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第二十七話 アッズ環礁上陸作戦(1)

1942年3月2日 インド洋上


塩沢艦隊と合流し、補給を済ませた山本、近藤艦隊は旗艦大和の下山本艦隊に統合され、塩沢艦隊前衛としてアッズ環礁へと向かっていた。

既にアッズ環礁は目前、半日後には塩沢艦隊から上陸部隊が放たれる予定である。


「近藤君、怪我は?」


大和へと移乗を命じられ、司令官室へと入り込んだ近藤と白石は、堀、伊藤を始めとした連合艦隊司令部の面々と机を囲んでいた。

緊張する白石と変わり近藤にその様子は見られない。


「いやあ、まったく擦り傷すらなく助けられました。長門は・・・申し訳ありませんでした。華々しい勝利に、ただ一点だけの曇りが生じてしまった。艦隊司令を任せて頂きながら、日本の誇りを一隻、失ってしまうことに。」


まずの謝罪、あくまでも長門沈没は自身の責任であるという意思表示をした近藤に山本や堀らは叱責することもなく黙っている。


「敵戦艦四隻を沈めた代償が長門一隻であれば、むしろよくやったといえるんじゃないかな。」


山本は出された茶を手に取り口に運びながらそう言う、手を付けない近藤や白石にも飲みなさい、と合図を出すと近藤らもお辞儀をして茶を口に運んだ。


「君が艦隊全体の責任を取るというのなら、作戦を率いた山本が長門だけではない、龍驤、祥鳳、蒼龍、飛龍の責任を取るべきだな。」


同じく茶を飲みながら目を合わせずに堀が皮肉気味にそういうと近藤は少し戸惑いつつも微笑む。


「いやぁ、はは、辞めてくださいよ。けど、そういって頂くとどうにも助かります、艦長だった矢野にもそういって頂いたと伝えておきます。」


白石もようやく緊張がほぐれてきたのか、茶を飲み込むと大きく息を吐く。

一緒に出された和菓子も皆が口に運び少し間が空くと、白石から話題を切り出した。


「しかし・・・小沢艦隊の二隻はまだしも、南雲機動部隊の蒼龍と飛龍までもがやられてしまいましたか・・・長官や堀さん、軍令部が当初想定していた被害とはかなり・・・」


分かり切った事実であったが、白石は山本らわざわざ自分たちを呼び出し、それの目的が叱責でないのであればなにか相談事があるのではないかと思い餌をまくような質問を投げかけた。


「今回、蒼龍と飛龍を失うとは想定外だったけど・・・そもそも敵にアメリカの空母二隻が介入してくること自体が想定外であったんだよ。その二隻が何かはまだ決まったわけではないけど、空撮写真からきっとワスプと、レンジャーだったんじゃないかと僕たちは考えている。その二隻を撃沈するという、これも想定外の戦果が発生した。二隻のトレード・・・厳密には赤城と加賀も大破させられてしまったが・・・まだ許容できなくはない。戦艦に関しては敵将が長門を徹底的に集中攻撃すると思っていなかったから、もしかしたら榛名が沈むかもしれないと思っていたけど、長門に被害が集中し、長門だけが沈んだ。まあ・・・イギリスの極東艦隊にいた戦艦のうち四隻を沈めれたのであれば対価としては十分だとおもうよ。戦艦も、空母もまだ・・・まだ増やせるからね。」


淡々と話す山本、決して楽観できる状況ではないことは誰もが理解しているがそれでもインド洋からイギリス軍を追い出しかけていることには皆、手ごたえを感じていた。


「恐らく敵の残存兵力は、我々の目標であるアッズ環礁へと集結している。上陸前に砲撃でまとめてその残存戦力ごと砲撃して破壊、アッズ環礁を手に入れる算段だ。砲撃の手段は多ければ多いほど良いからな、大和、武蔵に加え近藤艦隊の榛名、陸奥に塩沢のとこの扶桑、山城、全ての戦艦を以て砲撃を加える。」


