第四十九話 ミッドウェーを巡る戦い(5)
「敵に空母は居ない。後続にも偵察を何度もしているが、未だに艦隊は発見できていない。恐らく目標の艦隊とは別で行動していると考えられる。」
ハルゼーを中心に航空隊の主要メンバーがブリーフィングを行っている。
「敵の航空隊の直掩が居ないとなればこちらからすれば好都合ですね。戦艦が航空隊によって容易に沈められる獲物であるというのは奴ら自身が証明している。」
「真珠湾の仇を取るチャンスだ。」
相変わらず隊長らの士気は高く、やる気に満ちている。
「目標はこの大戦艦、これを沈めれば奴らのプライドをへし折ることができるだろう。」
シマードはPBYが撮影した空撮写真を張り出す。
不明瞭ながらもその巨体には誰もが驚いている。
「これがその戦艦ですか・・・。デカいな。」
「同型艦がもう一隻、つまり計二隻の大戦艦が主力となり、護衛には一回り小さい戦艦クラスが4隻、そして高雄クラスが二隻、その他護衛艦多数が報告されている。」
シマードの言葉にヘンダーソンが返事をする。
「狙うは大戦艦、もしそれを狙うのが難しいのであれば他の戦艦または重巡を優先。爆撃隊はそれで行きます。」
「わかった。フェイブ、雷撃隊はどうする?」
「この大戦艦を沈めるには爆撃だけでは厳しいかもしれない。雷撃隊は全機この戦艦を目指すべきでしょう。4本5本と片弦に当てればひっくり返るんじゃないかと思いますが。」
「でしたら我々がフィーバーリング隊の先を行きます。双発である分対空火器にもある程度は耐えるでしょうし。」
フィーバーリングとコリンズの言葉に皆が頷いた。
「B-26が雷撃した後敵の回避先に我々が突っ込む。TBFなら多少回避行動をしても修正ができるはずです。」
「戦闘機隊はF4Fだけを連れていきます。空母が居ないなら我々はやることがないかもしれないし、念の為F2Aはここに残しましょう。」
各隊長らの言葉にハルゼーとシマードはただ頷くばかりであった。
「わかった。健闘を祈る。それでは各部隊で作戦を共有、5時に攻撃隊は発進。」
隊長らがテントを後にすると各部隊で情報が共有され、各々が用意された機体へと乗り込んだ。
定刻になり、整備兵だけでなく陸上部隊の者たちからもエールを送られながら続々と機体が発進していく、その風景をハルゼーとシマードは滑走路のすぐ横でただ立ち尽くしながら見ていた。
※
合計121機で構成される部隊は順調に敵艦隊上空までたどり着いていた。
目標は大戦艦2隻を中心とした打撃部隊、沈めるに至らずとも撤退させるほどにダメージを与えられれば上々だろう。
「敵艦隊発見!正面12時の方向!」
ヘンダーソンにB-26からの報告が入る、双眼鏡を覗くと確かに艦隊の姿が見えた。
だがそれは既に回頭し始め、航跡を見る限り東に変針した後のようであった。
「なんだと?空を飛ぶこちらを先に見つけたというのか?畜生、どうなってやがる。・・・まあいい、爆撃隊進路そのまま!」
ヘンダーソンは自分の部隊に無線でそういうと他の部隊に目を配る、B-26やTBFは降下を始め、雷撃準備に移っていた。
凡そ20分程した頃、艦隊上空に到達するかというタイミングまで来ていた。
ヘンダーソンはより鮮明に見えるようになった敵を見て驚く、隣にいるのは旧式戦艦だろうかというそれらが、子供に見える程に中心の二隻は圧倒的であった。
「でけぇ・・・だが、迎撃機も居ないなら一方的に殴れそうだな。」
徐々に近づいてくる敵艦隊、迎撃機も居なければ航空機乗りにとってこれほど楽な仕事もない、ヘンダーソンだけではなく全てのパイロットらがそう思っていた。
だが突如としてその偏見は過ちであったと理解させられる、まだ20キロはあるだろうという距離で突如として敵の小型戦艦のようなものから発砲炎が見えたのである。
