落語声劇「三井の大黒」
落語声劇「三井の大黒」
台本化:霧夜シオン@吟醸亭喃咄
所要時間:約45分
必要演者数:6名
(0:0:6)
(5:1:0)
※当台本は落語を声劇台本として書き起こしたものです。
よって性別は全て不問とさせていただきます。
(創作落語や合作などの落語声劇台本はその限りではありません。)
※当台本は元となった落語を声劇として成立させるために大筋は元の作品
に沿っていますが、セリフの追加及び改変が随所にあります。
それでも良い方は演じてみていただければ幸いです。
●登場人物
左甚五郎:京都にて左官を朝廷から頂戴した当代一の大工・彫刻師。
1600年の20~30年前後に活躍した人物。
日光東照宮の眠り猫を彫るなど多くの逸話があるが、
歌舞伎や講談など、それらの逸話が独り歩きし、複数の人物像
が重なって左甚五郎という人物が生まれたのではないかという
説もある。
この噺の他にも「ねずみ」、「竹の水仙」、名前だけなら「叩き蟹」、
「四つ目屋」にも登場する。
政五郎:大工衆を率いる棟梁。人情深く、見ず知らずの甚五郎を家に住ま
わせる。
権治:大工見習の小僧。甚五郎に丁稚呼ばわりされる。
お勝:政五郎の女房。思ってることはずけずけ言う。
大工1:政五郎率いる大工衆の一人。
甚五郎いわく、「仕事が下手でぞんざい」
大工2:政五郎率いる大工衆の一人。
甚五郎いわく、「仕事はマズいが力はある」
藤兵衛:表駿河町三井屋の番頭さん。(三木助師匠の口演では越後屋の手代
忠兵衛でしたが、先に書き起こした竹の水仙とつじつまを合わせ
る為に改変しました。)
甚五郎に依頼していた大黒様が彫り上がったと知らせを受けて
わざわざ引き取りに来る。
語り:雰囲気を大事に。
●配役例
甚五郎:
政五郎:
大工1:
大工2:
お勝・語り:
権治・藤兵衛:
※枕は誰かが適宜兼ねてください。
(お勝・語り役か、権治・藤兵衛役がベスト)
枕:今は八丁堀と言いますと日本橋でございますが、江戸時代は神田、
今川橋のすぐ近く辺りにも八丁堀がございました。
銀町なんてところもありましてね、ここに丁場がたっており、
大工さんが五、六人、威勢のいい形をして仕事をしているところへ、
京都からはるばる江戸へやって来た名人・左甚五郎が通りかかった
ところから、話の幕が持ち上がろうというわけで。
甚五郎:やっと、江戸へ入ったなあ。
ここらは確か…藍染川とか言ってたな。
あちこちに板囲い、丁場がたってるね。
江戸の大工てのは、どんなのかね…お、あそこからのぞけそうだ
。どれどれ…?
【二拍】
おお、これはまた江戸の大工は形が勇ましいねえ。
けど仕事は皆目ダメだな…。
どれもこれも下手でぞんざいだ。手切りまら出し釘こぼしだな。
むこうの鼻の頭にほくろのあるのが一番仕事がマズい。
あそこの…はちからげしてるのは、イジりゃあどうにかなるだろ
う。
半人前がそろって一人前…一人前は飯だけだ。
大工1:おぅ、おぅおぅ、ちょいと待ちねえ。
大工2:なんでぇ?
大工1:あの、あすこに立ってる妙な野郎がいるだろ?
大工2:ああ、あの紺のぶっ裂き羽織を着て小紋の脚絆に手甲した奴か。
それがどうしたってんだい?
大工1:さっきからぐずぐずぐずぐず独り言言ってやがるんだ。
どんなこと言ってのかって思ってね、俺ァ仕事しながらだんだん
そばに近づいていったんだ。
で、耳を澄まして聞いてみるとな、
「江戸の大工は形が勇ましいな。」ってよ。
大工2:あったりめぇよ、こちとら形でひけを取ったことはねえんだ。
大工1:そこまでは良かったんだけどよ、あとがちょいとマズくなってき
たんだ。
「形は勇ましいけど、どれもこれも仕事が下手だな。それに
ぞんざいだ。上手でぞんざいなのはいいけど、下手でぞんざいな
のは始末が悪い。とりわけて、あそこの鼻の頭にほくろのあるの
が一番マズい。」ってのがな、オメェなんだよ。
いやぁ俺も普段からそう思ってんだよなぁ。
鼻の頭のほくろ、何とかならねえかなあって思ってたんだよ。
それでよ、「あそこのはちからげしてるのは、イジりゃあどうに
かなるだろう」ってんで、妙なこと言いやがんな、
はちからげってのは何だと思ったらね、松兄ぃがハチマキしてん
のな。それで松兄ぃの事をイジりゃどうにかなるとか言ってやが
んだな。
おまけに手切りまら出し釘こぼしだの、半人前がそろって一人前
、一人前は飯だけだの言いやがるんだ。
大工2:何をゥ!?気の利いた風なこと言いやがって!
一人前は飯だけだあ!?俺らは飯粒の集まりじゃねえぞ!
それに一人前の大工をつかまえて、イジりゃあどうにかなるたァ
なんて事言いやがんだ!おぅおぅおぅみんな!
仕事なんぞしちゃいられねえや!手ェ貸してくれ!
あの野郎を殴っちまうんだ!
語り:なんてんで、威勢のいい連中だからたまりません。
余計な事言うない!ってんで、
よってたかってぽかぽかぽかぽかッと殴り始めた。
大工1:このやろッ!
甚五郎:いたッ!
大工2:痛いもくそもあるかィ!ッ!
甚五郎:あだッ!
痛いなあ、そう頭ばっかり殴らんで、肩のところをちょっと…
大工1:な、何を言ってやんでェ!
大工2:この野郎、按摩と間違えてやがる。肩を殴れってよ。
かまわねえ、やっちまえィ!
政五郎:ん?なんでェ、丁場の方が騒がしいな?
!っておいおいおい!!
おめェら、何してやがる!!
大工1:いけねぇ、棟梁だ!
ご苦労さんで!
大工2:ご苦労さんで!棟梁!
政五郎:なに言ってやがんでェ。
てめぇ達にこの丁場に来て仕事をしろたァ言ってあるが、
人を殴れたァ言いつけちゃいねえじゃねえか!
一人を大勢で寄ってたかって、殴る蹴るしやがって、
とんでもねえ奴らだ。
何だってそんなことしたんでェ?
大工1:えっいや、だって、そりゃあね棟梁、こっちだってつい腹が立っ
たもんですから…。
政五郎:ったりめェだ。嬉しがって殴る奴があるかィ。
何に腹ァ立てたんだ?
大工2:何が腹立つってね、あっし達はさっきまでここで仕事してたんだ
。そしたらこの野郎があっしの事を仕事がマズいって言いやがん
ですよ。しかもぞんざいだっても言いやがるんで。
大工1:癪にさわるじゃございやせんか。
手切りまら出し釘こぼしだってんですよ?
余計なこと言うなって、ポカっと行くでしょ?
