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第七話 最高会議

1941年12月18日 大本営


マレー沖にて近藤艦隊がイギリスの極東艦隊を撃破してから半月以上が経過した。

南シナ海の制海権は完全に日本の物になり、マラッカ海峡では日英の哨戒艦艇が小競り合いを広げている。

マレー半島では山下奉文中将の下史実の作戦を更に効率化した作戦を実行し、陸海軍の連携の下シンガポール要塞までをも陥落させた。

僅か一か月の間にマレー半島は日本軍の手に落ちたのである。

特に航空隊による爆撃の効果は大きく、イギリス、英印軍の補給要所を的確に爆撃し破壊することで兵站の瓦解を招き、弾薬、食糧の尽きた部隊は力なく撃破され日本軍の侵攻を防げずに終わった。


インドネシアでは今村均中将の指揮にてマレー半島占領と並行して蘭印作戦が実施されていた。

バリ島やバリクパパン、パレンバン等の重要拠点を次々と占領していき、特に最重要戦略拠点としていたパレンバン油田を確保することに成功していた。

あとはジャワ島を占領さえすれば蘭印作戦も完遂となる。

フィリピンでの作戦も順調であり、ここまでは史実でも成功した作戦を更に効率化した日本軍にとっては当然の連戦連勝であった。


問題はここからである、当初の作戦が成功に終わりつつあり、これから後は史実では雲行きが怪しくなる時期だ。

ここ大本営では陸海軍と政府による連携をより高め柔軟な活動を行うために「悪しき風習」とされた部分を取り除き、新たに最高会議を設け、陸海軍上層部だけでなく大臣が参列し、逆に天皇は戦後の印象悪化を避けるために今までの慣習を変え、不参加となった。

そして一番は軍技廠上層部が参加するようになっていることで、今後の戦争を左右することになる軍技廠の報告や要望をより柔軟に取り入れられるようになっている。

当然構成するメンバーは全員が未来知識を得た者たちであり、逆に図書館の存在を知らない者は会議の場に踏み入ることすら許されなかった。


そして会議室にて、その最高会議が行われている。


「この度、真珠湾攻撃、マレー作戦、蘭印作戦は大成功と呼ぶに相応しい結果を残した。これは我が海軍と、陸軍の緻密な連携とお互いの努力によって成し遂げられた国家規模の偉業であると考えている。」


最初に発言を行ったのは山本五十六である。

山本の発言には海軍側だけではなく当然陸軍からも熱烈な拍手が沸き起こる。

反省から会議は始まり、議題は今後の展開についてであった。


「海軍がこの度軍令部にて決定した今後の作戦行動であるが、2月下旬を目途に南雲機動部隊を中心とした攻略部隊をインド洋へ派遣し、イギリスから派遣されるであろう艦隊を再度撃滅致します。制海権の確保に成功した場合まずはイギリスが秘匿できていると考えているアッズ環礁へ海兵隊を上陸させ、余裕があれば陸軍戦力との協力を以てしてセイロン島の占領を画策します。このインド洋における作戦が成功すれば、英国は今後一年から二年はアジアへ艦隊を派遣する余力を失うだけでなく、インド洋、南シナ海において活動するための主要な海軍基地を失います。」


山本から発せられた言葉に、マレーの虎と呼ばれるまでになった山下奉文が発言をする。


「もし海軍がインド洋までの制海権を確保した場合、マレー半島防衛のために駐屯させる兵力を大幅に減らすことが出来ます。これは恐らくインドネシアにおいても同様です。ただ、浮いた戦力の投入先ですが・・・。」


そこまで言葉をつづけ、東条英機が続きを述べる。


「先日陸軍参謀本部にて、今後陸軍はインドへの攻勢は行わず、対中戦線に投入できる限りの戦力を投入することで決まりました。日中戦争の終結なくしてインド、ソ連を相手することは不可能であるとの結論に至っています。」


