オレと理沙
おに~ちゃん、おに~ちゃん。
甘ったるくも可愛らしい声で、そう呼んでくれる年下の幼馴染がいた。
オレは昔から一人で遊ぶのが好きだった。
いや、友達はいたぞ?学校では友達とサッカーやドッヂボール。相撲。なんでもして遊んださ。
けれどオレの趣味はそのころから…創作だったのだ。
高校生となった今ではフィギュア作りとかプラモ作りとかにいろいろ手を出しているが、小学生の頃にハマっていたのは砂の城。
公園の砂浜の一角で、いつもオレは一人で砂の城を作るのに没頭していた。
何故一人か?小学生の子供なんてのは作るより破壊の方が楽しいと思うヤツの方が多いから、オレは知り合いの少ない少し離れた公園に足を伸ばしていた。
少なくともオレの友達は作成途中の砂の城を悪気があるワケではなく笑顔で破壊していく連中だったよ。
少し離れた場所の公園で知り合ったのが年下の幼馴染となる…原岸 理沙。
こいつはいつの間にかいた。
オレの作る砂の城を「お~」と馬鹿っぽく口を空けながら目を輝かせて見ていたのだ。
けど、見るだけで壊しはしない。だったら好きにしていればイイと放置した。
そして日が暮れる頃…砂の城が完成する前に日が暮れてきたので帰る事にした。
子供に計画性なんてない。次の日に来た時には砂の城は他の子供に壊されるか、風で壊れるかで消えてしまうがその頃は作る事が楽しいと思っていたので完成を目的としていない。
…まぁ、どうしても計画立てて作れなかったから意固地になってそう思うようにしていたのかもしれないが。
小学生に計画性なんて言葉はそうそうないだろ?
まだ自己紹介もしていなかった理沙だがオレが帰ろうとすると「また作って、また作って!」とオレの服の袖を掴んで駄駄をこねてきた。
子供心にも面倒なヤツだな、と思ったがどうせまた作りにくるしオレは了解して帰宅した。
そして次の日。学校が終わって例の公園に行くと…予想通り前日に作った砂の城は壊れていた。理由は分からん。どうせ子供か風だ。
しかし、今日はオレの元・砂の城の前に一人の女の子がいて…「うぇ~ん!!!」と盛大に泣いているじゃないか。しかも昨日の女の子だ。
流石にこの状況じゃ砂の城作る気分じゃなかったので、何があったと聞いたら…。
砂の城が壊れてる。それだけの理由で泣いていた。
壊れるのは分かっていた。だから泣くな、また作ると言っても泣き止まない。
仕方ないので公園の遊具で遊んで気を紛らわす事にした。
涙で顔を真っ赤にしていたが、無理やりブランコに乗せたりシーソーで遊んだり一緒に滑り台を降りたり。
そうこうして理沙の元気が出たところで日が暮れたので帰宅。
次の日こそは砂の城を作ろうと翌日また公園に行ったら…。
また理沙がいて、遊んで遊んでとせがんできた。
鬱陶しかったが、砂の城作れる感じではなかったので遊んでやった。
しかし次の日も、その次の日も遊んでとせがんでくるもんだからオレはキレて砂の城を作らせろと怒鳴ってやった。
案の定、理沙は泣く。しかし今度は慰めてやらない。
ここで遊んでやったらキリがないからな。
しかし、数分もしないうちに理沙は泣きやむ。
はじめて会った時みたいにオレの作る砂の城を見て「お~」と馬鹿っぽく口を空けながら目を輝かせて。
…つい、オレは一緒に作るか?と聞いてしまった。これなら一緒に遊びながら砂の城作りもできる。
慣れない共同作業なんて形がいびつになるだけだと思ったが、どうせオレは作るのが目的だ。完成は期待していない。
完成する事に越した事はないが、砂の城は完成しないのが基本だったからな。
けど理沙は「見てる!」と元気よく言って手を出してこなかった。
その日は勿論、砂の城は完成しなかった。
けれど次の日はたまには完成したのを見せてやりたいと思って、妥協しながら作って完成品を見せてやった。
その時の…今までで一番、輝いた顔をした理沙の顔を今でも覚えている。
それからは遊ぶ、創作、遊ぶ、創作と繰り返しながら時間がたち…オレは高校生となり美沙は中学生となった。
今のオレはフィギュアやプラモに作る物が変わったが、特に変わっていない。
変わっていない。変わっていないさ。相変わらず作る事に青春を感じている。
しかし…。
「うぉぉぉぉい!また壊しやがってこのやろぉぉぉ!」
「…キモイ。オタク」
「オレがキモかろうとオタクだろうと壊していい理由にならねぇよ!?」
今の美沙は…昔のすぐに泣き、すぐに目を輝かせて喜怒哀楽の激しかった頃とはずいぶん変わった。
女の子らしく髪は伸ばし、サラサラで。性格はかなりクールになって無表情。更には毒舌。昔はオレの作った物をなんとか守ろうと試行錯誤してくれた事もあったが、何故か今は壊す側。
今更物を壊したがるとか反抗期の男子中学生か!理沙は女の子だし、作る側だったオレは物を壊さず静かに反抗期を過ごしたぞ!