だから皆して、のしちまったんで。
政五郎:ふーむ、この人がおめえの事を仕事がマズくてぞんざいだと、
そう言ったのかィ?
大工2:ええ、それで松兄ぃをつかまえて、「イジりゃどうにかなる」
とね、きいた風な事をぬかしゃがるんですよ。
政五郎:ほお……目が高ぇや。
確かに松はおめえ達よりは仕事がしっかりしてて性質も悪かねえ
しな。
じゃあ何かい、つまり、マズいと、ぞんざいだと言われて、
おめえらは腹が立っちまったんだな?
大工1:そうなんですよ!
政五郎:ふうむ。
おめえ…仕事は上手いかい?
大工1:えっ…いや、あっしが自分で上手いなんて、そう思っちゃいけま
せんや。
政五郎:おめえは?仕事は丁寧かい?
大工2:いやぁ、その…丁寧ってわけにゃあいきませんよ。
政五郎:じゃあ下手でぞんざいでいいじゃねえか。
大工1:へっ…そうなんで。
政五郎:なにもこの人を殴る事はねえだろうが。
大工2:っへへ、考えてみりゃそうなんで…。
政五郎:なに言ってやがる。
五重塔てのはてっぺんからこしらえるもんじゃねえ。
下から積み上げてこさえるんだ。
人に下手だのぞんざいだのと言われたんなら、もっと丁寧な仕事
して、一生懸命に修行して上手いと言われるようになら
ねえか!
むこう行ってろィ!
大工2:へ、へいっ。
政五郎:すまねえなお前さん、堪忍してくれよ。
あいつら、というか江戸のモンは気が荒いからな。
一人二人じゃねえ、大勢によってたかって殴られたんだ、たまら
ねえやな。
よっぽど殴られなすったね?
甚五郎:いたいいたい…二十六回。
政五郎:二十六回?
勘定してたのかい?
甚五郎:うん、まぁ、つい。
用もないからね。
政五郎:いや、そらまぁ、用もないだろうけどよ。
殴られながら勘定するってのは面白いな。
しかし、この辺じゃ見ねえ顔だが、何だいお前さん?
甚五郎:え…?
何だいお前さんと聞く、あんたは何だい?
政五郎:!おぉ、こいつァしくじった。悪かったね。
人に名を聞く時には、こっちから名乗らなくっちゃいけねえやな。
あっしァこの丁場を預かってる、大工の政五郎ってモンだ。
甚五郎:おぉ、棟梁か。
さすがに貫禄が違うな。
じゃあ今度は私か。申し遅れたね。
私は西の方の番匠だよ。
政五郎:お?番匠ってえとこらぁ大工さんだな。
どっちの肩も持たねえけど、これァお前さんの方も良くねえやな
。さっきも言ったけど、江戸の連中は気が荒いんだ。
あんなこと聞かれた日にゃ、下手すると殺されちまうよ。
畳屋さんだとか左官屋さんだとか言うんだったら、
俺ァ手をついて謝らなくっちゃならねえけど、大工が大工の事を
悪く言うってなァ良くねえように思うけど、どうだい?
甚五郎:よくない。
同職を貶すと言って、良くねえと思うねぇ。
政五郎:あぁ…じゃあ自分でも承知してるんだな。
甚五郎:そう、承知しているから、勘定しながら殴られてみたんだよ。
二十六回のうち、三回が一番痛かった。
政五郎:はぁ、面白いねえこの人は。
で、お前さん、今どこにいるんだい?
甚五郎:ここにいるね。
政五郎:いや…ここにいるのは分かってるんだけどよ、
江戸へ出てきて身寄り頼りってのはあるのかい?
甚五郎:ないなぁ。
政五郎:ないって…そりゃ困るだろう。
甚五郎:困るだろうねえ。
政五郎:いやいや、他人事みてえに言うなよ。
そうかい…じゃ、俺ンとこへ来ねえか?
袖すり合うも多生の縁、つまづく石も縁の端と言うよ。
お前さんが皆に殴られたのも何かの縁かもしれない。
甚五郎:ははは…これァどうも、痛い縁だねぇ。
政五郎:実は仕事が山ほどつかえててね、職人の手が足りなくてどうにも
困ってるとこなんだ。
お前さんが三年でも五年でもあっしのところにいてだよ、
いいかい、国に帰る時には襟垢の付かねえ着物を着せて、
土産物の一つも持たして国に帰そうじゃねえか、どうだい?
甚五郎:そりゃあありがたい申し出だ。
いやまぁ、棟梁のとこへ行ってもいいけどねえ…。
ちょいと聞いとくけど、かみさんがありゃしねえかい?
政五郎:かみさんかい?
そりゃあるよ。
甚五郎:じゃあかみさんによく相談したほうがいい。
私が棟梁のとこに行くだろ?
そうすると、いつか棟梁とおかみさんがケンカになって、
「あの人を家へ置くんだったら、あたしを離縁してくれ」
なんて事があったら、こらあマズいよ?
政五郎:冗談言うなィ。
職人の事についてね、かかあにこれっぱかりも口出しなんぞ
させちゃいねえよ。
かかあがぐずぐずぐずぐず言うんだったら、叩きだしてでも
俺ァお前さんを家に置くよ。
甚五郎:かかあを叩きだして、私を家へ置く?
偉い!
さすがに関東の大工は違うね。
褒めおく。
政五郎:よせよおい、そんなこと言うなよ。
おうおめぇら、今日はな、これからお断りをして仕事を上げて
もらうんだ。
上方から職人が参りまして、顔つなぎがございますから、
少し早くお暇をいただきます。
明朝は早出遅締めにしますから、ってよく断っとくんだ。
いいな!
大工1:へいっ、承知しやした!
大工2:棟梁、あとはあっしらが片づけときますんで!
どうぞ、お先に!
政五郎:よし、じゃあ上方の、一緒に来ねえ。
甚五郎:それじゃあ、ご厄介になるよ。
いやあ、それにしてもみんな仕事が上手い。
政五郎:いや、さっきお前さん、仕事がマズいって言ってたろ。
甚五郎:…マズいけれども、ちょっとベンチャラを。
政五郎:いいやな、別にベンチャラなんか言わなくたって。
時に、上方の方はどうだね?
甚五郎:いや、もう相変わらずだね。
政五郎:相変わらず、いいやね。
世の中てものは、あんまり変わっちゃいけねえ。
変わらねえほうがいいやね。
語り:二人して語らいながら棟梁政五郎の家へと向かいます。
藍染川と橘町と言いますと、目と鼻と言うほどでもありませんが、
男の足で少し急げばわけはありません。
政五郎:もうじきだ。こっから橘町、あっしの家は向こう角から二軒目だ。
小汚ねえ家だが、遠慮しねえで入ってくれ。
おうッ、いま帰ったぜ!
お勝:お帰んなさい。
どうしたの、今日はいつもより早いじゃないかい。
政五郎:ああ、脇の丁場にまわらねえでな、
藍染川からすぐ帰って来たんだ。
上方の大工さんに会ってよ、連れてきたんだ。
表に立ってるから、ちょいと声かけてやってくれ。
お勝:そうかい、ちょうどいいねえ。
手の足りないとこだからっ………
ねえお前さん。
表に大工さんみたいな人はいないよ。
御札配りみたいなのならいるけど。
政五郎:バカだな。
西の方の大工さんてな、ああいう格好をするんだよ。
御札配りなんて聞こえたら失礼だろうが。
口が悪いったらねえな。
おう、そんなところに立ってたってしょうがねえやな。
遠慮しねえで、こっちに入ってくれよ!
