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第十九話 インド洋海戦(5)

時間は少し戻り、第一次攻撃隊が攻撃を行っている頃、南雲機動部隊では第二次攻撃隊の発艦準備が行われていた。


「淵田中佐から入電、現在軽空母一を撃沈、正規空母一に炎上。残存兵力は7割で残存空母二隻の撃沈はほぼ確実とのこと。」


通信兵からの報告を受けた首脳の三人は頷く。


「司令、戦艦ウォースパイト、重巡洋艦などもまだ機動部隊には残っています。このまま攻撃隊を発進させて、機動部隊を徹底的に攻撃しましょう。」


草鹿の発言に南雲と源田も同意し、甲板へと目をやると、カンカンカンという警報音と共にエレベーターが稼働している。

最初に甲板へと上げられているのは零式艦戦、既に暖機運転が始められていた。

その時通信兵が再び報告を上げる。


「飛龍、翔鶴から、第二次攻撃隊の発艦作業に45分の遅れが発生しているとのこと。同じく蒼龍、慶鶴も30分程の遅れが。」


「一体何をしているんだ、この大切な時に。」


草鹿がそういうと源田は海面へと目を向け、その後横を進む駆逐艦を眺める。

少し前とは打って変わって波が高くなっている、駆逐艦は打ち砕いた波の飛沫が艦橋へと到達するほどであった。


「波が高い・・・この赤城と加賀はかつて戦艦だったほどの船、波はほとんど気にならなかったが蒼龍や翔鶴では思ったより揺れていたのかもしれません。爆弾の取り扱いは慎重にやらねばなりませんから・・・。」


そういうと源田は南を眺める、南方ではスコールが徐々に五航戦、六航戦へと近づいていた。

五航戦、六航戦は一航戦、二航戦から15キロ程離れた位置にて輪形陣を形成していたため、目視では水平線に沈みほとんど見ることの出来ない位置に居る。


「まったく、何のための訓練だというのだ。」


愚痴をこぼす草鹿、源田も少し浮足立っている。

その時であった。


「電探に敵航空機反応!大編隊!」


叫び声にその場にいた全員が目を見開き電探士へと視線を向ける。

存在するはずのない攻撃隊、陸攻からの偵察によれば今朝のトリンコマリーやコロンボには航空隊はほとんど配備されておらず、ここを攻撃できる航空隊は存在しないはずであった。


「誤発見ではないのか!」


源田は電探の故障を疑う、だが空母に搭載されている最新の一式一号三型電探は軍技廠が未来のレーダー技術を以て開発した日本が生産できる中で最高クラスの対空電探であるが故にその可能性は限りなく低い。

狼狽する源田とは違い、南雲は相当に冷静であった、すぐに電探士へと報告をさせる。


「方角と距離は?」


「方位135!距離40キロ!」


艦隊から見て南東方面、地図でいえば北である。

数分で艦隊上空へと到達してしまう距離に出現した敵機、見張りもすぐにそちらに注視している。


「・・・見えました!機数は・・・少なくとも100はいます!」


「司令、すぐに戦闘機隊の発進を!」


草鹿の提言に南雲は頷くと、すぐさま戦闘機隊の緊急発進を命令する。

緊急発進、まだコックピットへと入っていなかったパイロット達もすぐに駆け寄って発艦準備に入る。

だが緊急発進と言っても暖機運転も終わりすぐさま発進できるのはたった数機に限られる。


「源田!現在艦隊を直掩しているのは?」


硬直する源田に怒鳴る南雲、源田は驚きながらも冷静さを取り戻す。


「は、は!こちらの直掩は飛龍戦闘機隊12機、向こうの直掩は慶鶴戦闘機隊12機です。先ほどの直掩交代が30分程前なので、両隊の航空機には十分な燃料が残っています。」

 

合計24機、第一次攻撃隊は出払い、更には第二次攻撃隊の発進前であっただけに数も少なく心もとなかった。


ここから更に敵攻撃部隊が到達するまでに各艦の待機中にあった零戦が緊急発進しても合計は、40機そこらだろうか、第一次攻撃隊の戦闘機隊が戻ってくるまで耐えられるかが勝負となる。


「長官、五航戦の両艦をスコールへと退避させましょう、あっちであればすぐに逃げ込めます。六航戦の慶鶴、寧鶴はこちらへ合流させてはいかがでしょう。」


海図を確認しながら艦橋要員たちとすぐに会議を行う。

草鹿は五航戦をスコールへと退避させ、六航戦を合流させるように提言する。

六航戦は真珠湾攻撃の際はすぐさま就役させるために対空艤装や電探類が未完のまま出撃をしていた、帰投後にそれらの装着作業が行われた都合上、翔鶴、瑞鶴では九六式25mm三連装機銃や八九式12.7cm連装高角砲であったところが最新の長10cm連装砲と零式40mm連装機関砲へと置き換えられている。

実質的な防空火力では防空巡洋艦へ改装された球磨型よりも強いため、防空の手数を増やすために合流させたらどうかという案であった。


「いや、その合流するまでの間、逆に孤立することになる。護衛も分割することになるし、そうなれば逆に狙われる可能性もある。それに、翔鶴、瑞鶴、慶鶴、寧鶴・・・この四隻は最新型だ。赤城は先に完成したというだけで旗艦をやっているに過ぎない、艦としてみた時、空母として優れているのは圧倒的にあっちだからな。攻撃を受けることが確定した今、被害を少しでも減らすことに注力したい。」


