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未来国家大日本帝国興亡史  作者: PATRION


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第二十六話 インド洋海戦(12)

砲撃戦が始まって10分程、両者に命中弾が出始めたころであった。

戦艦大和、武蔵は史上最強の艦砲を放ちながら猛進しており、その砲弾がついに敵を捉えようとしていた。

だが敵からの攻撃を受けずに悠々と砲撃を続ける両艦と打って変わって、先に砲撃を始め敵の進路を塞ぐべく立ちはだかる近藤艦隊は敵戦艦四隻からの熾烈な砲撃に晒されていた。


長門の周りには常に水柱が立ち続け、それが途切れることが無い。

敵戦艦の放った砲弾が早くも長門へ命中し始める。


「左舷後方に被弾!」


「本艦、敵艦隊からの集中砲火に晒されています!」


観測所からは悲痛な叫びが耐えず続いている。


「そんなことは分かっている!被害報告急げ!」


長門艦長の矢野英雄大佐は必死に状況把握に努めるも、被弾報告があった直後に更なる被弾が続くような状況であった。


「司令、このままではいくら長門でも堪えますが・・・。」


矢野の言葉に近藤は食い気味に答える。


「この艦の艦長は君だ。私は司令だけどもね、艦の全権を握っているのは君だ大佐。どうしたい?今の言葉は私に聞くにはふさわしくないように思えるんだがね。君が私に聞くべきことは、どうするかではなく、こうしたいのですがよろしいかといった感じじゃないだろうか?艦隊司令はそこの許可の是非は下すけどね。」


近藤の言葉に矢野は驚き、隣にいた白石はやれやれといった風に笑みを浮かべていた。


「し、失礼いたしました。・・・司令、長門はこのまま戦闘を続行します、ここで引いても榛名、陸奥に敵の照準が向かうだけです。」


「よし!わかった。」


矢野の答えに次に近藤は満足げな表情を浮かべた。


だが長門と言えど、戦艦クラスの主砲を断続的に叩きこまれればタダではすまない、被弾が続出するにつれ遂にバイタル部を貫通する被弾が発生し、機関を破壊した。

ロイヤル・サヴリンの放った主砲弾が二発同時に命中し、そのうち一発が煙突基部へと命中し、そのまま機関へと到達した砲弾は右舷側の機関室へと到達し炸裂した。

浸水は発生しなかったものの缶と軸の両方が破壊され、推進軸を一つ失った長門は速度を徐々に落とし始める。

同じくもう一発は第二主砲塔天蓋へと命中し、非貫通だったもののその強烈な衝撃は主砲旋回装置へとダメージを与え第二主砲を事実上使用不可能にしてしまった。


「こちら第二主砲塔、我々が被弾しましたか!?先の衝撃から旋回機能が故障、砲塔が回りません!」


「こちら機関科、第二タービン破壊されています、修復不可!浸水は現在確認できず!火災発生!」


「本艦現在23ノット。」


相次ぐ被害報告は壮絶で、着弾するたびに船体は揺れるし直接の被弾時は手すりに捕まらなければ倒れてしまうほどの衝撃が加わる。


「全応急班、機関室へ急行せよ、被害を食い止めろ!主砲塔は後回しでいい!」


矢野は迅速に応急対処を指示し、応急班は指示通りに機関室へ急行し消火作業や救出作業を行う。

だがそれでも一軸を失った長門は機関室での火災の延焼により更に出力を落としていき、最終的な速力は20ノットを割るほどにまで落ち込んでしまった。

被弾は止まず、榛名は当然、陸奥も追いついてくる。


「左舷喫水線への被弾で軽度の浸水が発生しています。」


遂に発生した浸水、どれだけ燃えさかろうとも木造船とは違い、それだけでは沈没の原因とはならない。

今の時代の軍艦の沈没は、魚雷による浸水、誘爆による浸水、被弾による浸水、どれも結果的には浸水が原因で起こる物である。

どれだけ火災が広がろうとも浸水が発生しなければ沈むことはない。

それだけに火災や爆発によって船体や人員に被害が出ている最中の浸水の発生には皆が敏感になる。


「流石にこれ以上は危ないですね・・・ちょうど榛名と陸奥が前に出てくれそうなので、丁度よい。一旦休ませてもらえれば助かりますが・・・。」


隣で追い越しかけてきた榛名を見ながら白石が近藤に呟く。

近藤もそうだね、と返すと同時に次は水平線にて見たこともないような爆発が巻き起こった。

その爆発は大和の放った主砲によって引き起こされた戦艦主砲弾薬の誘爆による、今この場で起こり得る限り最大の種類の爆発がまさに起こっていた。


「す、すごい。たった一撃で・・・!やったのは大和か、武蔵でしょうか?」


嬉々とする白石、その横に佇む近藤は逆に神妙な物であった。


「あの爆発、あの一瞬で何人の未来ある若者たちの魂が消し飛んだのか・・・。」


「えっ」


余りにも突拍子の無い・・・軍人、それも世界に名をとどろかせている海軍の、限りなく上位に位置する人物の発言とは思えないそれに、白石だけでなく周りにいた者たちまでむせる程の驚きをしてしまう。


