05.父の謎
通い慣れた道を自宅に向かって歩く。
いつも隣にいた花梨はいない。どこか物寂しく感じる自分がいた。
「…………」
無言で扉の前に佇む。
姉さんから渡されたスペアキーを使い、家の中に入った。
自室に荷物を置き、居間のソファーにもたれかかる。
姉は既に家を出たようだ。
俺は朝食の後片付けをし、出された宿題を終えて溜め息をついた。
一人自室で嘆息をつく。その行為が以前にも増した気がした。
何もすることがない。
暇を持て余した結果、家の掃除をすることにした俺は掃除道具を持って部屋を出た。
床を磨き、台所も拭き、姉の部屋も片付け(ビールの缶が散乱していて大変だった)、久方ぶりに父の部屋に入った。
亡くなった父の部屋は、暫く手をつけていなかったこともあって埃だらけだった。
机上にうず高く積もった埃を払い、フローリングを雑巾で磨いた。次いで、本棚の蔵書の間にこびりつくようにまとわりついた埃を払おうと一冊ずつ本を取り出す。
姉さんの帰りは七時頃だから、あと数時間は時間がある。今日は大事な話もあるようだし、それまでには終わらせておかなければ。
躍起になっていたこともあり、本を取り落としてしまった。
「……なんだ、これ?」
取り落とした本を拾ってみると、表紙に妙な紋様……魔法陣のようなものが描かれていた。
何の本なのか気になって眺めていると……。
「――――!?」
左目が酷く痛み出した!
同時に、突然表紙の紋様が光りだす。
じくじくと、眼窩の底から湧き上がる痛みに身悶えていると――。
ガン!
と、けたたましい音が背後から響いた。冷気が背筋を撫でる。
反射的に振り返る。
「う、嘘だろ……?」
視線の先には仄かな暗闇。
壁が裂け、突如として出現したソレは深淵たる闇に続く階段だった。先ほどの冷気もここから出たものだろう。
しかし、一体何故こんなものが……?
手元の本を見遣る。
「――――ッ」
一瞬、チクリと頭の片隅が痛んだような気がした。
何かが引っかかる。まるで俺は、大事なことを忘れているような……。
俺は気味が悪くなり、一歩後ずさった。
すると、またしても左目が疼痛を発し、本が眩い光を放った。それが呼び水だったかのように、大音声をたてて壁は閉ざされた。
「なんなんだよ……」
恐怖が先行し、呟きながら部屋を後にする。
あのぬばたまのような暗闇を思いだし、身震いする。
あのまま部屋にいたら気が狂うのではないかと思えた。
花梨が行方不明になり、奇妙な階段を発見してしまう。関連性はないにしても、こうも立て続けに起こると何らかの因果が絡みついているように思える。
不意に、あの先に花梨がいるのではないか、都市伝説にあの階段が関係しているのではないかと思惟してしまうほどの強迫観念に襲われる。
恐怖と好奇心が綯交ぜになる。
気になってしまう……だが。
あの階段の続く先、同時に起きた現象も気になるが、それ以前にあんな仕掛けがあったあの部屋は……。
俺の父は、一体何者だったんだ……?