堀の発言はこれからやることの説明、そんなことは事前の命令からわかっていることであった。

白石が考えていたような返事が来ないことに待ち切れず、白石は自ら問いただす。


「その・・・失礼な質問になるかもしれないので申し訳ありませんが、長官や堀さんは私共を何の目的でここにお招きを・・・?」


白石の発言に山本、伊藤は目を合わせた後に微笑み、近藤は馬鹿者、と背中を叩く。


「なにか、海軍将校として職務的な目的が無ければ僕らは君たちと話すこともできないのかな。」


「万が一にも近藤が長門沈没の責務を過大に感じ取ってる可能性だってあった。他愛のない話だろうと、我々がこうやって会話の場を持つことはあっても良いと思うが。」


山本と堀の言葉に白石は自身が尋ねたことを後悔していた。


「し、失礼いたしました。あの・・・このお茶、本当においしいですね、中々お目にかかれない銘柄でしょうか・・・。」


慌てて突如話題を下手に作る白石に思わず堀も笑みをこぼす。

白石ははは、と笑いながら赤面し、近藤も微笑みながら傍観していた。


「だけど、うん。そうだね、せっかくこうやって皆でお茶を飲んでるんだ、先の戦いの感想でも聞こうかな。君たちは何を感じたかな?」


山本がお替りを注ぎながら近藤達に問う。

その表情からは突如として笑みが消え、答えようとする近藤にも笑みが消えていた。

少しばかり沈黙が続き、やがて近藤が口を開いた。


「どの艦かはわかりかねますが・・・恐らく大和、武蔵どちらかが放った主砲により、一隻の艦が爆沈しましたな。」


「うん。」


その言葉に、近藤の発言を聞いていた白石は当然のこと、山本、堀、伊藤すらも暗い表情を浮かべていた。

白石からすれば素晴らしいことであったと喜んでいたのではと思っていただけに、想像とは違う反応に内心驚いていた。


「あの時、ふと思ってしまったのです。ここに居る乗組員は我々からしたら皆若い。軍人になっていなければ、国の産業を支える最高の人材ばかりだと。それはイギリスとて変わらないでしょう。」


「うん、うん。」


近藤の言葉に相槌を打つのは山本だけ、他は皆黙って近藤を見ていた。


「あの爆発の一瞬で、どれだけの命が奪われたのか。あの爆発が原因でどれだけの命が生きたまま沈んでいったのか。・・・長門も同じです。魚雷を受け生き延びられたのはわずかに700人ほど、半数以上が死んだと矢野から聞きました。それだけの人間が、生き延びて日本の将来の為に働いて、子を産み、子孫まで繫栄させて・・・それを考えると・・・将来、あったであろう未来に命を残せたことを思うと、我々が戦争なんかで失う命というのはあまりにも重すぎる。」


白石は、内心ではわかっていてもそれを心の内で抑えなければいけないのではないか?と思うとともに、山本らから近藤が叱責されたり、今後左遷させられるのではないかとヒヤヒヤしていた。

だが白石の想像とは裏腹に、対面する面々からそのような言葉が出ることはなかった。


「君たちも当然、未来のことは知っているだろう。我々から見れば未来、2010年からすれば近代とされる、日本の戦後のことだ。」


山本の言葉に皆が反応せずに黙る、それは頷いているも同然の反応であり山本は話続ける。


「核兵器というとてつもないものを受け、東京はB-29というアメリカが完成させた重爆撃機によって蹂躙され、沖縄が陥落し、結果数百万という人間が死に、総力を挙げて戦ったにもかかわらず負けた。そして満州を失い朝鮮は独立を果たした。それなのに、戦後の日本は瞬く間に復興し世界トップクラスの国家へと成長するらしい。負けて、人が大量に死んでもだよ?なら、極力人を死なせずに、そして連合国相手に早期講和を結び、更に満州や中国を戦後も継続して日本の手に収めることが出来たら?本国と違い資源が莫大に存在する大陸をも手中におさめ続け・・・そんな未来があったら、素晴らしいと思わないかな。それが実現できれば我々が今も継続中の、本来の限界を超えている軍拡をしたことなどなんの問題にもならない程の経済効果をもたらし、大日本帝国は世界一の国家へなることができる。」


山本の発言に皆が聞き入っていた、誰もがそうなればどれだけ良いことだろうかと思っていた。

未来を知る唯一の国家、唯一の軍隊、それがどれほどのアドバンテージをもたらしているか・・・大陸では優勢、インド洋も制海権の確立寸前、アメリカの太平洋艦隊の復興まではまだ時間がかかる。

