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未来国家大日本帝国興亡史  作者: PATRION


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第二十四話 インド洋海戦(10)

日の出から10時間ほど、両軍にとってあまりにも長い一日となりそうである。

既に米英軍はイギリス海軍の空母三隻が沈み、今このときもワスプとレンジャーの二隻が沈没寸前となっていた。

ただ日本軍も無傷ではいられず、小沢艦隊の旗艦龍驤と祥鳳が沈没、更には自身を滅ぼす覚悟の上で作戦を立案し、決死の賭けに勝利したレイモンド・スプルーアンスによる総攻撃で日本軍も蒼龍、飛龍と二隻の正規空母を失った上、更に赤城、加賀が作戦遂行能力喪失の被害を受け、今もなお南雲機動部隊にはスプルーアンスの放った最後の槍が向かいつつある。

総じて米英軍は軽空母一隻、正規空母四隻沈没、日本軍は軽空母二隻、正規空母二隻沈没となり、今後の戦略活動を鑑みると日本軍の方に戦果の分があるものの決して大勝と呼べるものではなかった。

ただ英米海軍の極東艦隊A,B部隊とスプルーアンス率いる第39任務部隊の三艦隊のうち極東艦隊A部隊(機動部隊)と第39任務部隊の二艦隊は壊滅しており、最後残ったB部隊(戦艦主体)も近藤艦隊、山本艦隊の目前へと迫りつつある。

ここで日本軍側が勝利すれば戦術的にも勝利となり、更にイギリス海軍はインド洋の制海権を維持することは不可能となる。

それはつまり日本軍の最終目標であるトリンコマリー軍港を破壊、アッズ環礁を占領し橋頭堡としてインド洋の制海権を確保するという目標が成功する見込みが大きく日本軍の戦略的勝利が確約されることとなる。

トリンコマリー軍港を破壊、更にアッズ環礁を占領してインド洋の制海権を確保したとなれば日本軍によるセイロン島上陸も難易度が下がることとなり、更にはインド洋を経由していた輸送経路を封じることで大陸における日本陸軍の活動を容易にするという連鎖的な効果を軍部は期待していた。


そして残存する最後の主力、極東艦隊B部隊が近藤、山本艦隊の前方30kmほどへと接近しており、既に両軍水偵による偵察を行われいつでも発砲できるよう準備されていた。


※山本艦隊 旗艦大和 艦橋


「長官、こちら長門、近藤艦隊司令、近藤。本艦隊はこれより進路を右に取り敵艦隊と正面から当たるようにいたします。速度はこちらが優位です、十分近づけたらT字に取れるよう更に右に舵を切る予定。現在本艦から敵戦艦までの距離35,000、主砲射程圏内。」


スピーカーからは近藤からの通信が入る。

長門は既に主砲射程の38,000を切り、既に射程圏内となっていた。


「本艦からは42,000、本艦主砲の射程圏内です。」


艦橋には首脳が集まり水平線を眺めている。

伊藤の報告には山本が返事をする。


「どうする、この大和の初砲戦だ。一旦近藤艦隊を中間に挟んで支援に徹するかな?」


山本は近藤艦隊を双眼鏡で覗きながら呟くようにいうと、次は堀が食い気味に返事をした。


「敵はリヴェンジ級戦艦四隻、あんな旧大戦の遺物なんて完封できないでどうする。」


堀がそういうとその場にいる皆が堀に注視する、堀は近藤艦隊の左側を指差しながら続ける。


「世界最強の46センチ砲だろう?全部使わなくてどうするといっているんだ。近藤艦隊が正面からあたってくれると言うなら、俺達は左側に進んで右側に撃つ。近藤艦隊に頭を抑えられ不利から脱するためにどちらかに旋回するにしても、短くない間反航戦に近い角度になるはずだ。その間にこいつと武蔵で敵戦艦を叩くんだ。リヴェンジ級の速度なんてたかが知れているし、それに比べたら長門ですら高速だ。榛名なら尚更だ。つまりイギリス艦隊は敵から見て左側を近藤艦隊にT字型に先回りされ、反転するか、右側に逃げるしかない。反転すれば近藤艦隊と俺らで並航戦で挟み撃ちに持ち込めるし、右に逃げれば俺らがT字で封じることが出来る。」