今ここに出てきたのが俺のかかぁなんだ。
甚五郎:ああ、今のかい。
おもしろい顔の。
政五郎:…こっちもあんまり口の良い方じゃねえな。
まあいいや、おいお勝、上方の大工さんだ。
お勝:まあ、はじめてお目にかかります。
政五郎の女房で、お勝と申します。どうぞよろしく。
甚五郎:あぁあぁ、これはお内儀で。
お鉢にお目にかかります。
政五郎:上方は言葉が柔らかいね。かかぁじゃなくてお内義ときた。
しかしお鉢にお目にかかるとよおい。
お勝:お腹すいてるんじゃないのかい?
夕飯は前なんでしょう?
甚五郎:うん、夕飯は前で、昼飯も前だね。空腹だ。
くうーって言うとふくーってくるくらいだよ。
政五郎:ああ、やっぱり減ってるか。
おいおっかぁ、飯の支度してくれ!
お勝:もうちょっと待っとくれ。
すぐにできるからさ。
【二拍】
はい、どうぞ。
政五郎:飯は手盛りでやってくれよ。
はは…しかし面白い人だ。
お勝:お前さん、どこで会ったんだい?
政五郎:藍染川の丁場だよ。
若え奴とちょいと揉めてるとこへ行きあってな、聞いてみたら
大工だってんで、じゃあ家へ来てくれってことになったんだ。
甚五郎:どうも、ご馳走さまでした。
政五郎:おぉっとっとっと!あとを片付けなくったっていいんだよ。
どうせいま若え奴が帰ってきて飯を食うんだ。
一緒に片付けるからいいんだよ。端の方へ寄せときゃいいんだ。
それよりこっち来なよ。
甚五郎:はあ、なんです?
政五郎:こんな事を頼むと間抜けな野郎だと思うかもしれねえけどよ、
うちの若えモンがお前さんに手荒な事を、乱暴をしたんだ。
本当ならあいつらに謝らせるのが当たり前なんだが、
だけどお前さんもこの家にいて、
一つ釜のものを食ったり鍋のものを食ったりするのに、胸の中に
妙なものが残っててもまずいやね。
だからあいつらにも謝らせるけど、お前さんもすまねえが一言
、謝っといてやってくれるかい?
甚五郎:【膝を叩いて】
えらい!さすがに棟梁、よくそこに気が付いたなあ。
いやあ、謝るとも。すまねえってさ。
大工1:棟梁、ただいま!
大工2:棟梁、ただいま帰りやした!
政五郎:おう、帰ってきたか!
ご苦労ご苦労!
上方の、みんな帰ってきたよ。
甚五郎:あぁ、帰って来たかぁ。
ご苦労ご苦労。
政五郎:おぉい、親方が二人できちゃったよおい。
おうおめぇら、こっちの上方のに家にいてもらう事にしたから。
さっきおめぇ達は手荒な事をしたんだ。
謝っとかなくちゃいけねえぞ。
大工1:へい。
おう上方の、さっきはちょいと気が立ってたもんだから、
ポカポカッといっちまった。
大工2:すまねえ、堪忍してくれ。
痛かったろ?
甚五郎:痛かった。痛かったよ。お前のが一番痛かった。
仕事はマズいが力はあるね。
大工2:よせよおい、変なこと言うなよ。
政五郎:へへ、面白い人なんだよ。
肚ァ何にもなくってね。さっぱりしてていいやな。
大工1:で、棟梁、名前はなんて言うんです?
政五郎:おうそうだった。まだ名前を聞いてなかった。
名前どころじゃねえ、西と聞いただけでどこの生まれかも聞いて
なかったよ。
お前さん、西のどこの生まれだい?
甚五郎:飛騨の高山だよ。
政五郎:飛騨?へえ、いいところで生まれなすったな。
飛騨とくりゃあ、大工の本場だ。
いい職人がたくさんいるだろうなあ。
とりわけ、俺たちの稼業で神様と言われ、名人と言われる、
左甚五郎利勝という方がいなさるけどな。
お前さんも一度くらいは甚五郎先生にお目にかかったことがある
だろう。どんな人だい?
甚五郎:甚五郎先生…へへへ…甚五郎ねえ…甚五郎…。
つまらねえよ。
政五郎:つまらねえ?ははは…。
「只の目に なに石山の 秋の月」か。
先生を見るだけの眼もねえと見えるな。
まぁまぁいいや、そいつはいいけども、お前さんの名はなんて
言うんだい?
語り:名人だの神様だの言われ、飛騨高山の甚五郎とは
なんだか気恥ずかしくて言いにくくなってしまった甚五郎先生。
しばらく考えておもむろに切り出します。
甚五郎:私?私ねえ…。
名前は……あったよ。
政五郎:そりゃ当たり前だよ。
名前のねえ奴はいねえやな。
だから、お前さんの名前はなんて言うんだい。
甚五郎:名前なぁ……なんて言おう。
政五郎:なんて言おうってのはねえやな。
お前の名前聞いてんだよ。
甚五郎:ぁ~…それがその、ね、…忘れた。
政五郎:おぉい、しっかりしねえしっかり!
人の名前聞いてるんじゃねえんだ、お前さんの名前を聞いてるん
でェ。
甚五郎:それがさぁ、忘れるってのはひどいもんでねえ。
人の名前は憶えてるんだ。
自分の名前だけ忘れちゃったんだよ。
大工2:おいおい呑気な男があるもんだね。
てめえの名前を忘れたとよ。
大工1:名無しじゃマズいやな。
上方の上方のって言ってたら、馬方乗り継ぎするなんて事に
なっちまわぁな。
政五郎:うーん、それじゃあよ、おめぇ達でなんか合いそうな名前を
考えてやってくれや。
大工1:へっ、てめえの名前を忘れてやがるたぁな。
腹も立てられねえや。
大工2:世の中にゃ、ずいぶんポーッとした奴がいるもんだ。
大工1:おう、そいつだ。
大工2:なにが?
大工1:ポーッとしてるから「ポン州」てのはどうだい。
大工2:いいね、ポン州ってなァうってつけだ。
どうだい棟梁、ポン州なんてな?
政五郎:ぽんしゅうぅ?
ははは、ポン州たぁ付けやがったなぁ。
おう上方の、いま若え奴が「ポン州」なんて考えたけどよ、
さすがにポン州はマズいだろ。
甚五郎:ポン州?いや、ポン州大好き、うん。
ポン州になりたいと思っててね。
政五郎:お前さんがかい?
おめぇら、ポン州いいとよ!
大工1:お、よござんすかい?
大工2:へえぇ、おい、いいかいポン州!
甚五郎:【のんびりと返事】
あいよ。
大工2:返事してやがるよ。
大工1:しかしのんびりしてやがるな。
語り:その日はそのまま寝てしまいまして、やがて鴉カァで夜が明けます
。朝飯を済ますと政五郎が呼びます。
政五郎:おう、ちょいとポン州来てくれ。
甚五郎:棟梁、なんだい?
