第四十三話 合衆国海軍作戦本部
時は少し戻り、日本海軍が活動を開始する少し前、合衆国海軍作戦本部では確実視されているミッドウェー攻略、更にはジョンストン、ハワイに対する攻略の対策を立てるべく会議が行われていた。
「陸軍はインドから撤退することになり・・・奴ら日本軍の狙いが本当にマッカーサーの言う通りインドでの人質作戦であったとしたら、その材料を失った今次に仕掛けてくるのは恐らく太平洋方面。ミッドウェーとジョンストン、ハワイの防衛計画を急がねばならないぞ。」
合衆国海軍作戦本部長、合衆国海軍の頂点に立つキングは地図を前に腕を組み座っている。
他にも多くの将校らが集まり、対日本海軍の対策会議を開いている。
当然議題は迫りくるミッドウェー、そしてハワイの防衛についてであり、アメリカ海軍内では既にミッドウェーの防衛は絶望的であるというのが共通認識となっていた。
「キング、最早ミッドウェーを防衛することは叶いません。日本にはまだ多くの空母がある・・・二隻沈めたとは言え新造艦の情報もありますし、元から日本の空母保有数は世界一、ミッドウェーでは艦隊を向けても返り討ちに合うでしょう。」
そう伝えるのは太平洋艦隊司令のニミッツであった。
通常であれば弱腰であることに批判的でなければならないだろうが、この時ばかりはニミッツの発言と同じことをキング含めた全員が思っていたため、キングも「そうだな」というだけであった。
「艦隊での迎撃は難しいです・・・が、ミッドウェーは折角飛行場がある島です。陥落が確実であっても活用すれば日本軍へ痛手を与える可能性はあります。」
「陥落が確実視される中迎撃をミッドウェーの所属機だけで行うということですか?」
ニミッツの提案に反応したのはスプルーアンスであった。
「そうだ。だがやるしかない、君だって先の戦いでは沈むとわかっていながらも空母2隻を率いたではないか。」
その言葉にスプルーアンスは返す言葉が思い浮かばないのか黙ってしまう。
「現在ミッドウェーにはB-17が20機、B-26が40機、F4Fも40機が配備されています。B-17は対艦攻撃には一切の価値がありませんが、偵察機としては使えますし、B-26は魚雷搭載可能なのでこれを対艦攻撃機として使用すれば、日本海軍の艦船に多少の被害はもたらすことが出来るかもしれません。」
ニミッツは傘下にあるミッドウェー航空隊の戦力でなんとか日本軍を攻撃できればと考えていたが、同席しているハルゼーは逆の考えであった。
「B-26の高速性能を以てしてもやつらの艦載機には追い付かれてしまうだろう。F4Fなんてもってのほか、F4UかF6Fの量産が間に合っていればまだ可能性はあったが・・・。」
「ないものねだりはしたくない。そして無血開城をするほど愚かなこともない。ならあるだけの戦力であがくしかないだろう。幸いエセックスは敵がジョンストンやハワイを目指してくるころには訓練も終わり、そのころには他にも護衛空母が数隻完成しているはずだ。そこまで耐えられればハワイ手前で決戦を行うことはできるだろう。もちろん勝てる確証はない・・・が」
そこでまた会話が止まる。
テンポの悪い会話、キングがしびれを切らしため息を吐いて尋ねる。
「計算や根拠なんて要らない。ニミッツ、スプルーアンス、ハルゼー・・・ミッドウェー、ジョンストン、ハワイ、日本軍に敗北し占領される可能性を直感で何%だと考える?」
その問いかけに最初に答えたのはハルゼーであった。
ハルゼーはほとんど間髪を開けずにズバッと答えを出す。
「ミッドウェーは100%、ジョンストンは80%、ハワイは25%といったところでしょうかね。」
ハルゼーの答えに次はスプルーアンスが続く。
「ミッドウェー100%、ジョンストン70%、ハワイ20%・・・あたりかと。」
スプルーアンスはハルゼーよりは楽観的とも取れる数値、その二人の言葉の後、最後にニミッツが答える。
「ミッドウェー100%、ジョンストン100%、ハワイ10%。」
ニミッツの出した答えは二人とは違う異質なものであった。
その場に居た者が皆ニミッツに視線を向ける。
「ニミッツ、ミッドウェーだけでなくジョンストンまで絶望的だというのか?そしてハワイは守りきれる自信があるということか。」
キングは興味深いのか、少しの笑みを浮かべながらニミッツに質問を続けた。
「我々が現在太平洋で動員できる正規空母はサラトガ、ヨークタウン、ホーネット・・・つまりこれらの空母は我々が保有している正規空母の全てです。そして日本軍が保有する空母は翔鶴クラスが4隻・・・そして隼鷹クラスこれも正規空母と言える代物でしょう、それが2隻。そして新型空母と思われるものが1隻は進水確実、1隻が進水の可能性あり。わかりますか?我々の正規空母はすべて戦前のもので、日本軍の翔鶴型にすら比べれば対等か、劣っていると考えても良いかもしれない。そして肝心の艦載機が大いに劣っている以上、数でも質でも劣っている我々の現在の空母部隊に勝ち目は皆無と断言できます。ですが日本軍はインドまで覇権を広げてしまった、主力の南雲艦隊が太平洋を攻略するとして、何隻かはインドにいなければいけないでしょう。