ヴォーカルのでぶ野郎
食欲という本能を歌声に変え、ステージを支配する巨漢の男。メンバーの嘲笑が深まる中、楽屋の暗闇に隠された秘密が暴かれた時、彼らは悟ることになる。己がバンドの一員ではなく、単なる「食材」に過ぎなかったことを。異質な怪物が織りなす、戦慄のサイコホラー。
ライブハウスの暗がりで、バンドメンバーは新ボーカルの巨体を密かにあざ笑っていた。底なしの食欲を持つその男を、影で「デブ野郎」と呼んでいたのだ。彼の圧倒的な声量のおかげで集客は伸びたが、嘲笑が止むことはなかった。
ある夜、無人の楽屋で彼らは男の巨大なリュックを開けた。中から出てきたのは、何食分もの生の肉塊と、歴代ボーカルたちの写真がついた身分証明書だった。
血の気が引く彼らの背後で、重い足音が響く。ドアの隙間から覗く巨体が、地響きのような低音で囁いた。
「次のパートは、お前たちだ」
【了】
重い足音が一段と大きく響き、楽屋の扉がゆっくりと押し開かれた。
肉塊の匂いと狂気が充満する部屋で、恐怖に身をすくませるメンバーたち。男は巨大な身体で唯一の出口を完全に塞ぎ、ニタリと歪んだ笑みを浮かべた。逃げ場など最初から存在しなかったのだ。
翌日、ライブハウスの楽屋は奇妙なほど綺麗に片付けられていた。バンドの姿はどこにもなく、ただステージの上で、圧倒的な声量を誇る巨体のボーカルが一人、新しい仲間を招くためのシャウトを響かせていた。




