学校の五十嵐さん 二幕 ~針山の章~
この作品は、学校の五十嵐さんの続編に当たります。単体でも話は成立しますが、よろしければ前作、学校の五十嵐さんの方から、お読み頂ければ嬉しく思います。
※運営様にお問い合わせした所、夏のホラー2025に登録する為には、一度消し再投稿との事でしたので。前回投稿した内容と全く同じになっております。又、前回評価して頂いた方。大変申し訳ありませんでした。心よりお詫び致します。……せっかく評価頂いたのに。泣く泣く削除致しました。本当に申し訳ありません。(;>_<;)
…………。
ちゃぷちゃぷ……と、波の音。僅かに漂う海の匂い、微かに揺れる地面。
……ここは海の上なのだろうか?
──"彼"は目を覚ます。
「……ここは?」
彼には記憶が無かった。自分が男で高校生なのは覚えているのだが、自分の名前、顔、そしてどうして自分はこんな場所にいるのか?……それが全く分からなかった。
「……ここは、船……なのか?」
「うっ……。」
頭が少し痛んだ。……とりあえず周りを見回す。……ここは船の中なのだろうか?
……船の中、そして同じ年頃なのだろうか……自分と同じ様に座り込んでいる男女が四人居る。顔は……やはり見覚えが無い。
「あ、あの……。」
俺が話し掛けようとすると、突然何処からともなく声が聞こえてきた。
「……やあ、諸君。楽しいゲームの始まりだ。死にたくないなら、まず席に座りたまへ。」
……席?辺りを見回すと白いテーブルがあった。
「……座ればいいのか?」
俺はとりあえず、指示に従いとりあえず椅子に座る事にした。他の四人も無言で椅子に腰を掛けた。
……するとまた突如何処からともなく、声が聞こえ出した。
「……まず名前だねぇ、君達は全員記憶が無いだろう。名前はこちらで勝手に付けさせて貰うよ?名前が無いと不便だろうしねぇ。」
!?
それは突如出現した。
「……一体どういうカラクリだ!?」
驚いて左隣の男性が声をあげた。
まるで魔法でも使ったかの様に、それはいきなり現れた。
「名前……ハリー?なんだこれ?」
それは五つ現れ、名前が書いてあった。
……俺がハリー?隣の肥満体型の男性がロン。その隣の眼鏡の男性がクリス、その隣の黒髪の女性がマイ、一週回って俺の右隣のツインテールの女性がアリス。
喋る間もなく、次のアナウンスが始まる……。
「君達にはデスゲームをやって貰う。その名の通り、命を賭けたゲームをね。勝てばここから脱出出来る単純なゲームだ。」
「ゲームは三回行われる、そうだな……。ブラックジャック、ポーカー、七並べで行こうか……。」
──ガチャッ。
またもや何もない所から拳銃が出現し、テーブルの中央に配置された……。
──!?
……拳銃、嫌な予感しかしない。
「ルールは簡単、最下位の者が死ぬ。」
……!?おいおい、ふざけるのもいい加減にしろよ。三回やって最下位が死ぬ!?五人中三人も死ぬとかバカにしているのか?リスクが高いにも程があるだろ。
そう考え、一言文句を言ってやろうとしたが、先に隣のロン……の名札の男性に言われてしまった。
「ふざけるなよ!俺はやらないぞ!!」
ドン!とテーブルを叩くロン。とりあえずロンにしておこう。
「なら、この拳銃は何かね?」
眼鏡をくいっとするクリス。
「……私、怖い。」
怯えるマイ。
「は?バカじゃないの?私帰りたいんですけどー。」
何を考えているのか、よく分からないアリス。
「まあまあ、説明は最後まで聞きたまへ……。そこでこの拳銃の出番と言うことだ。君達が全員助かる方法もきちんと用意しているよ?それはこの中に一人、人狼が紛れ込んでいると言う事だ。」
「人狼?……どういう意味だ?」
「あれ、おかしいな?人狼で伝わると思ったのだが……。それじゃあ"鬼"にしようか、分かりやすく言うと君達五人の中に、我々運営側の人間が一人紛れ込んでいると言う訳だよ。」
