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未来国家大日本帝国興亡史  作者: PATRION


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第二十八話 アッズ環礁上陸作戦(2)

「観測結果が出ました。戦艦一、巡洋艦四、駆逐艦多数。予想通り敵艦隊の残存が集結しています。」


伊藤の持っているメモを受け取ると山本は堀と目を合わせて頷く。

煙突からは煙も出ておらず、完全に油断し切っていることが目に見えてわかった。

若しくは、既に環礁に燃料が無くタンカーの来航を待たねばならないのかもしれない。


「こんな優しい実戦もないね。機関の火を落として停泊中なんて、射撃訓練より簡単だろうね。」


「敵将はここが安全地帯だと今も思っている、仕方ないことだ。」


既に艦橋からアッズ環礁を見ることができる、全ての戦艦は当然、重巡すらも射程圏内であり、それは逆にアッズ環礁からも山本艦隊が観察できるということでもある。

今頃水平線に現れた大量の軍艦、輸送船に度肝を抜かれ慌ただしく動いているであろう。

大和、武蔵、陸奥、榛名、扶桑、山城の戦艦が計六隻、高雄、愛宕、摩耶、鳥海、妙高、那智、足柄、羽黒、最上、三隈、鈴谷、熊野の重巡計十二隻、改めて見れば大日本帝国海軍が保有する主力艦の大半がアッズ環礁をめがけて砲を指向している。


「全艦艇、徹甲弾装填。対艦照準完了。艦隊、砲撃準備完了です。」


報告に山本は頷くと、遂に命令を下す。

砲撃開始、その命令と共に一斉に放たれる砲撃は一瞬にして辺り一帯を黒煙と轟音で埋め尽くし、振動は絶えることが無い。

戦艦は副砲をも稼働し一斉に砲撃を開始し、それらは20秒もたたずして一斉に停泊している敵艦周辺に殺到した。

交互斉射を行い続ける日本軍側からの砲撃が絶えることは一切なく、常に新たな水柱が立ち続け、気が付けば停泊中であった戦艦は早くも火災を発生させていた。


「戦前だったら、陛下の見える訓練であってもこんな豪勢な砲の使い方は許されなかったね。」


「間違いないです。」


艦橋から眺める景色は圧巻の一言であった、特に大和、武蔵から放たれる徹甲弾は近距離で容易く敵戦艦の側面を貫通し、艦内で盛大に炸裂していた。

角度の浅い着弾が続き、被弾に対して浸水の少なかった戦艦ウォースパイトも単純な物量、圧倒的な物量による攻撃でありとあらゆるものが破壊され、傾斜を開始した。

艦橋は破壊され、艦上構造物で無事であるものは存在しないというほどに破壊されつくしている。


「第一目標敵戦艦撃破達成、第二目標、アッズ環礁砲撃に続行します。」


「うん。」


「全戦艦、榴弾装填、第二目標へ移行!巡洋艦は継続して敵艦艇への砲撃を続行!」


伊藤整一の報告は淡々としている、目の前で起きているのは訓練よりも簡単な作戦であるから、先までの作戦と違い緊張といった雰囲気は一切なかった。

軍艦という世界最大規模の兵器による、兵器、基地を対象にした攻撃であるが戦力差、そもそも反撃する手段すら持たないアッズ環礁をこれだけの規模で攻撃することは蹂躙、虐殺と表すことすらできるものである。


「塩沢艦隊、上陸戦力が突入します。」


後方に控えていた塩沢艦隊の上陸戦力が環礁へと進む。

大発動艇が一斉に突入していく、1時間もたたずに接岸するであろう。

本来の、固く守られた要塞などを相手すれば到達までは果てしなく長く感じるであろうこの突入も、まともな砲台も、陸上兵力も存在しないアッズ環礁を相手の場合は別だ。

前もって本格的な防衛戦力など皆無に等しいことを知っていた上層部は既に勝利を確信していた。


上陸戦力が環礁へ到達するまでの1時間弱、砲撃が続けられたアッズ環礁は数多の穴があき、施設はことごとく破壊され、数少ない防衛戦力である高射砲と沿岸砲台は見える限り全てが破壊されている。

停泊中であった艦艇も複数の駆逐艦を除いてすべてが沈められていた。

まともに動き始めることのできた艦の方が少なく、ほとんどの艦は機関を始動する間もなく被弾し反撃なんて当然出来るわけもなく撃破されていた。

残った駆逐艦はようやく始動し、環礁内から陸地を挟み突入を続ける大発動艇に砲撃を加えるも、小さい大発動艇に命中するわけもなかった。


「あとは、安田くんの仕事だ。我々の仕事はこれにて終了、報告があるまで暇だね。」


山本はそういうと司令官室へと向かう、既に特戦隊を載せた大発動艇は接岸間近であった。


※アッズ環礁


特戦隊はアッズ環礁を構成する主要6島のうち、西側の3島へと分散して上陸を仕掛けていた。

とくにヒタドゥ島とガン島は防衛連隊の主力が配置されており、燃料タンクなどの港湾設備も構築されていた。

当然それらの燃料タンクも盛大に破壊され今は火災が発生している、それを消火しようとする様子も見られず、駐屯兵の多くも既に砲撃に晒され戦力を喪失しているようであった。