「すまんね、戦争中なのにこんなこと思うなんてどうかしているかな。ふと思ってしまっただけだ。続けよう。」


近藤は息を大きく吐くと、一瞬で艦尾から海中へと没してゆく敵戦艦、ラミリーズを見続けながら悲しげな表情で立ち尽くしていた。

その姿に白石はじめ、艦橋にいた者たちも影響を受け、先までの一瞬とは打って変わって異様な雰囲気に包まれていた。


戦闘が続き長門は機関部の火災の鎮火作業が滞っており、速力を回復することもなく榛名、陸奥から大幅に落伍していた。

だがその間にも次々と命中弾を与えており、既に大爆発を起こし轟沈したラミリーズに加え、敵旗艦と思われる戦艦も戦闘能力喪失、既に水兵たちが海へと飛び込んでいく姿を見える。


「こちら機関室から、応急班長武田。機関室の火災は一旦鎮火しました、軸はやはり帰港しなければ直せません。我々は上甲板に戻りそちらの鎮火にあたります。」


どうやら応急班もようやく機関室の鎮火に成功したようで、出力を落としていた機関も徐々に力を上げているのか船底からの振動が再び強くなってくる。

艦上は未だに黒煙が上がっている個所も多く、特に中甲板では14㎝砲弾の誘爆の為か副砲のケースメイト砲塔ごと吹き飛んでいるところもあった。


「機関出せる限りの出力を!我々も残党狩りに加わるぞ、急げ!」


「了解、現在14ノット、増速中。」


増速中と言っても三軸に破壊された缶も多く、その加速は鈍かった。

主砲の統制も再び戻りつつあり、第二砲塔を除いた全砲塔にて同時の交互斉射が行われるまでに復帰していた。

だがその時であった、突如として艦橋上部の見張りが悲痛な叫び声をあげる。


「最上被雷!本艦にも右舷から魚雷接近ーッ!」


「なに!?」


その叫び声に全員が右により海面に注視する。

右を通り過ぎようとしていた最上の右舷に立つ一本の水柱、最上の前を抜け海面から一斉にこちらに接近するそれは紛れもなく魚雷であり、すでに距離は1,000メートルというところまで迫っていた。


「よ、避けれない・・・!」


白石は迫ってくる魚雷を見て息を呑む、その手は自然と手すりを目いっぱいの力で握っていた。

見えるだけでも5本、それは最上が一本被雷したことを加味するとイギリスのT級潜水艦の前部発射管の数と一致している。


「右舷副砲水面に向かって撃て!魚雷だ!見えなくてもとにかく撃て!」


矢野は伝声管に向かってそう叫ぶと、すぐに右舷副砲は一斉に火を噴き始める。

だがそれらも俯角が足らずずっと遠くへと着弾してしまうと、いよいよそれらは残りわずかというところまで接近する。

速度は全く乗らず、最早覚悟を決めることしかできることはなかった。


「総員衝撃に備え!」


矢野がそう叫ぶとすぐにとてつもない衝撃が加わる。

一瞬足が床から浮くような感覚に襲われると、次に襲ってきたのはとてつもない【捻じれ】であった。

自分は左側に傾いたと思っていたのに艦首は右方向に傾斜しているように見える程、魚雷による船体への圧力は強烈な物であった。


「ぐおぉ・・・これは強烈だな・・・。」


近藤自身もまた先の海戦では魚雷を用いて勝ちをもぎ取った、それだけに日本の酸素魚雷とまではいかずとも、潜水艦から放たれた魚雷の威力がとてつもないということは理解していた。


「被害状況は!?応急班!」


5本のうち命中した魚雷は4本、艦首、中央、艦尾に均等に命中しており、長門は徐々に右舷へと傾きを始めた。

応急班からの反応はなく、既に応急班に限らず戦闘で相当の数の乗員が負傷しているだけに現在の長門が対処できる被害の規模を大幅に超えていた。


「速力低下、現在11ノット!右舷側機関室との連絡途絶!」


一瞬で長門の右舷は副砲が海中へ没し、上甲板が海面に触れようというほどに傾いていた。

既に手すりなどに捕まらなければ立つこともままならないほどで、矢野は悔しそうな表情を浮かべながら近藤の方へ向く。


「司令・・・申し訳ありません。」


その言葉に含まれる意味を近藤は汲み取り肩を叩く。


「今回被害担当艦となったのが長門だった、それだけだ。榛名だったかもしれないし、陸奥だったかもしれない。矢野、君の指示に不手際はなかった、それは私が直接見ていたから、安心していいよ。」