「その人物を最下位にすれば君達の勝利となる。……最下位だと必然、死ぬ事となるからねぇ。それともう一つ、一位の者は一度だけこの拳銃を使う事が出来る。君達の中に紛れ込んでいる"鬼"を見事撃ち殺す事が出来れば君達の勝利となる。ただし、三回目のゲームでは最下位の人間は死なない。その替わり拳銃は二発使って貰っても構わないよ?……以上だ、さあゲームをいつでも始めたまへ……。」
そんなゲームやるわけないだろ!……俺は席を立ち外を見た。
うーん、やはりここは船の中で。外はこれでもかって位に海だ。しかし小さいが豪華な船だな。……辺りをキョロキョロ見渡すが、あるのはこの部屋と、扉が一つだけだ。
扉?とりあえず開けて見たが、トイレだった。
「出れ……そうには無いな。」
「おいおいふざけんなよっ!クソッ!」
壁を蹴り、怒りだすロン……。
「食いもんくらい、置いとけよっ!」
出れない事より、食べ物の怒りの様だ……。
「なるほど……少しは楽しめそうだな……。」
またもや、眼鏡をくいっとして椅子に座ったまま動かないクリス。
「怖いよぉ……お家に帰りたいよぉ……。」
泣き出すマイ。
「出口どこー?出口……何よもう!トイレしか無いじゃない!」
何考えてるのか全く分からなかったが、アリスは俺と同じ考えの様だ……。
──あれから暫く時が経過したが、誰一人喋る事なくゲームを始める訳でもなく、只々(ただただ)時だけが過ぎて行った……。
当然だろう、死ぬと分かっているのにそんなバカなゲーム等やりたい奴なんて一人も居ないだろう。
誰もが皆、ただ時が過ぎるのを静に見守っていた……。
「何よっ、出られないじゃない!船なのに出口も入り口も無いなんて、一体どういう作りなのよっ!?」
──ドカッ!
……よし、一つ訂正しよう。一人だけ賑やかでお喋りな例外が居る事を。
そして落ち着いて考えた。……そうだこれは夢に違いない、船なのに扉が無いのはおかしいし。酔いやすい俺が船酔いもしないなんてのもおかしい。いきなりネームプレートや拳銃が何処からともなく出てくるのもおかしいし、何よりこんなバカげ事が現実だと考える方が何よりも非現実的だろう……。
よし夢だ、こんな物夢に決まっている。……そう考えると頭がすっきりし回転を始めた。
……ルールは理解出来た。ゲームは三回、最下位が死ぬから普通に考えて二人死ぬ。人狼……いや鬼が最下位ならそこで俺達の勝ち、全員が生き残れる可能性がある。
一位なら拳銃を使い、鬼を撃てる。しかし、鬼……。
当たり前だが、俺は鬼ではない。……つまり残りの四人の中に鬼が居るのだ。確率は四分の一……。誰だ?
……食い物もねーのか?と、ぶつぶつ文句を言っている肥満体型のロン。うーんどうだろう?特に不自然な所は見受けられないが……わからん。
静に座り、常に眼鏡をくいっとしている眼鏡男のクリス。先ほど「面白そうだな……。」とか言っていたし、少し冷静過ぎるし不自然である。怪しいと言えば、怪しい……。
ずっと泣いて怯えているマイ。……今は泣き止んではいるが、特に不自然な点は見当たらない。一番自然だとは思うが……わからない。
「ここから出しなさいよ!蹴破るわよ!!」
蹴破っても外は海だよ?と言いたいが黙っている俺。そもそも蹴破れるかは置いといて、一番人間らしいと言えばアリスは一番人間らしい。多少お転婆ではあるが……。
──結論、だれが鬼かわからない。この俺の天才的な頭脳を持ってしても、現時点で俺を特定するには、情報が足らなさ過ぎると言えるだろう……。
──そして誰も何も話さないまま、さらに時は過ぎて行った。
「開けなさいよ、居るのは分かっているのよ?」
……そりゃあまあ、居るよね。誰かしら。
よし、訂正しよう。一人だけ賑やかなアリスが居る事を。
──そんな事を考えていると、またアナウンスが流れ始めた……。
「そうそういい忘れていたけど、タイムリミットは6時ジャストだよ?6時迄にゲームが終わらないと……全員死んで貰うよ?」
──!?
