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第二十一話 インド洋海戦(7)

※同時刻 艦隊上空


母艦から発せられた命令はあまりにも悲劇的な物であった。

直掩なんてこの期に及んで必要ないだろう、直掩隊の誰もがそう高を括っていた。

だが現実は違った、敵の航空隊が編隊をなしてこちらへ殺到しているという、報告を受けた時には耳を疑い問い返してしまうほどであった。


慶鶴戦闘機隊、直掩についていたのは岩本率いる三個小隊、岩本隊、西沢隊、坂井隊の12機である。


「やられたな、たった20数機の戦力で敵を止めねばならない。・・・慶鶴!こちら岩本、岩本。敵部隊の方位は?まだこちらは敵部隊を発見できていない。」


慶鶴戦闘機隊は目の前に立ちはだかるスコールを避けながらおおよその方向へと進んでいる。

目途は付いているもまだ報告にあった部隊を発見するには至っていない。


「電探で探知できた最終的な方位は本艦から140°。」


その報告に岩本は海面へ目をやる、が、肝心な慶鶴は当然見えていなかった。


「見えない、スコールにいられちゃ。絶対方位はどこだ?」


「本艦の艦尾方向へ。」


岩本は内容を理解していない母艦の通信士に苛立ちを募らせていく。


「その慶鶴が見えてないのに何を言っているんだ。」


「もともと我々は南へ進んでいましたから・・・レーダーで探知できたのが140°だとしたら・・・おおよそ北では?」


隊内通信、隊員からの発言に岩本は納得する。


「そうだな、北に向かってみよう。」


岩本は機首を北へと向け、スコールを迂回する進路を取った。

数分後、飛行高度は2,000m、スコールに遮られていた視界が開ける辺りで目を疑う光景が現れる。

空に存在する点々、敵の攻撃隊は相当な数だった。


「岩本さん、高度3,000に敵爆撃隊!直掩が迎撃にあたっています!」


岩本が注視するとどうやら敵の大編隊に少ない数でできる限りを落とそうとしている、善戦しているようであったが、艦隊からの対空砲火の開始とともにダイブするようであった。


海面に目をやると、海面の反射とは別に、不規則に輝く何かが見える。

別の直掩がダイブしてその先にあるとなれば、それが雷撃隊であるということは容易に察することができる。


「爆撃隊には対空砲火が上がっている、俺達も雷撃隊を狙おう。爆撃隊の高度まで上がる余裕はない・・・慶鶴直掩隊ついてこい、全速力!」


岩本はスロットルを上げる、エンジンは振動を増し速度も跳ね上がる。

大陸にて安定供給されるようになった航空燃料二号を優先的に配備された南雲機動部隊の零戦は1,210馬力を発揮するようになり、その機動性は今この世界に存在する戦闘機のすべてを凌駕していた。

ラジエーターも閉じ、出力も離昇出力にセットする。

出せる最大出力の1,210馬力、エンジン温度、油温はみるみると上昇しこのままではエンジンがいつ止まってもおかしくないような状態だったが、今はまだ部品の品質も高く止まることなく動き続けている。


速度は降下も相まり560km/hを超えている、みるみると雷撃隊へと接近していく岩本たちは既に一機ずつ明確に見えるほどの距離に来ていた。

ダイブしていた部隊が既に交戦に入り、雷撃機を複数撃墜している。


突撃していく零戦は12機、今TBDを襲っている零戦は10機、合わせれば22機となる。

既にTBDの数は10程、積んでいる兵器は爆撃機とは比較にならない脅威だが、その動きはとてつもなく鈍重で零戦の敵ではなかった。


その雷撃隊へと接近中、ふと見えた加賀が爆発炎上するところが見えた。

艦隊では盛大に対空砲があげられているが、爆弾を投下したであろうSBDは艦と艦の間を抜け脱出している。


「加賀か、ダメだやられているぞ。」


「雷撃だけは避けねばなりません。」


加賀が炎上しているのを眺めながら、既に眼前には雷撃隊があった。


「わかっている、突撃!」


高速で突っ込む部隊、交差する瞬間に岩本が放った20mmの機銃はエンジン、コックピットへと吸い込まれていった。

一瞬にして炎上し落ちていくTBD、後続も次々と狙っていた獲物を刈り取る。

ヘッドオンの形から交差し、反転し乱戦へと入ったとき、既にTBDは残り数機となっていた。


全機を落とせるだろうと確信し、爆撃隊による被害は大丈夫だろうかと艦隊を見る。

その瞬間に、赤城は爆発を起こした。


「岩本さん、赤城が!」


「・・・。」


編隊による急降下爆撃に晒され、無残にも旗艦は爆発を起こしていた。

岩本は無言のまま赤城を少し眺める、命中弾を受けるたびに赤城は揺れ動き、更に遠方では蒼龍、飛龍をターゲットに定めた編隊が急降下を始めていた。


「直掩隊、そっちに戦闘機隊が向かっている!上だ!」


赤城からの突然の入電、赤城は艦内も混乱しているであろう最中でもこちらを気にかけ情報を寄こしてくれていた。

報告のあった上方を見るとF4Fが群れを成してこちらに急降下してきていた。


「全機上方注意!・・・少しは爆撃隊に向かわせるべきだったか、戦闘機相手など・・・こうもなっては直掩隊も意味なし、だな!」


そういうと岩本はスロットルを再び最大まで開く、レスポンスのいい栄エンジンは一気に機体を加速させF4Fからの攻撃も難なく回避してしまう。


「各自戦闘、こうなれば落とせるだけ落とすぞ!」


自身の部下からの返事は明るい、やられたのが母艦でないからかもしれないが目の前で味方空母がやられてもなお士気は高かった。


後ろにF4Fが付いていようとも一瞬で引き剥がし、零戦の挙動について来ようと無理をしたそれを一瞬で味方機が葬る、後ろが居なくなった自分もまた失速寸前の敵機を外すことなく仕留める。

