で機嫌が直る内容なら、別に聞いても良くない?」
どうせロクでもない話なのだろう。ひかるは軽い気持ちで聞いてみる。しかし、三人は口を閉ざし決して教えようとはしなかった。
「これは絶対に言えないでござる。ひかる殿、世の中には知らなくて良い事があるんでござるよ」
金太は厳しい表情でひかるを諭した。
男同士なら笑い話にできても、それが女性に知られたらどうなるのか。考えるまでも無い。さすがにそんな残酷な仕打ちはできない。
三人の神妙な顔がひかるの中にある暗黒面を刺激する。
(……そこまで言うなら、後で兄さんに聞いてみよう。男にしかわからない話なら兄さんに聞けばわかるかもしれないわ……)
ここまで頑なに秘密にされると、どうしても知りたくなる。
男の問題と言っていた。男同士の秘密という響きがひかるの好奇心を大いに刺激して仕方なかった。
(……ネタになりそうな話だと面白いんだけどなぁ)
ひかるは場の空気を読んで大人しく引き下がる。
自分の席に着き執筆の準備をすると、ネタ帳を引っ張り出して男同士の秘密というワードを記入し、その意味を色々想像しては顔をニヤニヤさせていた。




