家族の秘密、暴かれる
状況を整理しようーー。
数日前より木陰から家の様子を伺っていた、あの男。
彼の正体は何を隠そう……泥棒だ。いや、初めから何も隠していなかった気がするが。
彼の目的は、この家に住む人間ーーつまり僕の両親が外出した隙に、盗みに入ることだったのだろう。
(……だがこの家には僕がいる。母の姿に化けた僕が)
僕は母の姿で、ナイフを突きつけてくる男たちを見上げながらため息をつく。
(だが……赤ん坊が一人でいることと、女性が一人でいること、あいつらからすれば同じとだったらしい)
「……それはそうか」
母の声で小さく呟く僕。
ナイフを突きつけられて身動きは取れない。もちろん力を使えば対処は可能だろう。
だがーー
(迂闊に外の人間にこの力を知られる訳にはいかない……)
そんな僕の葛藤をよそに、家の中を漁っていた一人の男がキッチンから声を上げた。
「おい見ろ! こんな所に金が置いてあるぜ。へっへっへ、こいつぁアンタのヘソクリかあ?」
袋に入ったコインを得意げに掲げる男。
キッチンの隅に隠されていたようだ。
(ヘソクリだと……? あの? あの母が?)
優しくて笑顔が絶えず、家族を大事にする“理想の母”の姿が脳裏に浮かぶ。
その母が、こっそりヘソクリを……?
(おいおい、ここはファンタジーなんだろ? どうしてそこはリアルなんだ)
動揺する主人公をさらに追い詰めるように、寝室から別の声が響く。
「おい、こっちにはアダルトものの本が隠してあるぜ!」
どこか誇らしげな声に、僕の目が一瞬見開かれる。
(……おい、アダルトな本だと? あの父が?)
常に明るく、母と手を取り合って笑い合っていたあの父のイメージが一瞬でぐらつく。
(信じられない……!
……こともないのか……?)
僕の心は揺れる。平和で穏やかな日常が、ほんの少し軋みを見せたような気がした。
その時、僕の目の前に立っていた男が手にした本を掲げ、大声で笑う。
「ガッハッハ! アンタの旦那、こんな本を持ってやがんのか!
こんないい女を嫁さんに貰っておいて、信じらんねえなあ!」
(ああ、僕だって信じられない。他人の家に土足で上がって盗みを働くこいつらも信じられないが……。ファンタジーなのかファンタジーじゃないのか、どっちなんだ!)
主人公はナイフの先を見つめながら、心の中でため息をついた。
(これはもう……家族会議が必要だな、父よ)