第六感というべきか、背筋が凍るような何かを感じヘンダーソンはとっさに無線に向かって叫んだ。
「散開しろ!」
自身も操縦桿を右に倒し、SBDは突然旋回を始める。
後ろでは突然の急旋回に銃手のヘンリーが叫び声をあげている。
刹那、風切り音が聞こえ、直後に左側でとてつもない衝撃が起こる。
150mほどは離れているように見えるその炸裂であったが、なんとヘンダーソンの機体にダメージを与えていた。
左主翼には穴が開き、エンジンからは白煙が出始める、そして背後を振り向けば風防が赤く塗られており、ヘンリーはヘンダーソンからの呼びかけに応答しなくなる。
だがそれを悲しんでいる暇はなかった、炸裂から間もなくとてつもない発射速度でそれは部隊にダメージを与え続けていた。
この距離でこれだけの精度、そしてこれほどの威力の高射砲を日本軍が実用化していたことにヘンダーソンは冷や汗をかいていた。
「各機散開!纏まっているとやられるぞ!」
SBDは散り散りとなり、各機の距離が大幅に開いていく。
右に進路を取った自分と反対側を見ると、自然と大きく二手に分かれていた。
「各機の判断で突撃、こちらに居る機体は敵艦隊前方に回り込み縦に急降下するぞ!」
普段と変わらない口調で命令を出すヘンダーソン、だが後ろでは息をしない相方と、メーターに目を落とすと下がり続ける油圧やエンジンオイル、確実にこのSBDは壊れ始めていた。
敵の対空砲火は次々とその濃さを上げていき、1機、また1機と墜落していく、これほどまでの対空砲火を持つ艦隊など当然想定外であった。
「クソ、なんなんだこの対空砲火は・・・どうなってやがる。爆撃隊、あの戦艦にこだわるな!各自狙いやすい艦を攻撃しろ!」
「了解!」
ヘンダーソンは次々と落とされる僚機を見てたまらずそう命令すると指示を受けた機体らは次々とダイブを開始する。
万全の体制で攻撃できる機体など居ないだろう、損傷を受けた機体も沢山、弾幕で進路を邪魔される機体も、爆弾を投下できる寸前の所で無情にも翼をもぎ取られる僚機が目に入る。
だがやられてばかりの爆撃隊でもない、軽巡と思われる艦から始まり、重巡クラスにも爆撃を命中させている。
目標の戦艦にも命中弾は確認できたが、艦尾に当たったそれには恐らく効果がほとんど無いと思われる。
「隊長!爆弾に引火しています!」
気が付かなかったが先の対空砲により機体下部の1,000ポンド爆弾が引火しているようであった。
だがそんなこと、ヘンダーソンは特に気にする素振りは見せなかった。
「後少しで落とせる、まだ誘爆はしない!それよりも、やはり爆撃では中央部に当てねば効果は薄いか・・・。」
敵の戦艦は被弾しながらも一切影響ないかのように戦闘を続けている。
随伴についている小型戦艦クラスの艦は恐らくアトランタのような防空特化の艦、重巡以上の規模の艦を防空に充てるなどアメリカ海軍ですら未だにしていない贅沢な行為だが、それが決して贅沢ではなく効果的であったと認めざるを得なかった。
「隊長!敵戦艦直上です!」
後ろについてきていた機体からの無線が入る、それに合わせて操縦桿を少し傾けてみるが、ほとんど反応がなかった。
計器に目を落とすとエンジンオイルがほとんど空になり、ブースト圧も低下、回転数は下がる一方であった。
この地点から急降下を行えば引き起こしなど不可能だろう。
「マイクとフレディか?貴様ら先にいけ!俺の機体はここからじゃあ引き起こせないかもしれん、俺は緩降下で行く!」
「了解、では先に!」
ヘンダーソンの命令に後ろについてきていた2機は了解するとダイブに移る。