つまり我々がミッドウェー、ジョンストン、ハワイにて相手する空母はおそらく4隻か5隻・・・であれば今の我々では勝てません。ただ、我々にはエセックスクラスがあります、悲観的な予想として、ミッドウェーに半月、ジョンストンまで一ヶ月、ハワイまで二ヶ月としましょう、二ヶ月あればエセックスが艦隊に加わり、更にF6FやSB2Cといった我々の新鋭艦載機が配備できるでしょう。つまり、ミッドウェー、ジョンストンで我々が迎撃戦闘を本格的に行えば行うほどハワイの防衛は絶望的になりますが、基地航空隊を主力とした迎撃網を広げ、日本軍をできる限り疲弊させた後にエセックス、レキシントンIIを加えた計5隻の主力艦隊に、護衛空母にて支援艦隊を編成、それらに新型艦載機を搭載し、疲弊した日本空母艦隊を撃滅すればハワイは辛うじて生き延びられるでしょう。」
現太平洋艦隊の司令、その言葉には確実な説得力があった。
史実以上のスピードで建造されるエセックス級の2隻、そして史実よりも速いSB2Cの艦載型の採用、それらが艦隊に配備されるのが2ヶ月近い後だとすれば、そこに戦力を集中して決戦を挑めばハワイが生き残る可能性があるというのがニミッツの読みであった。
その発言にキングは納得したのか頷きを返した。
「・・・良いだろう。ミッドウェーとジョンストンは諦める。トップとして言葉にするのは良くないだろうが、現実を見ざるを得ない、な。西はハワイ、東はインドが最後の砦だ。そして陸軍がインドからの撤退が決定した今、我々がハワイを守りきらねばアメリカ大陸は孤立することになるぞ、まったく。」
「はい。そして守り切るにはミッドウェーとジョンストンに航空兵力をもっと投入せねばなりません。ハワイで主力艦隊同士をぶつける前に、一隻でも沈んでくれれば大分楽なのですが・・・。ハルゼー、基地航空隊の指揮をやってくれるか?」
ニミッツがハルゼーに視線を向ける。
ハルゼーはその言葉に立ち上がるとすぐに敬礼を返す。
「わかりました。任せてください。まあ、そう言われると思っていましたから考えはすでにあります。・・・ミッドウェーにいる陸軍のB-17は無用です、基地の収容も圧迫しますから、すぐにハワイに送りたいところです。B-26は高速ですし雷撃機として使えます。B-17で空いた分にできる限りのSBDとF4Fをください。それと受領したばかりのTBFも。ジョンストン島にいる機体も全て一旦ミッドウェーに送り込みます。単発機メインでしたらミッドウェーだけでも200機ほどの運用能力はありますから、それだけの数を基地から延々とぶつけ続ければ日本軍も音を上げるでしょう。」
「よし、ミッドウェーへの配備はなんとか都合をつけよう。陸軍にも移動するよう伝えておく。撃沈できるとは思わないでおく、ただできる限りの損耗を奴らに強いるんだ。」
キングの返事にハルゼーは力強く頷く。
重苦しい雰囲気で始まっていた会議は、方針が固まり始めると今までの合衆国海軍の雰囲気へと戻り始めていた。
自分たちが世界最強であると疑わない者たちは、ニミッツらの発言が理想的なストーリーであるに過ぎないにも関わらず、話が纏まり始めるとあたかもその通りになると信じて楽観的になっていた、恐ろしいのはそれを実現するだけの底力があることであったが、結果がどのようになるか、それは神のみぞ知る所であった。
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対飛号作戦防衛戦力
太平洋艦隊
総司令官 チェスター・ニミッツ海軍大将
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第16任務部隊 旗艦 エセックス(予定)・サラトガ(現在)
司令官 レイモンド・スプルーアンス海軍少将
空母 エセックス(予定)・レキシントンII(予定)(エセックス級)・サラトガ(レキシントン級)
重巡 ニューオーリンズ・ミネアポリス・ヴィンセンス・ノーザンプトン・ペンサコーラ
軽巡 アトランタ
駆逐艦 11隻(内護衛駆逐艦2隻)
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第17任務部隊 旗艦 ヨークタウン
司令官 フランク・J・フレッチャー海軍少将
空母 ヨークタウン・ホーネット(ヨークタウン級)
重巡 アストリア・ポートランド
駆逐艦 6隻
ミッドウェー島防衛戦力
航空隊指揮官 ウィリアム・ハルゼー・ジュニア
第221海兵戦闘飛行隊
F4F-3ワイルドキャット 44機
F2A-3バッファロー 21機
第241海兵攻撃飛行隊
SBD-2ドーントレス 44機
SB2U-3ヴィンディケーター 8機
第8雷撃飛行隊
TBF-1アヴェンジャー 20機
第23哨戒飛行隊
PBY-5カタリナ 8機
第69爆撃飛行隊(陸軍所属機)
B-26マローダ(雷撃機改修仕様) 12機
計 157機
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