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乙女ゲーの立ち絵1枚モブに転生したようです ~すぐ死ぬ推し達を陰ながら支えて『全員生存ルート』を目指します~

掲載日:2026/04/15


 大人気ゲーム『騎士道乙女物語』。略して『騎士乙(きしおつ)』。


 このゲームの世界に私は転生した。

 この世界に来たきっかけはつまらないことなので割愛するとして、まずはゲームの内容を軽く説明しようと思う。


 騎士乙はとある騎士団に男装して入団した女騎士エルサの物語。エルサは自分が女性であることを隠し、イケメン騎士達と共に王国で成り上がっていく。基本的に女性であることがバレると恋愛フラグが立つため、攻略したい騎士には正体を明かすこと。ただし好感度が低い段階で女バレするとゲームオーバーになるため注意。


 私は騎士乙の主人公であるエルサ――ではなく兵舎の雑用、モブに転生した。

 黒髪、おかっぱ、低身長、ジト目。トイレの花子さんとかこけし人形がイメージに近い。ザ・モブである。一応ゲーム内にも登場するが、ボイス無しで立ち絵は1枚。出番のあるイベントは1つだけである。


 『セラフ騎士団』。


 それが私が仕える騎士団の名前。現在私はこの騎士団の兵舎で働いている。

 騎士団には一~十の隊があり、それぞれの隊の隊長+団長&副団長の計12人……主人公を抜いて11人が攻略対象になる。ちなみに、十番隊ができるのは物語中盤のため、まだ物語序盤である現在は全九隊である。


 舞台は西洋風の王国ではあるが、この騎士団はどことなく日本風(というか新選組風)だ。制服も紅い羽織りである。私は隊員では無いので制服は支給されておらず、服はもっぱらオーバーオールだ。


 私の役目は兵舎の横にある畑の管理と料理の手伝い。あと兵舎の掃除だ。毎日忙しく働いている。


「あ、ハタケ殿~」


 早朝、畑に水をやっていると、小柄な隊士が声を掛けてきた。

 整った顔立ち、活発な笑顔、黒髪のポニーテール。ザ・美少年の彼は『彼』じゃない。


「エル様。どうしました?」


 この人はエル。本名はエルサだがその名は女性の時の名前。男として振舞っている時はエルの名で通している。彼女こそ、騎士乙の主人公だ。


 エルは子供っぽいヒマワリ柄のヘアピンをつまんで見せた。


「街で可愛い髪飾りを見つけたんです。ハタケ殿に似合うと思って!」


 にっこりと笑う彼女の笑顔にはついときめきそうになる。

 けれど勘違いしてはいけない。今私が話している相手は女性なのだ。美少年だけど女性だ。


「ありがとうございます。ありがたくつけさせてもらいます」

「はい、そうしてください。あ、水やり手伝いましょうか?」


 同じ女子だからか、エルは積極的に私に話しかけてくる。

 この兵舎内には他にも使用人の女性は居るけど、エルと同世代の女性は私だけなのだ。


「大丈夫です。エル様は武芸に励んでください。剣術は達者でも、まだ体力に難ありと聞いておりますよ」

「あはは……そうですね、僕はまだまだです。わかりました。大人しく稽古します」


 素直な子だ。頭を撫でたくなる衝動をグッと堪える。


「待っててください。僕がもっともっと頑張って、この騎士団をおっきくして……エル殿にドレスを買ってあげますから!」

「はい。その時をお待ちしております」


 敢えて冷たく、無表情で接する。それでもエルは大きく手を振って兵舎に入っていった。


「……強くなってください。皆を守れるぐらい、強く……」


 今の私の目的は1つ。私が仕えるこの騎士団を最強にすること。

 騎士道乙女物語がなぜ騎士乙と呼ばれるのか。ただ名前を短縮しただけじゃない。このゲームではメインキャラクターであってもルートによってはあっさりと死ぬ。あっさりと『騎士が乙る(死ぬ)』のだ。


 全員が生存するルートはゲームでは存在しなかった。


 だけど、私は成す。全員が生存するルートを作って見せる。なんせ私は騎士乙の皆が大好きだから。私は誰とも結ばれなくていい。私は何もいらない。ただ皆が、セラフ騎士団の皆が幸せな世界を必ず作る。その世界を作ることができれば私のことはどうでもいい。