南雲がそう言うと草鹿はわかりました、とだけ答える。

源田は今もなお呆気にとられたようで、表情は非常に暗い。


「司令、草鹿さん・・・申し訳ありません、航空参謀という地位を用意して頂いておりながら北方への索敵を疎かに・・・。」


一人落ち込む源田、それを見て南雲と草鹿は肩を叩いて励ます。


「源田、そう気を落とすな。我々どころか、恐らく山本さん、堀さんたちも一方的に罠にかけた側だと思っていただろう。ところが我々もまた敵の隠し玉にやられた・・・航空参謀としての責任ではない、これは艦隊運用責任者が負うべきもので、気に病むんじゃないよ。それにそもそも、被害を受けることなくなんとかなるかもしれないじゃないか。」


南雲はそういうと源田も上官にそこまで言わせてしまって気を落としてはいられないと思ったのか、気を引き締めなおし航空隊への指揮作業へと戻る。

その後五航戦、六航戦は命令通り進路をスコールへと向け、徐々に接近する敵航空機は一航戦、二航戦へと向かっていた。


「ひとまず他艦隊へ報告だ。艦隊間通信機を各艦隊へつないで、通信士は攻撃隊へすぐに連絡を。」


「はっ!」


距離も次々と近くなり、既に肉眼でも編隊が見える程になっていた。

上空では飛龍直掩隊が敵爆撃隊と衝突し迎撃戦闘を始める。

撃墜機か、被撃墜機か、黒煙や炎を上げながら急降下していく機体が見える。


「高角砲の射程圏内に入り次第直掩隊は離脱、恐らく眼下には雷撃隊が居るはずだ、そちらを迎撃させろ。」


源田の命令に頷くと通信士は直掩隊に向けて連絡を始め、自身も双眼鏡を覗いて上空を確認する。


「優勢か?」


その南雲の問いかけに源田は少し間を空ける。


「数にしてはよくやっているかと・・・しかしいかんせん数が。慶鶴直掩隊がどこにいるのか、申し訳ありません。」


何のための直掩だ、と悪態をつく草鹿を横目に南雲は表情を変えずにただ上空を直視していた。

発艦した零戦隊は上昇する余裕もなく、雷撃隊の迎撃へと直行する様子だ。



少しすると護衛艦や赤城の高角砲が火を噴き始め、上空は黒煙で覆われ始める。

12機しかいない飛龍直掩隊であったが、それでも必死の抵抗でSBDを7機撃墜していた。

だが全体で見ればわずかでしかなく、高角砲の迎撃開始と同時に雷撃隊へと目標を変更している。

だがかの防空艦もおらず、旧式の対空火器しか搭載していない南雲機動部隊では必死の対空迎撃にも効果はわずかで、少しの雲の切れ目から突如として攻撃にさらされた。


「敵機、加賀直上!」


その発言に艦橋要員は一斉に後方を覗く。


「クソ、先導か?」


「避けろ!避けろ!」


草鹿を始め、航海長や他の参謀たちも慌てているが、加賀は気が付いていないようで全く回避する素振りも見せていない。

既に加賀上空へと到達したSBDは急降下を開始している、赤城の25mm機銃が加賀上空へ向けて発射し知らせるも気が付いた時にはもう遅かった。

現れた3機のSBDから投下された爆弾は1,000ポンド爆弾が3発と100ポンド爆弾が6発、加賀にはそのうちそれぞれ1発ずつが命中する。

爆発と共に揺れる加賀を見て皆が落胆の声を上げる。


「加賀の被害知らせ!」


探照灯による通信が行われている、南雲も自身で双眼鏡で覗くと穴の開いた甲板から盛大に火を噴く姿が見える。

甲板作業員はホースを持ち出し、甲板から下を覗く者たちもいた。


「加賀は機関に被害なし、浸水もなし、格納庫にて爆発。」


加賀への命中弾はまだ致命傷とはなっていない、幸先は悪くてもまずは一安心だと皆がほっと肩の緊張をほぐす。

だが少しの間が空き、何かを思い出したように源田が突如として叫んだ。


「艦長!格納庫作業を行っていた整備兵に最優先で爆弾の収容作業を!・・・司令!!」


源田の突然の大声に周りは驚く、艦長の長谷川や他の参謀たちも何事だという表情を浮かべるが、南雲だけは源田の意図に気が付き頷いていた。


「通信士、艦隊司令命令、各艦最優先で格納庫内の弾薬類の収容を行うように。」


装備換装作業中であった南雲機動部隊の空母では格納庫に用意されていた爆弾、魚雷などが放置されている。

格納庫へ被弾した際弾薬庫へ収納していなかったこれらの爆弾らは誘爆の危機に瀕している。


「格納庫に放置された爆弾への誘爆、書物が示す本来の世界ではこれらが原因でミッドウェー沖で・・・」


南雲がそう発言する傍ら、突如として加賀にて爆発が起こる。

察した源田は拳を机にたたきつけ、南雲はただひたすらに加賀を見つめていた。


「司令・・・これは・・・。」


草鹿たちもようやく源田、南雲の考えていたことに気が付いたようであった。

爆発は連続して起こり、その度に穴からは巨大な火柱がまるで噴火するかのように立ち上がる。


「機関との連絡途絶、被害状況不明。」


再び加賀の探照灯が点滅し、連絡が送られてくる。

加賀では誘爆によって既に艦内が混乱している様子、だが赤城から見る加賀はもうすでに艦としての機能を喪失していることなど誰の目にも明らかであった。


「敵主力、本艦隊上空へ到達!」


加賀に目を取られていた数分の間に、SBDも上空へと到達していた、上空を見上げる南雲を始めとした将校たち、だが敵の攻撃隊は当然止まることもなく、無慈悲に攻撃を開始するのであった。


仕事で海外にここ半月ほど飛ばされており、更新遅れました申し訳ありません。

また更新頻度上げていてればと考えているので、よろしくお願い致します!


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やはり仮想戦記において加賀がやられ役になってしまうというお約束は変えられないのか……
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