06.姉の告白
「優、17歳の誕生日おめでとう~~!」
「ありがとう、姉さん」
家中を掃除し終わった後、姉さんが帰ってきたので夕餉をつくっていると、突然背後から抱きしめられ言われた。どこか酒臭かったことから、既に一杯引っ掛けてきたのだろう。
とりあえず、無難な返事をしておいた。
酔っている姉さんに絡まれるとロクなことがない。……素面でも同じことだが。
自分の誕生日ということもあって、夕飯は普段と比べると少し豪華だ。
姉さん一人の稼ぎで二人分が食するにはきつい。なので、いつもなら肉類はあまり食卓には見られないのだが、昨晩珍しく姉が気を利かせて鶏肉を買ってきてくれたので、それらをふんだんに使ってみた。
もちろん、肉だけでは栄養が偏ってしまうので、三食ひねもす食べている野菜類も豊富だ。肉4、菜類6といったところだろうか。
鶏のから揚げを咀嚼していると、こちらに視線を一瞥して姉さんが口を開いた。
「それにしても、優、あんた最近けっこう活き活きしてるわね」
「ん、そうかな?」
嚥下して、返す。
「以前は死んだ魚のような目をしてたわよ」
「そうだったかな?」
「ねえ、優」
姉さんの表情がキッと引き締まった。
「あんた、本当に私についてきて良かったの?」
「何を今更」
珍しく、姉さんが戸惑いの色を浮かべていた。
その声音から、どこか不安気な心情を察した。
「私についてこなくても、叔父さんのところに残る選択もあったのよ」
「でも、姉さんがこれ以上迷惑はかけられないって俺を連れてきたんじゃないか」
姉さんの言葉が、俺を厄介払いするようなものではないとわかっている。だから、こうして軽い調子で返せるのだ。
だが、どうして今更こんなことを蒸し返すのだろうか。
「そ、そうよね。それに、昔からあんた何故かこの家に来たがっていたしね」
「…………そんな覚えはないんだけど?」
さっきから思い当たる節のないことばかり言われている気がする。
ふわふわと、頭の中で記憶が浮いているような感じだ。覚えているはずなんだけど、思い出せないような。そんな、歯がゆい心情。
「それより、姉さん。今日、父さんの書斎を掃除していたら変な階段を見つけたんだ」
気まずい空気を払拭しようと、話題を転換した瞬間。
カラン。
姉さんが箸を取り落とした。次いで、得も言われぬような表情を浮かべる。まるで、不文律を侵してしまったような、恐怖を体現したかのような表情だった。
恐る恐る、口角を上げる。
「もしかして、姉さんも……」
知ってた? という言葉が出るよりも先に、姉さんが呟いた。
「優、大事な話というのはね……」
遮られ、代わりに紡がれた言葉は、深遠な深みを帯びていた。
「父さんと、貴方の左目のことなの」
「父さん、それに俺の左目?」
反射的に眼帯を押さえた。
二の句が継がれる。
「貴方の左目は、虹彩異色症なんかじゃない。父さんの……いえ、第13代目ライベル王国国王の息子、リーン・ウェルト・ライベル王子の目。ライベル王国の国宝である[カイロスの瞳]と呼ばれるものなの」
その瞬間。
俺は、全てを思い出した。