「そのためにもまずは、この農作業。これが1番大切……」


 騎士乙はノベルで展開されるストーリーがメインだが、簡素ではあるもののRPG的な要素もあり、冒険に出てレベルを上げスキルを覚えることができる。他にもサブ要素として料理や鍛冶や栽培や(騎馬の)調教などがある。ちなみに、栽培システムに関わるのが私だ。主人公が栽培を始める際のチュートリアル役、指南役がハタケなのだ。立ち絵1枚。チュートリアルが終わったら出番はもう無い。しかもサブ要素には触れずともゲームはクリアできるので、人によってはハタケを見ずにクリアしたことだろう。


 元々栽培担当だったからか、私に畑の管理は一任されている。エルに畑作業を教えることもせず、畑を独占している。なぜ私が畑を独占しているのか、それはこの畑作業が隊士の強さに直結するからだ。


 この畑ではステータスの基礎値を上げることができるアイテム、俗に言うドーピングアイテムを栽培することができる。もうお気づきだろう。私はこの畑で大量のドーピングアイテムを作り、隊長全員を死にようの無い強者にするつもりなのだ。


「……やっと滋養(じよう)ニンジンが採取できた。これで、あの人を守るんだ」


 滋養ニンジンはHPを上げることができる。これをたらふく食わせて、とある紙耐久槍兵のHPを強化する。



 --- 



 夕食時。

 私は食堂でお鍋をかき混ぜていた。

 食堂には団長・副団長と一番隊~九番隊の隊員が揃っている。隊毎に別々の長テーブルについていて、団長と副団長は全テーブルの前に席を置いている。団長と副団長は皆の顔が見える位置で食事をするのだ。