全員が壁を見た。……また何もない所から壁掛け式の時計が出現した。
只今の時刻、2時40分……。
「時間制限だと……クソッ!やるしかねーのかよ!!」
怒り出すロン。
「……やるのか?面白そうだし、俺は構わない。」
またもや、眼鏡をくいっとしているクリス。
「……本当にやるんですか?負けたら死んじゃうんですよね?」
怯えるマイ。
「バカじゃないの?やる訳ないでしょ?」
と、アリス。
一人だけやらないなら、棄権扱いで負けにならないか?と考えたが黙っている俺。
「じゃあ、始めようか?」
……どうせ夢に決まっている。……俺は席に着いた。
──何処からともなくカードが出現し、並び始める。
「追加なら言ってね。あ、後イカサマはしても構わない……出来るものならね?」
……イカサマ?どうやってイカサマなんてするんだよ?と、言いたいのを抑え自分の手札を見た。
"スペードのエース"と"スペードのキング"だった……。
どうやら今夜の俺はツイてるらしい。
「俺はこのままでいい。」
追加をしないロン。
「俺もこのままでいい。」
眼鏡をくいっとしながら、追加をしないクリス。
「私もこのままでいい……です。」
怯えながらも、追加しないマイ。
「追加よ、追加!4なんて、最弱じゃない?追加よ!早くしなさいよ!!」
……そういうのはあまり言わない方がいいんじゃないか?と、言いたいのを我慢する俺。
どうやらアリスの手札は、あまり良くない様だ。
皆の手札が決まり、真っ先に手札を見せる俺。
「ブラックジャックだ。」
「俺は、19だ。」
舌打ちしながら手札を見せるロン。
「俺もブラックジャックだ。」
眼鏡をくいっとしながら、手札を見せるクリス。
「私は、これです……。」
マイの手札は"4"だった。
「あんたバカじゃないの!?死にたいの?」
ガタッと席を立つアリス。
「ルール知らなくて……ごめんなさい。」
「…………。」
ぺたんと座り手札を見せるアリス。
「7よ。」
「おいおい、あんたも死にたいのか?」
と、言いたいのを我慢出来ずに言ってしまう俺。
「五月蝿いわね、私の勝手でしょ?7よ?縁起いいから強い手札に決まってるじゃない!?」
……どういう理屈だよ?と、言いたいのは我慢した俺。
「最下位は……マイ。それじゃあ死んで貰おうか?」
……マイは青ざめ、手で頭を覆った。
「嫌ァ、死にたくない……死にたくない……死にたくな…………。」
──ザシュ!
……それは一瞬の出来事だった。
マイの体は真っ二つになり、辺り一面は血の海と化した……。ギロチンの様な物が一瞬で現れ、マイの体を真っ二つにし消えたのだ。
「うわああああああ。」
怯え床に尻餅を付くロン……。
「…………。」
何も言わずに眼鏡をくいっとしかしないクリス。
「嘘でしょ?」
ただ呆然と立ち竦むアリス。
俺も同様、その非現実の光景を呆然と見ていた……。
「流石に夢……だよな。」
「拳銃……使うかい?」
非情なアナウンスが耳に届く……。例え夢でも人殺しはあまり気分の良いものでは無い。
……俺は首を横に振った。
そして、またカードが配られ始まる……。
俺達の絶望とは関係なく、またゲームが始まった。
「さあ、お次は楽しいポーカーだよ?交換は一回だけだよ?」
俺は多少怯えながらも、手札を確認した。祈る気持ちが多少あった。……これは夢だ、夢に決まっている。……しかし本当にこれは……夢なのか?
──手札は……。
ワンペア……。
「さ、三枚交換で。」
……三枚の配られたカードを見て驚く……全て同じ数だ!