近藤の言葉に、矢野は何か救われたかのような表情を浮かべ、静かに頷いた。

総員退艦命令、長門艦長の矢野英雄大佐の口から発さられ、乗員たちは我先にと海へと飛び込む。

近藤や白石を始めとした要員たちも転覆直前に海へと脱出しており、少し離れるとこまで泳いだところで長門は裏返り、そのまま海中へと没した。



「長門がやられたか・・・。」


大和艦橋では山本らが長門の壮絶な最期を見届けていた。


「だから潜水艦が怖いと言った、一撃で状況を覆しかねない一手だ。」


堀がそういうと山本はうん、とだけ言って水平線を眺める。

既に残った敵戦艦、ロイヤル・サヴリン、リヴェンジも虫の息で榛名、陸奥、大和、武蔵からの攻撃によって既に戦闘能力を喪失していた。


「敵護衛艦艇は離脱中、追いますか?」


伊藤の問いかけに山本は首を横に振る。


「どうせ帰るって言ったってアッズ環礁じゃないかな。ならまた後で叩けるし放っておこう。それよりも残されたあの戦艦の乗員だけど・・・。」


「潜水艦が居ることが証明されたんだ、救助は出来ない。逆に潜水艦が居るということは我々さえいなくなれば自分たちで救助できるだろう。少々酷だが耐えてもらうしかない。」


山本と伊藤は堀の言葉に同意する。


「では、あの戦艦二隻を撃破したのち、我々も近藤艦隊と合流、反転し一旦戦力を再編いたしましょう。塩沢艦隊が追いつくまでの間に整理するくらいの時間はあるかと。南雲、小沢艦隊への指示も必要です。この戦いが終われば一旦全体が落ち着きますから、この後の流れを考えなければ。」


山本はその言葉に頷く。

要員たちが海図を囲みこの後の行動について意見を交わしていたその時には既にロイヤル・サヴリンが航行を止め、リヴェンジは艦首から海中へと沈んでいっていた。

ロイヤル・サヴリンは武蔵の放った主砲が機関室に致命傷を与え停止したところに重巡部隊からの主砲弾が殺到、リヴェンジは榛名、陸奥からの集中砲火によって限界を迎えたのである。

終盤はイギリス側からの命中弾は一切なく、ロイヤル・サヴリンがリヴェンジに次いで転覆、沈没したところでこの戦闘は終結した。


結果としてイギリスから四隻、日本から五隻の戦艦がぶつかり合った海戦は日本軍側が長門沈没、最上中破という被害に対してイギリス側はリヴェンジ、レゾリューション、ラミリーズ、ロイヤル・サヴリンの戦艦四隻全て沈没という結末であった。

連合国軍側は合わせると空母ハーミーズ、インドミタブル、フォーミダブル、ワスプ、レンジャーの五隻が沈み、戦艦は上記四隻が沈んだ。

日本軍側は空母龍驤、祥鳳、蒼龍、飛龍の四隻が沈み戦艦は長門が沈んだ。

結果想定よりも被害が大きかったとはいえ日本軍側の勝利であることは疑いようが無く、インド洋において活動できる連合国側の主力艦は難を逃れた戦艦ウォースパイトだけとなった。

つまりこの戦いにてインド洋におけるイギリス極東艦隊の主力は壊滅し、制海権を確保、このインド洋作戦の残すところはアッズ環礁の占領と、セイロン島トリンコマリーの破壊だけとなった。

既にイギリス海軍極東艦隊に作戦能力のある部隊はなく、この日本軍の活動を止める手段は皆無に等しかった。

サマヴィルが日本海軍の運用思想を見抜き、アメリカに援護を求めてもなお日本軍を止めることは出来ず、サマヴィルはA部隊と合流の後アッズ環礁へと帰投した。


山本、近藤艦隊は合流後待機し、翌日未明に塩沢艦隊の前衛としてアッズ環礁へと進路を取り、南雲機動部隊は燃料及び爆弾の残量が少なくなったため小沢艦隊の残存兵力と合流し、トリンコマリー空襲を中断、航空隊再編と弾薬補給の為ラバウルへと向かった。

そこにはアッズ環礁を占領できた場合、セイロン島への補給も途切れ一度南雲機動部隊を補給のために撤退させても時間的猶予はあるという判断がある。

そして山本らの目論見通り、アッズ環礁が未だに秘匿されていると考えているサマヴィルは残存兵力をアッズ環礁に集結させるよう命令を下していた。

そこへ山本、近藤、塩沢の連合艦隊が占領の為接近していくこととなる。

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週間軽空母に月刊正規空母、オマケに巡洋艦が毎号ついてくる恐ろしい世界
日本側の被害も大きいですが、インド洋の制海権確保という作戦目的は達成できそうですね。 いくら未来知識があっても、長期戦・物量戦になったらアメリカに勝てるわけないのですから、アメリカの戦時生産体勢が整う…
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