結論に至ったというが、当然ここに居る全員はそんなことはわかっていた。

だが日中戦争を終わらすということは確かに日本の国力的にも最優先で行うべき事項であり、ようやく戦車を始めとした新型兵器の量産が形になり始めた陸軍は今のところ攻勢が加速しつつあった。

そこで畑俊六大将が立ち上がり、発言する。


「私が立案した大陸打通作戦を行う。」


その発言に場内がざわつき始める。

畑俊六指揮の下に大陸打通作戦が史実で行われたのは1944年からであり、史実通りであれば3年後である。

そしてそこに続く発言は、あまりにも飛躍しすぎた話であった。


「此度、目指すは重慶でございます。」


その言葉に海軍側から更なるざわつきと、反対意見が飛び交う。

井上成美などみなが不可能だ、という反応を見せる中、山本と近藤だけは意図を理解しているようだった。


「焦る気持ちもわかる、レンドリースか・・・。」


山本の呟きに東条英機がその通りです、と答える。

続いて畑が立案に至った経緯を説明する。


「海軍が、建艦競争に入ったらアメリカに勝ち目がないとわかっているように、我々もアメリカが中国へのレンドリースを加速させ始めたら勝ち目がないことを改めて理解させられた。しかも海軍と違い我々陸軍はソ連のレンドリースとも戦わねばならぬのだ。史実と違い、重慶を北方戦力とインドシナからの南方戦力の合流地点とすることで、中国の主力を超大規模包囲することに成功する。重慶から西側の都市は正直言って大した価値もなければ戦力もない、重慶を包囲できれば陸からの補給網は途絶え、東方の制海権は海軍が握っている、中国の主力は勝手に干上がるだろう。だがこれを実現するためにも、現在行われているビルマを経由したイギリス、アメリカの補給を絶つことが大切だ。史実通り我々はビルマへ進駐し、補給路を断つ。アメリカ、イギリスからの補給は空路で行われたというがそれまでに陸軍航空隊の新型戦闘機の生産を間に合わせ、阻止する。海軍においては一先ずは先ほど申されたインド洋の制海権確保を実現していただきたい。」


確かに、海軍と同じく時間が経てばたつほど中国への援助は数を増すであろう、そうなれば中国を落とすには早ければ早いほど難易度も低いということになる。


「確認だけしたいのですが、陸軍にはそれを成し遂げるだけの装備が存在しているのですかな?」


近藤が陸軍側への質疑を行い、それには軍技廠の男が立ち上がり説明を行った。


「現在、軍技廠陸軍兵器開発部で開発した零式中戦車の生産を行っています。三菱重工にて現在月産70両、今後は生産ラインを増やし、増産していく予定です。既に200両ほどが先行配備されています。トラックは日産自動車、豊田自動車により全力で生産を行っております。ほかにも新型の榴弾砲や、海軍の250kg爆弾を改造した噴進砲を大量生産しておりますので、攻勢における装備の性能には不足有りません。」


軍技廠の人物が解説をすると、東条が発言をつづけた。


「未来を知った我々は補給を軽視することはもうできない・・・トラックを中心とした補給網を充実させ、ドイツに倣い新型の戦車を装備した機甲戦力により各所突破を仕掛ける。新型の零式中戦車と、九七式中戦車を使えば対戦車装備をほとんど持たない中国軍には痛手となるはずだ。レンドリースにより配備されたアメリカのM3中戦車も、現状零式中戦車の敵ではない。この作戦は、ドイツがソ連を圧し続けられており、中国へレンドリースを行う余裕のない今のうちに実行せねばならない、ドイツが劣勢となればソ連の援助が追加され、それこそ厳しい戦いになる。」