堀は卓上の駒を使いながら動きを説明する、敵のリヴェンジ級の最大速力は22ノットにも満たないものであり、最大速力の日本軍艦艇には到底敵わないものである、堀はそれを最大限活用し挟み込むように動く算段を立てていた。


「・・・わかった、それでいこう。敵戦艦からの発砲あるまでこちらからの発砲はしない方が良いだろうね。少しでも嵌め込むために近づいてきてほしい。既にこちらに主導権がある、敵が気が付いた時には逃げられないようにする。」


山本の発言に皆が頷くと、艦長の森下は操舵手に変針を命じる。

前を行く近藤艦隊から分離し山本艦隊との距離がみるみると離れていき、やがてイギリス艦隊が水平線から姿を現した。


「敵艦隊が見え始めました。」


観測所からの報告、じきに艦橋からも敵艦隊を見ることが出来た。

その砲は常に近藤艦隊へと指向されている。


敵艦隊は接近するにつれ取舵をとり、近藤艦隊に頭を抑えられず、山本艦隊とも衝突しないように進路を取る。


双眼鏡越しにそれを眺めていた山本はにやけながら呟く。


「流石に敵さんも馬鹿ではない。恐らく指揮を執っているのはジェイムズ・サマヴィル・・・一次大戦からの生え抜きだろうね。意外と実戦となればこんな簡単な過ちも犯してしまうのが余裕のない若者との違いだが、しっかりと最善の択を取っている。」