「俺も交換だ。」
「俺も交換しよう。」
ロンとクリスも交換の様だ。
「私も交換よっ。」
皆の手札が決まった……。
「フルハウス!」
俺は皆に手札を見せた。
ロンはツーペア、クリスは……。
スペードのストレートフラッシュだった。
で、アリスは……。
「ブタよ……。」
「…………。」
俺の頭の中に、沢山の思いと言葉が過ったのだが……それをけたたましいアナウンスがかき消した。
「ハーハッハッハ、楽しくなって来たね。お次のショーはアリスに決定だね!」
「ふざけるな!!」
俺がそう叫ぶと、同時に……アリスの首は飛んだ。
首は高く宙を舞い、花の活けていない花瓶の上に乗った。……そしてアリスの顔はニヤリ……と微笑んだ。
「うわああああああ!!」
「ひぃっ!」
俺とロンは、悲痛な悲鳴を上げ倒れた。クリスだけは、何も言わずにただひたすら眼鏡をくいっといじっていた。
「さあ、そろそろお別れで僕も寂しいが、ラストゲームと行こうじゃあないか!」
……この時やっと俺は気が付いた、これは決して夢なんかじゃない、現実と言う事に……。
……次は七並べ、手札がかなり悪い。正直少しヤバい、いやかなりヤバそうだ……。
「俺、ちょっとトイレ……。」
出ない筈なのだが、俺はトイレに駆け込んだ。鏡を覗き込み自分の顔を見る。……記憶が無いから知らないのも当然なのだが、俺の顔は酷く青ざめ、二枚目と言うには程遠い顔になっていた……。
「俺は……死ぬのか?」
鏡の中の少年は何も言わない。
……落ち着いて状況を整理する。俺が、自分が生き残るパターンを。
鬼が最下位なら俺達の勝ち、生き残れる。自分が一位になり、鬼を撃つ、もしくは俺以外の奴が勝ち、俺ではなく鬼だけを撃つパターン。
この三パターンだろう……。
それにはまず勝たないといけない、もし鬼が勝つような事があれば二人共死ぬ運命になるだろう……。
鬼はロンなのか……それともクリスなのか?
……どっちなんだ?
──ガチャリ。
扉が開いた……ロンだ。……ロンもトイレか?
……ロンは近付き、俺にこう言った。
「……俺と組まないか?」
……組む?どういう事だ?
「お前は鬼は誰だと思う?」
……鬼は、ロンかクリス……まだ分からない。
「俺はクリスだと思っている。……おかしいだろ、どう見ても?俺とお前は悲鳴を上げているのに、アイツは一言も何も言わない。……表情すら替えやしない!」
「……だから、俺はお前……ハリーを仲間だと思っている。」
「組もうぜ?ハリー、ロン同盟を!」
……確かに一理ある。言われて見ればクリスの様子は少しおかしい。落ち着き過ぎている。
やはり、組むならロンなのか?……クリスが鬼なのか?
「でも、組むって具体的にどうするんだ?」
「……簡単な事さ、イカサマだ!」
……!?イカサマ!?駄目だろ、それは流石に……。
──あっ。
「イカサマは認めているらしいからな……俺とお前でこっそり手札を交換するんだよ!」
……確かにそれなら勝てる、確実な程に。
「だいたいアイツおかしいんだよ……ブラックジャックとストレートフラッシュだぜ?ありえねぇだろ。」
「…………。」
「で、どうする?どちらがやる?」
「やる?……何を?」
「何ってお前……一位ならクリスを撃つだろ?」
──あっ、そうか。
……俺に撃てるのか……人を。
「どうする?俺はどちらでも構わないぜ?……俺が撃ってもいいし、俺が信用出来ないならお前が撃つんだ。」
俺は……。
──ガチャり。
「……少し長かったな、一体何を話していたんだ?」
「……いや別に、なんでも……ははは。」
「……まあいい、始めるとしようか。」
また眼鏡をくいっとするクリス。
──ゲームが始まる。
俺とロンはテーブルの下でこっそりカードを交換する。……頼むぜ?ロン。
ゲームが始まり、イカサマ仕様なので七並べは楽勝かと思いきや。……かなりの接戦だった。危ねぇ……。
「おめでとう!これでゲームは終わりだ!後はその銃で撃ち殺すだけだよ。鬼を撃てば君達の勝利が決まる!……まあ、ロンが鬼だった時は君達の負けはもう決まってるんだけどねっ。」
……俺は少し不安になりロンを見た。……いや大丈夫な筈だ、鬼はクリスで間違い無いのだから……。
ロンは銃を手に取り、銃口をクリスの方に向けた……。
俺は自分で撃たずに、ロンに任せた。……それが間違いだったのだろう。人を信じるのは良いことだが、自分の手を汚さない事は良い事では無いのだから……。
……俺は判断を間違えたのだ。
銃口の先はクリスではなく、俺に向いていた。
「おいおい、何の冗談だよ?ロン。」
「ははははははははははは!まだ、騙された事に気が付いて無いのかよ?お前、どんなにバカなんだよ!……俺が鬼なんだよ!!」
……俺は絶望した。……いや俺がバカだったのだ。ロンを信じてしまった……この俺が。人を撃つ事に恐怖し、自分の手を汚さず……生殺与奪を他人に任せてしまった事を……俺は後悔した。
「冗談……だよな?ロン。」
「ははははははは、じゃあなハリー!」
──ダンッ!
