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未来国家大日本帝国興亡史  作者: PATRION


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第三十九話 必殺の一撃(2)

「こ、交渉だと?!貴様ら軍人が、代表団だと?!嘘も大概に・・・!」


蒋介石は日本軍の謎の部隊による襲撃を受け、暗殺される寸前のところまで来ていた。

その襲撃してきた部隊の隊長によるあり得ない言葉、確かに講和に関する電文が届いたばかりである、それを狙ったかのような襲撃、本当の事なのだろうかという疑問が生まれる。


「蒋介石、あなた方はきっと、講和会談の申し出があったことをアメリカに報告したことでしょう。そしてそれはインド東方にアメリカ軍が派遣され、それが西方から侵攻することを危惧して慌てて講和会談に入ろうとしているんだとでも思っていたのでしょう?そして慌ててアメリカ軍へ報告し、あなたがたは遅滞戦闘でなんとかアメリカ軍が本格的に参戦してくるのを待つつもりだった。アメリカが参戦してくれば我々日本軍を蹴散らした後、再び起こるであろう内戦でも共産党を敵に取る国民党を支援し、戦後の中国統治は我々のものになるだろうとまで妄想してほくそ笑んでたんじゃないですか?この屍たちと一緒に。・・・すべては仕組まれていたんですよ。」


「・・・・。」


全て見透かされている、恐ろしいほどに。

魔法やなんだと、今の時代そんなものは信じていない、だからこそ今この瞬間、日本軍のあまりにも高い情報力に打ちのめされていた。


「・・・君たちが代表団だと、仮にそうしてみよう。条件はなんだ?なぜ殺さない・・・?こんな茶番のような工作まがいなことをして交渉になるとでも・・・?」


蒋介石にはいま目の前にいるもの達が何を考えているか想像もつかない、つまり日本政府の考えが分からないのである。


「今までに我々大日本帝国はそうやってきたのだ。」


その言葉に喉が詰まる、満州建国、張作霖爆殺事件、そしてこの日中戦争も元をたどれば茶番まがいなことから勃発している、決してありえない話ではなかった。

先に発砲したのはこちらでも、もとはと言えば威嚇としか取れない実弾訓練を繰り返していたのは日本側であり、蒋介石からしたら日本が開戦を引き起こすために挑発してきたとしか考えられなかったし、これはブラフではないのだとわかったときには冷や汗が止まらなくなっていた。


「自己紹介がまだでしたね、私は日本陸軍省特務大隊の小池少佐です。」


嘘の部隊名に、嘘の名前、だが蒋介石に本当のことなど伝えても意味がない。


「中国国民党総帥の蒋介石だ・・・。もう、どうせ殺されるのか、こんな立場でいうのもなんだが条件だけは聞かせてもらいたいのだが。」


蒋介石がそういうと小池と名乗るそれは情報総局特殊部隊隊長の奥山である。

奥山は淡々と日本政府の条件を蒋介石へと伝える。


日本に対し降伏するのであれば蒋介石の命は助けるということ。

降伏すれば併合することはせず、中華民国として存続させ蒋介石を引き続き総帥の座に置き続けること。

ただし降伏後の中国国民党は日本の傀儡政権となり、中華民国を日本の傀儡国とすること。

そして、日本軍の手によって毛沢東を暗殺し、国内における脅威を排他すること。


あまりにも殺される寸前の蒋介石に掛けられる条件にしては美味しい話であり、蒋介石自身もまた信じられないという表情を浮かべていた。


「あ、ありえない。日本政府は何を考えている・・・!毛沢東を殺害してみろ。張作霖の件や満州事変もそう、そんなことをして世界から非難を浴びないとでも?そんなことをして停戦でもしたら国連は今度こそ日本の茶番を許さないのではないか?」


「何を今さら、戦争中ですよ?我々は世界を相手に戦争をしています、非難する程度で何を止められるのですか。・・・けど確かに我々は拙い工作をしすぎた、けど今回の毛沢東の暗殺は成功します。もちろん蒋介石、あなたがこの条件を呑むのであれば。銃や爆薬を使って殺すのではない。・・・毛沢東は突如として戦争の重圧に耐えかね、発作を起こして野望半ばで倒れる、蒋介石、あなたはとても運がいいことに日本との講和、そして政敵の死亡を同時に享受することが出来るのです。」


「・・・だが私が拒否したら、それは日本にとってまずいだろう。とてもな。拒否すれば日本は自ずと力で我々を滅ぼすしかなくなるが、それよりも先にアメリカ軍の侵攻が始まるだろう。我々の残党と西の連合軍、両方を大陸で相手するほどの力は日本にはないはずだ。今私を殺せば日本には破滅が訪れる、そうだろう?」


