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第三十二話 大陸打通作戦最終段階(2)

※1942年4月3日 米軍中国方面軍司令部


ジョセフ・スティルウェル陸軍大将、この男は中華民国の駐在武官であり、中国やインド、ビルマにおける米軍を指揮すると共に蒋介石の参謀長でもある。

中国軍の指揮は蒋介石がトップを務めるものの作戦立案や行動の命令はこの男が出していた。

最近の日本軍の動きは先鋒が突破してきた地点から押し広げるように戦線を広げてきており、機甲戦力も増強してきた相手に現在の中国軍は苦戦を強いられている。


「まったく中国軍は使えん、まともな訓練も受けていないのか数だけいて実際は何の役にもたたないじゃないか。」


目の前に並ぶのは被害報告と日本軍に奪われた新たな領土のリスト、兵站のリストなど様々だがどれも喜ばしいものはひとつもない。

インド洋の制海権が落ち、予想ではセイロン島への上陸作戦が決行されるはずであり、イギリスの軍部は耐えきれる可能性が一切ないとして既に主戦力の撤退すら始めている模様である。

つまりインドは既に孤立しており、それはインド洋、インドを経由した補給は完全に途絶えることを意味していた。


「中国軍への支援物資は到底望めず、かといって日本軍は明らかに重慶を合流地点として南北からの分断を図っているのは確実・・・で、西方に脱出した部隊のリストがこれか・・・!」


包囲された際の戦力をなるべく少なくするため蒋介石には東部にいる主戦力を少しでも多く西方へ脱出するよう指示したものの、蒋介石がそれを中止するよう命令をした。

蒋介石は残存している主要都市の大多数が残る東部を諦めようとはせず、スティルウェルの懸命な説得にもかかわらず部隊の移動は大幅に遅れていたのである。

報告書を投げ捨て、床へ散らばったそれを士官たちがおどおどとしながら拾い集める。


「クソが、190ある師団のうち130が包囲される可能性がある、それを失えばわずかな可能性すら潰えるというのになにを考えているんだあの蒋介石という男は!」


次長のメイソン・ミラーが拾い上げられた報告書に目を通す。


「脱出しているのは殆どが共産党軍です、蒋介石の国民党軍は殆どが動いていません。」


現在中国軍の主力は蒋介石の下にある国民党軍170個師団200万人と毛沢東の下にある共産党軍15個師団20万人である。

数でいえば日本軍を圧倒的に超える数であるが、訓練などをしっかりと修了し武器の充足もしっかりとしているいわゆる【正規軍】は3割程度であり、ほとんどは武器の充足もままならない民兵であった。


「恐らく蒋介石は自身の手駒を残し、共産党軍を外に出そうとしているのだろうが、それは悪手だ・・・きっと戦後再び起こる内戦で楽に勝てるよう自身の軍を保持しておきたいのだろうが、そもそもこれでは日本軍に負けてしまうぞ。現在の中国軍の主力が国民党軍なだけに、それがほとんど包囲されかねないのはよくない・・・。日本軍の動きに変化は?」


「特に目立った変更は・・・現在も南方、北方の両戦線で圧力をかけてきてはいますが特別目立った部隊や活動は。」


その言葉にスティルウェルは頷く。


「しかし・・・昆明と西安、日本軍が明らかにキーポイントとしていたこの二都市の航空写真がどうしても欲しいな。」


「わかりますが、偵察を飛ばそうにも到達する前にことごとく落とされています。仕方ないかと。」


「ここまでやったからにはいずれ日本軍は重慶を目指すに違いない、昆明には後退させていた第27集団軍を、西安には第6集団軍を移動させて防衛ラインを構築させろ。楊森と楊愛源の両指揮官には最重要事項として伝えろ、また奴らから蒋介石に是非を問われて拒否されては面倒くさい。まぁ多少南京方面は手薄になっても良いだろう、主力の西方脱出に蒋介石が折れるまでなんとしてもここ重慶を落とすわけには―」