2機続いて爆弾を投下する、だがその直後機銃の射線に入ってしまったのか、それとも捉えられたのか、一瞬にしてマイク機とフレディ機は同時に爆発炎上しながら錐揉みしていく。
どちらの爆弾かはわからないが、戦艦の主砲塔に直撃弾があった、だがその命中を投弾した張本人は見えていないだろう。
「・・・待っていろよ。」
そういうと反応の鈍い操縦桿を精一杯倒し始める。
エンジンはほとんど止まりかけ、風防には漏れたエンジンオイルが飛び散っていた。
「フェイブ!聞こえるか!」
無線のチャンネルを切り替え、雷撃隊隊長のフィーバーリングにつなぐ。
「聞こえます!こちらはあと数分で敵艦隊外縁を突破します!そっちは大丈夫ですか?」
機体はようやく右に垂直にロールし、精一杯右にラダーを踏む、機首が下を向き始め、急な加速による重力加速度が身体に押しかかってくる。
「俺の機体はもうダメだ!ヘンリーも死んじまった・・・。お前言ったな、死ぬには最高な日だって。まさにその通りだよ、頼んだぞ!」
ヘンダーソンはそう言うと無線の電源を切る。
急降下を始めた機体はダイブブレーキも開かずどんどんと加速していく。
敵戦艦がみるみると接近していく中、弾幕は自然と横を抜けていく、強張った身体からふと力が抜けたと思ったとき、そこには轟音が響いていた。
※
「・・・流石だぜ、隊長。」
先程突然聞こえてきた無線、今はツーという虚しい音だけが響く。
機体の下に吊るす爆弾を燃やしながら、吸い込まれるように敵戦艦の中央部に突っ込んでいったSBD、それは間違いなく爆撃隊隊長であるロフトン・R・ヘンダーソン少佐その人の機体であった。
「あの戦艦は絶対に沈める!行くぞ!」
自分が指揮するTBF部隊の前には双発機であるB-26が12機飛んでいる。
外縁部の駆逐艦を抜けると戦艦はすぐそこにまで迫っていた。
双発機でよくこの高度を飛ぶものだと思ったその時、そのB-26の真下で高角砲弾が炸裂する。
機体が一瞬浮き上がったかと思ったら回転しながら海面へと落ちていった。
それによって出来た水柱を避けながら、部隊は進んでいく。
目標の艦まであと数キロ、前方ではB-26が魚雷を投下し始めた。
そして壁のように立ちはだかる護衛艦の前方を抜けるときに後方を飛んでいた僚機が同時に2機狩り取られる。
「なんて精度だよマジで、どうなってんだ?」
前方では既にB-26が投下を終え退避するところが見える、魚雷投下を受け敵戦艦は回避を始めていたが、艦首に水柱が立っているところが見えた。
「よくやった、陸軍。俺等でとどめを刺す!行くぞ!」
フィーバーリングはそう言うと最終調整に入る、敵戦艦は慌てているのかわざわざ回避を止め直進に舵を戻し始めてくれている。
「はっなんだ?修正必要ないじゃないか、魚雷投下!」
そういうとフィーバーリングは魚雷を投下する、後続も続々と魚雷を投下していき、一斉に魚雷が向かう。
投下直後に後続のTBFが高角砲の炸裂や、機銃によって次々と落とされていく、外縁部を突破した時に20機居たTBFのうち投下できたのは12機、そして今敵戦艦の上空を通過できたのはわずかに6機だけであった。
フィーバーリングは通過間際に敵戦艦の炎上する部分を覗く、そこには確かにアメリカ軍機の識別マークが見えていた。
通過後、後ろを除くと敵戦艦の右舷から4本の水柱が立つのが見えた、片弦に4本、艦首に1本、戦艦といえどこれで無事で居られる艦などこの世に存在しないはず、フィーバーリングはせめて仇だけでも取れたと思いながら帰路へとついた。
ご閲覧いただき誠にありがとうございます。
Mと、がチャタリングするようになりました・・・キーボード買い替えます。
ブックマーク、評価、感想などして頂けると幸いです。
誤字脱字等ありましたらご報告ください。