蒋介石が発した言葉に奥山は一切表情を変えずにただ聞いていた。

少しでも動揺をしてなにか隙を突けないかと考えていたが、その反応は意外にも冷静で、蒋介石からしたら残酷な物であった。


「確かに拒否されれば我々は非常にまずい状況に置かれます。しかしこの交渉が決裂すれば毛沢東の暗殺は行わず、あなただけが殺害される。我々は共産党軍ではなく国民党軍を優先的に殲滅し、我々が負けた後に美味い汁を吸うのは中国共産党、中国はソ連の支援を受けた毛沢東によって統一されることとなる。あなたは自身の野望を叶えることが出来ず、そして死んだあと託したアメリカは我々と泥沼の戦いをした挙句共産党に全てを奪われる。それがお望みですか?あなたはここで講和を選べば我々と共に歩む選択肢を取ることが出来る、西のアメリカは我々の渾身の一手により壊滅させ、ドイツ、イタリアを捨てて我々大東亜共栄圏は単独で連合軍と講和することが出来る。そこまで未来を描けているのです。」


「し、しかし・・・それこそ夢物語ではないのか?アメリカが、イギリスが、オランダが・・・莫大な領土を失っても講和をすると?」


「我々は開戦以降世界が驚く躍進を見せています。そして連合軍は今やアメリカ頼り、アメリカの言葉一つで全てが覆る。そのアメリカは自国の兵士を無駄死にさせることはしない、我々の策に囚われればアメリカは講和を選ぶしかなくなる。アメリカなき連合軍にここアジアで我々に対抗しうる戦力は最早ありません。しかしそれを為すには中国に配置している軍をぶつけなければならない、だからこそここで我々は講和を申し出たのです。講和してくれなければ困るのは我々?そんなこと私だって、誰だってわかっています。しかし講和しなければここで即座に終わるのは蒋介石、あなたです。我々はあなたを助け、我々も助かる提案をしているに過ぎない。いかがなさいますか。」


奥山の表情には一切の動揺もなく、もはや何を言おうとも無駄なのだろうというのが直感的に理解できた。

蒋介石には最早答えが残されていない、自身が日本の操り人形となり中国を動かすか、ここで国民党諸共死ぬか・・・この場で全てを決めなければいけないなら尚更、蒋介石は少しの沈黙の後口を開いた。


「・・・小池少佐、講和を・・・受け入れよう。」


その言葉を聞いて初めて奥山は表情を変える、笑顔を浮かべながら手を差し伸ばす。


「講和と言えどもこれは中国国民党にとって降伏に近いものです、しかしあなたの政権は我々が支援します。そして残る軍閥や中国共産党へは我々も多少の部隊を動かしますし、装備を国民党に供与することもできます。我々は手を取り合い、大東亜共栄圏を繁栄に導くのです。」


奥山の表情とは反対に蒋介石は当然暗い、だが手を取るしかない蒋介石は自身に向けられた手を握る、その手は側近たちの返り血で染まっていた。


「別動隊へ連絡、毛沢東の暗殺を実行させろ。」


奥山は部下に指示を出す。

部屋の外では発砲音は止み、やがて人質に取られた蒋介石は敷地内にいる全ての兵士や側近たちに攻撃中止と武装解除を命令した。

側近たちには起こったことが伝えられ、中には徹底抗戦をと奥山らに対して拳銃を向ける者すらいたが為すすべなく即座に射殺された。

通信室も最優先で掌握され、今起きたことが外部に漏れないように兵士たちは徹底的に管理し、その後は予め用意されていた段取りで全てが進められ、蒋介石が正式に国民党から講和に関する声明を出す準備をしていた。


そして声明発表の準備が行われている最中、純血の中国人二世で構成された別動隊は調理師に扮し、毛沢東に提供される飲料に、超強力な毒薬であるVXガスから作られたコピー品である特一型毒剤を忍ばした。

無味無臭の毒薬に気が付けるわけもなく、即座に呼吸困難から心肺停止の症状が起き、即死に近い形で毛沢東は命を引き取った。


毛沢東の死、そしてその直後にもたらされた中国国民党の降伏と言える講和の成立、それらが同時に世界各国の首脳へと情報が伝達され、アジアにおける戦争は一つの区切りを迎える。

そして日本軍は当然インド戦線へと主力を動かし、全ての目論見が外れたアメリカ軍は遠く離れたインドという地に軍団丸ごと孤立することとなった。

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>アメリカなき連合軍にここアジアで我々に対抗しうる戦力は最早連合軍にはありません。 アメリカなき連合軍にここアジアで我々に対抗しうる戦力は最早ありません。 連合軍が2回は蛇足ですね。
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