スティルウェルがそこまで言った時であった、突如として警報が鳴り響く。


「なにごと!?」


ミラーと共に窓を開けて空を見上げる、そこには大量の航空機が空を飛んでいた。

100機なんてものではない、数えきれないほどの大量のそれは大きく3つに分かれて重慶上空を覆っている。


「クソ、今日だったか!・・・ミラー!参謀部全員を集めろ、蔣介石も呼び出せ!それと全軍に通達しろ、日本軍は攻勢を掛けてくるぞ!本国にも連絡だ!」


一旦は鳴りを潜めていた重慶に対する爆撃、それが突如として大部隊によって再度行われるとなればそれは日本軍による攻勢開始の号令としか考えられなかった。


「はっ!」


ダッシュで部屋を飛び出したミラーを見送ると再び空を見上げる、別れた集団は北方にある臨時政府施設等に向かっているようにも見えた。

そしてそのうちの一つは、自身のいる方へ。


「なっ?!」


風切り音がやけに大きい、スティルウェルが無数の奇妙な形をした爆弾を目視した時には、既に遅かった。


「何故ここがバレている・・・?なぜ、なぜだ!」


なんてことはない、繁華街の中心にあるやたら大きな建物、だがそれは他にも中国全土いたるところにある指揮所などと何ら変わらない建物である。

ここが中国軍全体を指揮するにあたっての重要施設であるなんてバレないはず、スティルウェル始めとした司令部の誰もがそう思っていた。

だが実際はそれはただの勘違いで日本軍は正確に爆弾を叩きこんで来た、となれば他の爆撃機も当然重要設備を狙っていることは明白である。

分かれた集団は政府の主要施設を狙っているのだろうと、ああ、負けた、そう直感した瞬間スティルウェルの意識は途絶えた。


※昆明 第23軍司令部


「漢口飛行場から通達、重慶全目標撃破!」


ここは昆明に設置された南支那方面軍のうち、昆明から重慶への一点突破を担う第23軍の司令部である。

報告に司令部にいる酒井隆中将を始めとした参謀組の面々が顔を合わせて頷いた。


「中野中将に連絡を、先鋒第51師団突破を開始せよ。」


「はっ!」


軍司令の酒井が伝令に伝える。

昆明陥落の立役者でもある第51師団はこの攻勢でも先鋒を担うこととなっていた。


「始まりましたね・・・。」


「あぁ、昆明陥落からすでに三か月弱・・・あの師団も十分に増強された。重慶まで走り切ってくれるだろう。」


当初の予定では昆明を占領したのち、第23軍はそのまま北上を続ける予定であった。

だが補給線の確保の都合上昆明を橋頭保に戦線を拡大する方向に畑が舵を切ったため、昆明を陥落させた第51師団を始めとした第23軍は補給を万全に受けることができ、戦力の再編などを行う余裕も出ていた。

特に中野英光中将の指揮する第51師団は先鋒を担う役割からも、日本陸軍で新たに製造された零式突撃戦車が歩兵団に加わっていた。

零式突撃戦車は対戦車戦闘よりも数で圧してくる中国軍相手にしている対中戦線の部隊からの要望により開発された兵器であり、ドイツの突撃砲やイギリスの歩兵戦車に影響を受けているものであった。

零式中戦車の車体を流用し再設計、砲塔が撤去され代わりに高さを抑え固定砲塔とすることで削減した重量を正面装甲へと転化している。

トランスミッションはよりギア比が高い物へと置き換えられ、最高速度が低下した代わりに砲塔変更の低重心化と相まって走破能力が向上している。

零式突撃戦車を最も多く擁している第51師団は突破力という観点から言えば頭一つ抜けており、更に優先的に配備されているトラックを合わせれば師団規模での機動性もかなり高い物であった。


「敵の指揮系統が崩壊している今が絶好の機会だ、なんとしても第51師団に追従し、第23軍の総力を挙げて突破した戦線の維持と拡大に努めろ。」


「はっ!」


司令部の無線機からは各師団からの報告が慌ただしく入り続ける。

報告が入るたびに中国全土を示す地図に駒が動かされ、敵部隊発見の報告があればそこにも敵を示す駒が置かれる。

少し時間が経ち、早くも先頭を走る第51師団が、事前に偵察にて判明していた集落を拠点に中国軍が防衛陣地を築いている地点へと到達したようだった。



零式突撃戦車


零式中戦車の車体を流用して開発された歩兵支援用車両。

イギリスの歩兵戦車やドイツの突撃砲を参考に考えられた兵器であった。

大陸打通作戦開始後に上げられた要求から軍技廠が突貫で開発をしたため、現在配備されているものは試験的な側面も持っている。

その為主砲も同一であり、零式中戦車からの変更点は車体と一体化した戦闘室とギア比の変更されたトランスミッション、砲塔の変更による全高の削減や正面装甲の強化程度に留まっている。

正面装甲も流用車体のため30mmの装甲版をボルトで後から追加される形で増強されており、砲塔を変更したことで重量の削減をしたが、その分を正面装甲の強化にまわした結果、重量は重くなった。

軍技廠は当戦車を対中戦線へ投入し正式な開発の為の情報を集めようとしている。


全長 5.7m

全幅 2.5m

全高 2.1m

重量 28トン

懸架方式 トーションバー式サスペンション

主砲   40口径75ミリ戦車砲(40発)

副武装  7.7mm機関銃(戦闘室上部)

装甲厚  車体正面85mm(車体55mm+追加装甲30mm)・側面30mm・後面20mm

     戦闘室正面85mm・側面30mm・後面20mm

エンジン 軍技廠零式車載用水冷V12エンジン 350hp

最高速度 30km/h

航続距離 350km



ご閲覧いただき誠にありがとうございます。

少し更新遅れてしまいました<(_ _)>

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