知らぬ存ぜぬ、超絶魔力
主人公は新たな生活に少しずつ馴染みつつあった。
目覚めてから数日が経ち、赤ん坊の体にもようやく慣れてきた主人公だったが、
どうにも拭えない違和感を覚えていた。
(なんというか……体の奥から力が溢れてる感覚がある。)
ふと、主人公は視聴者──いや、誰かに向かって心の中で釈明を始めた。
(勘違いしないでほしい。僕は厨二病じゃない。決して)
そんな弁明を心で呟きながら、何気なく本棚に向けて手をかざす。
すると──ふわり。ふわり。
一冊の本が宙に浮き、そのまま主人公の手元へと吸い寄せられてきた。
(……浮いたな。当然のように浮いたな、これ)
本を眺めながら、何とも言えない気持ちで呟く主人公。
この世界では、どうやら普通の物理法則が通じないらしい。
ならば、と主人公は窓の外に向けて、もう一度手をかざした。
(異世界ファンタジーかよ。……この調子なら、手のひらから火が出ても不思議じゃないな)
そんな軽い気持ちで、ふんっと気合を入れたその瞬間だった。
ドォオオオオオオオオオンッ!!
轟音とともに、窓の向こうの景色が一変する。
……山が一つ、跡形もなく吹き飛んでいた。
「な、何事だーーーー!!」
家の外では村人たちが騒ぎ立っている。
バタバタと足音を響かせながら、両親が主人公の部屋に駆け込んできた。
「何があった!? って……山ーーーーーー!!?」
目を剥いて叫ぶ父。
母も慌てて主人公を抱き上げ、不安そうにあたりを見回している。
その腕の中で、主人公は無言のまま冷や汗を流していた。
(……僕は何も見てない。これは僕じゃない。あれだ、未知のエイリアンが襲来したんだ。きっと……)
現実逃避しながら、主人公は空しく自己防衛をするしかなかった。