 食事ができると、位の低い隊員の人達が料理を取りに来る。今日のメニューはシチューとパンだ。私はシチューを担当している。


 七番隊の隊員さんが来た所で、私は密かに用意していた小鍋を出す。


「すみません。ジュラン様にはこちらのシチューを」


 私は小鍋からシチューを皿によそい、隊員の方に渡す。シチューには大量の滋養ニンジンが入っている。

 七番隊隊長ジュラン様。まず私が手を付けるのはこの方だ。


「ん? ああ。了解」


 ちなみに私は地位としてはこの中で最下位なので、敬語を使われることはほとんど無い。


「あ、いや……しかし……これは……」


 隊員さんはなにやら渋い顔をしたが、私が首を傾げると、「どうなっても知らないぞ……」と渋い顔のままシチューを運んでいった。何が言いたかったんだろう。


「よし。皆の衆、飯は行き届いたな」


 団長のセラフ様が大声で言う。

 食事の時はいつもセラフ様がいただきますの音頭を取るのだ。


「それでは、おててを合わせて」


 皆が両手を合わせた。

 後はセラフ様が『いただきます』と言うだけだった……のだが、セラフ様は『い』の口をしたまま固まってしまった。


 なぜなら、とある人物が頭にシチューを被ったからである。


 シチューを被ったのは、この私だ。私は脳天に、シチューをぶっ掛けられていた。


 私にシチューを掛けたのは、七番隊隊長のジュラン様だ。


「嫌がらせかテメェ」


 そう吐き捨てて、ジュラン様は食堂を出て行った。

 屈辱とか、そういった感情は無く、私はすぐさま脳内でジュラン様が怒った理由を模索した。


「はっ!」


 思い出した。

 確か彼のプロフィールにはこう書いてあった。


 苦手な物:ニンジン。


 しまった。そりゃニンジンをいっぱい入れたシチューを出したら怒るよ。特に序盤のジュラン様は常に苛立っているから。


「あ、え~っと、ひとまずいただきまーす!」


 セラフ様の声に合わせて隊士の方々は『いただきます』と声を揃えた。

 そのすぐ後で、三番隊隊長のシクラ様がタオルを持ってきてくれた。


「ハタケちゃん、大丈夫かい?」


 シクラ様は大人の色気がある方で、ちょっぴり生えた髭とはだけた胸元が特徴的。大の女たらしだ。


「ありがとうございます」


 私はタオルを受け取る。


「いいんだよ。可哀想にね。こんな綺麗な髪にシチューを掛けるなんて騎士失格だよ……後の給仕は部下が引き継ぐからさ、君は湯に入っておいで」

「い、いえ……そんな……」


 いや、下手に留まる方が迷惑か。シチュー塗れだし。


「わかりました。お言葉に甘えます」


 湯浴びをしながら、私は己の行いを反省する。

 さっきの事は失態だった。ニンジンが苦手で無いにせよ、1人だけニンジンを盛り盛りにするのは不自然だろうに。


 1週間後には全隊が出動する大掛かりな遠征作戦が始まる。それまでに滋養ニンジンをジュラン様の口に大量に突っ込まないとならない。なぜなら、その作戦において高確率でジュラン様は死んでしまうのだ。


 ジュラン様は最も死亡率が高い。個別ルート以外はほとんど死んでいる。すぐに死んでしまうから攻略が難しい、という妙なキャラクターなのだ。最初は誰に対しても当たりがきついからつい育成や好感度管理をなおざりにしてしまい、サラッと死んでしまう。だからこそ、なんとか生き延びさせた先にあるエンディングは最高なんだけど。


「……ニンジンが嫌い……逆に、好きな物はなんだっけ」


 思い出せ。資料集には何度も目を通しただろうに。


「好物は確か……こう書いてあったはず」


 カボチャのスープ。

 ジュラン様のお母さんはジュラン様が10歳の時に亡くなったのだが、そのお母さんが良く作ってくれたカボチャのスープを、ジュラン様は好物としていた。


 レシピは……知っている。

 レシピ通りにカボチャのスープを作れば好感度は回復する、と思う。

 しかし、ここで問題が1つ発生する。なぜ私がスープのレシピを知っているかと言うと、騎士乙のサブイベントでこのレシピを探すものがあるからだ。そう、エルがレシピを見つけ、そのレシピ通りにスープを作ってジュラン様を喜ばせるサブイベントが。


 つまり、ここで私がスープを作ってしまうとこのサブイベントが潰れてしまう……フラグが消える程では無いけど、なんというか、騎士乙オタクとしてそれはやっていいことなのだろうか。