圧倒的に性能の違う零戦とF4F、更に練度は天と地ほどの差がある。

倍近い戦闘機が相手だろうと、気が付けばそれはほぼ同数にまで減っていた。


自身の20ミリが弾切れを起こしても、7.7ミリはまだ残っている、必死に戦闘を続けて気が付けば敵の戦闘機も殆ど残っていなかった。

だが戦闘に夢中で気が付かなかったのはそれだけではなく、艦隊に目をやるとそこには沈みかけている蒼龍と飛龍の姿があった。


「そんな・・・飛龍が!」


ここに居る戦闘機のうち半数は飛龍を母艦とする者たちである、母艦を失いかけている者たちの喪失感は無線越しでも感じることが出来た。


「直掩隊各機、聞こえるか。こちら源田。敵攻撃隊は一旦全機帰投についたようだ。蒼龍と飛龍は・・・ダメだ。同じく加賀と本艦も発着艦機能は喪失している。損傷機は飛龍直掩隊も共に五航戦、六航戦へ帰投してくれ。五航戦、六航戦はスコールを西に抜けたようだ。」


赤城からの入電、最初に派手な爆発を起こした加賀と赤城は案外にも航行能力にダメージはなかったようで、今も炎上は止まっていないものの小規模な浸水で収まっている様だった。

代わりに蒼龍と飛龍は赤城や加賀と違い誘爆がそのまま船体に直接的な被害を発生させ、既に甲板には退艦命令を待つ士官たちが集まっていた。


「了解。・・・全機聞こえたか。被弾機は帰投、俺も20ミリが無くなった。被弾なし、残弾有りの機体は一旦高度を取り直掩を続けよう。飛龍直掩隊所属機も同じく、帰投する機体は俺に続け。」


そういうと岩本は進路を母艦に取り、帰投の途につく。

戦闘があった空域では大量の残骸が海面に浮き、油膜を張っている。

味方機の損失はほぼ無く、被弾機はあっても致命的な損傷を受けているものも少ないようだった。


被弾機から分散し着艦、岩本は被弾機を優先的に着艦させると、最後に慶鶴へと着艦した。

甲板には指揮官の桑原虎雄少将がおり、自ら出迎えてくれた。


「ご苦労。」


敬礼しながらそうとだけ言うと、桑原は手を差し出した。

手袋を取りその手を握り返すと、岩本はにやけるとまでは行かずとも、暗くはない表情で報告をした。


「やられましたね、敵は想像以上に多かった。」


「ハッ、【空】に理解のある俺相手だからそういうんだろうが、他の指揮官方には間違ってもそんな表情をするな。一応空母がやられている、悲しい表情をせんか。」


「けど、飛龍隊合わせて実際たった20数機でここまでやってのけたんです、立派でしょう。」


更に返す岩本に、桑原はそうだな、と微笑む。


「被害は撃墜2、損傷7か。敵はどれだけ落としたのか知らんが、帰ってきた皆からの報告はどれも相当なもんだった。貴様が3機落としたというものから始まり、4、5、果ては10というやつまでおったぞ。」


実際の岩本の撃墜数は3であったが、圧倒的過ぎる動きから皆過剰に報告しているようであった。


「いや・・・実際は3か4といったとこでしょう。西沢、坂井や武藤といったパイロットも相当敵に被害を出させたように見えましたが。」


岩本の変なところで謙遜するその姿を見て、思いがけず桑原は笑い声を出した。


「そいつ等が”岩本が一番圧倒的だった”というんだから、ありがたく名声は頂いておけ。」


「ハハ、ありがとうございます。」


そういうと二人は艦橋へと足を運ぶ。

歩きながら桑原は新たな命令を説明しだした。


「とはいえすぐに出撃だ。健在の我々の命令は、当然この攻撃の主に変わる。貴官らは新たな敵機動部隊の攻撃にあたってもらう。」


少なくとも二隻の空母が北方に居ることが確定した今、それらの撃破が最優先になるのは当然のことであった。


「第二次攻撃隊として準備中だった我々はすぐに攻撃隊を北方に放つ、既に帰投中の敵を追う零戦を放っているから、見つけるのは容易だろう。もうすぐ第一次攻撃隊が帰投する、貴官らもこれから急いで発艦準備だ。休憩を急いで取れ。」


「はっ。」


桑原はそういうと登り切り、艦橋から甲板を見下ろす。

最後だった岩本の着艦が終わり、すぐに発艦準備が行われていたそこからは、既に九九艦爆が発艦を開始していた。


一方、一航戦、二航戦では既に二航戦の両艦に総員退艦命令が下されていた。

赤城、加賀は赤城が中破、加賀は大破、特に加賀は機関が2缶1軸残っているだけでほぼ漂流に近い形であったがかろうじて沈没は免れていた。

南雲はすぐに北方に存在する機動部隊への追撃を命令し、報告を受けた山本も承諾した。

そしてその山本らも南方にて敵艦隊と接触寸前のところまで来ていた・・・。


ご閲覧いただき誠にありがとうございます。


更新また遅れてしまいました、申し訳ございません。

なるべく次回も更新早くできるよう頑張ります!


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誤字脱字等ありましたらご報告ください。

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