政五郎:ああ、座ってくれ。
昨日来たばかりでまだ疲れが取れてねえとこに、仕事を手伝って
くれってェのも野暮な話だが、何しろ人手が足りなくてどうにも
しょうがねぇんだ。
どうでェ、すまねえけど今日から仕事を手伝ってもらえねえかい
?おもちゃ箱ねえだろ?あ、上方じゃなんて言うか知らねえけど
ね、江戸じゃ道具箱の事をおもちゃ箱と言うんだ。
気に入るかは分からねえけど、ちょいと俺のおもちゃ箱を見ても
らって、気にいるようだったらひとつどうでェ、仕事にかかって
みちゃくれねぇか?
甚五郎:おぉ、棟梁の道具箱、拝見しよう。これかい?
ふん、ふんふんふん…
あぁ~見事なお道具だな。
まぁ使いやすいように直さしてもらうとこもあるかもしれねえけ
ども、借りてもいいかな?
政五郎:おぉ使えるかい?
じゃあそれ持ってってくんねぇな。
甚五郎:ありがとう。
これ、そこの丁稚、丁稚!
権治:丁稚って言ってやがらァ。
俺ァ権治ってんだよ。
甚五郎:権治でも丁稚だ。
道具箱を担げ。
権治:なんでェ、不精なこと言いやがって。
他の兄ぃたちはみんな自分で道具箱を担いでったじゃねえか。
自分で担いで行きゃいいだろうが。
甚五郎:黙って担げ。
天子様の靴は、関白職でなくては取れんぞ。
権治:大きなこと言ってやんなこんちきしょうめ。
政五郎:権治、担いでいってやれ。
まだ本当に疲れが取れてねえんだろう。
権治:へぇーい。
語り:小僧の権治に道具箱を担がせ、昨日の藍染川へやって参りました
ポン州…もとい甚五郎。またまた鷹揚に命じます。
甚五郎:丁稚、何をすればいいか、聞いてみろ。
権治:それもやらせるのかよ!ったく…。
兄ぃ!ポン州何すればいいんだって。
大工1:あ?板削れって言っときな!
権治:へーい。
良かった、俺と同じだ。
あー、板を削れって。
甚五郎:板か。
あぁよし、削ろう。
語り:甚五郎、おもむろに荒仕工中仕工むら直し仕上げ、四丁の鉋を
パンパンパンパンッと抜きますと、権治を振り返ります。
甚五郎:丁稚、砥石を持ってこい。
権治:またあんなこと言ってやがるよ。
自分で取ってくりゃいいじゃねえか!
甚五郎:不精なやつだ。
権治:んなっ、お、おめえの方が不精じゃねえか!
ったく…ほれ、砥石!
甚五郎:うむ、ご苦労。
権治:なんでそう偉そうなんだよ…!
語り:受け取った砥石を目の前に置くと、やおら鉋を研ぎだした…
のはいいが、これがいつまでたっても研ぎ続けている。
大工1:お、四ツか。
そろそろ曇りにしようじゃねえか。
大工2:そうだな。
おう、ポン州!
曇りだぞ!
甚五郎:曇り?
この天気にか?
大工2:あんなこと言ってやがるよおい。
大工1:煙草を飲もうってんだよ!
甚五郎:俺ァ煙草は嫌いだ。
勝手に喰らえ。
大工1:なに言ってやがんでェ。
大工2:いぃいぃ、俺たちだけで一息入れようや。
語り:他の大工たちが一休みしている間も甚五郎先生、ひたすら鉋を
研ぎ続けている。
大工2:お、九ツか?昼飯だな。
ポン州にも声かけてやんな。
大工1:よしたほうがいいよ。
俺ァ飯は嫌いだ、勝手に喰らえ、なんて言うに違いねえよ。
大工2:飯はそうはいかねえだろう。
おう、ポン州!
昼飯だよ!
甚五郎:…飯のおかずは何だ?
大工2:今度は聞いてやがるよおい。
鮭だよ!
甚五郎:鮭か…、ブリはないか?
大工2:何を言ってやがんでぇ、ブリなんかねえよ!
甚五郎:じゃあ旨そうなところを取っとけ。
大工1:あんなこと言ってやがるよ。
語り:かくして今でいう午後三時過ぎくらいまでひたすら鉋を研いでいた
甚五郎先生、やっと研ぎ終わりますてえとすっかり台直しを済まし
まして、そこへ松板のコブコブだらけの奴を二枚持って来ます。
甚五郎;どれ…やるか。
語り:削り台の上へ乗せると、おもむろに鉋を掛け始めます。
これが鉋で板を削るというよりは、鉋が板の方へさわると、
板の方からきゅるるるるーっきゅるるるるーっと削れていく。
二枚の松板をそれぞれ片面ずつ削りまして、仕上げの鉋を掛けると
ピタリっと板同士を合わせました。
甚五郎:これ丁稚、この二枚の板を剝がしてみろ。
権治:へっ、何を言ってやんでェ、今おろした板じゃねえか。
剥がしてみろだって?わけねえじゃねえか。
ただ合わせただけの板なんて、よっ……え?
あれ?っ、っ…!
え、これ、剥がれねえぞ…?!
ちょ、おい兄ぃ、ちょいと来てくれよ!
大工2:あん?どうしたぃ?
権治:ポン州が変な事しやがったんだ。
板ァ削って合わして、剥がしてみろってみろって言うからやって
みてるんだけど、剥がれねえんだ。
大工2:なァに言ってやんでェ、おめえは力がねえんだよ。
俺ァ力じゃちょいと人にひけは取らねえよ。
ポン州だって俺の事ァ、仕事はマズいけど力はあるって褒めやが
ったんだ。
そういうのはな、横にしてやったってしょうがねえんだよ、ドジ
だな。
こうやってよ、縦にして立てるんだよ。
そしたらこっち側に手を掛けて、
よっ、とこうやってェッッ!!っとッ…!
は、剥がれねえ…!?
おいポン州、妙な事しやがったなぁ。
これ、剥がれるのか?
甚五郎:毛ほどのムラが無いから、合わせた板は剥がれない。
それを無理に剝がそうとするんなら、凄く力のある人が拝むよう
にしてぎゅーーッと擦れば剥がれる事は剥がれるが…
板の間から火が出て、火傷するぞ。
大工1:おいおい、物騒なもんこしらえやがったなぁ。
甚五郎:じゃ、私は帰るよ。
大工1:あっ、ちょっ!
帰っちまったよあの野郎。
語り:唖然とする他の大工たちを尻目に、すたすた帰る甚五郎先生。
その後もどうにかして合わせた板をはがそうと頑張るが、
結局は無駄骨に。
そこへ政五郎が顔を出します。
大工2:おっ、棟梁だ。
ご苦労さんで!
大工1:ご苦労さんで!棟梁!
政五郎:おう、お前らもご苦労だな。
ポン州の奴が早く帰って来て二階上がって寝ちまったが、
それで、仕事の方はどうだ?
