微笑みの拳、炸裂す
青く晴れた空の下、村の広場は今日も平和だった。
「やったなー!」「このーっ、ズルいぞ!」
子供たちが木の棒を手にチャンバラごっこ。笑い声が風に乗って木々の間を駆けていく。のどかで、どこまでも日常そのもの。
その空気を、唐突にぶち壊したのはーー
ドォオオオオオオオオンッ!!
凄まじい爆発音。地鳴りのように響き渡る衝撃。広場にいた子供たちの動きが一瞬止まる。
「な、なに!?」「うわあ! すっげえ!!」
遠くに見える黒煙。爆発の発生源はーーそう、主人公の家だった。
もくもくと立ち上る煙の中から、三人の人影が空を舞うように吹き飛ばされていく。
泥棒である。
場面は変わり、村の外。
倒れた木の根元で、ボロ雑巾のように気を失っていた三人の男たちが、朧げに意識を取り戻す。
「ーーおい。起きろ」
どこか冷ややかな、それでいて芯のある女性の声。
目を開けると、そこにはあの家にいた“女”の姿があった。否ーー正確には、母に変身した主人公だ。
「ヒィッ……!!?」
目にした瞬間、体が震える。声が漏れる。三人はその姿を恐怖そのものの目で見つめていた。
無理もない。彼らはさっき、笑顔の奥に爆発的な暴力を抱える“何か”に文字通り吹っ飛ばされたばかりなのだから。
「……これに懲りたら、二度とこの村に近寄るんじゃない。いいな?」
言葉は穏やか。だが、その声に滲む殺気は静かな刃のように鋭かった。
ドオンッ!!
主人公が軽く放った蹴りが、大木に炸裂する。メキメキと音を立てて木が揺れ、地面が軋む。かすっただけで、男の頬が裂けた。
「ひっ、ひいいぃ……っ!」
声にならない声。逃げようにも、足が震えて立てない。
「は……っ……は……っ……」
なんとか「はい」と返事をしようとするも、喉がうまく動かない。
ドゴォッ!!
今度は拳が地面に叩きつけられる。爆ぜるような音。地面に、拳大のクレーターが刻まれた。
「は、はいーーーーーーっ!! もう来ません!! 来ませんからァーーーー!!」
三人は蜘蛛の子を散らすように、這うようにしてその場から逃げ出していった。
風が吹く。木々が揺れる。鳥がさえずる。
金色の髪を風に揺らしながら、静かにその場に立ち尽くす主人公。
その姿を、遠くから目を丸くして見つめていたのは、近所のおじさんだった。
口が閉じられない。驚きのあまり、ただただ唖然と立ち尽くしている。
「……あ」
目が合った。
主人公は気まずそうに視線をそらすと、
「オホホホ……」
と、明らかに不自然な笑い声を漏らし、そそくさと家へと帰っていった。
その夜ーー。
爆発したはずの家は、修復魔法によって完全に元通り。今夜も家族が、和やかに食卓を囲んでいる。
「やっぱりママのシチューは最高だねぇ~」と父。
「ふふ、おかわりもあるわよ~」と母。
食卓には笑顔。温かい灯り。穏やかな時間が流れる。
だがーーその笑顔のまま、母が唐突に声を上げた。
「ところでアナター……」
にっこりと笑いながら、母はテーブルの下から一冊の本を取り出す。
「寝室にこんな物が落ちてたんだけど、これ……どういうことかしらぁ?」
それは例のアダルトな本であった。
空気が凍る。
「えっ……あっ……いや、これはその……!」
言い訳を探そうとするも、言葉が出てこない父。顔が強張る。
主人公は、ベットの上で毛布をかぶった。
すやぁ……。
(え? ヘソクリはどうしたかって?)
(野暮なことを聞くんじゃない。女性には、隠し事の一つや二つ……あるものだろう?)