無情にも弾丸は発射された……。これが走馬灯と言うやつなのだろうか?発射された弾丸は、ゆっくりとゆっくりと俺の方へと向かって行った。
……俺にじゃれついて来る、愛犬のポチ。
……俺の弁当を作っている母さん。
……俺の事を心配そうに見守ってくれている大好きなお爺さん。俺の頭の中に走馬灯の様に様々な光景が浮かぶ。
──俺は恐る恐る目を開く……まだ弾丸は飛んでいる。……長いな、走馬灯!
てか、俺の走馬灯のラインナップがポチ、母さん、お爺さん。……別にいいんだけど誰か一人くらい可愛い女の子とか出てくれよ!……そうだな、同じクラスの女子なら一花さん。……一花さん可愛いよなぁ、あの元気で明るい所とか最高だ。てか、弾丸まだかよ?長いよ走馬灯。もういっそ弾丸回避出来るんじゃね?って程に長い!
「いや、それ本当に止まってるぞ?」
……眼鏡をくいっとしながら、クリスはそう言った。
──!?
「は?」
弾丸は止まっていた。……一体どういう事だよ?
「なんで止まってるんだよ?」
俺も驚いているのだが、ロンも同じ様に驚き戸惑っていた……。
「止めないと君は死んでしまうだろう?だから止めた……弾丸の時をな。」
「……は?」
「はぁ!!」
何を言ってるんだ?こいつ……と思ったが止まっている物は止まっているのだ。
……いや、いやいや色々おかしい。百歩譲って時を止めて俺を助けたとしよう……。
「そんな力があるなら……なんで、なんであの二人は助けなかったんだよ?」
「あの二人……か。」
クリスは眼鏡をくいっとしながら、その二人を見た。
「アリスの方はあれだ、最初から死んでいるのだから、もうあれ以上死なないだろう?」
「……は?」
「アリスは……彼女は恐らく"不死"だ、そうだろう?アリス。」
……何を言ってるんだ?こいつは。
「……なんだ、やっぱりバレてたの?」
アリスの顔が急にこちらを向き、喋り始めた。胴体は勝手に歩き出し顔を「よいしょっ」と言いながらくっ付けた……。
──!?
「はぁ!?」
「なんかさー、ヤバい奴が居るから死んだふりしてたのよねぇ……。」
「もう一人……マイ、君もその程度では死なないだろう?」
え!?……マイの方を見ると死体は綺麗さっぱり消えていた……。
「あら、バレてたの?上手く死んだふり、出来てると思ってたのに……。」
……後ろから声がした、いつの間にか椅子に座っていたのだ。
「ええ!?」
……一体どうなってるんだ?あまりにも混乱し過ぎて俺の頭は思考が停止した。
「ふざけるなよ!なんで生きてるんだよ!一体どうなってやがる!!」
ロンが震えながら怒鳴り出す。
「君が鬼で良かったよ……もう一人の方だと、どうしたものか?と悩んでいた所だ。」
……もう一人?俺の事かな?……何故だ?わからん。
「困りますねぇ、困りますねぇ……困りますねぇ!!私の邪魔をされちゃあ!!」
怯えるロンの隣に、ピエロの様な仮面の男が突如現れた……。
「ルールはルール、貴方達には全員死んで頂きますよ?」
……俺は震えて動けなかった。なんだこいつは……?悪魔?悪魔なのか!?