大工2:いやあ、ダメだ棟梁。
アイツぁ国に帰しちまった方がいい。
大工1:あいつは大工じゃないね。
手品使いだよ。
大工2:板ァ削らしたんです。
そしたら片面ずつ削りやがって、剥がせるもんなら剥がしてみろ
ってんで、ハナは権治がやったんです。
そしたら剥がれねえんです。
大工1:だから次はあっしがやったんで。
仕事はとにかくですよ?
あっしは力じゃひけを取ったことはねえんで、目いっぱいやって
みたんですけど、剥がれねえんですよ。
大工2:しかしずいぶんドジな野郎がいるもんだね。
一枚の板を二枚にして使おうって言う世の中にですよ?
二枚の板を一枚にしやがったんですからね。
仕事しねえくらいがいいようなもんで。
大工1:棟梁、悪い事ァ言わねえ。
あんなのは帰しちまった方がいいよ。
政五郎:なに、削った板を合わして、剥がれねえ…?
そりゃ水につけたのを合わせたんだろ。
おめえ達はドジだからそれに気が付かなかったんだな。
削った板を水につけねえで剥がれねえなんて仕事する人はな、
日本で一人…まあ事によると一人もいねえと言っていいくれぇの
もんだ。
おめえ達は間抜けなもんだから、水につけたのを気づかなかった
んだろ。まぁまぁまぁ、それァいいけどもよ、
ポン州に板を削れって言い付けたのァ、誰だ?
大工1:へい、あっしです。
政五郎:…ちょいとそこに座れ。
おめえ達は脇の丁場へ行って、「何をしましょう」って聞いたら
「板を削ってくれ」って言われて、
はいそうですかって素直にやるか?やらねえだろ。
板削りってな、小僧の仕事だ。
今日は頭が痛むから帰してもらいやす、腹が痛ぇから仕事を休ま
してもらいやすと道具箱を担いで帰ってくるのとな、
上方から出てきて江戸で身寄り頼りもねえと思うから、
板ァ削れと言われても「あぁ情けねえな」と思いながら二枚の板
を片面ずつ削って帰ってくんのとはわけが違うんだぞ!
板ァ削っとけなんて言い付けるたァ、生意気な事ぬかしやがって
!
大工1:いぃいえ棟梁、実はあっしじゃねえんで。
政五郎:じゃあ誰だよ、梅か?
なに、松?
松、おめえか!?
なに、竹が?
おめえか竹!
違う?芳公?
芳公、どうなんだ!?
そうじゃない?国が?
こら、国!
なに、秀が?
おめえが言ったのか!?そうじゃない?
じゃあおめえか!?
大工2:どういたしまして、…ってあ、あと振る奴いねえ。
へへ、そのうち誰か来るでしょ。
政五郎:なに言ってやがる。とんでもねえ奴らだ…!
おい権治、ポン州呼んで来い。
権治:へい。
【二拍】
甚五郎:棟梁、どうしたんだい?
政五郎:おうポン州、こっち来てくれ。
今日は俺が丁場へ来なかったせいでとんだ粗相をしちまった。
お前さんに板削れって言い付けたってな。
心持ちが悪かったろ。すまねえな、堪忍してくれ。
甚五郎:ははは…棟梁、心持ちなんぞ悪くないよ。
政五郎:いや、そんな事はねえだろう。
気が付かなくて悪かったな。
だからよ、気持ちの治るまで二階で寝起きしてくれ。
それで気持ちが治って仕事しようかなと思ったら、手伝ってくれ
りゃいい。
甚五郎:あぁ、二階で?
寝たり起きたり?
私はそれが一番好きなんだ。
それじゃ、ゆっくりさしてもらうよ。
政五郎:ああ、そうしてくれ。
語り:それから本当に毎日二階で食っちゃ寝するだけの生活に突入した
甚五郎先生。それが続くとさすがにおかみさんのお勝も黙っちゃい
ません。
政五郎:なんだ?話ってのは?
お勝:ねえお前さん。どうなのさ、二階のポン州。
政五郎:なにが?
お勝:何がじゃないよ。
いくらお前さんが拾って来たかしれないけどさ、
毎日毎日朝から晩まで寝たり起きたり、起きてくるのは飯の時だけ
、しかも飯時に起きてきて膳の上をじーっと見て、
甚五郎:また鮭か…ブリはないか?
富山のブリは美味いぞ。
お勝:なんて言うんだよ。いいかげん癪にさわるったらないね。
あんなブリの好きな奴はないよ。
そんなにブリブリ言うんなら、富山行って垂れてりゃいいんだよ!
あんなのを置くくらいならね、あたしは離縁してもらうよ!
政五郎:おい、ちょいと待ちなよ。
そこがマズいんだよ。
お勝:何がマズいのさ?
政五郎:いやな、相染川の丁場で初めてあいつに会ったんだが、
その時に家に来いっつった俺にポン州がな、
「おめえ、かかあがあるか。」ってんで、妙なこと言いやがった
なと思って、あるっつったら、「家へ帰ってかかあと相談して
きたほうがいい」なんて言いやんだよ。
「俺がお前さんの家に行くと、いつかおかみさんと棟梁が剣呑な
仲になって、あの人を置くくらいならあたしを離縁しておくれ、
なんて事があってもマズいよ」
なんて言うから、
冗談言うなってんだ、職人の事についてかかあにこれっぱかしも
口出しなんざさせねえ!
口なんぞ出しやがったらかかあ叩きだしてやる!ってよ。
お勝:へえ…そういうこと言ったのかい…?
政五郎:いや、ホントに叩きだしゃしねえよ。
その時のはずみってやつだ。
叩きだしてもおめえを家へ置くよ、ってったら、
あとのあの野郎の言い草が癪にさわるんだよ。
「えらい!さすがに関東の大工は違うね、褒めおく。」
ってのが俺の胸にドキーンと来たんだ。どうにもしょうがねえん
だよ。
まま、そう嫌な顔をするなよ。長い事じゃねえんだ。
年でも変わったあたりで国に帰すようにするからよ。
拗ねてねえで茶でも煎れてくれよ。
おうポン州!
茶が入ったぞ!降りて来ねえかい?
甚五郎:【のんびりと】
あいよ。
政五郎:あいつの返事はどうも変にのんびりしてやんな。
まま、こっちへ来ねえ。
退屈だろ、毎日寝て起きてだけってのも。
甚五郎:いやあ、退屈なんてしないねえ。
政五郎:まあ飲みなよ。
たいしたうめえ茶でもねえけどさ。
【自身も茶を一口すすって】
なあポン州、いつだったか俺ァ藍染川の丁場で、
お前さんの削った板てのを見せてもらった。
板が剥がれなかったから、本当はどれだけの仕事をするのか
まだ目にしてねえが、いい仕事をしなさる。
上方の人の仕事は丁寧だな。
まあ、お前さんも江戸に来て見てあらかた様子は分かったと思う
けどよ、江戸の仕事ってなァね、表から見ると百人の手間がかか
っているように見えても中に入ってよく見ると八十人ほどの手間
しか掛かってねえ。
ところが上方だと表から見て百人の手間がかかってると思うと
実は百五十人の手間が掛かっていたりする。それだけ丁寧だって
こった。
なんでそうなのかってと、江戸ってとこは火事早え土地でな、
三年に一度は必ず焼けると覚悟してなくちゃならねえ。
そういう考えがあるもんだから、なかなかいい仕事をしようと
思えねえんだ。
見てくれのいい仕事で手を抜いてあるから、どうしてもぞんざい
になっちまう。
お前さんは自分の腕を磨こうと思って、上方から江戸に出てきた
んだろうけども、せっかくの良い腕が落ちる事はあっても決して
上がる所じゃねえ。
どうだい、あらかた江戸の見物が済んだんなら、国に帰った方が
良かねえかい?
