母に化けた赤子、家を守る
あれから僕は、両親の前で度々やらかした。
ある時は、寝返りを打った拍子にふわりと宙に浮いてしまい、
またある時は、くしゃみ一発で近所のおじさんを黒焦げにしてしまった。
そんな小さな(でも決して小さくない)トラブルが続く中、
両親は僕の秘めたる力にうすうす気づいていた。
けれど怖がる様子はまったくない。それどころか、
「私たちの子は特別なのよ」
「やっぱり、俺の子だからな!」
と、何とも前向きで親バカな様子であった。
それでも母は、村人に力のことを知られるのはよくないと心配し、
僕の能力が知られないように、細心の注意を払っていた。
しかし現在ーー
「僕は今、一人で留守番をしている」
どうやら“赤ん坊なのに喋れて、浮けて、妙に強い”ことに
完全に慣れてしまった両親は、畑仕事や洗濯に出かけていた。
(いや、どう考えてもおかしいだろこの状況……。
平和な村とはいえ、赤ん坊一人で留守番って)
苦々しく呟きながら、僕はすっと手をかざし、自らの姿を母へと変身させた。
金色の髪に穏やかな微笑み。声も完璧に再現済み。
これで外から誰が覗こうが「この家には赤ん坊しかいません」とは思わないだろう。
(完璧だな。我ながら天才かもしれん)
そんな擬似“母生活”が続いていたある日ーー
家の近くの木陰に、一人の男が潜んでいた。
(……困ったな。どうやらこの家、泥棒に目を付けられてしまったらしい)
木の影に隠れたつもりで、まったく隠れていない男の姿がしっかり家の中から見えている。僕(母の姿)はじっと男を観察する。
(数日間、ずっとあの調子で様子を伺っているけど……本当に隠れているつもりなのか、あれ)
嘆息しながら、僕は状況を推理する。
(おそらく、家が無人になるタイミングを探ってるんだろう。だけど残念だったな。
この家には、僕がいる。しかも今の僕は“母”だ。諦めざるを得まい)
そう高を括っていた翌日のことーー
「ドンッ!!」
勢いよく開かれる玄関の扉。そこに現れたのは、ナイフを手にした三人の男たちだった。
(……そうか、しまったな)
僕は、開け放たれた扉とナイフを握る彼らの姿を見つめながら静かに反省をするのだった。