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転生赤ん坊と読心術、洞窟デビュー

挿絵(By みてみん)



「あらあら、新しいお友達かしら?ゆっくりしていってね」


ニッコリと優しい笑顔でそう言いながら、お茶を差し出してくれたのは、まさかの美人妻――もとい、この子の母親だったっす。


「ど、どうもっす……」


恐縮しながら湯呑みを受け取り、ぎこちなく椅子に腰を下ろす僕、読心どくしん 術良すべよし


「じゃあ私は畑仕事に行ってくるから、この子のことをお願いできるかしら?世話のかからない子だから」


赤ん坊を置いて、にこやかに出て行った。


「え? りょ、了解っす……」


子守を任された僕は、ぽかんと赤ん坊を見つめながら、ため息をついた。


「……それにしても流石は異世界っすね。まさか赤ん坊が空を飛ぶとは……しかも喋るってんだから……」


(何を言ってるんだ、赤ん坊が喋るわけないだろう)


「どの口が言ってるんすか!」


目の前でふわふわと宙を漂う赤ん坊に、思わず総ツッコミ。いやいや、喋ってる自覚ないのかこの子。


(ところでおまえは現代からこの世界に転生してきた転生者らしいな。能力は読心術だっけ?)


「な、なんで知ってるんすか!? まさか……エスパー!?」


まさかの逆読心。こっちの能力を読み返されたみたいな驚きに、僕の目はまんまる。


(知ってるも何も、前回ブツブツと自分でナレーションをしてたじゃないか。強風でスカートが何たらって下りから)


「いやなんで視聴者側に回ってんすか!!」


もはやこの子が何者なのか理解不能すぎて、ツッコミが追いつかない。


「ていうか何者なんすか!?」


(……転生者だよ。死んで、生まれ変わった)


あっさりと、まるで挨拶かのようにカミングアウトしてきたこの赤ん坊。中身は完璧に大人……いや、先輩転生者か。


「なるほど……。ところで、ここって本当に異世界なんすか? なんて言うか、モンスター的なものをまったく見かけなかったんすけど……」


そう、そこがずっと疑問だった。チート能力もらって異世界転生!って展開なら、スライムやゴブリンのひとつやふたつは遭遇するもんっすよね?


(実は、魔物は村の周囲にいっぱいいたんだけどな。安全確保のために全部、洞窟にまとめて封じている)


「はいぃ!?」


まさかの事後処理済。どんだけ有能なんすかあんた!


(別に。魔物の気配を感知して、すべて洞窟へテレポートさせただけだ)


「本当に何者なんすかあんた……」


能力、スケールでかすぎて逆に聞けない。読心術がちっぽけに思えてきた……


「……その洞窟、僕を案内してほしいっす!」


(は?)


「僕、異世界で無双して、女の子にモテたいんすよ!だから魔物と戦って経験値がほしいっす!」


馬鹿正直な理由を堂々と言い放つと、赤ん坊は若干引いた顔(赤ん坊なのに)でため息をついた。


(……しょうがない。案内する)




洞窟までの道のり。空を飛ぶ赤ん坊を追いながら歩く僕。絵面はだいぶシュールっすけど、異世界なんでなんでもアリなんすね。


洞窟の入り口には、でっかい岩が鎮座していた。


(少し待ってろ)


赤ん坊がふわりと浮いたまま、岩に手をかざす。すると――


「うおおおっ!? 浮いた!? 岩が浮いてるううううっ!!」


信じられない光景。岩が、まるで羽根のようにふわっと浮かび上がり、入り口が現れる。


(どうぞ)


「やっべぇ……あの赤ちゃん、やっぱりチートの塊っす……!」


感動と恐怖の入り混じった表情で洞窟に足を踏み入れる僕。


「よーし! ドンドン魔物を倒して、ガンガンレベルを上げるっすよー!」


気合充分で進軍開始っす!


「ちなみにどんな魔物がいるんすか?」


(スライムにコボルト、ゴブリンにホーンラビット、ゾンビもいた気がする)


「おおー、序盤の雑魚モンスターのフルコース! これはもう楽勝っすよ、勝ち確っす!」




だが――


「……いねぇ……」


洞窟をどれだけ進んでも、魔物の気配ゼロ。


「もしかして食糧がなくて全滅したんすかね……?」


なんとも微妙な仮説を立てたそのとき――


「お!やっと第一魔物発見っすよ!」


目の前に現れたのは、一匹のスライム。よくある透明なプルプル系。


(まて、おまえの能力は相手の心を読むんだろ? どうやって戦うんだ?)


「何言ってんすか、僕には女神様の加護がついてるっすよ!たぶん! スライムくらい、素手でちょちょいのちょいっすよ!」


ポジティブが服着てる男、読心術良。テンション高くスライムに突撃――!


その後ろで、空を漂う赤ん坊が考える。


(……おかしい。かなりの数の魔物をここに飛ばしたはずだ。なのに出てきたのは、スライム一匹……?)


まさか、魔物たちが一箇所に閉じ込められて蠱毒のように――


(……まぁ、そんなわけないか)


と結論づけて目を向けると。


そこには、スライム一匹を相手にボコボコにされて、涙目になってる読心術良の姿があった。


(……弱っ!?)

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