甚五郎:棟梁、ありがとう。
いや、私もそう思った。
どの仕事を見ても雑だなあってね。
政五郎:気が付いていなすったかい。
あ、いや、今すぐに帰れってんじゃねえんだ。
この暮れも押し詰まってるってえのにそんな不人情な事はしねえ
し、出ていかれちゃ俺も困る。
今のところはひどく懐都合も悪い。
春になって、少ぅしばかりまとまった銭も入ったら、お前さんに
襟垢の付かねえ着物を着てもらって、たとえわずかでも土産物の
一つでも持って、国に帰ってもらうからよ。
それまではゆっくりしていくといい。
けどただ寝て起きてってのもつまらねえだろ。
どうだい、少し夜なべやってみねえかい?
甚五郎:お、それを棟梁に聞こうと思っていた。
大工に夜なべてえのは?
政五郎:ああ、別に大工に夜なべてのもおかしな話だけどね。
大工にとっての春の小遣い取りだよ。
踏み台をこしらえたり、塵取りこしらえたりして、
それを市で売って稼いだ金が皆の春の小遣いになったり、
かみさんや子供の物を一つでも買おうと、こういうわけだ。
お前さんも退屈しのぎに、やってみたらどうだい?
端切れならたくさんあるんだ。
どうでい塵取りは?
甚五郎:塵取りねえ…むずかしいなあ。
政五郎:塵取りがかい?
あんまり難しいってほどのものでもねえと思うんだが…。
じゃあ踏み台ならどうでい?
甚五郎:踏み台なあ…できんなあ。
政五郎:不器用な大工だねおい。
踏み台ができねえなんて…あ、上方の人は彫り物をするっていう
けど、彫り物ができるとイイ銭になるぜ。
この暮れの市でもってね、恵比寿大黒なんざよくこしらえてね、
こいつが少し売れた日にゃ、まとまった銭が入るぜ。
甚五郎:恵比寿大黒…?
あ…。
語り:ここではたと思い出した甚五郎先生。
まだ山城国伏見にいた折、江戸表駿河町は三井屋の番頭、藤兵衛
から持ち込まれた依頼がありました。
三井屋のあるじが縁あって運慶先生の彫った恵比寿様を手に入れた
。商いの神様として、恵比寿大黒様のある事は知っている。
ところが恵比寿様だけではどうも具合が悪い。
そこで当代一の呼び声高い、甚五郎先生に大黒様を彫って欲しいと
、こういう依頼があったわけです。
甚五郎:うん、大黒様か…!
それじゃ棟梁、その、福の神をやらせてもらいますよ。
政五郎:お、やってみるかい?
端切れならいくらでもあるからよ。
甚五郎:ありがとう。
二階を仕事場に借りてもいいかな?
政五郎:おぉいいともいいとも!
ゆっくり使ってくんねぇ。
甚五郎:それと、種油を三升ほどいいかな?
政五郎:おう、いま取りにやらせるよ。
権治!いるか!?
権治:へーい、棟梁、どうしました?
政五郎:種油を三升、買ってきてくれ。
権治:え、何に使うんです?
政五郎:いや、ポン州が使うんだよ。
権治:え、舐めるんで?
政五郎:バカ、猫のバケモノじゃねえ。
いくらポン州の人がいいからって、おめえが舐めてたんじゃ
しょうがねえな。夜なべして彫り物するんだよ。
早く行ってこい!
権治:へーいっ!
甚五郎:じゃあ、仕事を始めさしてもらうよ。
語り:甚五郎先生、自身の目利きにて美州の本木、檜のごく地肌のいい端切れを
選んで二階に戻った。
コツコツカリカリコツコツカリカリ心魂傾けて、全集中にて大黒様を
彫り始めた。
政五郎:おう、今日も二階から鑿の音が響きだしたな。
お勝:ねえお前さん、西の人ってのは料簡がしっかりしてるのかねえ?
小遣い取りにやってみたらどうだって言われたらさ、
今度は朝から晩までと言っていいほど仕事してて、あんまり寝てる
の見た事がないよ。
夜中でもコツコツカリカリコツコツカリカリやってるよ。
政五郎:え、寝ずにかい?
おいおい冗談じゃねえ、からだ壊しちまうよ。
しょうがねえ、ひとこと言っとこうか。
おぅい、ポン州!
甚五郎:【のんびりと返事】
あいよ。
政五郎:~~どうもあいつの返事は気が抜けるな。
あいよ、ってんだからね。
聞いたよ、ほとんど寝ないでやってるってこたぁ、
よほどできたのかい?
甚五郎:かしらに少し、形が付いたなあ。
政五郎:かしらに?
おいおっかあ、ポン州は彫り物には慣れてやんだな。
恵比寿大黒なんてのはね、顔が良くなくっちゃいけねえんだ。
面だよ、うん。だからポン州の奴、ずーっと面だけ先に片付けち
まったんだ。
手が少しくらい曲がって立って、足がどうにかなってたって、
顔さえよけりゃ買ってくんだよ。
こりゃあ、ことによると数物師かもしれねえなあ。
それじゃ、よっぽどできたんだな?
甚五郎:ひとつ。
政五郎:ひとつぅ?
おいおい、大仏様の孫みてえなものをこしらえたってダメだよ。
じゃあ、よっぽど大きいのかい?
甚五郎:お身丈は、三寸くらいかな。
政五郎:おかしいねぇ。
お前さん、夜中にコツコツやってたって言うじゃねえか。
甚五郎:いや、夜中は寝る。
政五郎:だってよ、コツコツ音がしてるっておっかあが言ってたぜ。
甚五郎:いやあ、枕元に板と鑿を置いといてね、
目の覚めるたんびにコツコツ叩くだけ。
政五郎:おいおい、何をしてやんでェ。
語り:そうこうしているうちにある日、甚五郎が二階からすっきりした顔
で降りて来ますと、政五郎に声を掛けます。
甚五郎:棟梁、ちょいと丁稚をお借りしたいがなぁ。
政五郎:おう、いいぜ。
権治!ちょいとこっちへ来い!
権治:へーい。
なんです、棟梁。
政五郎:ポン州が頼みたい事があるってよ。
権治:ええ…
なんだい?
甚五郎:ああ、ちょいとこっちへ…。
この手紙を、三井屋さんに届けておくれ。
権治:ああ手紙ね。
わかったよ。
甚五郎:さて…。
そうだ棟梁、湯に行きたいな。風呂に。
政五郎:おうそうかい。
おいおっかあ、湯札出してやんな。
ゆっくり入ってあったまって、よく洗って来ねえ。
お前さんみてえにそう不精じゃ、小汚くってしょうがねえよ。
綺麗になって来な。
甚五郎:【のんびりと返事】
あいよ。
政五郎:へへ、のんきな野郎だな。
仕事してんのかね?
