目覚めたら赤ん坊でした
風が揺らす草の音、どこか懐かしい花の匂い。
それらを感じながら、主人公はゆっくりと目を覚ました。
(……ん? ここは……?)
ぼんやりとした意識のまま、手を顔の前に持ち上げる。
しかし、その小さすぎる手に主人公は違和感を覚えた。
(……僕の手、か?)
グー、パー。
何度も握ったり開いたりしてみる。
それは確かに、自分の意思で動く。しかし――
(小っさ……!? まさか、赤ん坊の姿になってるのか!?)
驚きのあまり、心の中で叫ぶ主人公。
彼はかつて、現代日本の東京で暮らしていた。
ごく普通のサラリーマン。
日々忙しく働きながらも、同僚たちと飲み会を楽しみ、つかの間の安らぎを得ていた。
あの日も、仕事帰りに居酒屋で酒と料理を味わっていたはずだ。
だが、それ以降の記憶はない。
帰り道に事故に遭ったのか、それとも別の原因か──。
(……やりかけてる仕事、あったんだけどな。新人の歓迎会もこれからだったし。)
ぼんやりと考えながら、彼は状況を理解する。
(……まぁ、こうなってしまった以上、仕方ないか)
意外にも、主人公はあっさりと受け入れていた。
そのとき。
「──あら、起きたのね。よしよし、私の可愛い天使様」
優しい声とともに、ふわりと抱き上げられる。
主人公の視界に映ったのは、金色の髪を持つ女性。
おっとりとした笑みを浮かべ、優しさに満ちた目で主人公を見つめている。
(……この人が、僕の母か?)
まだ頼りない身体で、主人公はじっと彼女を見上げる。
すると、背後からもうひとり──
「お! 起きたか!いやー、いつ見ても君に似て可愛らしいなあ! しかも利発そうだ!」
にこにこと、茶色い髪の男性が顔を覗かせた。
筋肉質な体格で、見た目は逞しい。
「あら、そう? 貴方に似て、カッコよくて逞しそうよ、この子」
微笑みながらそう返す女性。
それを聞いて、主人公は理解した。
この二人は、きっと自分の新しい両親なのだ。
そして、二人はとても仲が良さそうだということも。
──何より、自分が確かに赤ん坊であることも。