「一体これは・・・一応にもここは軍港だろう?なぜ兵士が居ないのだ・・・?」


ヒタドゥ島へと上陸した安田は文字通り一切の反撃が無いことに驚きながらも、司令部があった地点へと向かう。

避難が間に合わなかったのか、跡形もない死体が散見できるものの、反撃してくる兵士が一切いないことはあまりにも奇妙であった。

アッズ環礁は海面から数m程度の高度しかなく、島の反対側も容易に見渡せる。

撃破された艦に搭乗していたであろう水兵が泳いできたのか、海辺で呆然と歩いている姿も見える。

数分間、特戦隊の兵士が島中を探索したところ、どうやらヒタドゥ島の地下壕に残りの兵士たちは避難していたようで一人、また一人と手を上げながら投降していた。

安田はその中でも指揮官と思しき人物を見つけると声をかける。


「多田!あの人物と話がしたい。」


「はっ!」


安田は通訳を呼びよせるとその人物を列から抜けさせて自身と近くへと呼ぶように指示をする。

その人物は安田よりも先に敬礼する、安田も同じく敬礼で答え、会話を始めた。


「私は安田大佐、この上陸戦力の指揮官である。貴官は?」


安田の言葉にイギリスの将校も答える。


「私はアッズ環礁防衛連隊隊長のマックス・ミゾラウスキー大佐です。投降兵の丁重な扱いに心からの感謝を。」


安田は手を差し伸ばし、ミゾラウスキーも同じく手を握る。

ミゾラウスキーはあまりの惨状に落胆したのか、大きくため息を吐いた。


「なぜ、反撃されなかったのですか?上陸してから反撃してきた兵士はわずかに数名でした。」


「それは・・・我々は日本軍がここに基地があると知らないと思っていた。全員が油断し、日本軍が水平線を埋め尽くしたときにはすべてが終わっていたんだ。砲撃で兵舎も破壊され、沿岸砲台や高射砲も殆どが破壊された。武器を取る余裕もなく我々は地下壕へ避難した。ほかの島との連絡も途絶している、完全に油断していたし、今の日本軍に勝つ術はない。日本の艦隊が見えた瞬間、サマヴィル司令はじめ参謀組は・・・潜水艦トゥルーアントで脱出した。つまり現在このアッズ環礁における最高権威者は私であり、えっと・・・全軍に投降するよう呼びかけたいのだけど、協力していただけないか。」


サマヴィルは日本艦隊が沖に出現した瞬間、アッズ環礁が秘匿されておらず既に目標の一つであったことを悟った、そして長門に対する雷撃を終え補給のために戻っていた潜水艦トゥルーアントに乗り込み即座に環礁を脱出していた。

そして残されたミゾラウスキー始めとした守備隊の士気はゼロに等しかった。

ともあれ投降したいというのであれば安田は断るわけもなく、即座に全軍の射撃命令を取り消した。

アッズ環礁は上陸後、目立った交戦が起こることもなく日本軍の手に、いとも容易く落ちたのであった。


※アッズ環礁沖


艦橋では安田大佐を始めとした各所からの報告に司令部は慌ただしかった。

特に上陸部隊の被害軽減の為徹底した艦砲射撃を加えられたにもかかわらず、半地下に建造された重油タンクが数カ所無事であったことは山本らを喜ばせた。

上陸作戦だったにも関わらず戦死者は10名程、これは先述の通り艦砲射撃から逃げるためほとんどの守備兵力が地下壕等に退避しており水際での迎撃がほとんどされていなかったためで、お互い島を巡る戦いをしたとは思えない被害で戦いは幕を閉じていた。


「ははは!!!それは本当かな?」


報告を受けて山本は思わず笑いだす。

それはサマヴィルが潜水艦に乗り脱出していたという報告であった。


「敵将、そそくさと逃げ出すなんて大した男ではありませんね。」


伊藤がそう言って笑みを浮かべると、山本は笑いを止めて話し始める。


「いや逆じゃないかな。面白い、実にね。あの男、自身が正しい、自身が居なければイギリス海軍はダメだって心の底から思っているタチに思える。だからこんな貴重な海軍基地と、自身の命を天秤にかけた時にいともたやすく脱出するという選択を取ることが出来ているんじゃないかな。面白いなぁ。この戦争が終わったら、実に会ってみたい人物だ。」


山本の言葉に皆がそうですか、という反応を示す中、堀も山本に同調し、珍しく微笑んでいた。


「そうだな。恐らくアメリカ機動部隊を動かして、できる最大限の戦力をここにぶつけてきた、非常に有能な指揮官に違いない人物だ。我々からすればここで死んでくれた方がよっぽど楽なはずだったが・・・いざ敵にそういう人物がいると潔く逃げられては案外大変なものだな。」


堀もそういうと未だに燃えさかる環礁を眺める。

潜水艦は既に追っても無駄だからか山本も特に捜索の為の艦艇を出すことはしなかった。


こうしてアッズ環礁を巡る戦いは大規模な迎撃を受けることもなく即座に幕を下ろした。

山本艦隊は弾薬の補給と乗組員の休養の為トラック泊地へと進路を取り、塩沢艦隊は再度山本艦隊から分離し、きたるセイロン島占領作戦までインド洋の警戒に当たることとなった。

そしてトラック泊地へと帰還したのち、堀は一人司令部から離脱、内地へと帰還し山本らと極秘に設立を進めていた機関を始動するべく、千葉の習志野へと向かった。


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