面舵を取れば山本艦隊と近藤艦隊の挟撃にあう、それを避けた時点で禁忌の択をしっかりと外してきていた。

だが最早、イギリス艦隊にはどれだけ正しい択を取ろうとも勝ちの目がなかった。

近藤艦隊と並行するように転舵し、山本艦隊には艦尾を向ける形となっている。

それは晒す横腹が右舷からまっすぐになり、じき先頭の艦が左舷を晒し始める。

距離は20キロ程、そこでついに砲戦の火蓋が落とされた。


離れていく近藤、イギリス艦隊を追うように山本艦隊は徐々に徐々に面舵を取り続けていた、常に砲は全て敵艦隊へと指向され、いつでも撃てる状況にある。

突如として黒煙が広がる水平線、イギリス艦隊からの砲撃であった。

敵の発砲を受け、近藤艦隊の長門、陸奥、榛名もまた敵の着弾より前に即座の反撃を繰り出す。


「始まったか。」


「ああ、こちらも砲撃開始だ。」


堀は落ち着きながら呟き、山本はすぐに砲撃開始命令を下す。

ブザーが鳴り響く、今頃射撃指揮所では慌ただしいやり取りがされているだろう。


「最終調整完了、射撃開始!」


伝声管から報告が聞こえてくると共に、先ず全砲塔中間砲3門の主砲が発射された、史上最大、最強の戦艦による初の敵に対する艦砲射撃である。

かつてないほどの砲煙が舞い上がり、主砲はすぐに左右砲が仰角を取り始め、初弾が着弾するよりも前に、左右砲による6門の射撃が行われる。

既に近藤艦隊とイギリス艦隊は各々着弾しており、両艦隊の周りには盛大な水柱が立ち始めていた。

高雄以下6隻の重巡も射撃を開始し、一瞬にして山本艦隊からとてつもない投射量の砲弾が放たれ始める。


初の着弾、その水柱は長門や金剛の比ではない、明らかに巨大な水柱となって敵艦隊の周囲へと立ち上がる。

圧倒的な大きさの水柱は、誰が見てもこの大和、武蔵から放たれたものであると確信する。

初弾は近弾、仰角をほんのわずかに上げて次の射撃がされる。

そうやって修正していくうちに、徐々に徐々に目標へと散布界が近づいて行った。


「長官、近藤艦隊に敵が注視している今、三水戦を突撃させてはいかがでしょう。」


第三水雷戦隊は未だに主力部隊の両脇を進んでいる、だがこの距離では軽巡、駆逐艦の主砲では届かずただいるだけの状態であった。

伊藤はならば近藤艦隊にヘイトが向いている間に突撃させて雷撃を敢行させようと提言をした。

だがそれには堀が山本よりも先に反応を示した。


「ダメだ、ここはシナ海ではない、海峡を抜け、この戦いが終わるまでは奴らの巣窟だ。今この時も潜水艦が近くに潜んでいるかもしれん。いざという時対潜能力のある水雷戦隊を残しておくのは大切だ。代わりに六戦隊と七戦隊を突撃させた方が良い。あんな豆鉄砲、射程限界ギリギリで撃ち続けても何の意味もないぞ。」


堀は第三水雷戦隊の代わりに高雄、愛宕、摩耶の第六戦隊と、妙高、那智、足柄の第七戦隊を突撃させるように命じる。


「ですがそれだと・・・重巡ではリスクが。」


水雷戦隊を構成する、旧式の軽巡と駆逐艦では、重巡とはコストが大幅に異なる。


「新型重巡は既に建造中だし、こんな意味もない距離で戦わせるより機動性を活かした戦い方をした方がよっぽど戦力になるぞ。」


堀が今言った新型重巡とは日本海軍が新たに設計、建造を開始した攻撃型重巡伊吹型と、支援型重巡鞍馬型のことである。

改鈴谷型として事前に設計されていた伊吹型を小変更したもので、攻撃型の伊吹型は主砲を長砲身55口径20.3㎝連装砲に換装し、支援型の鞍馬型は主砲を高初速の62口径18㎝連装両用砲に換装され、防空火器が充実されている。

これらは本土の造船所ではなく、重巡以下の艦船を大量建造するべく大規模な増築工事中である大連の造船所にて建造が行われ、銃火器や精密機器を除いた資材は全て大陸の製鉄所や工場から賄われていた。

更にこれらの特筆すべき事項として、軍技廠にて新規開発された射撃管制装置が搭載されており、今後戦艦などに搭載するものの試験的な意味合いも含まれていることが挙げられる。

この新型射撃管制装置はレーダーと連携された代物であり、戦後実現されたFCSの先駆けのような存在になるべく開発されたものであった。


堀は軍技廠にてプレゼンされた資料を徹底的に読み込んでおり、この戦争中の大きな転換点としてジェット機の実用化と、別にこのFCS技術の発展が鍵になると確信していた。

その為、新型射撃管制装置だけでなく単純な装備でも圧倒的に進化した重巡を新たに建造している今、高雄型以下の既存の重巡を積極的に投入できると考えていたのである。

当然射程距離ギリギリの距離で放たれる20.3㎝砲など、いかに旧式と言えど戦艦相手に有効打を与える可能性はごくわずかであり、砲弾の無駄という考えも堀にはあった。


「堀の言う通りにしよう。重巡部隊を突撃させ、雷撃も許可する。水雷戦隊は位置を離れず警戒を怠らぬように。」


山本がそういうと伊藤は返事をし、通信士へと命令を伝える。

すぐさまに重巡部隊は速度を一気に上げて隊列から離脱する、二手に分かれた六隻の重巡はそれぞれ主砲を撃ち続けながら突撃していった。

その間にも大和、武蔵からは延々と主砲が撃ち続けられる、発砲のたびに大きな衝撃波が艦橋を襲い、耳を覆いたくなる。

既に砲撃開始から5分ほどが経過しただろうか、遂に近藤艦隊の陸奥が放った主砲が敵戦艦へ命中し、初の戦果を挙げていた。

大和、武蔵も同じく、既に先頭を進む戦艦に夾叉が発生しており、強力な一撃が叩き込まれるまでわずかであった。

だがイギリス戦艦もまた、近藤艦隊への精度を上げていきいつ命中弾が出てもおかしくない状態となっていた。


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