大工1:ああ、あいつァ変な野郎でさ。
昼間ちっとも仕事をしねえんだ。
大工2:あっし達が仕事してる所に来ては、じーっと見てやがんですよ。
それで、あっしが踏み台をこしらえたら、
甚五郎:うん、この踏み台は百年はもたない。
大工1:って、あたりめえじゃねえかって話で。
長生きする野郎だとあっしは思ったね。
大工2:踏み台が百年も二百年ももつかってんだよな。
どうせあいつなんざ、ろくな仕事もできやしねえよ。
大工1:たしか、恵比寿だか大黒だかこしらえやがったんでしょ?
大工2:どんなもんだかね、あっしがいっぺん見てやろうじゃねえか。
政五郎:まぁまぁまぁ、むやみに人の仕事を見るもんじゃねえ。
俺が見てくるからよ。
上方の人だからってバカなこと言うんじゃねえ。
あっちの人の仕事ってのはうめえんだぞ。
とりわけて飛騨高山の左甚五郎先生て方は、俺たちにとっちゃ神様
みてえな方だ。
これからおめえ達がお目にかかる折があるかねえか分からねえが、
もしも、この方が甚五郎先生だという方にお目にかかったら、
爪の垢ァいただいて、煎じて飲め。
そうすりゃ、いくらかでも仕事がうまくなるだろ。
大工1:はぁぁ、会ってみてえなあ甚五郎先生によ。
大工2:そういう人に限ってよ、爪なんざきれいに掃除して垢なんかねえ
んだ。
大工1:そこへ行くとあのポン州、あの野郎と来た日にゃ、
爪じゅう垢だらけ!
大工2:あんな小汚ねえ野郎はねえと思うね!
政五郎:まあ、とにかく俺ァちょいと二階行って、仕事ぶりを見せてもら
うかね。
おめえ達ゃ、留守番しててくれや。
語り:政五郎、二階へトントン上がって行きまして、ガラリ障子を開けま
す。さぞ散らかってるだろうと思っていたが、目の前に広がった
光景は予想に反し、案外なものでした。
政五郎:はてな…?綺麗に仕事が片付いてやがるな…?
ん?床の間に…鑿がきれいに並べてあるぞ。
道具はねえって言ってたが、鑿だけは持ってたんだな。
彫り物大工か…?
隣にあるのは…なんだ?布にくるんだ物があるぞ。
彫った大黒様は三寸くらいだって言ってやったな。
これか…?
!!うっ、こ、こいつァ…ッ!?
語り:丁寧に巻かれていた布を取り除けると、中から現れたのは大黒様。
目の錯覚か、それがパッと目を見開いてニヤニヤっと笑ったように
見えました。
さすがに大工衆を率いる政五郎、棟梁を務めるだけあって人の仕事
ぶりがどの程度のものかはすぐにわかります。
その造形の細やかさ、見事さにしばし呆然としてしまいました。
政五郎:こ、こんなできばえの大黒様は見た事がねえ…!
…事によると…いや…まさか…
お勝:【階下から】
ちょいと、お前さーん!
お客さんだよ!
政五郎:ぉ、おう!今行く!
【二拍】
なんだ?客だって?
お勝:駿河町の三井屋さんから、使いの方が見えられてるんだよ!
政五郎:なに、三井屋…!?
ウチはあすこへは出入りしてねえはずだが…。
いらっしゃいやし、棟梁の政五郎てモンです。
お出入りはございやせんが、どうぞ、お見知りおかれまして。
よろしくお願い申します。
藤兵衛:手前、三井屋から参りました、番頭の藤兵衛と申します。
こちら様においでの、飛騨高山の左甚五郎先生から、
大黒様が彫り上がったとお手紙を頂戴いたしまして…。
政五郎:えっ…あっしのとこに…?
【つぶやく】
!っそうか…やっぱり…!
ええ、いらっしゃるんですが、今ちょいと湯に行かれまして。
もう間もなく、お帰りになるでしょう。
ま、どうぞお上がりなすって。
おいおっかあ、座布団持ってきて、お茶ァ差し上げて。
お勝:ど、どうぞ…。
政五郎:粗座布団に出がらしのまずい粗茶で申し訳ねえ。
おっかあ、粗茶菓子は…あ、切らしてるのか。
ま、しばらくお待ちなすって。
【つぶやく】
やっぱり、名人になる人ってなぁ違ったもんだね。
昔から、能ある豚はへそを隠すなんてことをよく言うよ。
【二拍】
甚五郎:はい、ただいま。
政五郎:おうっ…!お帰りなせぇ。
番頭さん、お帰りになりやしたよ。
藤兵衛:おぉ先生!お久しゅうございます!
三井屋番頭の、藤兵衛でございます。
甚五郎:あぁ~藤兵衛さんか。
ご無沙汰だねえ。
藤兵衛:お手紙を頂戴し、すっ飛んで参りました。
甚五郎:いやどうも、すっかり遅くなってねえ。
政五郎:先生、そこじゃ話がしにくいんで、ずっと、ずーっとこっちへ、
入っちゃってくださいな。
甚五郎:へ?
政五郎:先生、ずーっとこっちへ。
甚五郎:あぁ……はっはっは…そうですか。
じゃ、ごめんください。
…棟梁、ただいま。
政五郎:先生、棟梁はよしてください。
政五郎でいいんで。
先生、あなたもお人が悪いや。甚五郎先生でしょ?
甚五郎:ああ、私ね。
今ね、湯の帰りに、思い出してね。
政五郎:いやだよ先生ぇ。
っておめぇら、何ポーっとしてつっ立ってんだ!
きちんとご挨拶申し上げろィ!
このポン州様が甚五郎先生様なんでェ!
ほんとに、とんでもねぇ奴らだ!
ポン州ってな、おめえ達の事じゃねえか!
先生、何も知らねえこととはいえ、どうか勘弁してやっておくん
なせェ!
大工1:じっ、甚五郎先生!
お目にかかれて、光栄でござんす!
大工2:あっしら、とんだ無礼な事を…どうか、ご勘弁下せェ!
政五郎:かかぁ、おめえもだ!
知らねえこととはいえ、先生のブリ好きにケチつけてブリブリ
言いやがって!
早く頭ァ下げろ!
お勝:い、いま謝るよ…。
先生とは知らず、ご無礼いたしました…。
甚五郎:いやいや、棟梁もお内儀も、そうされると私が決まりが悪い。
みなさんも、そうされると決まりが悪いんだ。
あとで話はまたゆっくりしますがね、気を悪くしないで。
藤兵衛さん、ちょいと待ってておくれ。
【二拍】
これなんだが…お気に入るかどうだかな。
藤兵衛:!はあぁ~……。
先生、素人のわたしが拝見いたしましても、結構な作でございま
す。
主もさだめし喜びましょう。
先生、確か伏見で三十両、手付けでお渡ししてございます。
ここに七十両持参いたしまして、百両でお願いいたしたいと存じ
ますが、もしもご不足でございましたら、ご遠慮なくおっしゃっ
ていただけますよう。
甚五郎:いやいや、とんでもない。
ありがたく、頂戴するよ。
さ、棟梁、これを受け取っておくれ。
政五郎:えっ!?う、受け取れって…これ、五十両も…!?