俺はその悪魔の異様な姿に驚き恐怖した……が。こっちの三人は……なんだ?
時間止めれる奴、不死の奴、マイは……わからん。
わからん……が、どっちだ?どっちの方が強い?三人居るからワンチャン勝てるのでは?
「ヒャーハハハハ、死ねぇ!!」
「フン……貴様ごとき下級悪魔風情がこの神である私に抗うとは……消えろ。」
あー、神だったわ……。
悪魔さんは、ギャアアアアアとか断末魔の悲鳴を上げ、スッと消え去った……。
「んー、終わったし帰るかぁ。帰れる様になったしね。」
背伸びしながら言うアリス。
「フフフフフ……そうね。」
椅子から立ち上がるマイ。
「なかなか面白い余興だったな、また来るとしよう。」
眼鏡をくいっとするクリス。
「ああ……そうだな、帰るか。」
俺も流れに任せ、ポーズを決めてそう言った。
──キリッ。
いや、どうやって帰るんだよ?色々突っ込みたい所多過ぎて突っ込みが追い付かねぇよ。俺の思考が停止した頭は、もう既に限界だぜ?
「…………。」
泡吹いて倒れているロン。
「少しいいか?マイ……君は一体何者だ?」
またもや、眼鏡をくいっとしながら、喋るクリス。
「何って……ただの人間の女子高生よ?」
「はぁ?そんな訳ないでしょ?あんな下級悪魔程度なら私でも余裕で倒せるのよ?あんたみたいな得体の知れない奴が居るから、死んだふりしてたのよ?」
「その通りだ……この神の力を持ってしても、貴様の正体が何なのかはわからん。」
「フフフフフ……大げさねぇ、ほんとにただの人間よ?クスクス。」
「まあ、いいだろう。……そういう事にしておこう。」
そうクリスが言うと、突然辺りが白く光り始めた。眩い光に包まれ、俺は視界を失った。足元が崩れ去り俺は下へ下へと落下した。
……落ちて行く落ちて行く、どこまでも。気が付くと俺は自分の体を上から覗いていた。
……俺は死んだのか?
……俺は。
俺の意識は段々と薄れて行った。
……まだだよ、俺はまだこんな所で死にたくない、死ぬ筈ない、立てよ……。俺は……まだ……。
遠い、遠い薄れ行く意識の中で……俺は。
…………。
神の声を……。
……。
──バリバリバリバリバリッ!六根清浄!!
けたたましく鳴り響く目覚まし時計の音で、俺は目を覚ました。
おはよう、俺だ。……そう針山拳次だ。
俺は最近変な夢を見る。昨日はヴァンパイアと戦う夢、一昨日は大泥棒になって世界を駆ける夢。今朝は…………なんだっけ?まあ、いいや。なんかギャンブルして走馬灯なのは記憶している。
俺は歯を磨きながら、今朝の下らない夢を思い出した。
ポチにエサをやり、ポチに話しかける。
「走馬灯に真っ先に出てくれてありがとうな、お前はいい奴だな。」
「わふっ。」
ポチをなでなでし、俺は学校に向かった。
「転校生を紹介する、えーっ。」
「五十嵐霊子です、コンゴトモヨロシク……。」
……マイ!?
俺は驚いた。夢に出てきたマイそっくりじゃねぇか……。
いやいや、そんな筈は無い。あれはただの夢だろう?きっと他人のそら似さ……。
しかし、よく似てるなぁ……声までそっくりなんて、不思議な事もあるもんだな……。
どうやら一ノ瀬さんの従姉妹らしく、昼休みに少しだけマイ……いや五十嵐さんと話す機会があった。
「針山です、よろしく。」
「……。」
マイ……いや五十嵐さんは無言だった、まあいいか。
俺は後ろを向き、その場を去ろうとすると誰かが肩をちょんちょんと叩いた。
「ん?」
振り向くと、マイ……いや五十嵐さんだった。
「え、何?」
「フフフ……よろしくね、ハリー。」
……おいおい、まじかよ。
「俺の悪夢は、まだ終わってないらしい……。」
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