それでも尚、皆日本が勝利できると確信できてないほどに、アメリカという国家はあまりにも強大であった。


「我々の目標は、対米における早期講和、出来れば連合国相手の早期講和である。枢軸はいずれ死ぬ、大日本帝国という国家が将来偉大になる為には、単独であろうと講和を成し遂げ、それにはドイツ、イタリアなぞ簡単に切るような覚悟が必要だ。」


「しかし、いったいどうやって・・・。」


白石はとんでもないことを聞いているのではないかという自覚はあった、これは日本という国家の将来を決める内容であったからだ。

こんな作戦活動中の戦艦の司令官室なんかで話す内容でも、一少将である自分が介入する内容でもないことは明白であった。

それでも山本は気にせずに続ける。


「詳しくは最高会議か、軍令部会議で話すけど・・・今僕と堀が考えているのはパナマ運河の破壊、ハワイの占領だよ。」


「なっ!?」


途方もない話、ハワイ上陸は真珠湾攻撃の時に議題に上がったものの戦力的に不可能ということでなかったことにされていた、それを再び行おうとしているのである。

そしてパナマ運河の破壊、当然図書館の書物を読み漁った白石はそのような作戦が立てられかけたことも知っているが、実施されることもなかったものであることも知っている。

それをこの世界でも実現しようとしているのだと考えると鳥肌が立っていた。


「インド洋の制海権がこの作戦で確立され、少しすればセイロン島への上陸も行う。陸軍には対中戦線を終結させたのち、インドを攻めてもらう。陸海両方でインドからアジアへの侵入手段を封じる。そうすれば太平洋を攻めるには東からだけになる・・・だがアメリカ大陸から、太平洋で作戦活動を行うにはパナマ運河を通過して軍艦を太平洋に回す必要があり、何よりも活動拠点として、中継基地としてハワイが必須だろう?ハワイを占領してしまえば、太平洋におけるアメリカ統治下の島々や、オーストラリア、フィジーといった場所は【干上がる】。これは太平洋丸ごとの兵糧攻めだ。パナマ運河を機能不全にしてハワイを陥落させれば太平洋における活動は一気に縮小し、我々が防衛する必要のある拠点の数も一気に減少するから、必然と必要な戦力も少なく済む。戦争が長期化すればするほどに、アメリカとの戦力差が開くことは歴然だからこそ、技術的な優位と、今はまだある戦力的な優位の両方を駆使して太平洋を丸ごと掌握するんだよ。」


白石は山本が淡々と語るその構想に開いた口が塞がらなかった、伊藤もここまで聞いていなかったのか、白石と同じく驚いた表情で山本と堀を見つめていた。

だが堀は当然として、近藤もまたそれを自分も考えていたかのような表情で山本を見ていた。


「ひとまずこれ以上のことはまだ話せないね、構想をしっかりと固めて、軍令部で動く必要がある。雑談にしては、面白かったかな?」


そう聞く山本、近藤は笑い白石と伊藤は硬直するばかりであった。


「ひとまずは、目の前の目標を成し遂げようか、インド洋最後の砦だ。」


山本は立ち上がると壁に掛けてあるインド洋の海図の前へと移動すると指先で×印、本来であれば何もないただの海上を指し、不気味にも一人笑みを浮かべる。

既にその×印の地点まで残り僅か、少しすれば艦橋から見える場所まで艦隊は移動していた。


ご閲覧いただき誠にありがとうございます。


長引いてしまいましたインド洋海戦に関しては一旦終わりました、今後短くアッズ環礁上陸作戦に関する話が続き新たな編(?)へ移ると思います、まだそこまで作成できていないのでどうなるか断言はできませんが・・・

感想も頂いており、全て目を通させていただいております。

返信遅れたり出来ないこともありますが全て見させていただいております、ありがとうございます。

今後もブックマーク、評価、感想など頂けると幸いです。


誤字脱字等ありましたらご報告ください。

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― 新着の感想 ―
パナマ運河破壊は、仮想戦記でよく採用されるネタですが、この小説でも実施されるんですね。 山本五十六長官がパナマ運河破壊を考えていたということは、伊400型が史実より早期に竣工しているということですかね…
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