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異世界魔眼魔術師の軌跡 旧名:6seconds  作者: 結城紅
第一章 現実世界での事象
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04.日常の壊れる音

 急いだ結果、なんとか予鈴がなる前に教室につくことができた。

 教室はいつもどおり喧騒に満ちていた。だが、どうも今日は様子が違うようだ。一人の男子生徒を中心に人だかりができていた。いや、正確にはその手に持たれているケータイに群がっていた。

 通勤ラッシュを想起させるような人混みを掻き分けて、事の発起人と思われる男子生徒に声をかける。



「おはよう徹。何かあったのか?」


 すると男子生徒、徹が無邪気な笑みを浮かべてこれみよがしにケータイを見せつけてきた。



「優、見ろよこれ!」


 徹のケータイの画面には、またしても[願い人]からの当選メッセージが表示されていた。

 花梨が俺を押し退けて画面を見遣った。



「おおぅ、徹っちも当選したの!」


 花梨の口ぶりから、彼女にも同様なことが起きたのだと徹が悟り喫驚した。



「え、徳島さんも当選したんだ?」



「ほら、これ!」


 懐からケータイを取り出し、先般の画面を表示する。

 徹が感嘆の息を漏らした。



「は~、俺たちツイてるのな~」


 そう、徹がこぼした瞬間。



「あー、出席取るから早く席つけ」


 予鈴が鳴り、同時に観音扉が開け放たれた。

 教室に入ってきたのはこのクラスの担任、森宮慎太(独身34歳)。ヨレヨレのスーツが驚くほど似合う、無気力な教師だ。

 徹に群集していたクラスメイトたちが、三々五々と散っていく。

 全員が着席したところで、森宮が出席簿を開いた。



「はい、今日来てない奴手挙げろ。あー、いないね。じゃあ、全員出席ってことで」


 恐ろしいまでに手抜きだ。そもそも、欠席してたら挙手できないだろ。

 無理矢理全員を出席にした森宮が出席簿を閉じた。そして、ポリポリと頭を掻き面倒そうに口を開いた。



「あー、あとな。最近我が校の生徒が行方不明になる事件が多発している。お前ら、くれぐれも夜に外出するんじゃねえぞ。はい、ホームルーム終わり~」


 ホームルームの終了を宣言し、森宮が教室から出て行った。途端、再び教室内が騒々しくなる。



「私先輩に聞いたんだけど、行方不明になった人達って全員[願い人]の当選者だったらしいよ」「何言ってんだよ、んなことあるわけねーだろ」「おい、誰だ。そんなデマ流した奴」「流した奴、挙手ー」

「ハハハ」


 流行の対象へと話題が転換する。

 行方不明になったっていうのは、皆が言うようなデマではなく、不運にも誘拐事件に巻き込まれたことによるものだろう。一度にひとり以上が消えたということは、犯人は単独犯ではないのかもしれない。

 まあ、そんなことはどうでもいいか。

 もし噂が本当なら、花梨は明日にでもいなくなっているはずだからな。

 気楽に笑った。

 そして――。



 翌日、花梨は学校に来なかった。

   




~~~~~~



「花梨どころか、徹もいない……?」


 翌朝登校してきた俺が見たのは、不自然なまでに狼狽するクラスメイト達だった。



「どうしよう、これ絶対に噂通りだよ」「ま、まだそうと決まったわけじゃないだろ!」「お、俺[願い人]に応募しちゃったんだけど!」「ど、どうしよう……」


 皆一様に我が身を案じている。

 これは、本当に[願い人]が生徒の行方不明に直結しているのかもしれない。

 生徒たちの不安を断つように扉が勢い良く開かれ、森宮が姿を現した。



「あー、お前ら。揃ってるか。えっとだな……」


 言いにくそうに口調を濁らす森宮。珍しいことに、いつものようにだらしない感じが全く見受けられない。昨日はヨレヨレだったスーツがピシッと決まっている。普段の森宮の要素が皆無。アイデンティティの喪失というやつだろうか。

 俺の思考など知る訳もなく、森宮は威儀を正して決然と眦を開いた。



「我が校で行方不明者が続出したことにより、これから警察の方々が入る。暫く学校は休校だ。学校側から連絡が来るまで自宅で待機。以上、解散!」



「ちょっ、先生! [願い人]の抽選に当選した人が消えるって本当ですか!?」


 クラスメイトの女子が悲痛な声を上げるも、森宮は一瞥くれただけで何も言わなかった。まるで、言外に肯定の意味をちらつかせるかのように。



「いいからもう帰れ」


 言うや否や、森宮は扉を閉めて踵を返した。

 クラス内に悲喜交々の声が響く。 

 沈んでいる奴は[願い人]の抽選に応募してしまったのだろうし、学校が休校になって浮かれている奴は、そのようなことなどどこ吹く風と言った感じだ。

 俺は、そのどちらでもない複雑な心境にいた。


 花梨が消えた。


 その事実が、事の深さ、恐ろしさを殊更現実めいたものにしていた。

 自分にとって、このクラスに馴染む機会をくれた少女。彼女は、俺が恩義に報いる前に目の前から姿を消してしまった。

 なにかをしたいと思っても、何も出来ない。これほど無力に苛まれたのは初めてだった。

 もうすぐ、警察がここに来るという。恐らくは事情聴取をするのだろう。

 俺が出来ることは何もない。

 自らの身を案じるが故に発せられる、怒号のごとき嘆きを背で聞き。

 俺は静かにその場を去った。

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