…未だに昔と変わらないのは、そのぺったんこで『つる~ん』て擬音が出そうな胸くらいだ。
「どこ見てる変態。気持ち悪い」
「………」
はっ!見る物ねーじゃねーか!と怒鳴りたくなったが、あまり言うと泣かせてしまうかもしれない。
理沙は昔と違ってクールな毒舌家になったが…それでも幼馴染だ。つい昔と同じように接してしまう。
そうだ。昔と同じだ。だからオレもクールになれ、オレ。
「はぁぁぁ…。コレはな、クラスのダチに頼まれた物だったんだよ。期限もないからまた作るけどよ、あんま壊すな」
そう、また作ればイイ。
壊されたのは粘土台から自分で作り上げている途中の完全オリジナル美少女フィギュアだったが、また作ればイイのだ。
オレは今も作る事に青春を捧げている。
作るものがフィギュアやプラモになったのは、高校に入ってからできた友人たちがオタクで。昔の理沙のようにオレが作るものに目を輝かせてくれたのだから作っているのだ。
「…また作るの?」
「そりゃ誰かさんが壊したからな」
壊された作りかけのフィギュアを片づけ、新しく作る準備をする。
最近はオレの作る物を壊すことを覚えた理沙だったが…作っている最中は邪魔をしない。
胸だけでなく、そこも数少ない昔と同じトコロだ。
そしてたまに創作中のオレを見ながら妙にそわそわしだすトコロも…。
「………もしかして、構ってほしいのか?」
「………!」
理沙は子供の頃にオレに怒鳴られて以来オレの創作を邪魔する事がなくなり、創作中は遊んでとせがまなくなった。
しかしオレが熱中しすぎて遊ばなくなるとたまにこうやって、目がそわそわして何かを訴えたそうに変な顔をする。
いつもの輝いた目ではなくなるもんだから、変だなと思ったものだがそういう時は遊んでほしいっていうアピールだった。
健気にも、オレの創作を邪魔しないと決めた事を無言で守っているのだ。明らかに態度で出てるけど。
「…それはない。高校生になってからオタクになってキモくなったヤツとは遊ぼうとは思わない」
「だったら何で今でもオレのトコロに来てるんだよ?」
「………」
毒舌も黙り込み、無言になる理沙。
そっぽを向いてオレの顔を見ようとしないので、理沙がオレの部屋で座る時の定位置になっているベッドの横にオレも座る。
「………馬鹿。キモイ。ちきゃよるな」
「…噛んだな」
「かんでゃない。…噛んでない。変な事を言うな変態」
…なんか、凄く可愛いな。
そういえば最近は創作か高校の友人と遊んでばかりで理沙に構っていなかった気がする。
オレの中では相変わらず遊ぶ、創作、遊ぶ、創作を繰り返していたし、理沙もしょっちゅうオレの家のオレの部屋に来るもんだからあまり気にしていなかったが。
…けど、こうして久しぶりにじっくり理沙の顔を見たら可愛いと思ってしまった。
クールになって毒舌家になってオレの物を壊すようになったが…。
昔と変わらず普段はオレの創作に目を輝かせ、たまに拗ねる。
…なんだろう、キスしてやりたいと思ってしまったが本当にオレは変態なんじゃないか。
昔はオレをお兄ちゃんと呼んで慕ってくれていた女の子に、こんな感情を抱いてしまうなんて。
流石にキスはしないが、無防備だった理沙の手にオレの手を重ねてしまう。
うわ、なんだこれ凄く恥ずかしい。顔が真っ赤になるのが自分でも分かる。けど、離したくはない。
「な、に…」
「いや、その…」
理沙も顔を真っ赤にしながら、オレの方に振り向いた。
しかし止めろ、とかさっきまでみたいにキモイ、とか変態、とかは言わない。
…おぃ。オレも男子高校生だ。反抗期は収まったが思春期だ。拒まないと…拒んでくれないと止まらないぞ。
「…おぃ。いつもみたいに…毒舌使わないと、何かヤバイぞ」
「………」
…なんとか、口に出して忠告した。
しかし理沙は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに…。
目を閉じて、唇を上げるような仕草をする。
…おぃぃぃ!?イイのか!?さっきまで構ってやらずに冷たい態度ばかりとっていたオレにそんなよぅ!
なんて、事が頭を過るが我慢できない。
ダメだ、オレ変態すぎる。野獣すぎる。
理沙を可愛いと思った瞬間にこんな自制が効かなくなるなんて。
…あぁ。自然と身体が動いちまって理沙の顔が近づき、まつ毛までしっかり見えてきて…。
…柔らかい。柔らかいな。
理沙の唇、凄く柔らかい。そして熱が体中を回っているような。けれど落ち着いた、幸せのような気分までもが体中を回る。
何秒かして、もしくは何十秒かたって。頼りにならない体感時間を感じながら、唇を離す。
離した理沙の唇から最初に出た言葉が…。
「…変態」
「…かなり、自覚している」
理沙は相変わらずの無表情。毒舌。だけど頬を赤く染め、恥ずかしいのか目がふらふらしながらもオレを見つめてきていた。
…いや、だからそういうのが何か可愛いんだって。
お前、オレを野獣にしたくてわざとやってるんじゃないか?
オレは理沙の手を離し、今度は両肩を掴んで…。
「…え。ちょ。…また?まって」
「もぅ、ここまで来たら我慢できねぇ」
わざとではなかったらしい。けれど我慢できねぇんだ。
そしてオレは無理やり。だけど理沙も拒む事はせず。
再び、キスをした。