「~~~~~~~~!」


 お風呂に浸かり、考え込む。


 エモイベントvsジュラン様の命。


 ……比べるまでも無いか。命あっての物種だ。


「明日、作ってみようかな」



 --- 



 翌日の朝、私は早速スープの素材を買いに街に出た。

 必要な物を買い揃え、兵舎に戻ると、なにやらざわついていた。ざわつきの中心、兵舎の中庭に行くと、2人の騎士が対面していた。


 腰に刀を差した美少年、エル。

 肩に黒の槍を背負った赤毛の槍兵、ジュラン様。


 エルはジュラン様を睨み、ジュラン様はエルを見下ろしている。ジュラン様は大柄で、背は190近くある。一方でエルは154cm。まるで大人と子供だ。


「あらら、ちょうどいいとこに来たじゃない。ハタケちゃん」

「シクラ様。この騒ぎは一体……?」

「原因は君だよ」

「え……?」


 エルは燃えるような闘気を瞳に宿して、口を開く。


「昨日の事、ハタケ殿に謝ってください」

「ああ? なんで俺が」


 うわ。本当に原因私だ。

 エルは正義感が強い。そのエルがあんな場面を見てしまったら、こうなることは予測できたじゃないか。エルをフォローするべきだった。


「シチューを女性の頭に掛けるなんて騎士のすることではありませんっ!」

「うるせぇ。アイツが俺の苦手なモンを山盛りにしたのがいけねぇんだろうが」

「あなたが何を苦手とするか、全員が知っているものでも無いでしょう。シチューを鍋に戻し、一言注意するだけで済んだはずだ」

「相変わらずうぜぇなお前。一般隊士が、隊長に楯突いてんじゃねぇよ」


 そっか。そういえばエルはまだ一般隊士だった。


「どうするの。ハタケちゃん」


 シクラ様の流し目が私を捉える。


「……このままじゃあの2人、真剣試合始めちゃうよ」

「それは困ります……」

「行ってきなよ。もしハタケちゃんが危なくなったら、おじさんが助けてあげるからさ」


 キザなウィンクで締めくくるシクラ様。


 刀の柄を左手で握るエル。

 槍をゆったりと構えるジュラン様。


 こんな時に限って団長と副団長は居ない。他の隊長は楽し気に見物するか、呆れて場を去るかの二択。

 足に力を込める両者。私は意を決して、2人の間に割って入った。


「待ってください」


 2人は踏み出した足を止める。


「ハタケ殿!?」

「雑用娘……」


「エル様。ここは刃を納めてください。私は昨日の一件を気にしていません」


 エルが闘志を消せばジュラン様も矛を納めるはず。ここはエルの説得を優先する。


「し、しかしハタケ殿……」

「あのですね、エル様」


 私はエルの耳元に唇を寄せる。


「……昨日あの後、ジュラン様からは個別で謝罪を受けています」

「なんと……」

「……ジュラン様の性格からして、(おおやけ)の場で謝罪はできないのでしょう。だから、ここは引いてあげてください」


 全部嘘だ。でもエルは納得した様子で笑顔を浮かべる。


「そうでしたか。ならば、私は引きましょう」


 すっかりやる気を無くしたエルに対し、ジュラン様は苛立ちを隠せず。


「ちっ。なんだよ。やらねぇのか」

「はい。失礼しましたジュラン殿」


 エルは深々と礼をして、中庭から兵舎の廊下に上がった。

 ジュラン様も兵舎内に戻る。なんとか一件落着だ。


「やるねハタケちゃん」


 と拍手をするのはシクラ様だ。


「ご褒美にチューしてあげようか?」

「遠慮しておきます」


 私にはやることがある。突発イベントに阻まれたけど、予定通り取り掛からないと。

 私は調理場に足を運ぶ。セラフ騎士団は夕食こそ共にするけど、昼食は別々だ。ジュラン様の昼食は隊員の人が作るけど、今日は代わってもらった。


 さて、作ろうか。カボチャのスープと……私特製のニンジン料理を。



 --- 



 七番隊隊長室。その扉の前に料理を載せたトレーを持って立つ。


 隊長室……大抵隊長と2人きりのイベントはここで行うことになる。騎士乙のプレイヤーならば隊長室の背景は脳に焼き付いているだろう。何度も来るからね。隊長室は隊長ごとに違っていて、その違いに注目するのも楽しい。


 私は扉をノックする。「入れ」の言葉を聞き、扉を開く。隊長室の中に入る。


 七番隊の隊長室はまるで書庫のような内装だ。大量の本がある。ジュラン様はいつも上裸の上に制服を羽織っており、体中に刺青がある。だからワイルドな印象を受けるけど、その実勉強家で努力家なのだ。