東条の説明が終わり、海軍側の皆が謎の緊張に包まれぐったりとするなか、軍技廠のスーツを着た人物が立ち上がり、話を始めた。


「すみません、軍技廠、軍需資源開発部長の山田秀三です。皆さんに朗報を届けようと思いまして・・・。」


この山田秀三という男は東条英機によって民間から登用された人物で、鉱山や化学に関する知見に富んでおり軍技廠の資源開発を担う部門の部長に着任している人物であった。

陸海軍双方が求めた原油という資源、それの開発に現在は取り掛かっており、両軍からの期待は大きい物であった。

それだけに山本、東条を始めとした全参加者が山田に注視している。

あまりの視線に困惑しながらも山田は続けた。


「満州のハルビンにて開発中だった満州油田ですが、来月に稼働を開始することが出来ます。」


その言葉に特に海軍側は歓喜し、山本もまた手を叩いて祝福する。


「最初は当然低効率生産となりますが、資金を投入し採掘量を増加させていきます。原油の採掘量はパレンバン油田の月産50,000トンに加え、満州油田では来年中には月産40,000トンが再来年には100,000トンが採掘可能という計算です。アメリカや中東イギリスの産油量にはまだまだ及びませんが、これだけでも現在の軍事行動には十分量が産出可能となります。」


「素晴らしい!!!」


山田の発表にその場にいる全員が歓喜の表情を浮かべ、手を叩いた。


パレンバン油田だけでなく、大慶油田と呼ばれた満州に位置する油田を軍技廠は資料を元に探索、発見し、即座に開発を行った。

その甲斐があり、日本に近い満州からも莫大な量の石油が確保できるめどがついたのである。

これだけで莫大な燃料を消費する海軍や航空機も燃料を気にすることなく稼働することが可能になる。

それは原油という資源を持たなかった今までの日本軍が夢にまで見たことであった。


「満州油田から産出された原油を精製技術に関する書物を参考に現在の我が国にて用意できる調合材を使用しガソリンを生産したところ、効果は抜群で特に良質であり、完成したガソリンはオクタン価が95を記録しました。これはアメリカの航空隊で使用されているガソリンと大差なく、航空機の性能を底上げできるかと思われます。」


日本が現在用いているガソリンエンジンは87~92オクタン程度の物である、高品質な航空燃料はアメリカ頼りで禁輸処置が取られてから輸入できずにいたが、自国で生産できるとなれば、それだけで大収穫であった。


その後は陸軍の大陸打通作戦に伴いどのように海軍が連携を取っていくかなどの協議が行われ、方針として海軍はインド洋のセイロン島を攻略後、インドの鉄道や港湾施設などのインフラ破壊を行い、中国とビルマにて行われる陸軍の作戦行動の支援活動を行うことが決定した。

陸軍は引き続き対中戦争へ注力し、海軍の次の戦場が史実通りインド洋になることが決定したのである。


零式中戦車 青江


今後投入が確実であるM4シャーマンには到底対抗することのできない九七式中戦車を置き換えるために開発された戦車。

完全に新規設計となっており、避弾経始を重視した車体にM4戦車に対抗できるように設計された主砲を搭載している。

出力の向上の為、多少の信頼性の低下と引き換えにガソリンエンジンを採用し、大型化した車体と砲塔に75ミリ砲を搭載、砲弾は徹甲榴弾と榴弾を発射でき、火力支援も行えるように設計されている。

ディーゼルエンジンに比べてエンジンの信頼性を失った分、車体周りの信頼性には十分な配慮がされており、車体の軽量化とトーションバー式サスペンションを採用することで故障頻度を減らしている。

ガソリンエンジンの採用、トランスミッションの改良と高出力化で重量は増したものの最高速度は九七式に比べ大幅に向上した。

将来的には改良を重ねM4戦車に対抗できることを前提に設計されており、現在日中戦争において対峙しているM3戦車に対しては、投入された先行配備車両は多大な戦果を挙げている。


全長 5.7m

全幅 2.5m

全高 2.3m

重量 26トン

懸架方式 トーションバー式サスペンション

主砲   40口径75ミリ戦車砲(70発)

副武装  7.7mm機関銃(砲塔上部)

装甲厚  車体正面55mm・側面30mm・後面20mm

     砲塔正面75mm・側面50mm・後面60mm

エンジン 軍技廠零式車載用水冷V12エンジン 350hp

最高速度 44km/h

航続距離 350km


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