読心術男子、異世界で赤ん坊に出会う
――僕の名前は、読心 術良。ぴちぴちの17歳っす。
つい先日まで、どこにでもいる平凡な男子高校生だったんすけどね。
あの日、いつものように通学してたら、強風に煽られて、女の子のスカートがヒラリ。思わず僕は釘付けになったっす。
「白の縞パンっすか!?ラッキー……!」
そう思ったその瞬間、バンッ!て音がして、気づいたら空の上。
トラックに跳ねられて、死んだっす。
で、転生前に出会ったんすよ。そう、女神様に!
「貴方に異世界でやり直すチャンスをあげます」
「マジっすか!?じゃあ超チート能力を希望っす!戦ってモテて金稼いで、最高の人生をエンジョイしたいっす!サクッとお願いするっすよ、女神様!」
ってノリでお願いしまくったら、女神様、めっちゃ無言になったっす。
そのまま転生されたのが今っす。
で、今の僕は――
「……腹減ったっす……」
ガチで、ただの空腹美少年っすよ〜(※自称)
草原の一本道をとぼとぼ歩きながら、キョロキョロと辺りを見回す。
「異世界っつったらスライムとかゴブリンとか出るんじゃないっすか?……なんもいねぇっすけど」
野良モンスターひとついない。ちょっと拍子抜け。
でもそのとき、遠くに建物が見えてきた。
「おぉ、村っすね!これは……ゲームで言う“始まりの村”ってやつじゃないっすか!ここから僕のヒーロー物語が始まるっすよー!」
テンションが少し上がってきたところで、ふと疑問がよぎる。
「……っていうか、女神様からどんな能力もらったんすかね、僕」
思わず自問する。戦闘系? 生産系? 隠しチート?
と、妄想が膨らんだその時だった。
(今日は赤ちゃん広場に来てるかな?一緒に遊びたいなぁ)
「……ん?」
すれ違った女の子の、声になってない“声”が耳に入った。
「……気のせいっすか?」
でもそのあとも――
(今日こそ告白しよう……いや、やっぱムリだ……)
(ああ、昼飯何にしようかな~)
どんどん聞こえてくる。周囲の“心の声”。
「ま、まさか……! これ、読心術っすか!? 嘘でしょ女神様ーーーっ!!!」
叫びたい気持ちを胸に、地面に膝をついた。
「なんでこんな能力なんすか……!もっとこう、派手で、わかりやすく強いのをお願いしたじゃないっすかー!」
落ち込みながら村を歩いていると、さらに聞こえてくる心の声。
(ダーリンは今日もかっこいいわぁ)
(ハニーは今日も可愛すぎる!)
「バ、バカップル……?いや、バカ夫婦……?誰得情報っすか、これ……僕には1ミリも役立たないっすよ……」
頭を抱えながら、うつむいたその時だった。
「そのバカ夫婦は僕の両親なんだがな」
「……え?」
思わず顔を上げた僕の目に映ったのは――
「……赤ん坊?」
空中を、すいーっと漂う赤ん坊。
ふわふわ浮かびながら、こちらを見ている。
「……空飛ぶ……赤ちゃん……?」
一瞬、現実逃避しかけた脳がフル回転して現実を確認する。
「赤ちゃんが……空……飛んで……」
「赤ん坊が空を飛んでるうううううううう!!???」
地面に尻もちをつきながら、僕の叫びが村に響き渡った――。