「なんだ雑用娘、また俺に喧嘩を売りに来たのか」

「ジュラン様。これを食べてください」


 私はジュラン様の机の上にトレーを置く。

 トレーにはカボチャのスープと主食の肉料理。更に、オレンジ色のドリンクが載っている。


「……!」


 ジュラン様はカボチャのスープを見ると、目を細めた。


「お前……これをどこで」

「それは秘密です。昨日はご迷惑をお掛けしました。これでどうか許してください」


 ジュラン様は信じられないという顔だ。読んでいた本を閉じ、テーブルに置き、僅かに震えた手でスプーンを手にした。


 そして一口、スープを口にする。


「……」


 口元は緩むが、目は悲しそうだ。


「間違いない……あの味だ」


 浸ってもらえるのはありがたいけど、これ以上スープについて追及されても困る。ここはすぐに次に移ろう。


「その……よろしければ、こちらのドリンクも……」


 ジュラン様はオレンジ色のドリンクに視線を移す。


「なんだこれは」

「秘密です」

「……ちっ。そればかりだな。まぁいい」


 ジュラン様はドリンクを飲む。すると、


「甘い。オレンジジュース……では無いな」

「美味しいですか?」

「ああ……まぁな」

「それ、ニンジンのジュースです」

「何……?」

「厳密には果物とニンジンを混ぜ合わせたジュースです。それなら、ニンジン嫌いのジュラン様でも飲めますよね?」


 ジュラン様はコップを揺らす。


「……作るの苦労しただろ」


 ジュラン様は知識豊富だ。料理の知識もあるはず。だから、これを作る大変さをすぐに理解できたんだと思う。この世界にミキサーは無いしね。


「それなりに、ですね」

「なぜそうまでして、俺にニンジンを食わせようとする?」

「滋養ニンジンはHP……じゃなくて、生命力を上昇させる効果があるんです。あの……来週に遠征があるじゃないですか。ジュラン様には生きて帰ってきてほしくて」

「テメェ、俺があの程度の任務で死ぬと思ってんのか?」


 思いますよ。あなたは紙耐久&死亡フラグ乱立男じゃないですか。


「……ムカつく奴だな」

「す、すみません」


 またバッドコミュニケーションをしてしまったか。


「こんなもんにしなくてもニンジン、食ってやるよ」

「え……?」

「ニンジンは嫌いだが、それを食って強くなれるんなら食ってやるさ。言っとくが、別にお前に(ほだ)されたわけじゃねぇ。俺は俺のためにニンジンを食うと決めた」


 や、やった。

 これでジュラン様のHPを爆上げできる。


「わかりました。ただ、さすがに生で食べるのは難しいと思うので、簡単にですが調理はします」

「それと……」

「はい?」

「カボチャのスープも、たまには作ってくれ」


 どこか照れくさそうにジュラン様は言う。


「頼む……」

「は、はい!」


 こうして、ジュラン様にニンジン料理を振舞う日々が始まった。


――2週間後。


 このゲームの最初のビックイベント、『奈落村(ならくむら)遠征』が終わった。

 隊士達が兵舎に戻ってくる。私達給仕係は兵舎に戻ってくる隊士を玄関前で出迎える。皆ボロボロだ。

 私は3人の隊士に声を掛けられた。1人目はエルだ。


「ハタケ殿! これ、遠征で拾ってきた貝殻です。ぜひ懐に収めてください」


 かわいい。ピンクの貝殻をありがたく貰う。あ、これ換金アイテムだったやつだ。

 次に話しかけてきたのはシクラ様だ。


「ハタケちゃん。後でお酒のお供してよ」

「お断りします」


 そして、最後に声を掛けてきたのは……。


「よう」


 ジュラン様だ。

 ジュラン様は私の頭をひと撫でして、


「お前の手料理が恋しくて、帰って来たぜ」


 なんて、乙女ゲーらしい気取ったセリフを吐き、兵舎に入っていった。入り際、ジュラン様の耳が赤くなっていたような……気のせいかな。


 余談だけど、ジュラン様は部下伝いにお土産の饅頭をくれた。饅頭の木箱の中には『すまなかった』といつぞやのことを謝る手紙が入っていた。手紙が見つけづらい場所に突っ込んであったのは、照れ臭さの表れだろうか。

 とにもかくにも、こうして私は最初の難所を乗り越えることに成功した。


 後日。

 私は次の難所に向け、『竜生(りゅうしょう)ナス』を採取していた。魔力を育てるナスだ。すると、畑に客が来た。


「よう。相変わらず土が似合うな雑用娘」

「ジュラン様」


 ジュラン様は赤い前髪の隙間から私の手にあるナスを見る。


「ふーん。ナスか。いいじゃねぇの。どれ」


 ジュラン様は私の手からナスを取る。


「あ!」


 ジュラン様は袖でナスを拭い、ナスを口にした。口にしてしまった。


「うん。美味い……って、なんで睨んでるんだお前……」

「そ、それは……それは……あなた用では無いんです……!」

「はぁ?」


 物理職が魔力を育ててどうする!?


 ……ちなみに、ドーピングアイテムを作るには相当にお金と手間がかかる。私は現在、切り詰めて切り詰めてドーピングアイテムを作っているのだ。1個たりとも無駄にはしたくないのだ……。


「お。なんか、魔力が上がった気がすんな」


 だから、あなたが魔力を上げてどうする!!


 はてさて……この調子で全ての死亡ルートを回避することはできるのだろうか。まだまだ物語は始まったばかりだ。

【読者の皆様へ】

この小説を読んで、わずかでも

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