甚五郎:今まで世話になったぶんだよ。
政五郎:そ、そんな…先生、あっしァ、先生に襟垢の付かねえ着物を着せ
て国にお帰り願うつもりが、これじゃあっしらが女房子供に襟垢
のねえ着物を着させてやれる事に…ありがとうごぜえやす…!!
藤兵衛:それと先生、お好きとうかがいましたので、お口に合いますか
どうか…一樽持参いたしました。
どうぞ、お疲れ休めに召しあがってください。
甚五郎:あァ~心に掛けてもらって…ありがとう。
藤兵衛:そしてこちらが先生のお骨折り、お肴料という事で、二十五両
持参いたしました。
どうぞ、お納めを。
甚五郎:いやぁ、これは過分にどうも。
重ね重ね、ありがとう。
お肴料は、奥州松島見物に取っておこう。
藤兵衛:それから運慶先生の恵比寿様に、歌が付いておりました。
「商いは 濡れ手で粟の ひとつかみ(一つ神)」とございまして。
甚五郎:ふんふん、なるほど。
じゃあ、まずいけど後をつけ足そうかな。
ちょいと、筆と紙を借りますよ。
権治:へーい!今すぐに!
どうぞ、先生!
甚五郎:どれ…、
「守らせたまえ 二つ神たち(二掴み)」
語り:三井に残る左甚五郎作、三井の大黒でございます。
終劇
参考にした落語口演の噺家演者様等(敬称略)
桂三木助(三代目)
三遊亭圓生(六代目)
※用語解説
・八丁堀
東京市の1878年-1947年(明治11年-昭和22年)の京橋区の地名
(本八丁堀や南八丁堀など)、および現在の東京都中央区の
地名。
・丁場
運送や道普請などの受持ち区域。
・ぶっ裂き羽織
乗馬や帯刀の際に便利なよう、背縫いの下半分を縫い合わせない羽織のこ
と。背割羽織とも呼ばれ、江戸時代には佐賀県で麻製のものが作られてい
た。
・小紋
着物(和服)の種類の一つ。
全体に細かい模様が入っていることが名称の由来であり、訪問着、
付け下げ等が肩の方が上になるように模様付けされているのに対し、
小紋は上下の方向に関係なく模様が入っている。そのため礼装、正装とし
ての着用は出来ない。
・手甲
主に手の甲や腕を保護するもの。
日焼け防止、怪我の予防、防寒、虫除けなど、様々な目的で使われる。
また、お祭り衣装や伝統的な服装の一部としても用いられる。
・脚絆
活動時に脛を保護し、障害物にからまったりしないようズボンの裾を
押さえ、また長時間の歩行時には下肢を締めつけて鬱血を防ぎ脚の疲労を
軽減する等の目的がある。日本では江戸時代から広く使用される。
元となった脛巾自体はそれ以前から(武家・庶民共に)
見られる。現在でも裾を引っ掛けることに起因する事故を防いだり、
足首や足の甲への受傷を防ぐ目的で着用を義務付けている職場があり、
作業服などを扱う店で販売されている。
伝統的なものに、大津脚絆、江戸脚絆、筒型脚絆がある。
・番匠
中世日本において木造建築に関わった建築工のこと。
木工とも呼ばれ今日の大工の前身にあたる。
・藍染川
この名前の川は二つあった。
一つは駒込地区の谷戸川から不忍池に流れている幅一間程度の小川で、
川の周辺に集まっていた紺屋が、この川の水を使い藍染の布を晒していた
。 もう一つは内神田地区にあった小川で、同様に紺屋町あたりに多く
あった染物屋が染め布を晒していたと伝わる。
・橘町
元和七年(一六二一)西本願寺(現本願寺築地別院)が創建されると
町一帯は門前町ないし寺内町となった。
寛永江戸図には「本願寺御堂」の門前辺り、浜町堀沿いに「町や」とあり
、明暦大火直前の明暦三年(一六五七)の新添江戸之図では「寺内」
「町」とある。立花を売る店が多かったため立花たちばな町と称され、
のち橘町と改められたという。
・飛騨高山
飛騨高山は現在の岐阜県北部に位置する。
飛騨地方の中心地であることから、飛騨高山と呼ばれる。
標高差が大きく、森林率も高いことから、自然が豊かな地域としても知ら
れる。
・御札配り
御札配りは、各家庭で家内安全を願い祀られるお祓いの大麻(御札)を、
その土地を守護する神社が地域に頒布する伝統行事。
・只の目に なに石山の 秋の月
風流に無縁な凡人の目には「近江八景」石山の秋月も無価値である。
良い物を見せてもその真価は分からないという意味。
・丁稚
商家や職人のお店で働く、掃除や使い走りなどの雑務をこなす若い人の
ことを指す。
または年少者を可愛げに呼ぶ言葉としても使われる。
・鷹揚
ゆったりとしてこせこせしない様子。おっとりとして上品なこと。
・荒仕工・中仕工・むら直し・仕上げ
荒仕工:粗く削る為の仕立て方
中仕工:中間削り
・三寸
一寸の三倍。約九センチ。
・端切れ(はなぎれ)
木端のこと。木の端材。
・数物師
洋服の仕立ては当初、一ツ物師が高級官吏の御用服を、
数物師が一般官吏の制服を主に手掛けていたことが、「数物師」という
用語の由来とされる。
・四ツ
この場合の四ツは昼四ツ、つまり、巳の刻(午前十時)ころを指す。
・九ツ
この場合の九ツは真昼九ツ、つまり、午の刻(十二時)ころを指す。
正午という言葉はその名残である。
・一両
現在の価値で約七万五千円~八万円。
だから七十両だと最大約五百六十万円なーりー。
・手切りまら出し釘こぼし
昔の職人の衣裳は、股引に腹掛、足袋と草履ばきであった。
腰が座っていない大工は身だしなみも決まっておらず、
肝心なところを出して、切れ物道具を持ったら怪我が絶えなく、
また貴重な釘もよくこぼす事から、出来の悪い大工を揶揄した言葉。
また釘をこぼすと、釘から芽が生えると怒られた。
・袖すりあうも多生の縁
道で他人と袖が触れ合うような小さなことにも、前世からの深い因縁が
あるという意味の慣用句。仏教の輪廻転生の考え方に基づいており、
人間関係の縁を大切にする思いが込められている。
・つまづく石も縁の端
ふとした石につまずくことも、何かの縁の始まりだから大切にしよう
という意味の言葉。日常で起こる小さな出来事も、縁や因縁で結びついて
いるという考え方に基づく言葉。
・本木
主に建築や家具などの材料として使われる「木」を指す。
「本木」は、その品質や用途によってより価値が高い、特に優れた木材を
指す言葉。
・美州
美濃国(現在の岐阜県)を指す。
ちなみに同じ読みでも尾州だと尾張国(現在の愛知県の西半分)
を指す。